荒野に祈る。   作:四角系

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03.「リリティアの棺」

 切り立った岩壁に、人の手で造られたであろう建造物が、壁沿いに築かれている。セシリアがそれを指差して、あれがリリティアの棺です、と声高らかに言った。入口は狭く埋もれて小さなものだったが、その周辺は、発掘隊や研究者のものであろう採掘機やつるはしが転がって、ごちゃごちゃとしている。

 中に一歩足を踏み入れれば、遺跡特有のひやりとした独特の空気とにおいが4人を包み込んだ。

「とりあえず、挨拶がてらエマに逢いに行こうか。」

 ニコレットがそう言って、東の小部屋の戸を潜り、やあエマ、と奥へ声をかけた。机に向かって書物を見詰めていた人影はその声に気付きこちらへと向き直る。

「あら、ニコ。いっぱしの渡り鳥御一行ってカンジね、なかなか様になってるじゃない」

「ありがとう。準備は出来てるから、早速向かおうと思う」

「そー、頑張ってね。困ったことがあったら呼んで、すぐ飛んでくわ」

 頼もしいね、とニコレットは笑って、三人と一匹に向き直り、「行こう」と促した。

 

 通路先にあるトラップやギミック、物々しい機械類を眺めては、おお、と感嘆の声を洩らす。

「でけえな……一体これで何を掘り出すってんだ?」

 ザックが独り言のように洩らし、ロディとセシリアが巨大なクレーン機のようなものを興味津々といった様子で見上げていた。微笑ましい、と思いながらも、先を急ごうと声をかける。

 道中現れるギミックを解き、細々とした機械に首を傾げながらも辿り着いた最奥は、バチバチと弾けるような音が連続して聞こえる。

「おいおいおい、デカすぎんだろ! なんだコイツ!?」

「見たところ、こいつが遺跡の電力を食ってるみたいだ……! 倒さないと動力は復活しないよ!」

「雷属性ということは水属性が弱点か。よおし、一発やろうか!」

 ギターケースからライフルを引っ張り出し、ニコレットがそれを構えたのと同時に、セシリアが来ます、と叫ぶ。こちらに気付いた魔獣が大きな唸り声をあげる刹那、各々の武器を構えたパーティは、電気を食らう亀のような巨大な魔獣へと立ち向かっていった。

 

 

「はー、つっかれた」

 ARMを肩に担ぎながら呟いたニコレットに同意するように、ハンペンがお疲れ様、と言った。

「兎にも角にも脅威は去ったんだ、とっとと奥行ってお宝の面拝ませてもらおうじゃねえか!」

「ちょっとザック、警戒くらいしときなよ。どこに罠があるかもわかんないんだからさ!」

 ハンペンの苦言を受け流したザックがケーブルの束を掻き分けて奥へ進む。ロディとセシリアがその後をついて歩き、ニコレットは床に落ちたギターケースを拾い上げ、ライフルは抜き身のまま追い掛ける。

 扉を潜り抜けた先には壁を背にして立つ巨大な建造物のような塊があり、四人と一匹はそれを見上げた。これって、とロディがぽつりと呟いた部屋が、閑散とした部屋に響く。

「これ、もしかしてゴーレム? 千年前の戦争で兵器運用されて、世界に八機しかないっていうあの……」

「ってことは、まさか……『絶対たる力』ってのはこの……」

 どっかに動かせる手段があるのかときょろきょろ辺りを見渡すザックだが、人型の鉄の塊がうんともすんとも言わないと分かると、くそ、と悪態をついて、疲れた様子で座り込むのを、ロディは心配そうに見つめていた。セシリアは顎に手を当てて何かを考え込んでいるようだった。

「しかし、ゴーレムか。実物を見るのは初めてだ……こうもでかいと兵器というよりそういう形の建物に見えなくも──セシリア? どうしたんだい、考え込んで」

「──へッ!? え、ええ、いえ、なんでもありませんわ。ただすこし……」

 セシリアがゴーレムを見上げ、じっとその顔を見つめる。暗い遺跡の中ではその全容は明らかにはできないが、風化もせず千年過ぎてもその形を尚も頑強に保っているとなれば、古代の技術に感服せざるを得ない。

「……すこし、いえ、やっぱりなんでもありません。ちょっとぼうっとしていたみたいです」

「ふうん? まあ、目的は果たしたし、エマを連れてこようか」

「はぁあ、とんだ無駄足だったぜ……。」

 よっこらせ、と立ち上がったザックが来た道を戻る。それに続こうとしたニコレットが、ロディがゴーレムを見上げていることに気付き、立ち止まった。

「……ロディ、なにか気になるものでも見つけたかい」

「……、ううん」

 なんでもない、と、セシリアと同じようなことを言いながら、ロディはゴーレムから目線を外す。ニコレットは疑問符を浮かべたが、まあでかい機械というのは浪漫があるものだし、ロディも男の子なんだろうと、ひとり納得した。

 

 

 ゴーレムの納品を済ませ、運び出されるリリティアという名のゴーレムを見送りながら、一行はアーデルハイドの帰路についた。宿屋の前で立ち止まったセシリアが、「あの」と呼びかける。

「あのゴーレム──リリティアは、動かないんですよね。危険はないのでしょう?」

「あの博士も言ってたけど、封印の時にそういう起動に関する機能は軒並み外されてるんじゃないかな。それにああいうのって、起動するのにも条件が厳しかったり、特定の血族の人間にしか反応しない、みたいなのがあったりすると思うよ」

 ザックの肩の上で喋るハンペンを見つめて、セシリアがそうですよね、と同意の言葉を返したが、やはり考え込むような顔をしている。そんなセシリアをしばらく見ていたザックだったが、「まあ、依頼は終わったんだ。展覧会の日を待つしかねえよ」と言い、ロディがそれにこくりと頷いた。

「明日エマから5000ギャラ貰うとして、一人1250ギャラか。微妙にキリが悪いなあ、戦利品のいくつか売ればもうちょっと上乗せして払えるけど、どうする?」

「とか言って、上手いこと言いくるめて金せしめようってんじゃねえだろうな」

「いやだな、詐欺師じゃないんだから。そんなことしないよ」

 ザックがニコレットをじろりと睨みつけ、ニコレットは苦笑した──実際はへらりとした胡散臭い笑みになっただけだったが──。そんな二人を見て、ロディが心配そうにザックとニコレットの顔を交互に見ている。往来で喧嘩でも始めそうな雰囲気を感じとったからだ。そんなロディに気付いたニコレットが、にこりと微笑んで安心させるように言った。「大丈夫だよロディ、私は平和主義者で喧嘩に弱いんだ。こんなところで殴り合いなんかしない」

「けっ。どうだかな」

 いやに突っかかるなあと思ったが、そもそも十五と十七の少年少女に着いて回る黒尽くめの女が信用されるわけがないかと思い直し、ひっそりと溜息を履いた。

「ま、明日の展覧会が終わりゃ、俺たちはお互いオサラバさ。俺はまたそのうち相棒と遺跡潜りの旅に出る」

「せっかく知り合えたのに、もうお別れなのですか?」

 飄々と言ってのけるザックを見て、ロディがぽつりと、「さみしい」と言葉を洩らした。

「──一日だけ、だったけど、一緒に戦って、一緒に旅をして、……別れるのは、寂しい」

「……お前、無口な奴だと思ってたけど喋ろうと思えば喋れるんだな」

 ザックが頭の後ろをぽりぽりと掻いて、ハンペンがロディの頭の上に飛び乗ると、「どっちにしろ次の目標見つけるまではここにいるしさ!ロディも、そんな泣きそうな顔しないでよ。渡り鳥だろ?」と、小さな手でロディの頭を慰めるようにてちてちと叩き、ロディは小さく、うん、と返した。

「それにロディにはニコレットがいるだろ。ひとりぼっちじゃないよ」

 一歩後ろで見守っていたニコレットは、突如振られた自分の話題に顔を上げ、ロディがこちらをじっと見詰めていたことに気が付いた。ニコレットはそうさ、と頷いて、「私はまだロディの旅に着いていく予定だからね。そう憂わなくても大丈夫さ」と返した。ロディはぱちぱちと瞬きをすると、頬を仄かに赤くして、不意に顔を逸らしてしまう。ハンペンは納得のいったように「へえ」と言い、ザックは不味いものを見た、と言いたげな顔をして、セシリアは何故かにっこりと微笑んだ。

 

「──わたし、そろそろ帰らなければなりません」

 宿屋の前でセシリアが名残惜しそうにそう言う。ハンペンがこの街に住んでるのかい、と問えば、僅かに間が空いて、「ええ、そんなところです」と返答した。

「──わたしがリリティアという言葉に惹かれた意味は、結局分かりませんでしたが──でも、短い間とはいえ、一緒に旅をできて、その……上手く言えませんけれど、わたしがわたしとして役に立てたことがとても嬉しかったです。」

 返答に困る一行に、にこりと微笑んだセシリアは、「明日の展覧会、わたしも行く予定です」と言った。

「できれば、一緒に……──わたしはいつだってわたしですから、特別扱いは、しないでくださいね。」

 深々と頭を下げたセシリアは、くるりと振り返ると、こつこつと石畳を踏みしめて、アーデルハイドの街へ消えていった。

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