ありふれた黒幕のありふれない日常   作:96 reito

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ハジメ君はヒロイン……いいね?


デトロ!開けロイト市警だ!

 Side ハジメ

 

 気が付くと真っ暗な空間の中に居た。腕や足は拘束されている。上も下も右も左も全てが暗闇で塗り潰されている。ここは何処だろうと困惑していると急に目の前が明るくなった。

 

「あ、起きた?」

「……誰?」

 

 そこに現れたのは一人の女性だった。見た目は二十代前半くらいに見える。顔立ちはとても整っており、スタイルも抜群だ。服装も露出の多いもので、目のやり場に困ってしまう。

 

「あ!今あたしの事エッチなお姉さんとか思ったでしょう!」

「思ってません!!」

「嘘つけっ、男なんて皆そういう目でしか女を見ていないんだからねっ」

 

 そう言って頬を膨らませる女性。何なんだこの人は…… 状況が全く理解できない。

 

 僕は確か……誘拐されたんだ。それなら助けが来るまで大人しくしていた方が良いのでは…… そう考えていると女性はクスリと笑うと口を開いた。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。君はもうすぐ自由になれるからね」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味さ。君には特に用は無いしね!用があるのは……君のお友達の湊莉 零斗君だよ」

 

 その名前を聞いた途端、心臓がドクンと大きく跳ね上がった。何故ここで彼の名前が出てくるのか。どうして僕を攫った女性が彼の事を知っていたのか。疑問が次々と浮かんでくる。

 

 動揺する僕を見て彼女は愉快そうに笑った。すると次の瞬間、後ろの壁が吹き飛んだ。そこから姿を現したのは血塗れの零斗だった。突然の出来事に頭が付いて行かない。一体何が起きているというのだ? 混乱している間にも事態は急速に進行していく。

 

「また会えて嬉しいわ……クソガキィ!」

 

 そう言いながらナイフを振りかざす女性。それを易々と避ける零斗。まるでアクション映画のような光景だった。しかし、その攻防は一瞬で終わった。

 

 女性の腹部に蹴りを叩き込むと、零斗はそのまま彼女を壁に叩き付けた。あまりの衝撃に耐えきれなかった壁が崩れ落ちる。瓦礫の中から這い出てくると、先程までの余裕のある表情とは打って変わって鬼のような形相になっていた。そして、懐から拳銃を取り出す。

 

「ふざけんなよテメェ……よくもこの私に恥をかかせてくれたなぁ……ぶっ殺してやる!!」

 

 銃口を向けて引き金を引く。だが、銃弾は全て空に吸い込まれていった。どうやら弾切れらしい。舌打ちをしながら別の武器を取り出そうとするが、それよりも早く動いた零斗によって女性は殴り飛ばされた。そして、倒れた彼女に馬乗りになって顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ぐふぅ!?」

 

 鼻血を出しながらも必死に抵抗する女性だったが、圧倒的な力の差の前に為す術無く殴られ続けた。やがて抵抗を止めて無言になったところで零斗は立ち上がり、彼女の首根っこを掴むと無理矢理立たせた。

 

「どうした?私を殺すのだろう?」

 

 今まで聞いたことの無いような冷たい声で呟く零斗。僕は恐怖で震えていた。このままだと零斗が人を殺めてしまうのではないか。そんな不安が脳裏に浮かぶ。

 

「こんばんわ〜京都府警察でーす」

 

 そんな時、扉の方から声が聞こえてきた。薄い桜色の髪をした女性警官と大柄の男性警官、ヘラヘラとして薄ら笑いをした男性警官が入ってきた。

 

「いや〜派手にやったねぇ〜」

「こりゃあ、現行犯逮捕だな」

 

 二人の刑事は倒れている女性を見ると、すぐに拘束して連れて行った。残された僕達は事情聴取を受ける事になった。

 

「なるほど、事情はよく分かりました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けしました」

「まあまあ、無事で良かったですよぉ」

「ええ、本当に」

「「……」」

 

 何とも言えない空気が流れる。あの後、僕は警察署へと連れて行かれた。そこで全てを話した後、解放されると思っていたのだが、何故かそのまま泊まる事になってしまった。

 

「とりあえず今日は遅いですし、お休みください。明日以降の事はまた追って連絡しますので」

「はい、よろしくお願い致します」

(どうしてこんな事に……)

 ため息を吐きたくなるのを抑えながら用意された部屋へと向かう。

「はー、疲れたー」

 ベッドの上に寝転ぶと、一気に眠気が襲ってきた。明日からどうしよう……そんな事を考えながら僕の意識は深い闇の中に沈んでいった。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

「ハジメが誘拐された?」

『昨日から帰ってきてないの……警察にも連絡はしたんだけど……』

 

 ハジメの母親からの電話を聞いて俺は耳を疑った。まさか、あいつに限って誘拐なんてされないだろうと思い込んでいたからだ。

 

 電話をしても繋がらず、スマホも道端に落ちているのが発見されていたらしい。急いで警察に通報したが、既に犯人の姿は無くなっていたそうだ。恐らく俺の居場所を知っている奴の仕業だろう。チッ、面倒臭い事をしやがる。よりにもよって何でアイツなんだ…… 苛立ちを感じつつも冷静さを保つように自分に言い聞かせる。柊人に電話を掛け、ちょっとした頼みをする。

 

「柊人、都市部全体の防犯カメラをハッキングしてくれ」

『……ハジメの件?それならもう取り掛かってるよ』

「助かる」

 

 これである程度の場所は分かるはずだ。後はしらみ潰しに探せば良い。電話を切り、今度は恭弥にかける。

 

「恭弥、ハジメが誘拐された時間から逆算して、どこの辺までなら逃走可能だ?」

『……県外だ、それも高速道路を使えばかなりの距離移動できる』

 

 予想通りだった。もしも犯人が車での移動をしていた場合、その範囲はかなり絞られる。だが、そうすると疑問が残る。何故ハジメなのかということだ。身代金目的ならばもっと他に居るはずなのに。

 

「……とにかく今は動くしか無いな」

 

 そう考え、バイクのエンジンを掛ける。そして、ヘルメットを被るとアクセルを回した。

 

『零斗、ハジメが見つかった……かなり遠くの方まで移動されてる。場所は──ー』

「そうか……分かった、今すぐ向かう」

 

 バイクを走らせながら頭の中で作戦を考える。まず、今回の一件を引き起こしたのは間違いなくクソ野郎だろう。その目的は分からないが、ハジメは絶対に生きている筈だ。問題はどうやって助け出すのか。

 

「……考えるだけ無駄か」

 

 考えても仕方が無いので、ひたすらに走り続ける。

 

 途中で柊人から連絡が入り、場所を教えられた。その場所は山間部にある廃工場だった。目的地に到着すると、バイクから降りて中に入る。

 

「おい、ガキ……何の用だ?」

「お前、この前俺を攫った男の仲間だろ」

「ああ?ガキが何言ってんだ?死にたいのか?」

「質問に答えろよ」

 

 睨むと、男は少し怯んだ。だが、すぐに調子を取り戻す。そして、ポケットから銃を取り出して構えた。

 

「残念だけどなぁ!テメェはここで死ぬんだよ!!」

 

 引き金を引く。弾丸は真っ直ぐこちらに向かってくるが、当たる前に全て撃ち落とした。驚いた表情を浮かべた後、男はすぐに拳銃を投げ捨てると別の武器を取り出そうとする。しかし、それよりも早く懐に入り込み、腕をへし折る。

 

「ぐあ!?」

「悪いけど、死ね」

 

 近くにあった、ガラスの破片で首を切る。血飛沫が上がり、辺り一面が赤く染まった。一先ずは片付いた。死体はそのまま放置してハジメを探す。探している間も何人か遭遇したが、殺すか重症を負わせた。暫く進むと大きな倉庫を見つけた。中に入ろうとすると、扉の前に男が立っていた。こちらを視認すると、銃を構えて発砲してくる。それを難なくかわすと、すぐに蹴り飛ばした。

 

 鍵のかかった扉を粉砕して中に入る。そこには以前、誘拐された時に会った妙に強かった女と縛られた状態のハジメがいた。

 

「また会えて嬉しいわ……クソガキィ!」

 

 怒りに満ちた目をしながら向かってきたのを軽くいなす。そのまま顔面に拳を叩き込むと、壁を突き破って吹っ飛んでいった。トドメを刺そうとした時だった。

 

「こんばんわ〜京都府警察でーす」

 

 突然現れた数人の警官が取り囲んできた。

 

(どうしてこうなった?)

 

 俺は目の前の光景を見ながらため息を吐く。あの後、俺は事情を説明しようとしたが、何故か拘束されてしまった。そして、警察署へと連れて行かれた。

 

「君の名前は?」

「……零斗です」

「では、零斗くん。君は何をしたのかな?」

「誘拐された友人を助けに来ただけですが……」

「証拠は?何か持っているのかい?」

「……ありません」

 

 俺が答えると、白髪交じりの男性刑事が机の上に置かれた写真を指差しながら説明を始めた……

 

「はーい、そこまで」

「何ですか、藤田課長。これから重要な話をするところなんですが」

「分かってるよ。でも、そっちはもう終わってるんだろう?じゃあ、後はこっちの仕事だ」

「え?どういう事ですか?藤田課長」

 俺を連行してきた刑事の一人が尋ねる。どうやら、この課で一番偉そうな人はこの人らしい。他の人達よりも若いのに凄いなぁと思っていると、その人が口を開いた。

 

「あ、後君ら全員クビね。それとこれ逮捕状……理由は言わなくても分かるよね?」

「ま、待ってください!!逮捕てどういうことですか!?」

「だーかーら言った通りだ。もう解決したから後は任せてくれって」

「そんな無茶苦茶な……」

「さっきも言っただろう?これは僕の管轄だって」

 

 そう言うと、その男性は俺の方に近づいてきて手錠を外してくれた。やっと解放されると思い、部屋を出て行こうとすると……後ろでドアが閉まる音がした。振り返ると、いつの間にか隣に居た男性に肩を掴まれる。そして、耳元で囁かれた。

 

「久しぶりだね。マスターちゃん」

 

 おっとぉ?嫌な予感がするぞぉ!とりあえず、その手を離してもらう為に振り払うと、今度は一緒にいた女性に両手で抱きつかれた。

 

「マスター……会いたかったです」

「ちょっ!?離れてください!!」

 

 必死に抵抗するも、全く離れてくれない。それどころか更に強く抱きしめてくる。その時だった。

 

「まったく君らは……やぁ、久しぶりだね、マスターくん」

 

 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには見知った人物が立っていた。

 

 ────────────────────────

 

 京都の街を一望できるホテルの最上階。そこに、俺達は集まっていた。あの後、俺は強引に連れて来られてしまった。そして、ここのレストランで食事をする事になり、今は料理を食べている最中である。

 目の前にいるのは、腰まで伸びた長い髪と妖艶な雰囲気を纏っており、まるで女神のような美しさを放っている。まるで一つの絵画の様な美貌だった。

 

「相変わらずだね君は……それで、あれ以来はどうしてたんだい?」

「別に何もしてませんよ。ただ普通に生活していただけですよ」

「嘘つき。本当は何かあったんでしょう?」

「いや、本当に何も無いから」

 

 疑いの目を向けるのは、かつて俺が働いていた場所の職員。俺を追って来てらしい。彼女は俺が居なくなった後もずっと探してくれていたらしく、遂にはこうして再会してしまった。正直あまり関わりたくない相手だが、色々と世話になった手前、邪険には出来ない。

 

「それよりも、何故貴方達がここに居るんですか?」

「勿論、君に会うためさ!」

 

 爽やかな笑顔を浮かべながらウインクをする。それに対して、俺は呆れたように息を吐く。すると、横にいた女性が少しムッとした表情をしていた。

 

「……私達の事は無視ですか」

「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

「……いいでしょう。なら、私達と勝負をしましょう。勝った方がマスターさんと一緒にお風呂に入る事が出来る権利を得ます」

 

 突然とんでもない事を言われ、思わず咳き込んでしまう。しかし、二人は本気のようで、お互いに睨み合っていた。

 

「いい加減にしてくれよ……沖田さん、ダ・ヴィンチちゃん……ストレスで胃に穴があくから」

 

 そう言って俺は頭を抱える。そして、ため息を吐いてから二人を交互に見た。

 

「そもそも、なんで俺なんかの為にそこまで……」

「それは当然だろう?君は私の大切な子なんだ。心配するのは当たり前じゃないか」

「そうです。それに、貴方が居ないと楽しくないんですよ」

「うーん、嬉しいけど複雑だなぁ……」

 

 そんな会話をしていると、突然背後から腕が伸びてきて抱きつかれる。誰かと思って見ると……

 

「……先輩、私は寂しかったです……」

「マシュ!?」

「はい、貴方の後輩のマシュ・キリエライトです!」

 

 元気よく返事をした後輩は、そのまま俺の首筋に顔を近づける。そして、大きく深呼吸をして匂いを嗅ぎ始めた。混乱していると、今度は反対側からも抱きつかれた。そちらを見ると…… 金髪の少女が涙目になっていた。

 

「……ぐすっ」

「えぇ!?ちょっ、キャストリア!?何やってるんだよ!?」

「……だって、久しぶりに会えたんだもん」

 

 拗ねた様に呟いたキャストリアは、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。そんな様子に困っていると、また別の方向から声が聞こえてきた。

 

「あー!ずるい!!僕も混ぜてください!!」

「おいこら!抜け駆けするんじゃねぇぞ!マスター!オレも一緒に遊ぶぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

「お前らは黙ってろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!???」




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