Side 東雲
「……よし!これで完璧!」
コットンフレアスカートと、ボーダーTシャツにカーキのアウターを羽織って、お気に入りのカゴバッグを持って家を出る。今日は湊莉君達と一緒に花見にいく予定だ。
待ち合わせ場所は近所の公園だから歩いて行ける距離だけど、ちょっと遠回りして桜が咲く並木道を通って行こうと思う。さっき天気予報を見たら、今日一日晴れるみたいだし、絶好のお花見日和になりそうだ。
空を見上げると、水色のキャンバスに描かれたような青空が広がっていた。風も吹いていないし、気温もちょうど良い感じで気持ちが良い。私は気分良く鼻歌を歌いながら、公園までの道を急いだ。
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「えっと……確かこの辺りだった筈……」
スマホを確認して待ち合わせ場所に着いたけど、まだ誰も来ていなかった。……あれ?おかしいなぁ……。いつもなら私が一番乗りなのに。
そう思って周りをよく見てみると、少し離れた場所に見覚えのある姿を見つけた。
「…………」
湊莉君が桜の木に寄りかかって眠っている。サラリとした白髪が風に揺れている。……その美しい横顔を見て思わず見惚れてしまった……本当に綺麗だなぁ……と言うかこの季節でも風邪ひいちゃうよね、名残惜しいけど起こさないきゃ。
「あの〜……湊莉く〜ん?」
肩に手を置いて優しく揺すった。すると湊莉君はゆっくりと瞼を開き、寝ぼけ眼のままこちらを見る。そして、暫くボーッとしてからハッと我に帰ったように目を大きく開いた。どうやらようやく状況を理解したようで、気まずそうな表情になる。
「……寝顔見ましたか?」
恥ずかしそうに目を逸らす湊莉君。まさか見られていたとは思わなかったんだろう。湊莉君の頬はみるみると赤く染まっていく。そんな彼を見るとなんだか愛おしくなってきてしまう。
「ふふっ、見たよ〜」
意地悪っぽく言ってみたけど、これは嘘じゃない。だって本当に可愛かったもんね。
「あ、あの……忘れてください……」
耳まで真っ赤にして俯いている姿がまた可愛い。こんな姿を見せられたらもっと揶揄いたくなるんだけど、流石に可哀想なので止めておく事にする。
「あ!いたいた……おーい二人とも~」
声の方を振り向くと、そこには悠花さんと鏡華さんの姿があった。後ろには恭弥さん達も居た。
「あ、おはようございます皆さん」
「うん!おはよう東雲ちゃん!」
挨拶を交わした後、皆で談笑しながら集合時間になったので、桜の木の下にレジャーシートを敷いて座り込む。今日の天気は快晴で雲一つない青空が広がっている。まさに花見日和といった感じだ。それにしても凄いなぁ……この満開具合……。
「わぁ……見てみてよ皆!!すごく綺麗だよ!!」
悠花さんが嬉しそうに声を上げる、確かにその通りだ。まるで宝石箱のように咲き誇っている桜の花達は圧巻の一言である。それから暫くの間、私たちはただひたすら桜を眺め続けた。それはとても穏やかな時間で、いつまでもこのままでいいと思った程だ。
「……?あそこなんで騒いでるんでしょう?」
桜の根元に人が集まっているようだ。何かあったのかと思って近づいて行くと、花が開いていない桜の木が乱立していた。いつもなら満開の時期な筈だけど……
『我々は今年度の開花を拒否することにした』
驚いて上を見上げると、そこに居たのは桜の木を模した仮面をつけた人達だった。見た目は完全に変質者だが、不思議と怖いとか不気味だとか言う感情は全く湧いてこない。
『まったく……人間共は毎年、桜を見ては発情し、やかんのような奇声を上げては、酒をキャッチ&リリースする……』
よく分からない事を呟く桜の化身(暫定)たち。えぇ……何これ?どういう状況? 困惑している私たちに構わず、桜の化身たちは話を続ける。
『更には開花が近づけば “まだ六分咲き”だと!人の半裸に点数つけている様なものだぞ!?』
なんか怒り始めたんですけど……と言うか、この人たちって桜の化身じゃなくて、単に花見客なんじゃ……そんなことを考えている間にも桜の化身たちの愚痴は止まらない。
『しかもだ!年々花見に来る奴らはマナーが悪くなっている、ゴミを散らかし、騒ぎまくり、挙げ句の果てには暴れまわったり、犯罪行為に走る輩もいる!』
えぇ……この人、花見に対して不満爆発させてるだけじゃん……。そんな私達の心情など知る由もなく、桜の化身たちはヒートアップしていく。
「……東雲さん、見えてますか?」
「……うん、バッチリ」
隣のいる湊莉君には見えているらしいけど、恭弥さん達は「珍しい事もありますね」みたいな顔をしてキョトンとしている。私は心の中でため息をつく。
「……もう色々と面倒ですね」
湊莉君がボソッと呟いた。そして次の瞬間、桜の化身たちが一斉にこちらを向く。突然の出来事にビックリしたが、何故か怖さはなかった。寧ろ、なんだか親近感すら感じてしまう。
『私達が見えているんだな?』
桜の化身の一人が問いかけてくる。それに対して湊莉君はコクリと首を縦に振った。すると、桜の化身たちは次々に膝から崩れ落ち、地面に手をついた。
『おぉ……神よ……感謝します……』
そう言って涙を流しながら天に向かって祈りだした。その様子を見ていた他の人たちは、呆気にとられてポカーンとしていた。
『貴様らを花見対策委員に任命する!』
「は?」
湊莉君は思わず素の声を出してしまったようだ。無理もないと思う。いきなりそんな事言われても訳分からんだろうから。
「あの〜……なんですかそれ?」
とりあえず疑問をぶつけてみると、桜の化身は立ち上がって説明を始めた。
『いやね、毎年この時期になると、花見をしに来た人間が暴走するんだよ。酒を飲み過ぎて泥酔したり、他人の迷惑を考えずに大声で歌ったり叫んだりするんだよ』
あぁ……確かにそういう人もいるかも。でも、別に悪いことじゃないよね?それを取り締まるとかおかしくないかな……と思っていると、桜の化身は再び口を開いた。
『処置は重い方がいいな……我々桜の前で開口したものは死刑でいいだろう』
「いやダメでしょ」
またもや反射的に突っ込んでしまった。だっておかしいもん。流石にそれはやりすぎだと思うんだけど。しかし、私のツッコミを無視して話は続く。
「あの……花見をしている人に危害を加えるのは良くないと思いますよ?」
『何を言っている?そもそも花見の席で騒ぐような輩は害悪だ、それにだ、花見会場で殺人が起きたらどうなる?血の海になるぞ』
「…………」
何も言い返せない……。確かにそうだ、もしそんな事件が起こったら花見どころではなくなるかもしれない。私が黙っている間に桜の化身たちは話し合っている。
か
『やっぱり死刑でいいんじゃないか?』
『いや、それでも軽い気がするが……』
『いや、もっと重罪の方が良いのではないか?』
『うむ……それが良いかもしれんな……』
おい待て、どんどん話が物騒になって行っているんですけど。このままじゃいけないと思い、止めに入ろうとしたその時だった。
「一つよろしいでしょうか?」
「湊莉君?」
今まで無言だった湊莉君の方を見ると、彼は桜の化身たちに鋭い視線を送っていた。その表情はいつもの彼からは想像できない程に冷たいものだった。
「確かに人類は愚かです、咎め合い奪い合う事でしか、一つになることが出来ない」
淡々と語る彼の言葉に桜の化身たちも真剣に耳を傾けているようだ。そして、一呼吸置いて湊莉君が語り出す。
「ですが逃げることは決してない……咎めあい奪い合いながらもあるかもわからない答えを探す旅から逃げない」
そう語る湊莉君の瞳は真っ直ぐ前を見据えていた。あぁ……この人は強い人なんだな……
私はそんな事を思った。きっとこの人も過去に何かあったんだろう。だからこそ、今の彼が居る。
「……だから、咲いてください いつもグダグダな人類だから……いつも変わらず美しい、あなた方の花びらが欲しい」
そう言った後、湊莉君は桜の木に近づいていき、そっと手を当てた。すると、桜の木は一瞬にして満開になった。
バラバラな私達を……まるであざ笑うように、一斉に芽吹く桃色の世界。
「……綺麗ですね、東雲さん」
湊莉君の言葉にハッとする。気がつくと私達は桜の木に囲まれていて、辺り一面が桜色に染まっていた。
『……ありがとう、少年よ』
桜の化身が湊莉君に向かって頭を下げる。その姿を見た湊莉君は優しく微笑みながら言う。
「いえ、僕は何もしてませんよ。ただ、桜が見たいと思っただけです」
『ふっ……謙虚な子だな、気に入った』
桜の化身が湊莉君に歩み寄ると、頭を撫で始めた。湊莉君は少し照れ臭そうな顔をしているけど、嫌がってはいないみたい。
「……やっぱり桜はいいですね」
湊莉君はうっすらと微笑みながら呟く。私もつられて上を見る。そこには、どこまでも広がる青空があった。そして、桜の花びらは風に吹かれて舞い上がり、空へと消えていく。桜が散る姿は、どこか寂しさを感じさせる。
皆さんは花見行けましたか?私は家の目の前に桜の木があるのでベランダでプチ花見をしました。