Side 一花
「父の日……どうしような……」
今日は6月15日で父の日の四日前だ。去年も同じ悩みをしたが、結局いい案は思いつかなかった。
「……こういう時は……」
私は悩んだ末、とある人物に頼んでみることにした。
────────────────────────
翌日、私は朝早くから家を出て、彼の家に向かった。そしてインターホンを押した。すると彼はすぐにドアを開けてくれた。
「おはようございます、東雲さん」
「お、おはよう……湊莉君……」
柔らかな笑みを浮かべる彼を見てると少し緊張してしまう。
「フフフ……立ち話もいいですが、部屋でお茶でもしながらゆっくり話しませんか?」
「ふぇ?あ、ひゃい……」
私は彼に言われるがまま、家に上がった。リビングに着くと、彼は私にソファーに座るように促した。私はそれに従い、腰を下ろした。
彼はキッチンに向かい、お茶を用意していた。私はその様子をじっと見つめていた。
(やっぱり……カッコいいなぁ……)
彼は私の視線に気づき、こちらに振り向いた。私は慌てて目を逸らした。彼はクスッと笑いながら、テーブルにお茶を置いた。私は恥ずかしくなり、俯きながらお茶を口に運んだ。
「!!このお茶すっごい美味しい!」
あまりのおいしさに思わず声が出てしまった。そんな私を見た彼がまたもや微笑んだ。
「フフ……ありがとうございます。その紅茶のブレンドは私のオリジナルでしてね、気温や湿度の変化によって味が変わるのですが……運が良かったみたいですね」
そう言いながら、彼も自分の分のお茶を飲み始めた。
「それで、何か相談があるって言ってましたけど……何ですか?」
私はハッとなり、本来の目的を思い出した。
「実は父の日のプレゼントについて悩んでて……」
「成程……そういうことなら喜んで協力しますよ」
「ほ、本当!?ありがとう!」
私は嬉しくなってつい立ち上がり、彼の手を握ってしまった。彼は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに表情を戻した。
「し、東雲さん、一旦落ち着いてください……ね?」
「ひゃ、はい……そ、それでどんなものをあげたらいいか分からなくて困っていたんです」
私は握った手を離し、再びソファーに座りなおした。彼は顎に手を当てながら考え事をしていた。
「ふむ……一般的な物で言うとネクタイやハンカチと言った小物等が喜ばれるでしょうが……それではダメなんでしょう?」「はい……いつも同じようなものをあげていたので、たまには違うものがいいかなと思って……」
私は苦笑いをしながら答えた。彼はしばらく考えていたが、突然口を開いた。
「……万年筆はいかがでしょうか?」
「え?万年筆……ですか?」
予想外の提案だったからなのか、変な声で聞き返してしまった。しかし、彼は気にせず続けた。
「はい。万年筆というものは使っていても壊れにくいですし、長く使うことができます。それに普段使いできそうなデザインのものであれば父への贈り物としても最適ではないでしょうか?」
確かにそれは名案かもしれないと思った。実際問題、毎年同じ物を贈っていてマンネリ化しているということもあったからだ。早速調べてみると、様々なデザインのものがあり、どれも素敵だった。
「あの……ちなみにこれなんてどうですか?」
私は一つの写真を見せた。それは持ち手が銀色になっていて、軸の色は黒だがところどころ金色のラインが入っているもので、ペン先は銀で装飾されているものだった。
「成程……いいかもしれませんね。後は値段ですが……」
値段の方を見ると、結構なものだったので私は目を見開いた。
「こ、こんなにするんですか!?」
「まぁそれなりに良い品ですからね……高校生のお財布事情的には厳しいものがあるでしょう」
「うぅ……無理かも……」
やはりこれは諦めるべきなのだろうかと思い悩んでいた時、彼が優しく語りかけてきた。
「大丈夫ですよ。私に任せてください」
そう言うと、彼は携帯を取り出しどこかへ電話をかけた。それから数分後、玄関のドアを開ける音が聞こえた。
「お待たせしました、東雲さん」
そこには湊莉君ともう一人見知らぬ女性がいた。女性は淡いピンク色の髪を後ろで結び、眼鏡を掛けていた。背丈は高くスラッとしていた。
「はぁ〜い、初めまして。私はタマモヴィッチ・コヤンスカヤと申します、この度はNFFサービスをご利用頂き「まだですの?」もう、釣れない方ですね……」
彼女は自己紹介を終える前に遮られてしまい少し不満げな様子だったが、湊莉君は気にしていないようだった。
「ね、ねぇ……湊莉君」
「なんでしょ?」
「NFFサービスって……あの?」
私が恐る恐る訊くと、タマモヴィチさんは笑みを浮かべて言った。
「フフ……勿論、私が営んでいる会社の名前ですよ」
NFFサービスとは今巷で有名な配送会社だ。依頼すればどんな物でも配送してくれるらしいという噂を聞いたことがある。
「えぇっと、どうしてそんな人がここに?」
「マスターからの御依頼で、貴方のお父様の父の日のギフトをお届けに参りました♡」
そう言って、タマモさんは手に持っていた青い箱を渡してくれた。私はその箱を受け取り、中を確認した。さっきまでスマホで見ていた万年筆が入っていた。
「え!?なんで!?」
私は驚きの声を上げた。だって、つい先ほど諦めようとしていたところなのに……
「おや?もしかして、いらなかったですか?」
「いえ!そんなことはありません!」
私は慌てて否定した。するとタマモさんがクスクスと笑いながら、私の頭を撫でた。
「フフフ……可愛い反応ですね。それじゃあ、代金の方ですが……」
「私が立て替えます。後、領収書もお願いします」
「え!?」
今度は湊莉君の発言に驚いた。すると、彼はポケットからカードのようなものを出した。そのカードは黒色で、よく見るとNFFと書かれていた。そして、その横にはVIPと書かれている。
「い、一体どこからそのカードを……?」
「秘密です♪」
そう言いながら、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、指を口に当てた。やっぱりこの人はずるいよ……
「あ、あの!やっぱり私が払いますから「はい♪確かに確認しました、こちら領収書になります」……湊莉君?」
「気にしないでください。お金なら余るほどありますし、こういう時は男を立ててくださいよ」
そう言って爽やかな笑顔を向けられたら何も言えなかった。私は渋々了承した。
「ご利用頂きありがとうございます♪今後ともどうぞご贔屓に」
こうして、私は無事に?父の日のプレゼントを買うことができた。湊莉君の家を出ると、空は夕焼けに染まっていた。私はプレゼントが入った袋を大事に持ちながら帰路についた。
父の日に万年筆をプレゼント……シャレオツじゃない?