Side 一花
「あのぉー……湊莉さん」
「なんでしょうか?」
「何故、湊莉さんが私の家に?」
「テスト勉強の為ですね」
「じゃあ……なんで、私料理しているのでしょうか?」
「……成り行きでしょうかね?」
「明日はテストですよね?」
「そうですね」
私はテスト勉強がしたいです! とは言い出せない……湊莉君の教え方が上手すぎて料理が楽しくて仕方ないから辞めるにも辞められない。
今作っているは肉じゃがを作っているのだが、その隣では湊莉君が何故かカレーを作っていた。しかも、私よりも手際が良いし……私の存在意義って何? そんな事を考えながらぼっーと鍋の中を見ていると湊莉君は何かを取り出した。それは……
「イ、インスタントコーヒー?」
「御明答……コーヒーを加える事でコクが深まるんです。更にほろ苦さが加えられ、ただ辛いだけではなく深みのある味わいになるのも大きな特徴です」
説明しながらお玉を使ってクルッとかき混ぜると完成したのか火を止めていた。そして出来上がった2つの皿に均等に分けて盛り付けしていた。片方にはご飯をよそい、もう片方にはルーを掛けていた。それをテーブルまで運び終えると遅めの夕食となった。
……うん、美味しい。
やっぱり男子なんだなぁ〜なんて思いつつ食べ進めていく。すると、 湊莉君がマグカップを差し出してきた。
「そのカレー、コーヒーと合う様に作っているです。どうぞ、試してみてください」
「は、はぁ」
湊莉君からコーヒーの入ったマグカップを受け取り、言われた通りにカレーを食べた後にコーヒーを飲む。…………うわぁ。
口の中に広がっていた辛さが一気に無くなり、まろやかな味に変化する。それに後味に残るほろ苦さ……。これはハマりそうだ。
「如何ですか?」
「凄く合ってます!」
「それなら良かったです」
その後、あっという間に完食してしまった。
「ご馳走様でした」
「いえいえ……」
…………沈黙が流れる。この空気に耐えられなくなり、聞いてしまった。
「ど、どうしてここまでしてくれるんですか?」
「えっ?」
「だって、こんな夜遅くまで付き合わせてしまって申し訳ないと言うか……何と言いますか……」
自分で言っていて恥ずかしくなる。でも、気になってしまったのだ。何故そこまでしてくれるのか。彼は少し考える素振りを見せると笑顔で答えてくれた。
「好きでやってる事なので気にしないでください。あと、今日泊めてもらう身としてはこれくらい当たり前だと思っていますから」
……ずるいなぁ。そういう事をサラッと言える所とか本当にズルイと思う。
「もう遅い時間ですし寝ましょうか。僕はソファーを使わせて頂きますので一花さんはベッドをお使い下さい」
「はい!?」
「どうかしましたか?」
「いやいや! 私が床で良いですよ! 流石に悪いですって!」
「僕がそうすると言っているのですから遠慮なさらずに使ってください」
「駄目です!!」
つい声を上げてしまった。
「湊莉君を床なんかで寝させるわけにはいきません!! だから、私が床で寝ます!」
「しかし、女性である一花さんをそんな所で寝かせるわけにはいかないですし、そもそも最初からそのつもりですから」
「それでも駄目なものは駄目です!! 私は大丈夫ですから! 湊莉君はちゃんとしたところで休んでください!」
「……分かりました。ではこうしましょう」
すると、湊莉君は立ち上がり私の後ろに来るとそのままひょいっとお姫様抱っこされた。
「きゃあああ!? ︎ちょ、ちょっと湊莉君何をしているんですか!? ︎下ろしてくださぁーい!」
ジタバタ暴れるがびくともしなかった。そして、優しく布団の上に下ろされると部屋の電気を消され部屋から出て行ってしまった。
「ま、待ってよぉ〜」
急いで追いかけようとしたが足がもつれてしまい、その場で倒れ込んでしまう。
結局、追いつく事が出来ずに眠りにつくのだった。朝食の準備をしなくてはと思い、リビングに行くと既に湊莉君は起きていて台所に立っており、こちらに気がついて挨拶をしてきた。
「おはようございます、一花さん。よく眠れたようですね。安心致しました」
「お、おかげさまで。朝ごはんまでありがとうございます」
「いいんですよ。昨日のお礼ですので気にせず召し上がってください」
「はい、いただきます」
「美味しいです!!!」
「それは良かったです」
その後、軽く会話を交わした後学校へ登校していった。
────────────────────────
テスト1日目が終了し、結果発表の日の放課後に教室の掃除をしていると、後ろの方から話し掛けられた。
「いっちゃ〜ん♪ 一緒に帰ろう!」
「あ、藤野さん。こんにちは」
そこに居たのは同じクラスの藤野 悠花さんだ。いつも明るく元気いっぱいの人で男女問わず人気の高い人だ。因みに湊莉君の幼馴染らしい。
「ねぇ、今日のテストどうだった? 自信ある?」
「そうですね〜……それなりに出来たと思います」
「そっか〜……じゃあさ、これから駅前のカフェ行こうよ! そこでお茶しながらお喋りしようよ〜。ねっ、お願い!」
……う〜む。正直、あまり行きたくないのだが、そんな事言える筈もなく渋々了承した。
「わ、わかりました。では、終わったら校門の前で待ち合わせしましょう」
「うん、わかった! 絶対だよ!」
そう言い残して彼女は去って行った。掃除が終わるとすぐに校門前へ向かうとそこには既に藤野さんの姿があった。彼女の方も私を見つけるなり駆け寄ってきた。
「ごめんなさい、待たせちゃいましたよね?」
「うぅん、全然大丈夫! それより早く行こ!」
彼女に引っ張られる形で喫茶店へ向かった。店内に入り席に着くと早速注文をする。
「私は苺パフェにしよっと。いっちゃんは何にする?」
「え、えぇと……チョコケーキで……」
「おっけぃ! すいませーん!」
店員を呼び止めて注文をした。暫くして、頼んだものが来ると2人で食べ始めた。……そういえば、こうして悠花さんと2人っきりで食べるなんて初めてかもしれない。
「あの、前から聞きたかったことがあるんですけど……」
「なぁに? 何でも聞いて!」
「どうして、私と仲良くしてくれるんですか?」
ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。すると……
「え〜何でだろう……友達になりたいと思ったからかなぁ。あっ、勿論いっちゃんの事嫌いじゃないから安心してね」
……いや、別に嫌われているとは思っていないんだけど……でも、少し複雑だ。
その後も他愛もない話をしながら楽しく過ごした。
大きく手を振りながら帰っていった。私は小さく手を振り返し見送った後、家路についた。……湊莉君と一緒にいる時は楽しいけれどやっぱりどこか落ち着かないと言うか変に意識してしまうというか……とにかく気疲れするのだ。だから、こういう風に気軽に接してくれる人が近くに居るというのはとても楽なのだ。
────────翌日────────
テストの結果が貼り出されていたので確認しに来た。……ふむふむ、今回の成績は中の下と言ったところか。まぁ、前回よりかは良い成績なので満足である。
「おや、一花さんじゃないか。こんな所で会うなんて奇遇だね」
……げ、この声は。
「天之河くん……」
嫌そうな顔で振り向くと、案の定そこには
「? どうしたんだ? そんな顔をして?」
「いえ、特に何もありません」
とっとと離れようと歩き出すと、腕を掴まれてしまった。
「ちょっと待ってくれ」
「……何か用ですか?」
「実は君に頼みたい事があるんだよ。もしよかったら僕の手伝いをしてくれないかい? 報酬としてそれなりのものを約束しようじゃないか」
……面倒臭いので断る事にした。
「お断りします」
「何故だい!? ︎僕達は同じクラスの仲間ではないか!! 困った事があれば助け合うべきだろ! それとも、君は仲間を見捨てるのかい?」
「そういう訳ではありませんが……。私には関係ないですし」
「それは違うぞ一花さん。僕は君の事を思って言っているんだ。それに、君だって助かると思うよ。誰だって自分の身は可愛いものだからね。さぁ一緒に来てくれ」
強引に連れていかれそうになった時だった。突然、誰かに肩を叩かれた。その正体は湊莉君であった。
「何をしているのですか?」
「み、湊莉! お前からも言ってやれよ。こいつは酷い奴なんだ」
「……貴様は一体何を言っているんだ?」
湊莉君の口調が変わった。どうしたのだろうか?
「お、おい! いきなりどうしたというんだ? そんな怖い目つきで睨んで」
天之河も湊莉君の変わりように驚いていた。
「……」
「無視をするな! 何とか言ったらどうなんーーーッ!!」
……あ、これ不味いやつだ。
「黙っていろ。私の前から今すぐ消えないのなら………殺す」
完全にキレてる。これは下手したら殴り合いになるかも……
「よ、用事を思い出したからこれで失礼する」
そう言うとそそくさと逃げていった。
「一花さん、大丈夫でしたか?」
「え、えぇ。ありがとうございます」
湊莉君のおかげで難を逃れる事ができた。その後、彼の怒りも収まったようでいつも通りの彼に戻ってくれた。
……でも、少し怖かった。
────────────────────────
放課後になり図書室に向かった。理由は本を借りるためである。読みかけの小説があったのだがそれが丁度昨日で返却期限が切れてしまっていたのだ。それで仕方なく返しに行くことにした。
(確かこの辺りにあったはず……)
キョロキョロと探し回ると、やっと見つけることができた。ふぅ〜良かったぁ。後は帰るだけだ。そう思い、踵を返したその時、 ドンっ!!! 誰かとぶつかってしまった。私は尻餅をつく形で転び、相手は持っていた鞄を落としていた。私は慌てて起き上がり相手の方を見た。すると、そこに居たのは …………
「イテテッ……あ、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
南雲くんだった。私は急いで立ち上がって頭を下げて謝った。すると、慌てなくていいと言われたので顔を上げた。そして、改めて見ると……彼はやはりイケメンだと思った。身長が高く細身の体型をしている。黒髪の短髪をしており、前髪の一部が垂れている。目は細く鋭い。格好良いと言うよりは綺麗系の顔付きである。そんなことを考えながらボーっと見ていると、バンッ!!! 大きな音と共に勢いよく扉が開かれた。
何事かと思い入り口の方を見るとそこには幽鬼の様な形相をした湊莉君の姿があった。隣で南雲君が小さく悲鳴を上げた……
「……
コツコツと足音を立てて図書館内を歩く湊莉君……背後に銃を持ったメイドさん? が見えるのは気の所為だろう。そのままカウンターまで行くと、司書の先生に声をかけた。湊莉君の声を聞いた瞬間、ビクゥと体を震わせ怯える様に返事をしていた。……あれは怒っている時の声色だ。しばらく話を聞いた湊莉君はこちらへゆっくりと近ずいてくる。
「……
(し、東雲さん! 僕がここに居ることは絶っっ対にバレないように協力してください!)
(わ、わかった……)
小声で話してはいたが、耳の良い湊莉君には聞こえていたみたいだ。目の前に立つ湊莉君。
「
しかし、湊莉君は私ではなく何故か隣の席に座っている南雲君を見ていた。湊莉君はおもむろに手を伸ばした。まさか!? ︎殴るつもりじゃ!! ︎私が止めに入ろうとした瞬間、湊莉君の手は彼の頭を撫で始めた。優しく丁寧に、まるで愛しい者に触れるように…… 湊莉君の行動を見て呆気に取られてしまった。そんな私とは違い、南雲君は顔を真っ赤にして俯いていた。
「あ、あの……何をしているですか?」
「テストの結果がかなり良かったので労おうと思いましてね」
「恥ずかしいから嫌なんだよぉ……」
なんだそういうことか……。ビックリしたなぁもう。それならそうと早く言って欲しいものだ。その後、満足するまで撫で終わったのか、最後にポンと軽く叩いて終了となった。南雲君は満更でも無いのか満面の笑みを浮かべており、とても幸せそうであった。
テストメインで書くはずが…………ま、いっか。