Side 零斗
今日の学校は一段と騒がしかった。なぜなら、転校生が来るからだ。まぁ、転校してくるやつ知人なんだけどな……俺が連れてきた訳だし。
(上手くやれるといいんだが……)
そんな事を考えながら教室に入ると、皆は転校生の話題で盛り上がっていた。
「ねぇ!今日来る子ってどんな子かな?」
「可愛い子だといいね!」
「イケメンとか来たらどうしよう……」
などと楽しそうに話しているのを横目に席に着く。そして担任の愛ちゃん先生も入って来て、いつも通り朝のホームルームが始まった。
「もう知ってる人もいると思いますが転校生を紹介します!」
愛ちゃん先生の言葉を聞いた瞬間クラス中から歓声が上がる。うるさい……耳が痛い……。
「それではどうぞ!」
その言葉と共にガラガラと扉を開ける音が聞こえた。すると二人の女子生徒が入ってくる。すると男子生徒達は興奮したように騒ぎ始めた。
「おぉぉぉ!!」
「うわっめっちゃ美人じゃん!!」
「え?何あの髪色……」
「すげぇー綺麗……」
「モデルか何かじゃね!?」
などという声があちらこちらから聞こえる。それもそうだ。入ってきた二人はどちらも超がつくほどの美少女なのだから。
「皆さん静かにして下さい~」
愛ちゃんに注意されてやっと静かになる。でもそれでもまだざわついているのは仕方ないだろう。
「それでは自己紹介をお願いします」
二人のうちの片方が前に出て口を開く。
「……ユエ。よろしく」
それだけ言うとそのユエは半歩後ろに下がる。もう一人の方も同じように名乗った。
「えぇっと……シア・ハウリアです。よろしお願いします……」
シアは緊張しているのか少しオドオドしていた。しかしそれがまた良いと言うやつもいるだろう。現にクラスの一部の男子達がニヤけている。
「はい。ありがとうございます。座席は……南雲君の隣空いてるんでそこに座ってください」
愛ちゃんの言葉を聞きユエとシアは顔を見合わせて小さくガッツポーズを取っている。
「わかりました」
「……わかった」
それまで呆然としていたハジメがものすごい顔をしてこちらを見ている。そりゃ自分の隣の席に来たのが自分の知り合いだと知ったらそうなるか……その後の授業は特に変わったことはなく進んでいった。
──────────────────ー
「ふぅ……」
昼休みになり俺は屋上へと来ていた。別に一人になりたい訳ではない。刀華は家の用事で居ないし、鏡花と恭弥はそれの付き添いで居ないし、柊人は風邪引いた悠花の看病で居ない。
(さて……シアとユエはこの環境に順応出来たかな……)
そんな事を考えながら空を見上げる。ちなみにこの学校の屋上は基本的に出入り禁止になっている。まぁ、普段は鍵掛かってるし……え?なんでそんな屋上に入れるのかって?俺が鍵を拝借してるからだ。
(……いい天気だな。陽当たりも良いし、眠くなってくるな……)
そんな事を考えていると、ガチャッとドアが開く音がする。
「やっと見つけた……」
「おや、ハジメ。こんな所に来るとは珍しいですね」
息を切らせていることから急いで探して来たことが分かる。ハジメはそのまま俺の横まで歩いてきて座ると、一呼吸置いてから話しかけてきた。
「なんでユエさん達がここに?」
「そうですね……貴方と一緒に過ごす時間を増やしたいそうです。それと彼女達も『青春』を味わってみたいそうなので連れてきちゃいました♡」
可愛らしくウインクをしてみるが特に反応はなかった。ちょっと寂しい。
「それにしたって……シアさんの耳とかはどうしたの?」
「私の能力を使えばちょちょいですよ」
ハジメの顔が引き攣っている。多分とんでもない事を聞いた気がするが理解出来ないといった感じだろう。
「まぁ、それは置いといて……クラスの方々とは仲良くやっていけそうですか?」
「うん。大丈夫だと思うよ。クラスの人達とも打ち解けたみたいだし」
「それなら良かったです」
まぁ、多少問題はあるかもしれないけど……そこは頑張ってもらうしかない。
────────ー数日後────────
シアとユエはクラスにも馴染み始め今ではすっかり人気者になっていた。
「ねぇ!ユエちゃん!今日の放課後一緒に遊ばない!?」
「あ!ずるい!!私も混ぜて!」
「じゃあ私はシアちゃんと遊ぶ~!」
などと、よく遊びに誘われている。それだけでなく他のクラスからも誘われたりと、かなりの人気ぶりだ。
「うぅ……皆ごめんなさい。今日は先約があるんです……」
「ん。私も」
だが当の本人達はというとあまり乗り気ではないようだ。
「えぇー……」
「じゃあ明日は!?」
二人は申し訳なさそうにしながらも首を横に振る。すると女子生徒の一人が思いついたように言った。
「あっ!わかった!彼氏さんとデートなんだ!」
その言葉を聞いて教室が騒がしくなる。男子達は「マジか……」と言いながら肩を落としている。
「ちっ違いますっ!!」
シアが慌てて否定をする。しかしそれが逆に周りには肯定しているように見えたようで、「うそっ!?」「誰々!?」などという声があちこちから聞こえてくる。
「そりゃ、彼でしょ」
一人の生徒が指を指したのは……
「え?私?」
何故か俺だった。あまりに突拍子の無いことにキョトンとしていると、背後から凄まじいプレッシャーが放たれた。
振り向くとそこには…… 笑顔を浮かべながらも額に青筋を立てている刀華がいた。
「……ねぇ、零斗。どういうことか……説明してくれる?」
「……何もやましいことはありませんよ、彼女と私はそういった関係では無いです」
俺は冷や汗を流しながら答える。説明を聞いた刀華はシアの方に視線を向ける、シアもシアで首が引きちぎれん勢いで縦に振る。
「……そう。わかったわ」
そう言うと俺の頭をガシッと掴む。そのままギリギリと力を込められる。
「いたいいたい!!ちょっ!?本気で痛いのですが!?」
「ふん。自業自得でしょう?」
そして刀華は最後に力を込めてから手を離す。俺は頭を抑えながら刀華を見る。
目が合った瞬間俺はゾクリとした。まるで獲物を見つけた肉食獣のような目をしていたのだ。
(……これはまずい。非常にまずい)
俺はこの場をどうにかするためにシアに助けを求める。シアはこちらを見ると小さく微笑みながらサムズアップして教室から逃げ出していた。
(シアァア!!!貴様裏切ったなぁあああ!!)
そんなことを思っていると刀華が話しかけてきた。ちなみに周りにいたクラスメイト共は
「それで?何があったのかしら?」
「いえ、あのですね……」
「言い淀んでいるところ悪いけど、私は怒ってるの。正直に話さないと……わかるわよね?」
「はい。わかっております……」
俺は事の経緯を説明した。その間刀華は一切口を挟むことなく、ただ黙って聞いていた。
(怖い……めっちゃ怖い……)
それから一通り話し終えると、ようやく解放されると思ったがそうではなかった。
「……なるほどね。大体の事情は分かったわ」
「分かって頂けたようでありがたいです……」
「……でもまだ許したわけじゃないから」
そう言って今度は両頬を摘まれる。
「ふぉれはへど……?」
「当たり前でしょ。自分の彼氏の家に見知らぬ女が寝泊まりしてるのよ?怒るに決まってるでしょう 」
「ひょへんなはい……」
謝っても解放されないため、仕方なく俺はしばらく弄ばれるのであった。
「……痛い」
「ごめんなさい。ちょっとやり過ぎたかも……大丈夫?」
「なんとか……」
あれからしばらくの間、ずっと引っ張られ続けていたせいでかなり腫れてヒリヒリする。
「……シアちゃんとユエちゃんは一体何者なのかしら?」
刀華の顔が真剣さを帯び、声色も数段落ちる。シアとユエの正体について、俺も把握しきれてない。
「私達と同じ人間では無いのは確かですが……どんな存在なのかは確認出来ていません」
シアは兎も角ユエに関しては謎が多い。
「まぁ、二人については追々調べていくしかないですね」
「……そうね。取り敢えずは様子見かしら」
そう言うと刀華は小さく息を吐き、いつもの調子に戻る。
「さて、次は貴方への罰を考えないと……ね」
「えっ?」
俺が疑問の声を上げると、刀華はニコッと笑った。その笑顔を見て背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
「覚悟はいいかしら?」
「待ってください!!今回は不可抗力でしょう!?」
刀華にじり寄って来る。どう逃げようかと思案していると、何故か刀華はクスッと笑う。
「フフ、冗談よ。それに元はと言えば私が勝手に勘違いしたのがいけないんだもの」
俺はホッとすると同時に少し怒りを覚えたが、そこはぐっと堪えた。
「それにしても貴方……明るくなったわよね」
突然刀華がそんなことを言ってきた。
「……そうですか?」
自分ではよくわからないため首を傾げる。
「ええ、だって前はもっと他人に対して冷たかったじゃない?」
「……言われてみると、確かに。自分から誰かに関わるなんてことはありませんでしたし……」
俺の言葉を聞いて何故か刀華は嬉しそうな顔をしていた。それがなんだが気恥ずかしくて視線を外す。
「あら、貴方そんな顔もするのね?」
「……揶揄わないで下さい」
「別に揶揄ってなんかいないわよ?ただ、前よりも感情表現が豊かになったなって思っただけ」
「……」
「ほら、また無表情に戻っちゃう」
そう言って刀華は悪戯っぽく笑いかけてくる。俺は視線を逸らすとボソッと呟く。
(刀華のおかげなんだけどな……)
俺は彼女に救われた。俺にとって彼女は恩人であり、大切な友人で、最愛の恋人だ。
「ワワワッ!」
「ちょっ!?シアちゃん!?」
「…………シアさん?」
突如、教室後方の扉が轟音と共に外れて、シアやユエ、雫他数名が倒れ込んでいた。
「ま、まさか今の見て……」
「そ、そそ、そんなことある訳ないじゃないですか!零斗さんが珍しく照れてるところなん……あ」
シアは慌てて否定していたが途中で自分が何を言ったのか気づいたらしく口を両手で塞いでいた。
「……もうやだぁ……」
俺はその場に崩れ落ちた。
身体が闘争を求めている……