ありふれた黒幕のありふれない日常   作:96 reito

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雫さんがヒロインヒロインしてる話だ、そんでももって珍しく弱々零斗くんだ。


そうだ、デートに行こう

 Side 零斗

 

 今日も今日とて、八重樫道場で雫と模擬戦をする。今はある程度打ち合った後の軽いクールダウン中だ。そういや最近、癒しがねぇな……

 

「よし」

「ん?どうかした、零斗」

「八重樫さん、デートしましょう」

「……ふぇ!?」

 

 俺の突然の提案に彼女は目を丸くして驚いていた。まぁ当然の反応だな。いきなりそんなこと言われても困るだろうし。

 

「ここ最近ずっと道場の方に入り浸っていますよね?」

「うっ……それはそうだけど……」

「たまには息抜きがてら遊びに行きませんか?」

 

 雫は少し考え込むような仕草を見せる。そしてしばらくしてから口を開いた。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて行こうかしら」

 

 頬を赤く染め、はにかみながら答える雫。うーん、可愛い。

 

「それにしても、なんで急に誘ってくれたの?」

「別に理由なんてないですよ。ただ、一緒に出掛けたいと思っただけですよ」

 

 俺は特に意識することなく思ったことを口にする。すると雫はさらに顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「そっか……ありがとね……」

 

 小さな声で呟くように言う彼女。その声はとても嬉しそうなものだった。

 

 ────────────────────

 

 雫とのデート当日。待ち合わせ場所には既に彼女が待っていた。いつものように綺麗だが、今日の服装は一段と可愛らしい。

 

 白を基調としたブラウスの上に紺色のカーディガンを着ており、下は黒のロングスカートを履いている。彼女の美しさをより引き立てていると思う。

 

「ごめんなさい、待たせちゃいましたか?」

「ううん、私も今来たところだから大丈夫よ」

 

 雫の言葉を聞いてほっとする。よかった、これで待ったとか言われた日には男として立つ瀬がない。

 

「じゃあ行きますか」

「ええ」

 

 こうして俺たちは街へと繰り出した。まず最初に向かったのは映画館だった。なんでも見たい映画があるんだそうだ。

 

「『あなたへの想い』……恋愛ものですか?」

「えぇ、この映画がとても評判いいみたいで気になってたの」

 

 なるほど、確かに雫が好きそうな感じの映画ではあるな。俺は特に見たかったものもなかったので、雫と一緒に見ることにした。

 

 内容は高校生同士の男女の恋を描いた青春ラブストーリーといった内容だった。終始切なく胸を打つシーンが多く、観客全員が涙を流していた。

 

 そしてラストシーンで主人公役の俳優がヒロイン役の女優に告白をしたところで映画の上映は終了した。

 

「どうでしたか?」

「すごく良かったわ!特に中盤の──ー」

 

 興奮冷めやらぬ様子で感想を語る雫を見て自然と笑みがこぼれてしまう。やっぱりこの人はこういうの好きだなぁ。

 

「あっ……ごめんなさい、つい夢中になっちゃって……」

 

 恥ずかしそうに謝る彼女に気にしないでくださいと言う。むしろそれだけ楽しんでくれたなら連れてきた甲斐があったというものだ。

 

「次はどこに行くんですか?」

「ちょっと服を見に行きたくて……ついてきてくれる?」

 

 もちろん断るわけもなく了承する。雫に連れられてやってきた店は服屋だった。

 

「ほら、早く入りましょ?」

 

 強引に腕を引っ張られて店内へ入ってしまった。店内には若い女性向けの服が数多く並んでいた。正直居心地が悪い……

 

「これなんかどうかしら?」

 

 そう言って見せてくれたのは白のトップスと黒のベストだ。どちらも雫によく似合いそうである。

 

「そうですねぇ……こっちの服と合わせると良いと思いますよ」

「そうね……試着してみるから少し待っててもらえるかしら」

「わかりました」

 

 雫は店員さんを呼ぶと試着室に入っていった。数分後、カーテンが開かれ中にいた彼女は先程までとはまた違った雰囲気を醸し出していた。

 

 トップスは黒のシャツになっており、首元からは鎖骨が見え隠れしている。ベストは羽織る形となっており丈が長めのものを着ているため全体的にゆったりとした印象を受ける。普段とは違う格好をしているせいか大人っぽく見える。

 

「どうかしら……?変じゃない……?」

 

 不安げに見つめてくる雫。俺はそんな彼女を素直に褒める。

 

「凄く似合っていますよ」

「ほんと?ありがとう!」

 

 嬉しそうな表情を見せる彼女。俺はその後しばらく雫が着替えるたびにその都度褒め続けた。

 

「もうっ……そんなに言わなくていいわよ……」

 

 照れながらそんなことを言う彼女だったがその顔はとても嬉しそうなものだった。

 

「じゃあ次は零斗の番ね」

「……はい?」

「私が選んであげる」

 

 俺は半ば強制的に連行され、雫によるコーディネートが始まった。俺は抵抗を試みたものの無駄に終わり結局されるがままとなった。

 

 ──────────────────────

 

 数十分後、俺は鏡の前に立っていた。全身をチェックする。上は黒のVネックのTシャツの上にグレーのジャケットを着ている。下もデニムパンツを履いており、靴はオックスフォードタイプの革靴になっている。

 

「うん、よく似合っているわね」

 

 満足そうな顔をする雫。俺は自分の姿を見てどこか違和感を覚えていた。

 

「なんか……慣れないですね……」

「そのうち慣れるわよ」

 

 そういうものだろうか……まぁ雫が言うんだし間違いないだろう。

 

「御会計お願いします」

「はい……合計二万四千円となります」

 

 かなりの量買ったが……案外安いもんだな。

 

「そろそろお昼時ね」

「そうですね……何処にしましょうか?」

「そうね……」

 

 雫は考え込むような仕草を見せる。不意にこちらを見上げてきて目が合う。すると彼女はふわりと微笑みかけてきた。

 

「私のお気に入りの場所があるの。そこに行きましょ?」

「えぇ、いいですよ」

 

 こうして俺たちは次の目的地へと向かった。歩くこと数分ほど、彼女が立ち止まった場所はお洒落な雰囲気のお店の前だった。中に入るとそこはアンティーク調の雰囲気漂う喫茶店であった。

 

「ここは紅茶とケーキが美味しいのよ」

 

 席に着くなりメニュー表を開きながら楽しげに話す雫。その目はキラキラと輝いていた。

 

「私は決まったけど……零斗は決まった?」

「そうですね……ヌワラエリヤのストレートティーとフルーツタルト、ショートケーキでお願いします」

「いいチョイスね!すいませーん」

 

 しばらくして注文した品が届く。早速一口飲んでみると、なるほどこれは美味いな。しっかりと茶葉の特性を理解した淹れ方だ。

 

 雫の方を見ると幸せそうな表情でケーキを食べている。本当に甘いものが好きなんだな。

 

「どうしたの?」

 

 じっと見つめていることに気づいたのか首を傾げる雫。

 

「いえ、なんでもありません」

 

 俺は誤魔化すように視線を外す。すると雫はフォークを置いて、何かを思い出したかのような様子を見せた。そしてゆっくりと立ち上がり、俺の隣へと移動してきた。

 

 何事かと思っていると、雫の手が頬へと伸びてくる。そのまま優しく撫でられる。突然の出来事で思考が止まる。

 

「クリームついてるわよ?」

 

 クスッと笑い、指についた生クリームを見せつけるように舐める。そして妖艶な笑みを浮かべた。

 

「間接キス……ね?」

 

 心臓が跳ね上がる。顔が熱くなるのを感じる。雫は悪戯に成功した子供のように無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「やっぱり、ここのケーキは最高ね」

「えぇ、そうですね……また来たいくらいです」

 

 何とかポーカーフェイスを保ちつつ答える。まぁじで心臓に悪いわ……普段攻めると顔真っ赤にしてアタフタすんのにこんな時に限って小悪魔になるのやめてくれませんかね……?

 

「……それはデートの誘い?」

「そう受け取ってもらって構いませんよ」

「そう……なら楽しみにしているわ」

 

 その後も二人で談笑しながらゆったりの時間を楽しんだ。

 

 ──────────────────────

 

 日が傾き始め空が赤く染まり始めた頃、俺たちは帰路についていた。あの後、ゲームセンターで遊んだり、買い物をしたりして楽しい時間を過ごした。

 

「今日はありがとう。とても充実した一日になったわ」

「私もすごく楽しかったですよ」

 

 自然と笑みがこぼれてしまう。柄にもないことを考えてしまったな……まぁ、たまにはいいか。

 

「ねぇ、最後に一つだけ寄り道してもいいかしら?」

「もちろん大丈夫ですよ」

 

 雫は俺の返事を聞くと、ある場所へ向かって歩き出した。着いた先は高台にある公園だ。人気はなく、静寂に包まれている。夕焼けに染まった街並みを一望できるこの場所はとても綺麗だった。

 

「いい景色でしょ?」

「えぇ……とても……」

 

 しばらく二人並んで街を眺める。この時間がずっと続けば良いのに……そんなことを思ってしまう。

 

「今日はありがとう、とても楽しかったわ」

「こちらこそありがとうございました」

 

 少しの間沈黙が流れる。

 

「……あなたに伝えておきたいことがあるの」

 

 雫は真剣な表情をしてこちらを向く。俺は黙って彼女の言葉を待つことにした。

 

「私はあなたのことが好きよ」

「…………」

「初めて会った時からずっと惹かれていたわ」

 

 雫は一歩ずつ近づいてくる。

 

「でも、これが恋愛感情なのかは正直わからなかった……」

 

 彼女はさらに距離を詰める。俺はただ見ていることしかできない。

 

「だから確かめることにしたの……」

 

 雫はもう目の前にいる。

 

「零斗、私はあなたを愛してる」

 

 その瞳は真っ直ぐこちらを捉えており、決して目を逸らすことができない。

 

「……八重樫さん……私には刀華が居ます。だから、貴方の気持ちに答えることは────」

「それなら問題無いわ」

 

 雫は言葉を遮るように言った。そして次の瞬間……

 

「ん……」

「んっム!?」

 

 唇に柔らかい感触を感じた。目の前に雫の顔があり、自分の身に起きていることがようやく理解できた。

 

「んっ……ちゅ……はぁ……」

 

 長い口づけが終わり、お互いの口から銀色の糸を引く。

 

「これで証明は完了ね」

 

 彼女はふわりと微笑む。その笑顔は今まで見たどの表情よりも美しく見えた。

 

「それに刀華さんからは『零斗は共有財産だから分け合いましょ』って言わてるから大丈夫よ」

「なんですか、その理屈は……」

「ふふっ、いいじゃない。細かい事は気にしないの」

 

 そう言って再び抱きついてくる雫。今度は優しく包み込むように抱きしめてくれる。

 

 

「これからよろしくね、彼氏さん」

 

 耳元で囁かれる。その声音はどこか甘く感じられた。

 

「えぇ、こちらこそ」

 

 こうして俺と雫の交際が始まった。ちなみに、後日このことを刀華話したら、ものすごい形相で迫られ、質問責めにされ……絞られたのは言うまでもない。

 

 

 

 




刀華さんの入れ知恵で押せ押せな雫さんでしたが、内心バックバクだし、卒倒しそうな程恥ずかしく思っています、可愛いね。
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