Side 零斗
ある日の夜、家事が一通り終わりリビングで寛いでいると、スマホに一通の着信が入る。
「はい、もしもし。湊莉です」
『えぇっと……こんばんわ、湊莉君』
『一花さん?こんな夜更けに何か御用ですか?」
電話を掛けてきた相手は一花さんだった。時刻は既に23時を過ぎている。この時間に電話をかけるという事は急用かもしれないと思い、気持ちを引き締める。
『その……私の事…………どう思ってる?』
「……はい?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。まさか、そんな内容だと思わなかったからだ。
「……『仲のいい異性の友達』……でしょうか?」
『そっか……そう……だよね…………ごめんね?いきなり変なこと聞いちゃって……』
俺が答えた瞬間、明らかに落胆している様子が伝わってきた。
『……は…………わ……………ぁ……』
電話の向こう側から微かに聞こえる言葉を聞き取ろうと耳を傾ける。声質的には女性……それも複数……
『ホント!にぶちんマスターは分かってないわね!こんなにも健気なアプローチを平気でスルーするなんて!』
『マジで可笑しくない!?こんだけわっかり易いアプローチしてんのに気づかないなんてにぶちん過ぎしょ!』
『本当に先輩はにぶにぶでしゅ!』
小声で叫ぶという器用な真似をする恐らくはメイヴと鈴鹿、マシュ……他にも数名程度の声が電話越しから聞こえてきた。
(サーヴァント達と仲良くなってるのは俺としても嬉しいが……こんな事になるとはなぁ……)
心の中で苦笑いしつつ、状況を把握する。これはあれか……所謂、女子会ってやつか。
「……一花さん」
『ひゃい!なんでひょうか!』
サーヴァント達の会話に気を取られていたのか、声を上ずらせながら返答してくる一花さん。
「今度の日曜日、予定って空いていますか?」
『え?あ、うん。特に予定はないけど……』
「では、その日にデートしませんか?」
そう伝えると、電話口から物音一つ聞こえなくなった。そして数十秒後にやっと理解が追いついたのか慌ただしく動き出す気配を感じる。ドタバタと暴れるような音やら悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。
「……大丈夫ですか?」
『ふぇ!?う、うん!全然問題無いよ!』
そう言いつつも、どこか落ち着きがない様子の一花さん。
「返事はOK……という事でいいんですね?」
『も、もちろんだよ!』
「それは良かったです……では、10時に駅前の広場で待ち合わせしましょうか」
『う、うん!楽しみにしてるね……///』
恥ずかしそうに返事をした後、通話が切れた。俺は小さく息を吐き、ソファに深く腰掛ける。
「……何着て行くか考えるか」
ソファから立ち上がりクローゼットを開ける。中に入っている服を見渡しどれが良いかを真剣に吟味する。
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(緊張のせいか、あんまり眠れなかったな……寝みぃ……)
欠伸を噛み殺しつつ待ち合わせ場所に向かう。
(服装も結局は普段通りになっちまったしなぁ……)
今日のコーデは白シャツに黒ジャケット、下には濃いめの青ジーパンといった感じだ。
(待ち合わせ場所に着いたはいいものの……少し早過ぎたかな……)
スマホを取り出し時間を確認する。現在9時30分、約束の時間まではまだ30分ほど余裕がある。スマホを軽く弄りながら待っていると……
「ねぇねぇ、お兄さん。もしかして今暇?」
「……何か御用ですか?」
声を掛けられた方向に視線を向けるとそこにはギャルっぽい雰囲気の女性2人組がいた。1人は茶髪ロングヘアーで、もう1人の方は金髪ショートヘアだ。茶髪の方が馴れ馴れしい口調で話しかけてくる。
「もし暇ならさ~あたしらと一緒に遊ばない?奢ったげるしさ!」
「いえ、結構です」
間髪を容れずに断りを入れる。すると、今度は金髪の方からも誘いの言葉を掛けられる。
「ちょっとだけでもいいんで遊びましょーよぉー」
「すいませんが遠慮させていただきます……」
2人を振り切るように歩き出そうとするが腕を掴まれる。振り払おうと思ったところで後ろから聞き慣れた声が届く。
「湊莉君?待たせちゃったかな?」
「いえ、丁度来たとこ──ー」
そこまで言った所で言葉を詰まらせる。何故ならば目の前にいる女性は見知った顔ではあるがいつもの格好ではないからだ。肩出しニットにフレアスカートの組み合わせで清楚感を出しながらも可愛らしい印象を受ける。髪型もサイドテールになっており活発なイメージを感じさせる。
「どうしたの?そんなにまじまじと見つめてきて?」
「あ、いや……なんでもないですよ。とても似合っていますね」
咄嵯に思った事を口に出してしまい頬に熱が集まる感覚を覚える。それを隠す様に顔を逸らす。
「そっか……ありがとう……///」
俺達はお互いに照れたような表情を浮かべる。その様子を見ていた茶髪と金髪の女達が不満げな表情で近づいてくる。
「ちょっとー!無視しないでくんない?」
「そーそー!折角ナンパしてあげてんだから感謝してほしいんだけど?」
鬱陶しげに思いながらも、どうやってこの場を切り抜けようか思考を巡らせていると……
「あの……私達これから用事があるんで失礼しますね」
一花さんが俺の手を取りその場から離れる。
「ちょっ!待ってって言ってんじゃん!」
慌てて後を追って来る女達……めんど……
「一花さん、ちょっとだけ失礼しますよ」
そう言うと同時に彼女の膝裏に手を回しそのまま抱きかかえる。そう、お姫様抱っこである。突然の出来事に目を丸くしている彼女を抱えて走り出す。
「えっ!?ちょ……まっ……ひゃあっ!速い!速すぎるよぉ!!」
俺の腕の中でジタバタともがく一花さんを他所に足を動かす。
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「……ここまで来れば、大丈夫ですね」
暫く走った後、路地裏に入り込む。抱えていた彼女を地面に降ろした。彼女は若干涙目になりながら此方を睨んでいる。
「……怖かったんだからね!急にあんなことするなんて!びっくりしちゃったじゃない!もう少しで落ちるところだったんだよ!?」
ぷくっと膨らませたほっぺが可愛いと思いつつも、素直に謝る。ごめんなさいと頭を下げると、許してくれたのかクスリと笑う声が聞こえてきた。
「でも……ありがとね。助けてくれて」
「……当然のことをしただけです」
そう答えると、またもやクスッと笑われる。そして、いきなり俺の左腕をギュッと抱きしめてきた。柔らかいものが当たり理性が削られていくのを感じる。
「今日はデートなんだから……これぐらいは……良いよね?」
上目遣いをしながら、そう問いかけてくる。俺が無言のまま首を縦に振ると、嬉しそうな笑みを向けてきた。
(心臓に悪い……)
バクバクとなっている鼓動を必死に抑え込み、平静を装う。そして、デートがスタートした。
「何処に行きましょうか」
「……零斗君は何処に行きたい?」
質問を質問で返されてしまった。うーむ……行きたい所か……正直、特にこれと言っていきたい場所もない。強いて言えば……
「水族館……でしょうか」
「じゃあ行こうか!」
即答された……というか拒否権無かったな……まぁ、特に嫌な訳でもないから別にいいか。
「あ、その前に……はい、手繋いで行こ?」
差し出された左手に右手を乗せる。そして、恋人繋ぎをする。 お互いの顔を見合わせ微笑み合う。そして、二人で並んで歩き始めた。
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電車に乗り揺られること数駅、目的地に着いた。チケットを購入し中に入る。
「うわぁ~!凄く綺麗だね!湊莉君!」
はしゃぎながら水槽の中を眺める一花さんの姿はまるで子供みたいだなと思う。その姿を見ていると自然と頬が緩んでしまう。
「……どうかしたの?」
「いえ、何でもありませんよ」
不思議そうに首を傾げる彼女にそう答えた俺はゆっくりと歩みを進める。その後ろをトコトコとついて行く彼女。
「……楽しいですか?」
「うん、勿論だよ!」
満面の笑顔で言う。それを見た俺は心が暖かくなるのを感じた。
「……それは良かったです」
その後も様々な種類の魚を見て回った。ペンギンやアザラシなどもいたが……何故かペンギンがこちらをじっと見つめてくる。
(え?俺、仲間だと思われてんの?そんなペンギンっぽい?)
自分でもよくわからない疑問に頭を悩ませつつ、隣にいる一花さんを見ると、瞳をキラキラとさせある一点を見ている。そちらの方に視線を向けると…… そこには、『ペンギンの餌やり体験』と書かれた立て看板があった。
「…………」
「湊莉君、あれやろうよ。絶対楽しいよ!」
「……そうですね」
係員のお姉さんにお金を渡し、餌を貰い、近くにいた一匹のペンギンに食べさせる。すると、一斉に集まってきた。
「……多すぎませんか?」
「あはは……」
苦笑いを浮かべるお姉さん。足元にはざっと数えても十数羽のペンギンがエサを求めて群がって来ている。
「痛い……」
太ももの辺りを嘴でツンツンと突かれる。地味に痛い。
「はい、どうぞ」
取り敢えず、エサを与える。すると、今度は肩や腕などを狙って突いて来る。結局、全てのペンギンにエサをあげ終わるまで、突かれまくった。
「楽しかったね!」
満足げに言う一花さん。まぁ、本人が喜んでくれたならそれでいいだろう。そんな事を思いながら足を進め、クラゲが沢山展示されているエリアに来た。
色とりどりのライトによってライトアップされているクラゲ達を見ていると、何となく癒される気がするのは何故だろうか。
「……綺麗だね」
「そう……ですね」
少しだけ、見惚れてしまった。薄暗い空間に漂う無数の光、その光に照らされて浮かぶ彼女の横顔。その姿はとても幻想的で美しいものだった。
「……そろそろいい時間ですね。名残り惜しいですが帰りましょうか」
「うん……そうだね」
彼女の返事を聞き、出口に向かって歩き始める。外に出るとすっかり日が落ちており、空はオレンジ色に染まっていた。
「もう夕方なんですね……時間が経つのって早いですね」
「ほんと……あっと言う間だったね」
「はい……今日一日、とても充実していました」
本当に充実した1日だったと改めて思う。こんなに幸せな気持ちになったのはいつ以来だろうか。そんな事を考えながら歩いていると、突然袖を引っ張られた。
「……どうかしましたか?」
「……最後に……一つお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
頬を赤らめながら上目遣いで此方を見る。その瞳からは不安の色が伺えた。
「内容にもよりますが……可能な限り叶えてあげたいと思います」
「……ありがとう」
俺の言葉を聞いた彼女は深呼吸をし、意を決した表情で此方を向く。
「……キス……してほしい」
「……へ?」
突然の告白に動揺してしまう。
「……ダメ……かな……?」
悲しそうに俯き、消え入りそうな声で呟く彼女。彼女の願いを叶えてあげる為、顔を近づけようとした瞬間…… グゥ~とお腹が鳴る音が聞こえてきた。音の出所は……俺じゃない。
つまり…… 恐る恐る彼女の表情を確認する。彼女は耳まで真っ赤にしながら、プルプル震えていた。
「クフフ……少し早めではありますが夕食にしましょうか。今回は私の奢りです」
恥ずかしさでいっぱいな彼女を落ち着かせる為に、なるべく優しい声音を意識して話しかけた。
「……うん…………ありがとう」
「そうそう、一花さん」
「な、何かな!?」
俯いていた一花さんが顔を上げた瞬間に腰に手をまわし、抱き寄せる。
「わわっ!ちょっ!?今何を!!」
さらに紅くなった彼女が言葉を発そうとした瞬間……チュッっと軽く触れるだけの口づけをした。不意の出来事にポカンと口を開け固まる一花さん。
「今日、付き合ってくれた御礼です。喜んでくれた様で良かったです」
「な!なななな///」
やっと今の状況を理解できたのか、慌てる一花さんを見て微笑む。
(……我ながら良いものが見れたな)
夕焼けの様に綺麗に染っている彼女のほっぺに触れながら俺はそんな事を思った。
こういう日常回ってめっちゃ書きずらい……