Side 零斗
「ふゎ……」
今日も今日とて学校へ向かう、週の初め……月曜日ということもあり、学校へ向かう足取りが僅かに重く感じる。
「お!零〜斗!おっはー!」
「朝から元気ですね……貴方は……」
背後からやかましいくらい元気な声を発しながら、こちらに駆け寄ってくる悠花に呆れつつ、後方から走ってきている柊人に声を掛ける。
「おはようございます、朝から大変ですね?」
「あぁ……おはよう」
二人と合流したところで、再び歩き出す。世間話をしつつ通学路を進む。
「あ、そういえば零斗。刀華達はどうしたの?」
「家庭の用事等で今日は休みだそうです……鏡華も同様の理由で休みで恭弥は二人の付き添いだそうです」
「なるほどね〜」
何か言いたげな雰囲気で軽く返事をする彼女に溜息をつくも特に気にしている様子はなく、何気ない会話を続けていく。
しばらくして校門が見えてきた頃になって唐突に話題が変わる。
「あ!そうだ零斗!これ見てー」
悠花がスマホの画面に映っている一枚の写真を指差して楽しそうな表情を浮かべていたので視線を落としてみるとそこには……
「……何がご所望なんですか?大体の要求なら飲みましょう」
俺が一花さんの額に口付けをしている写真だった……というかいつの間にそんなものを撮っていたんだこいつは……
「よし交渉成立っ!」
悠花はニヤリとした笑みを深め、心底満足そうな顔をしていた。
「まぁいいでしょう……ではそのデータは消しなさい」
「嫌だよ!せっかく零斗を脅せるモノを手に入れたんだからもう少し有効活用しないと!」
こういう時だけ賢いんだよなぁ、こいつ……いつもその聡明さを見せてくれれば……とも思うのだが生憎彼女の思考回路の大半は下衆さと悪戯心に偏ったようなものなので無理だろうな。
「まったく……」
ため息混じりの言葉とともに肩を落とす。そんなこんなしていると自教室の前に到着した。
「じゃ、私たちは自分のクラスに行くね。またお昼休みにねぇ〜」
はしゃぐ子供をあやす様に告げると手を振り合いながら悠花と柊人は自分のクラスに入って行った。
「……今日は厄日ですね」
憂鬱な気分を押し込めつつ俺は1限目の準備に取り掛かるために自身のクラスの扉を開く。
「あ、おはよう零斗」
「おはようございます、ハジメ。今日は珍しく早いですね?」
席につくと同時に隣の席である親友にしてクラスメイトでもあるハジメに声をかけられ返答する。
「珍しくとは失礼だな……僕だって早起きすることぐらいあるよ」
不貞腐れたように言う彼に苦笑いしながら謝りつつ授業開始を待つ。
「ハジメさん、おはようございます」
「ハジメ、おはよう」
少し遠目の席に居た、ユエとシアが俺達の元にやって来た、二人とも学校生活に大分慣れたのか家ではよく学校の話を楽しそうにしてくる。
やがて朝のホームルームが始まり担任からの連絡を聞き終えてから1時限目の授業が始まった。
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「──ー以上になります。これで四限目の授業は終わりです、お疲れ様です」
教師の声と共に起立・礼をして各々昼食を食べ始める者や弁当箱を取り出す者など様々だが、大半の者が仲の良い者たちと一緒に机を寄せ合って食べ始めたりする光景が見られる。
「零斗〜、ハジメ〜!お昼一緒に食べよー!」
元気よく声をかけてきたのはやはりと言うべきか悠花で、その後ろには当たり前のように柊人が立っていた。
「えぇ、構いませんよ」
「ありがとう!それじゃ早速だけど行こうか」
四人で屋上に向かう道すがら談笑をしながら歩く。
「ねぇ、零斗……なんか感じない?」
「……えぇ、何だが胸騒ぎがしますね……」
校舎内に入ったあたりから妙な感覚を感じる。まるで誰かに見られているような気配を感じて落ち着かない。
「……警戒だけはしておきましょう」
「「了解……」」
そのまま階段を上り、屋上のドアを開けて外に出る、穏やかな風が頬を撫でる。
「んー、やっぱりここで食べるのが一番だよね」
悠花が気持ち良さそうに伸びをする横で、俺は柵にもたれかかりながら街を見渡す。
確かに心地良い場所だ、だが同時に先程から感じる違和感が拭えないことも事実であり、それがどうも不安を掻き立てる要因となっている。
「零斗〜、早くお昼ご飯食べようよ〜」
「わかっています……今行きますので……」
悠花に急かされながらそれぞれに自作の弁当を手渡して、食事を始める。味わう余裕もなく、黙々と箸を動かす。
「ふぅ……美味しかったね!ごちそうさま!」
いち早く食事を済ませた悠花は満足そうな顔を浮かべている。しかし、相変わらず違和感が消えない。すると校舎内に続く扉が開き、そこから一人の男子生徒が姿を見せた。
「ここに居たんだな……湊莉」
「何か用ですか?天之河……」
彼を見て一瞬、不快感が込み上げてきたがそれを堪えて要件を聞く。
「……畑山先生が呼んでいたぞ」
俺の態度が気に入らないのか若干苛ついた様子を見せながら答えた。
「そうですか……要件が済んだのでしたら、さっさと何処かに行ってください」
これ以上こいつと会話をする気は無い。そう思い言葉を投げかけるも、相手はなおも食い下がる。さらに距離を詰めてくる彼に、俺の中の嫌悪感が増していく。
「どうしてお前はそんなに偉そうなんだ……?」
「貴方には関係ないでしょう……さぁ、早くどこかへ行って下さい……」
「……っ!なんだその言い方は!」
ついに我慢の限界が来たのか、彼は声を荒げて怒りの形相を浮かべると、こちらに向かって歩み寄ってくる。だが、その時だった。
「ッ!?」
突如として、背筋を走る悪寒を感じ、その場から急いで飛び退く。次の瞬間、さっきまで自分の立っていた場所に……正確には対面にいた天之河の足元に光り輝く円環と幾何学模様が現れていた。
「早く!離れなさい!」
咄嵯に叫ぶ。何故この魔法陣が現れたのかは不明だが、このままでは不味い。直感的にそう思った。だが遅かった。眩い光が視界を埋め尽くした。
「……チッ」
思わず舌打ちが出る。辺りを見回すが、すでに天之河の姿は無くなっていた。おそらく転移させられたのだろう。
(あの野郎……面倒事を増やしやがって……)
そんなことを考えながら、先程の状況について思考する。
(俺の知っている魔術、魔法の術式と一切の類似点が無かった……別次元もしくは他の世界線からの物だろうが……それにしては術式が荒い……)
仮にそうだとしたら、そもそも何故、この世界に干渉できたのか……疑問は尽きない。
「……零斗?」
思考の海に浸っていると、いつの間にか傍に来ていたハジメに声をかけられた。
「大丈夫?」
「えぇ、問題ありませんよ」
「ならいいんだけど……」
心配そうな顔をしているハジメを安心させるために微笑みかけてから、未だに残っている魔方陣に視線を移す。
「……とりあえずこれは調べておく必要がありますね」
嫌な予感が当たってしまったことに、俺は小さくため息をつく。
「零斗……これってもしかして……」
「……まぁ、十中八九面倒事に巻き込まれましたね」
悠花の質問に答える。正直、予想通りの展開すぎて頭が痛くなってきたが、ここでただ呆然としていても意味が無い。
「ひとまず教室に戻りましょう、昼休みもそろそろ終わりますし」
「あ、うん、わかった」
悠花たちに告げてから校舎内に入り、そのまま自分たちのクラスに入る。そして、適当な言い訳をしてから早退する旨を伝えて学校を出た。
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「先輩?どうしてこんな時間にアヴァロンに?平日のこの時間は学校でしたよね?」
「……まぁ、色々あってな」
家に帰る前にアヴァロンに寄ると、マシュが不思議そうに問いかけてきた。簡単に事情を説明すると納得してくれたようで、それ以上深く追及されることはなかった。
「それで、今日はどういったご用件で?」
「俺がカルデアに居た時の荷物って持ってるか?あれば幾つか引き取りたいんだが……」
俺の言葉を聞いて少し考え込むような仕草を見せると、しばらくしてから思い出したように口を開いた。
「確か保管してあるはずですよ。ちょっと待っていてくださいね……」
そう言って奥の部屋に入っていくと、程なくしていくつかの段ボールを抱えて戻ってきた。
「ありましたよ」
「助かるよ、ありがとう」
礼を言いながら受け取り、中身を確認する。愛用していた礼装にサーヴァント達からの贈り物、霊基グラフのコピーなどを確認していく。
「……お、あったあった」
その中から目当てのものを見つけ、ほくそ笑む。俺が手に取ったのは真っ黒なUSBだ。この中にはとあるプログラ厶が入っている。
その他にもいくつか必要なものを回収して、帰路に付く。
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家に帰ってからすぐにパソコンを立ち上げる。起動するまでの時間を利用して、先程手に入れたUSBの中に入っているプログラムをインストールしていく。すると、画面が暗転して中央にホログラム映像が投影される。
『お久しぶりです、レイト様』
「あぁ、久しぶりだな……ルード」
映し出されたのはモノクロの仮面がふよふよと浮いている姿だ。こいつは俺が前世で作り上げた追跡と情報解析に特化したAIだ。
「早速で悪いんだが、お前の力を借りたんだが……大丈夫か?」
『えぇ、問題ありません』
俺の頼みを快諾してくれる。まず、天之河の足元に発生した魔法陣の術式を分析してもらい、それを記録してもらう。
「……よし、じゃあ頼む」
『了解しました……分析完了、記録します……』
ルードに頼んで数分後に、そのデータが転送されてきた。それを見ながら、今度は自分の記憶にある魔法陣と照らし合わせてみる。
「……やっぱり違うな……」
やはり、俺の記憶に無い術式が使われていた。だが、それでも類似点はあるはずだ。そう思って、しばらく作業に没頭していると、突然ルードの声が聞こえて意識を現実に引き戻された。
「ん……終わったのか?」
『はい、終わりましたよ。それと一つだけ忠告を……あまり深追いしない方がよろしいかもしれませんよ?』
「……どういうことだ?」
『それは私が言うべきことではありませんので、後は自分で考えて下さい。では、私はこれで失礼致します』
それだけ言い残して姿を消す。ひとまず、ルードからの報告を整理する。天之河の足元に出現した魔法陣は、俺の知識と照合しても一致するものは無かったが、ルードの分析によると、この世界のものでは無いらしい。
「つまり、この世界とは別の異世界の産物ってわけか……」
そこまで考えたところで、不意に疑問が湧き上がってくる。何故、別の世界線……もしくは別次元の魔法陣が現れたんだ?考えれば考えるほど思考は淀んで行く……
「『汝が久しく深淵を見入るとき、深淵もまた汝を見入るのである』……本格的に調べるならそれなりの準備をしないとな……」
誰に向けるともなく呟く。俺の勘が正しければ、面倒事が近いうちにまた起こるだろう。その時までに出来る限りの準備をしておかなければ……
クセになってんだ……何の前触れもなくオリキャラを登場させんのを……