Side 零斗
「飲み物……片手間に摘めるお菓子……後は──」
キッチンの冷蔵庫から必要なものを取り出し、容器に盛り付けていく。全て並べたところで、インターホンのチャイムがなる。
『零斗ー、来たよー』
「はいはい、今行きますよ」
玄関に向かい、ドアを開ける。そこには片手にビニール袋をぶら下げたハジメが立っていた。
「おや、追加のお菓子でも買って来てくれたんですか?」
「うん、一応ね」
ハジメが手に持っていたビニール袋を俺に差し出してくる。受け取って中身を見ると、中にはお菓子の他にも飲み物が大量に入っていた。
「ありがとうございます。他の方達はもうすぐ着く様なのでそれまではダラダラしていて構いません」
俺はハジメからビニール袋を受け取り、それをキッチンの冷蔵庫にしまう。そして、ハジメを家に上げる。
「お邪魔しまーす」
ハジメはリビングに上がり、ソファに座る。そして、テレビをつけてチャンネルを回す。俺はそんなハジメを横目にキッチンで作業を進める。
『男子高校生が突然、行方不明!?』
そんなニュースが耳に飛び込んで来る。画面に目を向けると、そこには男性アナウンサーが深刻そうな表情で原稿を読み上げる様子が映し出されていた。
「……天之河君の事だよね、これ」
「でしょうね、まぁ私達ではどうにも出来ない領域の出来事ですよ」
ハジメに紅茶の入ったマグカップを手渡し、俺は自分のコーヒーを持ってハジメの隣に座る。そしてテレビに目を向け、ニュースを視聴する。
「……ん、この紅茶美味しいね」
「マリーさんから貰った茶葉ですからね。値段に関してはあまり考えたくはありませんけど……」
ハジメは紅茶をゆっくり味わいながら、ニュースに耳を傾ける。俺はコーヒーを飲みながらSNSを流し見する。 しばらくそうしていると、玄関の方から複数の足音が聞こえてきた。どうやら残りのメンバーが到着したようだ。
「お邪魔します。零斗、これ追加のお菓子です」
「ハジメは先に来ていたんだね」
「置いていくなんて酷い奴だなぁ……」
「……なんで、恭弥さんは零斗の家の合鍵持ってるんだ?」
残りのメンバー……恭弥に柊人、浩介、幸利がリビングに入ってくる。これで全員集合だ。俺は人数分の紅茶を淹れ直して、皆の前に置いていく。
「……それでは、始めましょうか」
「そうだね、全員揃った事だし」
俺がそう切り出すと同時にハジメが同意して頷く。それぞれが、持ち寄った物から円錐状の何かを取り出し構える。
「これより……」
そこで一度言葉を区切り、全員を見据える。そして、俺は高らかに宣言した。
「第n回!『ガチムチだらけの男子会』を開催します!」
ドドン!という効果音が聞こえるくらいの勢いで宣言する。それと同時に、各々が持ってきた円錐状の物……クラッカーの紐を引く。 パンッ!という破裂音と共に紙テープが飛び出し、俺達に降りかかる。
「「「「いえぇぇい!」」」」
そして俺達は、まるで打ち合わせでもしていたかのような絶妙なタイミングでハイタッチを交わす。
「いやー、このノリも久しぶりだね」
ハジメはそう言いながら、ビニール袋からポテトチップスを取り出してパーティ開けする。
「こうして男子だけで集まるのは半年ぶりですね」
俺はそう言いながら事前に準備して置いたお菓子を置いた器をテーブルの真ん中に置き、紙コップを全員に配る。
「まぁ、男子会って言っても、ただお菓子食いながら駄弁ってるだけだよな」
浩介が早速スナック菓子を鷲掴みし、口に放り込む。そう、この男子会は適当に集まって駄弁るだけの集まりだ。しかし、それが楽しいのだ。
「まぁ、それが男子会の良いところじゃないかな」
そう言いながら柊人は机の上にあるお菓子を手に取り口に運ぶ。
「まぁ、雑談してるだけでも楽しいですから」
恭弥も柊人に同調しながらお菓子を口の中に放り込む。俺も広げて置いた、クッキーを一枚手に取り、頬張る。
「では早速……ハジメ、白崎さんとの関係は進展しましたか?」
「ブフォッ!」
「最初から、その話かよ……で、どうなんだ?」
俺はハジメに質問を投げかけた途端に、ハジメは飲んでいた紅茶を吹き出しむせた。俺の言葉を聞いた、メンバーも興味深々といった様子でハジメを見ている。
「だ、大丈夫か?」
幸利だけが心配そうな表情を浮かべながらハジメの背中をさすっている。しかし、俺はそれを気にする事なく話を続ける。
「……その様子だと進展していないようですね」
「な、なんで急にそんな事……」
「いや、少し気になりまして。ハジメはヘタレなので」
そう答えるとハジメはグサッという効果音が聞こえてきそうなほど落ち込んだ。そして、そのまま机に突っ伏してしまった。
「まぁ……進展はしてないよ」
ハジメは突っ伏したまま、小さく答える。俺はその返答に思わずため息を吐いてしまう。やはりハジメはヘタレだ。
「全く、何を躊躇っているのですか」
「だってさ……白崎さんは人気だから……」
ハジメはそう言いながら顔を上げる。俺はそんなハジメに対して呆れた表情を向ける。
「はぁ……全く、そんな理由ですか。そんな事を気にしていたら一生進展しませんよ」
呆れて物が言えないとはまさにこの事だろう。まぁ、ハジメらしいといえばらしいのだが。
「……そろそろ、覚悟を決めなさい。手元に来るチャンスは逃せば、二度と来る事はありません」
俺は、少し声のトーンを落とし、真剣な声音で言う。ハジメはそれに少し気圧される様に、ビクッと反応し俺の顔を見る。
「でも……もし断られて今の関係が……」
ハジメが何か言いかけた所で、俺は遮る様に口を開く。
「ハジメ、変化を恐れていては何も出来ませんよ」
ハジメは俺の言葉を聞いて押し黙る。俺がハジメを焚き付けているのは、何も進展しない事に痺れを切らしている訳でも、面白半分で言っている訳でもない。 ただ単純に親友として、幼馴染みとして、背中を押しているだけだ。
「まぁ、今すぐに告白しろと言ってる訳ではありません。でも、もし貴方の中で気持ちの整理がついた時は……」
俺はそこで区切り、ハジメの目を真っ直ぐ見つめて言う。
「後悔の無い様、行動しなさい」
そう言い切った俺に、ハジメは言葉を返す。
「……分かったよ、ありがとう零斗」
ハジメはそう言って、先程までの不安そうな表情は消え、覚悟を決めた顔をしていた。これで少しは進展する事を願うばかりだ。
「……そういう君は、刀華と八重樫さんとの二股交際をしているみたいだね」
「「「…………は?」」」
柊人の爆弾発言によって、微笑ましかった空間にピシッと音を立てて亀裂がはしる。 俺は壊れたロボットの様にギギギッと柊人に顔を向ける。柊人はただ、ニコニコと笑顔を浮かべているだけだった。 俺の隣では、幸利と浩介が信じられないといった表情を浮かべながら俺を見ており、ハジメは別の意味で信じられないといった表情で俺を見ていた。
「……何の事でしょうか?」
「とぼけても無駄だよ。本人達から聞いた事だからね」
俺は何とか声を絞り出して問うが、柊人は表情を変えずに答える。その言葉に俺は頭を抱えてため息を吐きたくなる衝動に駆られる。
「……確かに、私は八重樫さんと交際を開始しました。この事は刀華にも伝えてあります」
俺は観念して認める。すると、柊人は意外だと言いたげに目を見開いた。
「おや、素直に認めるとは意外だね」
「この状況で嘘を言っても仕方ありませんからね」
柊人の言葉に俺はそう返す。すると、今度は幸利が口を開いた。
「でも、二股交際とか倫理的にアウトだろ……」
「えぇ、確かに世間一般から見ればそうでしょうね」
幸利の言葉に、今度は俺が答える。世間一般の常識から言えば二股交際など許される事ではない。しかし、それはあくまで一般論だ。
「……刀華と雫さんが協定を組んだそうで、私を『共有』しようと決定した様で──「待て待て待て!!」……なんでしょうか?」
俺の説明に、幸利が待ったをかける。 俺は首を傾げながら、幸利を見る。
「いや、なんで不思議そうにしてんだよ!?!なんで刀華さんと八重樫さんが協定組んでんだよ!」
幸利は頭を抱えて叫ぶ。まぁ、付き合いが短いとそう思うだろう。しかし、これは事実なのだ。刀華と雫さんは俺を独占出来ない代わりに一緒に共有する事にしたらしい……まぁ、これからも協定に加わる人が出て来るのだろうが……
「まぁ、彼女達がそう決めたのなら……是非もないよネ!」
「お前は納得してるんじゃねぇよ!普通は止めるだろ?!つーか、キャラ崩壊してんじゃねぇよ!?」ドゴォ!
「コフッ……」
俺はドヤ顔で言う。しかし、幸利はそれに呆れながら俺の鳩尾に鋭いツッコミ(ボディブロー)を食らわせる。俺はその予想外の一撃により、気を失い床に倒れ込む。
また不定期な更新になるとは思いますが、首を長くしてまって頂けると大変嬉しい所存であります……