Side 零斗
今日は朝からついていない……通り雨でびしょ濡れになるわ、大事にしていた包丁がお釈迦になるわ、妙な連中のせいで特売の卵を逃すわ……本当についてない。
とぼとぼと帰路についている時、路地裏の方でナニかが蠢いた。チラリとそちらを見ると人だった。十二、三歳くらいの少女だろう。ほんの出来心だった。
「貴方……助けて欲しいですか?」
少女は目を丸くして私を見つめる。私は何も言わずにじっと見つめ返す。すると少女は口を開いた。
「……たすけて」
その一言と共に少女は気を失った。どうやら体力の限界だった様だ……とりあえずは家に運ぶかねぇ。
Side ???
目が覚めると知らない天井が広がっていた。ここはどこだろうか。声を出そうとしたが上手く出ない。体も重いし頭も痛い。まるで風邪を引いた時のようだ。
「あ、起きた?」
声がした。ゆっくりと首を回すとそこには一人の男が立っていた。とても優しそうな男性だ。
「無理しない方がいいよ。君は二日間寝てたからね」
男はそう言いながら私の頭を撫でてくる。不思議とその手はとても心地良かった。
ガチャ「おや?起きた様ですね」
部屋のドアが開き、そこから白髪の男性が入ってきた。この人も同じ様に優しい感じがする。
白髪の男性はそのままこちらへと歩いてくる。そしてベッドの横まで来るとしゃがみ込み目線を合わせてきた。近くで見るとより一層顔立ちが良いことがわかる。白髪の男性は私を見て微笑む。それにしても何故だろう。初めて会ったはずなのに懐かしく感じる……。
「はじめまして。私は湊莉 零斗と言います、こちらは南雲 ハジメ……君の名前は?」
名前……名前はなんだっけ?思い出せない。自分が誰なのかすらわからない。ただ一つだけわかることがあるとすれば自分の名前が嫌いだという事だけだ。
「……ユエ」
咄嵯に出た言葉がこれだった。この名前は嫌いだけど何故か口に馴染んでいる気がする。
「そっか、それじゃあ改めてよろしくねユエ」
そう言ってハジメがまた優しく頭を撫でてくれる。なんだろう、凄く落ち着く……。
「さぁご飯にしましょう。お腹空いたでしょう?」
そう言われれば確かに空いているかもしれない。少し恥ずかしかったけど小さくコクンとうなずいた。それから私は色々なことを聞いた。どうして倒れていたのかとか、親はいないのかとか色々聞かれたが覚えていなかった。
「それは困りましたね……」
零斗と名乗った男は難しい顔をしている。何かを考え込んでいるみたいだが、それよりも今はご飯が食べたい。 そんなことを考えているといつの間にか目の前には温かいスープが置かれていた。これは何という食べ物だろうか?見たことのない野菜が入っているが美味しそうだ。
恐る恐るスプーンを手に取り一口食べる……瞬間衝撃が走った!今まで食べたことがないほどに美味しい!!夢中でガツガツと食べていく。あっと言う間に無くなっていく料理に唖然としながらもおかわりを要求する。零斗は苦笑いを浮かべながらも新しいのを用意してくれた。これもまた絶品である。
「ごちそうさま!」
出された食事を全て平らげてしまった。満腹感からか眠たくなってきた。ふわ~っと大きなあくびが出る。その様子を見て二人が笑っている。なぜ笑うんだろう?
「いっぱい食べられて偉いね」
「えぇ、良いことです」
褒められた。よく分からないけど嬉しい……そのまま再び眠りにつく。次に目覚めた時、隣ではあの二人がまだ起きていて話をしていた。二人は私のことを心配してくれていたらしい。そういえば名前も教えてもらった。レイトとハジメだ。レイトは私を助けてくれて、住む場所を与えてくれた。ハジメは私が寂しくならないように一緒に居てくれると言った。その日から二人のことが大好きになった。
「おはようございますユエさん」
朝起きるといつも最初に挨拶してくれるのがレイトだ。私が起きたことに気付くとすぐに部屋を出ていく。きっと朝食を作ってくれてるのだろう。その間私は朝の身支度をする。歯磨きをして、髪を櫛で整える。
「よしできた」
鏡の前でクルリと回ってみる。うん、今日もいい感じだ。
「朝ごはんができましたよ」
「わかった」
そう返事を返してリビングへと向かう。テーブルの上に並べられた食事を前にして座ると、自然と手を合わす。
「いただきます」
まず初めにスープを口へと運ぶ。やっぱりすごくおいしい。次はパンを食べる。こっちもとても柔らかい。次の日も、また次の日も、毎日が幸せだった。でもたまに思うのだ……このままずっとここにいてもいいのかって……。
ある日、私は思い切って聞いてみた。どうして私を助けたのか?助けた理由は何なのかを。すると二人はお互いの顔を見合わせてから話し出した。
「ほんの気まぐれですよ。それに『助けて』と言われましたからね」
「零斗がユエさんを連れて来た時は流石にびっくりしたけどね」
どうやら本当に偶然だったようだ。それでも嬉しかった。だって私の居場所ができたような気がするから。それから私はレイトの手伝いをしたり、ハジメと一緒に出掛けたりした。街にも連れていってくれたりした。どれも初めて見るものばかりで楽しかった。そんな日々を過ごしているうちに半年が経っていた。私はもうすっかり元気になった。最初は喋れなかったけど今では普通に会話ができる。
ピンポーン『零斗〜いるー?』
「はいはい、今行きますよ」
玄関の方で声が聞こえる。誰かが来たみたい。家零斗が扉を開けるとそこには一人の女性が立っていた。綺麗な人だな……。
彼女はこちらを見ると驚いた表情で固まっていた。そしてゆっくりと近づいてくる。突然抱きしめられる。
「可愛い〜!ねぇ、零斗!この子が話してた子?」
「そうです、ほら、ちゃんと自己紹介してください」
そう言われて彼女が離れる。少し名残惜しいと思ったことは内緒にしておこう。
「はじめまして!藤野 悠花だよ!よろしくね!」
そう言って手を差し伸べてくる。握手というやつだろうか?とりあえず握ればいいんだよね? 恐る恐る彼女の手に自分の手を重ねる。ギュッと強く握りしめられてブンブン振られた。ちょっと痛かった……。
今度はジロジロ見られている。なんだかくすぐったい。そんな様子を微笑ましそうに見つめながらレイトが言う。
「それで?一体何の用ですか?」
「あっそうそう!忘れるところだった!これあげる!」
そう言いながら何かを手渡してくる。これは……手紙だろうか。
「これは?」
「西園寺家が主催のパーティがあるじゃん?それの招待状」
「……そういえば刀華が言っていましたね」
パーティ?よくわからない。レイトは首を傾げる私を見て察してくれたようで説明してくれる。なんでも定期的に開催されるもので、普段会えない人達とも交流できる場らしい。
「はぁ……面倒ですね」
「どうして?」
「……言い寄られる事が多いからですよ。それもかなりの量の人から」
「あぁ……」
確かにそれは嫌かもしれない。せっかくの楽しい雰囲気を壊したくないし。
「ユエさんも来ますか?」
いきなり話をふられた。うぅん、どうしようかな。でも行ってみたいな……。チラッと彼女を見る。するとニッコリ笑ってくれた。多分、一緒に行こうと言ってくれてるんだと思う。コクンとうなずくとレイトも笑顔になる。
「どうせならハジメも誘わない?いい気分転換になりそうだし!」
「なら白崎さん達も誘いましょうか……後々何か言われそうですしね」
「……そんなに同伴して大丈夫?」
「問題ありませんよ」
こうして私は初めてのパーティーに行くことになった。楽しみではあるけど、カオリも来るのか……ハジメから遠ざけ無いと取られちゃう。私のハジメに色目を使うのは許さない。
はい、かなり無理やりな形でユエさんをぶち込みました。パーティはまた次回となります。