Side 零斗
「……よし、完璧!」
机に置かれた大量のチョコレート菓子を見て呟く。今日は2月14日……そうバレンタインである! そして机にあるチョコは全て手作りである。普通はもらう側なんだろけど、俺はもらう側では無く、あげる側だと思っている。
「さて、後は袋詰めだな……」
少し大きめの紙袋に丁寧に詰めていく。こういうのって結構楽しかったりするんだよね。そんなことを考えながら作業をしているとあっという間に終わってしまった。
「ふぅー」
一息ついて時計を見ると時刻はすでに午前6時になっていた。そろそろ学校に行く準備をしないとな。
「おはようレイト……それなに?」
「おはようございますユエさん、これは『チョコレート』と言うお菓子ですよ。食べてみますか?」
ユエの質問に対して余ったもの一つ差し出す。すると彼女はそれを受け取ってまじまじと見つめたあと口に入れた。その瞬間彼女の目が見開いた。どうやら気に入ってくれたみたいだな。
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「「「「零斗くん! これ!」」」」
「ありがとうございます。では私からも……どうぞ」
「「「「ありがとうございます!」」」」
(早速かぁ……)ドサドサ
下駄箱を開けると大量のチョコやクッキーなどが入っていた。まあ予想通りだけどね……。とりあえず教室まで持っていこうかな。
扉を開くと同時に一斉に視線が集まる。うん、もう慣れましたよこの感じ。席に着くなり山のように積まれているチョコが目に入る。やっぱり多いな〜と思いつつ自分の鞄からラッピングされた包みを取り出して机の上に置く。
それからも続々とクラスメイト達が俺の前に来てはお礼を言いながら置いていく。正直こんなにもらえるとは思っていなかったんだけどな……。でも嬉しいことに変わりはない。
昼休みになるといつものメンバーで集まって昼食を食べることになったのだが、そこでもまた多くの女子達に囲まれた。
「はい零斗君、私の気持ちです♪」
「えっと……ありがたくいただきます」
突然目の前に現れた女子生徒達からのプレゼントを受け取る。中身を確認するとそこには可愛らしい猫の形をしたクッキーがあった。恭弥達にも渡すと早々とその場を後にする。
その後もたくさんの人達に囲まれる中なんとか時間を見つけては一人一人の対応をした。もちろん全員分あるわけじゃないし、中には義理だとわかっているものもある。それでもやはり嬉しく思うものだ。
放課後になり、ようやく解放されたと思った矢先だった。廊下に出ると数人の男子生徒が待ち構えていたのだ。
彼らはニヤリとした表情を浮かべるとこちらに向かって歩いてきた。嫌な予感しかしないんですけど? そのまま彼らに連れられてやってきた場所は体育館裏だった。
「おいお前、なんであんなにもらってんだよ!? ︎俺たちにも寄越せ!」
「そうだよ! 不公平じゃねぇか!」
はい出た出ました定番中の定番セリフ。本当にいるんだなこういう奴らは。
しかもこの人数だし……多すぎないか? 周りには20人くらいだろうか? 同じ学年の生徒だけではなく上級生らしき人もいる。よく見れば、風紀委員長様までいるじゃないか。何してんすかあんた……
そんなことを思いつつも顔に出さずに答える。だってここで断ったりしたら後々面倒なことに巻き込まれるかもしれないじゃん。それに今年はまだいい方だよ? 去年のこの時期なんてもっとすごかったんだからさ。そんなことを考えながらも彼らに向き直った。
「これは私が貰った物なので、貴方達に渡すことは出来ませんね」
「うるさい! 黙れ!」
……あれぇ? おかしいな。ちゃんと答えたはずなのに怒られちゃいましたよ?
「先輩達は知らないと思いますが、こいつは女たらしで有名なんですよ! だからきっと今までたくさん貰ってきたんでしょう! そうに違いない!」
うわぁ……すっごい偏見だなお前ら。まあ間違ってはいないんだけど…… すると今度は風紀委員の人が話しかけてきた。確か名前は……忘れた。彼は眼鏡をクイっと上げると口を開いた。そして一言。
「零斗くん、君はバレンタインデーに女性に贈り物をする意味を知っているかい?」
「確か……『あなたと同じ時間を歩みたい』という意味……ですよね?」
バレンタインに贈るものによって意味があるというのは有名な話だ。例えばババレンタインに薔薇を贈るのは告白の意味もあるとか……他にも色々とあった気がする。ちなみに俺はそこまで詳しいわけではない。
「その通り。そしてそのチョコレートを君に渡しているということはどういうことかわかるよね?」
「……」
「つまりそういうことだ」
「……はい?」
「「「「「「「「リア充爆発しろぉ──ー!!!」」」
その瞬間一斉に襲ってくる男たち。どうやら彼らの目的は俺に嫌がらせをして憂さを晴らすことだったようだ。確かに毎年のことではあるが、これだけの量があると少しだけイラついてしまう。特にあのクソ野郎のせいで。毎年マウント(負け惜しみ)を取ってくるからね……面倒なことこの上ない。
「はぁ……仕方がないですね」
襲いかかる男達を軽くあしらいながら呟く。正直あまりやりたくないのだが……これ以上被害が出る前に終わらせるか。
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「まったく、ひどい目に遭いました……」
結局全員返り討ちにしてやったぜ。しかし、まさか全員がかりで来るとは思わなかった。それほどまでに恨まれているのか? まあどうでもいいけどね。
「やっと……見つけましたよ……湊……莉……くん」
突然声をかけられて振り返るとそこには息を切らしながら立っている東雲さんがいた。彼女はゆっくりと近づいてきて、目の前に立つと大きく深呼吸をした。
「どうしましたか? 何か用ですか?」
「これを渡しに来ただけです!」
彼女が差し出したのは綺麗にラッピングされた包みだった。
「これは私が作ったクッキーです。よかったら食べてください。それでは私はこれで失礼します」
それだけ言うと足早に立ち去っていった。その後ろ姿を眺めながら、彼女のくれたお菓子を見つめた。包みを開けると中には可愛らしい猫の形をしたクッキーが入っていた。
「……美味しい」
サクッとした食感と程よい甘さが口に広がり思わず笑ってしまった。しかし、なぜだろう。心が温かくなっていくような感覚になる。
「ありがとうございます。東雲さん」
1人の少女に感謝の言葉を口にする。
ま、まぁ、私はもらう側じゃなくてあげる側だし……(負け惜しみ)(震え声)