Side 零斗
「ぶりと鮭を四切れください」
店員さんにそう告げると、彼女は手際よくそれをパック詰めしていく。そして会計を終えて店を出る。その足でそのまま家へと向かい歩き始めた時だった。
「あれ? 湊莉君?」
聞き覚えのある声がして振り返る。するとそこには……
「東雲さん、こんにちは」
東雲さんがいた。
「お買い物ですか?」
「はい。ちょっと夕飯の買い出しです」
「そうなんですか」
そんな会話をしながら二人で並んで歩く。なんだか不思議な感じだなぁ……まさかこんなところで会うなんて思わなかったし。
「あのー……」
「はい?」
何か言いたげにしている東雲さんに首を傾げる。一体どうしたんだろうと思っていると、意を決したように口を開いた。
「私に料理を教えてください!」
突然の言葉に思わず固まってしまう。どういうことなのか分からず困惑している僕を見て、慌てて説明を始めた。
「えっと、自炊するにもレパートリーが無くてですね」
「なるほど、その為の料理を教えて欲しいと」
コクリとうなずく彼女を見ながら考える。別に教えることは構わないんだけど…… ちらりと横目で彼女の方を見る。いつものようにニコニコとした笑顔を浮かべているけど、どこか不安そうだ。うーん……まあ、いいかな。断る理由もないし。
「いいですよ、私なんかで力になれるなら……ね」
僕の返事を聞いた瞬間、パァッと表情が明るくなった。
「ありがとうございます! よろしくお願いしますね!」
「では、早速私の家に行きましょうか」
「え!?今からですか!?」
「思い立ったが吉日……ですよ」
東雲さんの手を引き、家へと向かう。最初は戸惑っていた様子の東雲さんだけど、すぐに楽しげな雰囲気に変わった。うん、やっぱりこの子は笑っている方が可愛いと思う。
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家に着いて中に入るよう促す。しかし彼女は玄関の前で立ち止まってしまった。
「どうかしましたか?」
「いえ、その……本当にここで合ってますよね?」
「はい、合っていますよ?」
「とても学生が買えそうに無い大きさの家なんですが……」
「FXと株で儲かっているのでこのくらいはちょっとした出費ですよ。名義は宗治さんですけどね」
苦笑いしながら答える。実際問題として、今の僕はお金には困っていないのだ。むしろ使い道が無い分余らせてしまっていると言ってもいいだろう。
そんなことを考えながら家の鍵を開ける。
「とりあえず入ってください」
「はい……って広っ!!」
家に入った途端大声で叫ぶ東雲さん。確かに広いかもしれないけれどそこまで驚くようなことでもない気がするんだけど……
リビングまで案内してからキッチンの方へ向かう。さて、何を作ろうかねぇ……鮭の幽庵焼きにすっか。
説明しよう!『幽庵焼き』とは、柚子風味のたれにつけ、香ばしく焼き上げた一品。おせち料理の焼き物には、鮭やぶりのように、「上る魚」や「出世魚」をどうぞ。
あと味噌汁でも作れば良い感じになるんじゃないだろうか? そんなことを考えている間に東雲さんの方は準備を進めていたようだ。エプロン姿になった彼女がこちらに向かって話しかけてきた。
「それで私は何をすればよろしいでしょうか?」
「まずは手を洗ってきて下さい」
「了解致しました!」
元気の良い子だなぁ。そんなことを思いつつ冷蔵庫の中から必要な食材を取り出していく。東雲さんの準備が終わったところで調理開始である。といってもそれほど難しい作業があるわけでもない。
「先ずは……鮭は食べやすい大きさに切る。バットに塩を薄くふり、鮭を並べて上にも薄く塩をふり、10分間おく……この合間に後で塗る柚子ダレを作っておくと後々楽になります」
「ふむふむ……」
包丁を手に取り手早く切り分けていく。その様子を見た東雲さんが感心するように呟いた。
「置いておく間に他の物も作ってしまいましょうか」
「はい!」
「フフフ、やる気十分ですね」
さて、次はすまし汁だな。冷蔵庫から鶏むね肉を取り出す。皮を取り、肉の部分は適当なサイズに削ぎ切りにする。
鍋に鶏肉とたっぷりの水を入れて火にかけ、沸々としてきたら弱火で蓋をして10分程煮る。
煮ている間に大根・人参は7~8㎜厚のいちょう切り。白菜は芯は削ぎ切り、葉はざく切り。椎茸は5㎜厚。いんげんは斜め細切りに切る。
鍋の方を見ると良い感じに煮立ってきている。そうしたら、一度鶏肉を取り出して灰汁やカスを取り除き、鶏皮と大根、人参、白菜の芯を入れて再び火にかける。
沸いてきたら残りの野菜と酒、醤油、塩を加えて野菜が柔らかくなるまで煮る。
「これですまし汁は完成です。そろそろ鮭の方も良さそうですね」
深めのバットに酒、みりん、醤油を入れ、柚子の汁を軽く搾る。そこへ水気を拭いた鮭をを並べて柚子をのせ、表面にラップをぴったりとはりつけて7~8分間つける。上下を返し、さらに7~8分間つけて汁けをきる。柚子は取り除き、汁はとっておく。
「これで後は焼くだけです……ここまでで分からないことはありませんか?」
「大丈夫です。バッチリ理解できました」
「それは良かった」
そう言って微笑んでみせる。すると何故か顔を赤くして俯いてしまった。どうしたんだろうと思いつつも仕上げに入る。
フライパンにサラダ油少々を中火で熱し、鮭を並べ、両面を焼く。余ったつけダレを大さじ3~4加え、熱しながら全体にからめる。
「完成です」
「おぉ……美味しそうですね」
出来上がった料理を見て目を輝かせる東雲さん。その様子はとても可愛らしくて、思わず笑ってしまう。完成した料理をお皿に移し替えてテーブルへと運ぶ。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……疲れた………………」
「お疲れ様です、ハジメ」
「どうして南雲君が!?」
声のした方を向くとそこには、ぐったりとした顔で立っているハジメの姿があった。
「まぁ、困惑しますよね。ゲームのバグの修正をしていたんですよ」
「ゲーム……ですか?」
「えぇ、ハジメのお父様はゲーム会社の社長なんですよ。ハジメはそのデモ版のバグの修正やプログラムの抜けている部分の補修を担っているんです。かくいう私も手伝いをしているのですが……今日は特に大変だったみたいですね」
「で、でもなんで、湊莉君の家に?」
「私の家にも機材等があるんです。一応ハジメはヘルプとして呼びました……あ、ハジメ、ユエさんを呼んできてください」
「わかった……」
そんな会話をしながら料理を並べる。東雲さんの方も準備を終えたようで席についたようだ。
俺達四人は手を合わせていただきますをする。そして俺は箸を手に取った。まずは幽庵焼きを一口食べる。うん、なかなか上手くできたんじゃないか? 東雲さんの方はというと…… 一心不乱に食べていた。
「んー! この鮭おいしい!」
「喜んで貰えて何よりですよ」
「ん、ホントにおいしい……流石」
「ありがとうございます」
和やかな雰囲気の中食事を進めていく。東雲さんは本当においしそうにご飯を食べている。作った甲斐があったな。
そんなことを考えながら食事をしていると、ふと視線を感じた。そちらを見てみると、東雲さんがこちらを見ていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの……」
少し恥ずかしそうにモジモジとしている。何か言いたいことがあるのだろうか。
「何でもないです」
「そうですか……それなら良いのですけど。遠慮なく言ってくださいね」
「はい!」
元気よく返事をした東雲さんは再び食べ始める。その様子を見てから再び自分の分を食べる。うーむ、もう少しだけ柚の搾り汁入れても良さそうだな。
幽庵焼きのレシピは食戟のソーマを引っ張りだして書きました……食戟のソーマはいいゾ。