陳留・城内
一刀「これが華琳の城か・・・凄いな。」
城下の街を抜けて辿り着いた華琳の居城を見て、その偉容に一刀はそう述べた。
華琳「街を歩いている間もそればかりだったわね?他の言葉は思いつかないの?」
一刀「・・・見慣れてる華琳と一緒にしないでくれよ。初めて見たら、やっぱりびっくりするよ、これ。」
柳琳「あ、お姉様、秋蘭様!お帰りなさいませ!」
その時、庭の向こうから別の女の子が華琳達に話しかけてきた。
華琳「ええ、柳琳。今戻ったわ。」
柳琳「申し訳ありません、お姉様。栄華ちゃんと一緒にお迎えに出ようと思ったんですが・・・華侖姉さんがどこかに行っていて。」
一刀「・・・秋蘭。この子も華琳の親戚?」
秋蘭「うむ。曹純といって、栄華と同じく曹家一門に属するお方だ。華侖は実の姉だな。」
一刀の疑問に、秋蘭はそう答えた。
一刀「曹洪の時みたいな注意点はある?黙ってた方が良い?」
秋蘭「いや、特には無いな。」
それを聞いた一刀は、栄華の時もあったので、最初は様子見で観察したのだった。
柳琳「姉さん、城下で見ませんでしたか?」
一刀がまず柳琳に対して感じたことは、優しく穏やかな感じで、几帳面で細やかな人柄に感じた。
華琳「大通りを抜けてきたけれど、見た限りの場所にはいなかったわね。」
華琳「それと・・・一刀。」
一刀「了解。」
華琳に呼ばれた一刀は、先程の栄華の事もあったので、柳琳に向けて丁寧にぺこりと頭を下げた。
柳琳「はい、お話は聞いています。盗賊の情報提供者の方ですよね?」
柳琳「私は姓は曹、名は純・・・字は子和と申します。以後、お見知りおきを。」
すると、栄華と違って、丁寧な自己紹介をしたので、
一刀「・・・。」
固まってしまった。
柳琳「・・・どうかなさいましたか?」
華琳「・・・一刀。」
一刀「あ、ああ・・・はい。そうです。俺です、北郷一刀です。」
秋蘭「口調が怪しくなっているぞ、北郷。」
あまりの不意打ちに混乱してしまい、
一刀「俺の事は一刀で良いので・・・その、よろしくお願いします。」
と言ったのだった。
柳琳「はい。こちらこそよろしくお願いします、一刀様。」
一刀「いやちょっ!?様とかホント、そういうのじゃなくて良いから!名前だけで大丈夫、だから・・・。」
柳琳「そうですか?なら、一刀さんとお呼びさせていただきますね?」
一刀「あ、ああ・・・。」
華琳「それと柳琳。部屋の件なのだけれども・・・」
柳琳「あ、そうそう。栄華ちゃんは厩の隅でも使わせておけって言ってましたけど、お客様をそんな所にお通し出来ませんから・・・一番手前の客間を掃除しておきました。」
柳琳「もしかして、お姉様か秋蘭様のご指示でしたか?」
華琳「・・・いいえ。それで構わなくてよ。」
柳琳「ふふっ。なら良かったです。」
一方の一刀は、栄華とのギャップにまだ戸惑っていた。
柳琳「あの、一刀さん・・・。」
一刀「ひあっ!・・・は、はいっ!」
柳琳「栄華ちゃん、お兄様以外の男の方が凄く苦手で・・・。もし城門の所で会っていたら、きっとお気に障る事があったと思いますけど・・・どうか、許してあげて下さい。」
柳琳「本当は、凄く心配りがあって、優しい子なんです。」
一刀「だ・・・大丈夫。気にしてないから!」
柳琳「そうですか。良かったです!」
柳琳「それじゃお姉様。私、華侖姉さんを探してきますね。」
華琳「ええ。私達も見つけたら声を掛けておくわ。」
華琳「後それと、純から新たに軍師を雇ったとの知らせが来たわ。」
柳琳「分かりました!それでは秋蘭様、一刀さん、失礼します。」
そう言い、柳琳はその場を後にしたのだった。
秋蘭「向こうが食堂で、その先にあるのが謁見の間だ。朝議やそれ以外に集まる時は、大体あそこを使う。」
客間に案内されるついでに、一刀は秋蘭に施設を軽く教えて貰っていた。
秋蘭「この辺りは倉庫だから、中に入る事はそれほど無いだろうな。」
一刀「成程・・・。それと秋蘭、もう一つ良い?」
秋蘭「何だ?」
一刀「華琳の曹一門って、後二人いるんだよな?曹純の姉さんともう一人は・・・名前は真名しか知らないから言えないけど。」
秋蘭「華侖と純様・・・曹仁と曹彰様の事だな。」
一刀「そうそう、その曹仁殿と曹彰殿。・・・曹仁殿と曹彰殿は、曹洪の時みたいに注意する事ってあるの?それとも、曹純と同じ?」
秋蘭「ふむ、華侖か・・・。」
すると、華侖の事となると、すぐにアドバイスが出てこなかった。
秋蘭「まあ・・・会えば分かるだろう。」
一刀「それが怖すぎるから聞いたんだけど。それじゃあ、曹彰殿は?今留守のようだけど。」
秋蘭「純様か・・・あのお方は特に注意する事は無いな。」
と秋蘭はそう答えた。
一刀「曹彰殿は、どういう人なんだ?」
すると、
秋蘭「純様は素晴らしきお方だ。華琳様の弟君であり、武勇に優れ、戦に長け、統率力に優れ、将兵の事を常に考え共に苦労を分かち合ってくれている優しくて強いお方だ。」
秋蘭は少し弾むような声でそう答えたのだった。
一刀「そうなんだ・・・。」
一刀(何か、曹彰殿の事を尋ねたら、雰囲気が明るくなったような・・・。)
一刀「華琳の親戚って、今のところ二人だろ・・・?」
秋蘭「親戚というなら、私や姉者も親戚だぞ。」
一刀「あ・・・そうなんだ。」
秋蘭「うむ。華琳様と純様の父君の出が、我が夏侯一門だからな。我らの親とは兄弟にあたる。」
一刀「だったら、曹洪達は?」
秋蘭「あのお三方は、華琳様と純様の祖父の代で別れている筈だ。」
それを聞いた一刀は、
一刀「・・・それ、もうほぼ他人だよな。」
と言った。
秋蘭「天の国は随分と情が薄いのだな。こちらでは、四代五代遡る事も珍しくないが。」
一刀「そうなんだ・・・。」
そして、色々カウントして華侖の人柄を考えたのだが、
一刀「・・・余計に分かんなくなったぞ、曹仁殿。」
といった具合だった。その時、
華侖「あたしの事、呼んだっすかー?」
一刀「ああうん。曹仁殿がどういう人かって・・・えっ!?」
声が聞こえたので、辺りを見渡したが見つからない一刀。
秋蘭「・・・上だ、北郷。」
一刀「上ぇ!?」
秋蘭の言葉に、屋根の上に目を向けた。
華侖「うっすっすー♪」
一刀「・・・。」
すると、屋根の上に華侖がいた。
華侖「秋姉ぇ、お帰りっすー!」
秋蘭「うむ。華侖も久しいな。」
華侖「ねぇねぇ、秋姉ぇ。そっちの人は誰っすか?」
秋蘭「華琳様の連絡にあったろう。今回の件の参考人でな・・・。」
一刀「北郷一刀です。宜しく。」
華侖「ほんごーかずと、ほんごーかずと・・・。なんだか長くて言いにくいっすね。」
一刀「呼びにくかったら、好きに呼んでくれて良いよ。」
すると
華侖「なら、んー」
華侖「・・・一刀っちっすかねぇ。」
そう華侖は言った。
一刀「・・・一刀っち。」
華侖「ダメっすか?秋姉ぇはどうやって呼んでるっすか?」
秋蘭「私は北郷と呼んでいるな。」
それを聞いて、華侖は考えていたが、『一刀っち』に決めたのだった。
そして、華侖が服を脱ごうとし、屋根にも飛び降りようとするのを止めたりした。その時、
柳琳「姉さん、そこで何をしているの!!」
柳琳の声が響いた。
華侖「あ、柳琳!一刀っちから、日向ぼっこの良い方法を教えて貰ってたんす。一刀っち、凄いんすよー!」
華琳「いつまでも来ないと思ったら、何をしているの、一刀。秋蘭もいて。」
それに続いて華琳もやって来た。
一刀「や・・・秋蘭と話してたら、ちょうどあのこと会ってさ。」
華琳「そう・・・。」
柳琳「もぅ、屋根の上なんて危ないっていつも言っているでしょ・・・。早く降りて・・・ううん、降りて来ないで!」
華侖「どっちっすか、柳琳。」
柳琳「あぅぅ・・・。」
一刀「とりあえずハシゴか何か探してきた方が良い?」
秋蘭「・・・少し奥に行けば二階の窓があるだろう。ひとまずそこから降りて来い、華侖。」
華琳「そうなさい、華侖。」
華侖「はーい・・・。」
これには華侖も渋々従い、屋根の奥へと去って行った。
柳琳「大丈夫よね・・・途中で落ちたりしないわよね・・・。あぅぅ、姉さん・・・心配だわ・・・。」
一刀「・・・。」
それを見た一刀は、大変だろうなという気持ちで柳琳を見ていたのだった。
香風「あ、お兄ちゃん。」
その時、香風達がやって来た。
一刀「香風!あれ、春蘭達も一緒か。もうお風呂は終わり?」
春蘭「いや、厩に馬を戻しに行っただけだ。先に香風を客間に案内する事になってな。」
その奥には
栄華「・・・。」
栄華が明らかに距離を取って一刀の視界に入らないようにしていた。
一刀「あ、そうだ華琳」
その時、
栄華「!!!!!!ちょっとあなた!!!!!!」
一刀「え、何曹洪!?どうしたの。」
栄華が一気に一刀に詰め寄ったのだった。
栄華「どうしたもこうしたもありませんわ!どうしてあなたのような下賤な輩がお姉様の真名を口にしていますの!!!」
一刀「下賤な輩・・・。」
栄華「ああ・・・お姉様の大切な真名が穢れてしまいますわ。いや、もう穢れてしまったに違いありません・・・この穢れは、その口を切り裂いて血で清めるしか・・・!」
一刀「いやちょっと待って!俺の話も聞いて!」
栄華「誰がこれ以上お兄様以外の汚らわしい男の声など聞くものですか!もう・・・こちらから距離を置いていれば少しはマシだろうと放っておけば!」
柳琳「栄華ちゃん、落ち着いて。」
栄華「これが落ち着いていられるものですか!柳琳は何とも思いませんの、こんなどこの馬の骨とも分からぬ輩にお姉様の真名を穢されて・・・!」
柳琳「一刀さんだって、許されていないのに真名を呼んだりはしないと思うわよ。お姉様がお決めになった事じゃ・・・。」
それを聞いた栄華は、
栄華「そ、そうですわ、お姉様!お姉様はこのような輩に大切な真名を・・・」
華琳に尋ねたら、
華琳「預けたけれど?」
と言われたので、
栄華「・・・っ!!!!!」
絶句したのだった。
華琳「当たり前でしょう。そうでなければ、最初にそれを口にした時点で私が首を刎ねているわよ。」
一刀「・・・ほんとに皆、俺の首を刎ねるの好きな。」
華侖「一刀っちー、何騒いでるっすか?」
一刀「ああ華侖。ええっと、曹洪とちょっとな・・・。」
栄華「って、華侖さん、あなたまで・・・まさか・・・。」
華侖「ほえ?」
柳琳「姉さん。一刀さんが姉さんの真名を呼んでいたけれど・・・許したの?」
華侖「うん。華琳姉ぇも秋姉ぇも呼ばれてたから、あたしも良いかなーって。」
栄華「なん・・・ですって・・・。秋蘭さんまで・・・という事は!春蘭さん!」
春蘭「ああ。華琳様が預けろと仰ったからな。」
華琳「そうね、ちょうど良いわ。三人とも、一刀とこちらの香風に真名を預けておきなさい。例の件もあって、少し長い付き合いになりそうだから。香風達も良いわね?」
香風「シャンはシャンだよ。宜しくお願いします。」
華侖「あたしは華侖っす!宜しくっす、香風!」
柳琳「でしたら一刀さん、香風。これからは、私の事は柳琳とお呼び下さいませ。」
一刀「あ・・・うん。こちらこそ宜しくお願いします、柳琳。」
柳琳「ふふっ。お兄様以外の男の方に真名を呼ばれるって、なんだかくすぐったいですね。」
しかし、
栄華「そんな・・・まさか・・・。」
栄華はまだ動揺していた。
一刀「いや、本当に嫌なら、預けなくて大丈夫だからね?」
秋蘭「だが、北郷は真名しか持っていないそうだぞ。お前達も北郷の名を呼ぶなら、自然と真名を呼ぶ事になるそうだ。」
栄華「!!!!!!!」
柳琳「真名しか持っていないなんて・・・天の国というのは、不思議な所なんですね。」
華侖「でも、その方が分かりやすいっす。一刀っちは一刀っちで良いって事っすよね?」
一刀「ああ、大丈夫だよ。」
栄華「な、なら・・・私は、この先これを呼ぶ時はおいとか犬とか・・・」
一刀「・・・春蘭と同じ事を言ってるぞ。」
栄華「そ、それもやむなしですわ・・・。」
しかし、
華琳「栄華。」
華琳の一言に栄華は
栄華「・・・はぁ。お姉様のご命令とあらば、仕方ありませんわね。お預け致しますわ、真名。」
諦めたのだった。
一刀「そっか。なら、宜しく。えい・・・」
栄華「・・・。」
真名を言おうとしたその瞬間、栄華がキッと一刀を睨んだので、
一刀「・・・なんでもない。宜しくお願いします。」
と言ったのだった。
栄華「・・・ええ。宜しくしたくありませんけれど、宜しくお願いしますわ。」
一刀「・・・それで、華琳。紹介が必要な人って、弟さん以外これで全部?」
華琳「ええ。弟は今、遠征に出ていて留守だからそうなるわね。」
一刀「そうか・・・。」
そして、一刀にとっての陳留の一日目は、賑やかに過ぎていったのであった。
投稿できました。
長くなってしまいましたが、何とか投稿しました。
何とか頑張ります!!
それでは、また。