烏林・曹彰軍本陣執務室
黄蓋との面会は、仮設された執務室でやる事となった。
愛紗「我が軍に降りたいだと・・・?」
黄蓋「左様。我が盟友・孫堅の夢見た孫呉は、最早彼の地にはない。・・・ならば儂の手で引導を渡してやるのが、呉の支えを任された者の責務であろう。」
秋蘭「周瑜との間に諍いがあったと聞いたが・・・原因はそれか?」
黄蓋「やれやれ、もう伝わっておるのか。・・・その話、どこから聞いた?」
秋蘭「どこからでも良かろう。それが事実であったかどうかだけ聞いているのだ。」
黄蓋「・・・真実だ。それを証拠に、ほれ・・・。」
そう言って、黄蓋は後ろに結い上げられた長い髪を無造作に掴み、大きく開いた背中を純達に向けた。すると
純「成程・・・。」
そこには、無数に打たれた傷跡があった。
黄蓋「・・・ふん。弓を扱う者としては、背に逃げ傷が無いのが自慢じゃったのじゃがな。ここまで打たれては最早誇れもせんわ。」
純「それが、周瑜に打たれたという痕か?」
黄蓋「赤子の頃は襁褓も替えてやったというに・・・。我らの孫呉を好き勝手にかき回した挙げ句、あろうことかこの仕打ちだ。」
これには
愛紗「何だ。ただの私怨ではないか。」
そう愛紗は言った。
黄蓋「まあ、そう思われても仕方ないじゃろうの。しかし関羽よ。」
愛紗「・・・私の事を知っているのか?」
黄蓋「反董卓連合では孫策殿のもと、袁術の陣にいたのでな。お主の活躍は、見事じゃったぞ。」
愛紗「・・・思い出した。そなたが・・・」
黄蓋「そうじゃ。良く覚えてくれたな。とは言え、先のはお主も本気では無かったであろう?」
愛紗「・・・むぅ。」
黄蓋「さて・・・お主らも考えてみよ。もし志半ばで曹彰が倒れた時、曹軍の全てを継いだ者達が・・・無能で、今までの方針を変え、曹彰の志を踏み躙るような真似をしでかしたとしたら・・・一体どう感じるか?」
この問いに
愛紗「この手で斬り捨てる!」
と愛紗は即答した。これには、愛紗だけじゃなく
稟「私も、許せません!」
翠「あたしもだぜ!」
楼杏「私もです!」
秋蘭「私もだ。遠慮無く殺して貰う!」
霞「ウチもや!」
風「・・・。」
愛紗同様、純を慕っている者全て同じ事を言った。
黄蓋「はっはっは!中々皆に信頼されておるな、曹彰は!しかし、そういう想いをしておるのじゃよ。今の儂は。」
愛紗「むぅ・・・。」
黄蓋「このような時代だ。時に戦に負け、滅ぼされる事もある。袁術の元に居た頃も屈辱ではあったが、それを雪ぐ日を夢見て、恥を忍んで生きておった。」
黄蓋「じゃが、それを果たした先にあったものはどうだ。儂は・・・あのようなヒヨッコに好き勝手をさせるために孫呉の再興に手を貸したわけではない!」
稟「純様・・・。」
純「黄蓋。ならば、我が軍に降る条件は?」
黄蓋「まずは孫呉を討ち滅ぼす事。」
純「・・・ふむ。」
黄蓋「そして・・・全てが終わった後、この儂を討ち果たす事。」
愛紗「・・・何と。」
秋蘭「貴公・・・死ぬつもりか。」
黄蓋「孫呉を滅ぼして、おめおめ生き残る気なぞあるものか。死に場所をくれれば、それで良い。」
純「・・・分かった。ならば孫呉の討伐に、お前を加える事を許そう。すぐに軍議を開くから、お前も参加し、偽りの孫呉と戦う上での意見を述べろ。良いな?」
黄蓋「御意。」
そして、曹彰軍に黄蓋が加わったのだった。
赤壁・呉軍
この日、孫権は久し振りに外に出た。
孫権「・・・。」
孫権(曹彰・・・貴方は、本当は私の正体を知っていたの・・・?知っていて、近付いたの・・・?)
孫権(次に会った時は・・・でも、もし確かめられるなら・・・)
そして、そんな事を向こう岸の敵陣を見て考えていた。すると
孫尚香「あ・・・蓮華姉様。」
孫権「・・・シャオ。どうかした?」
孫尚香「ううん。ちょっと隣、良い?」
孫権「勿論。あなたも、外に出る事が出来たのね。」
孫尚香が、孫権の隣に立った。
孫尚香「・・・うん。」
孫権「・・・。」
孫尚香「この長江の向こう岸に・・・曹彰達がいるんだよね。」
孫権「ええ、そうね・・・。」
孫権「・・・怖い?」
この問いに
孫尚香「・・・うん。皖城のが、いつも夢の中に出てくるもん。」
孫権「・・・そう。」
孫尚香「けど、雪蓮姉様と冥琳の率いる建業の水軍に、水の上で勝てる敵なんているわけないよ。」
孫尚香「それに・・・一応劉備達の水軍もいるしね。曹彰が来るまでに連携の訓練もしたみたいだし、にわか仕込みの荊州水軍が勝てる筈が無いと信じるわ。」
と孫尚香はそう言った。
孫尚香「・・・。」
孫権「・・・。」
そして、少し間を置き
孫尚香「・・・祭、さ」
孫尚香「今、どこに居るのかな。」
と言った。
孫権「そう・・・あなたも聞いたの。」
孫尚香「うん。・・・冥琳と喧嘩して、罰を受けた所で・・・建業から抜け出したって。」
孫尚香「・・・ねえ、蓮華姉様。」
孫尚香「祭・・・あそこにいたり、しないよね?」
孫権「向こう岸に・・・?まさか。」
孫権「冥琳とは色々あったみたいだけど、すぐに戻ってくるわよ。きっと何かの必勝の策を思い付いて・・・その準備がしたいから、城を出てるだけよ。」
孫尚香「・・・うん。」
孫尚香「大丈夫・・・だよね。」
孫権「シャオ・・・。」
孫尚香「シャオ達の事、嫌いになったわけじゃない・・・よね?」
孫権「当たり前でしょ。・・・孫呉の事を誰よりも大切に思っている祭が、シャオの事を嫌いになる筈が無いわよ。」
それを聞いて
孫尚香「・・・うん。・・・うんっ。」
孫尚香は我慢してたものが溢れた。それを見た孫権は
孫権「大丈夫だから。大丈夫だから・・・ね。」
妹を抱き締めて優しく囁いた。
孫尚香「うん・・・ぐす・・・っ。姉様ぁ・・・。」
孫権(そうよね・・・。大丈夫よね、祭。きっと何か、そうすべき事情があったのよね・・・。)
孫権(それに曹彰、貴方も・・・)
そう思いながら、孫権は向こう岸の敵陣を見ていたのだった。
周瑜「・・・そうか。祭殿は、曹彰軍の陣営に加わったと。」
諸葛亮「はい。黄蓋さんと共に行った雛里ちゃんの密使で。」
周瑜「そうか。これで、何とかなれば良いのだが・・・」
その時
諸葛亮「ゴホッ、ゴホッ・・・。」
諸葛亮が突然口元を抑えてむせた。
周瑜「どうした諸葛亮?・・・風邪か?」
そう周瑜が尋ねると
諸葛亮「いえ、少しむせただけです。お気になさらず。」
と答えたため
周瑜「・・・そうか。私も大概の事は言えないが、あまり無理をするなよ。」
と周瑜は言った。
諸葛亮「・・・はい。」
しかし、諸葛亮の掌には、鮮血が付いていたのだった。
投稿できました。
戦って、何かを犠牲にしなければ勝てないのは分かりますが、一人の人間として考えると、複雑ですね・・・。
経験してない人間が偉そうに言うのも何ですが・・・。
それでは、また。