自分の性別の差異に苦しむも、そんな時にある魔術を作る事を思いついて…?
「はぁ…」
空しい溜息が空気に紛れて消えていく。
自分が今の状況を受け入れられていない故の、諦めの声だ。
「どうしたのルディ?そんな顔して、何かあったの?」
自分の憂鬱そうな声を聞きつけたのか、ゼニスが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「すみません母様。ちょっとぼーっとしてて…」
「そう?だったらいいけど…あら、ちょっと髪が跳ねてるわ。じっとしててね~。」
心配させないようにゼニスに笑いかけると、
ゼニスも俺を見て微笑む。俺の顔を見ている内に髪が跳ねているのを見つけたのか
長く伸びた髪を綺麗に揃えてくれた。
そう、今の俺は長髪なのだ。
前世が男だった俺がどうしてこんな格好をしているのか、それは至極単純な理由であった。
「ふふ、やっぱりルディは長髪も似合うわねぇ…もう少し長く伸ばせたらよかったんだけど…」
「いえ、剣術の修業がありますからそこまで長くするとちょっと…」
「そう?でもルディ。あなたも女の子なんだし、
いろんな髪型にしてみるのもいいと思うわよ?」
そう、今の俺の体は女の子なのだ。
今の俺の両親に当たるゼニスとパウロという二人の要素を受け継いだからか、
自分の顔は少なくとも悪い方の外見ではない。
というか両親がクッソべた褒めしているので少なくとも普通よりは良い容姿なのだろう…
普通に考えれば好条件なのだが、
俺はどうしても欠けている一つの要素が気になって仕方がなかった。
「息子(ちんちん)が…ない…!」
誰もいない自分の部屋で一人悲しげにつぶやく。
今の自分の股間をまさぐってもそれらしき物はない。
当たり前だ、今の自分は女の子なのだ。そんな物がある訳がない。
(前に前世で、もしも生まれ変わるなら美少年か美少女がいい…
そんな事を思ってしまった事はあるが、
実際になってみて初めて失う物の大きさに気付いてしまった。
すまない、俺の息子よ…)
普段はおくびにも出さないように努力はしているが、それでも結構ダメージがある。
この気持ちを紛らわせるにはどうしたらいいのか…
5歳児程度の今の体で性欲を発散させる行為などまず出来ない。
体もぺたんこで胸を触るのも少し空しくなるし、
というかそもそも女の性欲の発散方法が未知数すぎて出来ない。
だから今の俺がやれるとしたらキスぐらいなのだが、
まず勇気も相手もいない俺ではまず無理だ。
画面の前でヒロインを攻略していたあの頃はいくらでも見ていたはずなのに、
実際に女の体になってみると、その体は未知で溢れていた。
(いかん、思考が鈍くなっている気がする…ダメだ、こんなんじゃ…)
思考がはっきりしない、涙が溢れそうになる。
折角生まれ変わって頑張って生きようとしていたのに、
こんなくだらない理由でダメージを受けている自分自身にも嫌気が差していた。
(あったはずのものがない、この気持ちをどう発散させればいいんだ…)
思考が行き詰まりになる、もう駄目だ。明日になるまで寝ていよう。
明日になったらこの事は忘れて、すっぱり女の子として生きてみるのだ。
それも案外悪くないかもしれない。
無理やりにでも思考を切って就寝しようと毛布を手繰り寄せると、
目をゆっくりと閉じる。視界がなくなって聞こえてくるのは、いつも通り
隣の部屋から聞こえてくる両親達の情事の音だった。
それも無理やり聞こえないふりをして寝ようとする俺の頭の中で、
何か引っかかるものがあった。
(剣術…パウロ…ゼニス……魔術…そういや、前に見てたアニメで…)
ぐるぐると頭の中で単語が躍る。単語から文章、記憶へと繋がって頭の中で何かが浮かぶ。
なんだろう、何かが引っ掛かっている…この音と、魔術…?
「…そうだ!」
ふと何かがつながった気がして、俺はがばっと布団をめくると
魔術の勉強用にと出されていた紙にがむしゃらに文字を書いた。
(そうだ、確か昔見てたのに、こういうのが…)
情事、つまり性行為。
ロキシーとの魔術の勉強で少しずつ魔術を齧っていた俺には、
直感的にこの行為が魔術に使えるのではないか、という妙な確信があった。
性行為でなくともいい、体液の交換…もしくは性的興奮。
昔見ていたアニメにチラリと出てきた、
キスをして魔法を使えるようになるという不思議なアニメ。
あのアニメでできた事が、もし実際に現実で出来るとしたら…?
俺の現世と前世の記憶が俺の中の何かを後押しする。
俺が今女だという事は事実だ、認めよう。
どれだけくじけようと、
いつかこのなくなってしまった息子との折り合いも付けなくてはいけない。
でも、今はそれを紛らわせるような行為がしたい。
不純な動機であったとしても、自分でどこにもない何かを作ってみたかった。
「やってやる…やってやるぞー!」
紙に文字を走らせながら俺は吠える。
…後から考えると、これはきっと私が道を踏み外さないように出来る
最後のチャンスだったのだろうけれど…当時の私は、そんな事考えもしていなかった。
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最近の俺の日課がもう一つ増えた。
この日課は誰にもバレてはいけない、俺個人の私的な物。
だから他の時間帯でもやれることを精一杯やって、
夜にこっそりとその日課を今は進めている。
今は朝の日課をこなしている所だ。
「父様、今日も指導ありがとうございました!」
「お、おう。今日も元気だなルディ?」
「えへへ、最近すごく楽しい日課が出来たので!」
木でできた剣を使った稽古をパウロにしてもらい、健康的な汗を流す。
残念ながらあまりパウロは乗り気ではなかったが泣き落としてまで剣術を受けていたのだが、
中々成果が上がらず、悩んでいたが最近では悩む時間も無くなっていた。
「師匠。準備が出来たので魔術の指導お願いします!」
「はい、今日も気合いが入ってますねルディ。
…ただちょっと髪が乾かしきれてませんから、少し乾かしてからにしましょうか。」
次は魔術の勉強。個人的にはこっちの方が興味があり、
ロキシー本人も良い人だと思っている自分にとってはすごく楽しい。
剣術の指導の後、汗を流してから行うのについ手間を省いてしまう事もあるが、
そういう時はロキシーが頭をポンポンと撫でながら乾かしたりお世話してくれる。
正直情けない話ではあるが、ロキシーにこうしてもらえる事も
俺の中ではひそかな楽しみだった。
そして魔術の時間も終わり、時間も流れ…
「ご馳走様でした!父様、母様、師匠!おやすみなさい!」
「おやすみルディ、また明日な。
「夜更かししないでゆっくり寝てね、ルディ。」
「また明日お会いしましょう。おやすみなさい。」
三人に手を振って自分の部屋へと入る。
さぁ、今日の最後の日課を始めよう。
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「ねぇあなた。最近ルディが元気になってきたわね。」
「そうだな、最近何か落ち込んでる事が多かったからな…
喜ばしい事ではあるんだが、なにか趣味でも見つかったのか?」
「………」
「まぁ明日にでも聞いてみるか。ロキシーちゃんもおやすみ。」
「ええ。おやすみなさい。」
(…少し、気になりますね…)
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カリカリカリ、静かな部屋の中で音が響く。
文字を書くときにどうしても重なってしまう髪を持ち上げて、
俺の紙に文字を
いや、正確にはもう一つ、
壁の向こうからいかがわしいというかいやらしい声とか音が聞こえてきているが、
今の俺にとっては普段はお盛んだなーとしか思わないそれも、
今はとてもありがたかった。
「ふふふ、これで…後は最後の理論を詰めればいけるはず…!」
俺は今、とても満ち足りた気分だった。
最近日課になっていた、魔術の作成、その理論と実践法が最終段階に向かっていたのである。
正直最初は感情の赴くまま書き殴っていた魔術詠唱だったが、
気を紛らわせるため、そして何かを作り出すために荒い部分を修正していくと、
幾分かマシな状態に出来て、
少しずつ魔術を作成しているのだという気持ちがむくむくと俺の中に湧いてきた。
(基本は体液交換。魔力を体を深く重ね合わせた上で性的興奮を高めれば、
体内の魔力を循環させて回復させつつ身体機能を活性化させられる…)
魔術については師匠から教わった事がほとんど。
そもそもこの世界で魔術を作るという事がどのような事なのかが分からない。
それでも、直感的な物と教えてもらった理論を組み合わせていくと、
案外使える魔術になりそうになってきたのが、本当に面白くてたまらなかった。
「…よし!出来たぁ!」
紙の最後まで文字を書ききると、魔術の詠唱部分と発動方法、
そしてその効果をを描いたちっぽけな魔術が完成した。
この魔術が完成出来たのがとてもうれしくて、
俺は思わず声を荒げてしまう程嬉しかった。
(――まぁ、こんな魔術出来たとしてみんな使うわけがないけど…
そこはまぁ浪漫重視って事で。)
まぁ、こんなアホみたいな魔術を使う人など早々いない。
ましてや自分も今相手がいないのだから使うことはできない。
いつか自分にもし相手が出来た時に取っておこう。
そもそもこんな怪しい魔術を使っても怒らない人を探す必要がある訳だが…
「さてと、後はこれを誰も来ない所に隠して…」
「ルディ、なにしてるんです?」
などとあれこれ考えていたばかりに、
俺は背後の扉がほんの少し開いていたことに気付けなかった。
こっそりと自分の書いた魔術をどこかに隠そうとした俺の背後から、
聞きなれた女性の声が聞こえてきた。
「…え?」
「こんばんはルディ。女の子がこんな時間まで起きてちゃいけませんよ?」
にっこりとほほ笑む、俺の師匠であるロキシーが扉の前にいたのである。
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ロキシー・ミグルディア。俺の師匠になってくれた人。
この世界ではまだ生まれて数年、魔術などほとんど知らなかった俺に
いろんな事を教えてくれた師匠。
小柄で青い髪が目を引く彼女は丁寧に俺に魔術を教えてくれたし、
仕事や家事がある二人に代わって俺にお風呂に入れてくれた事もあった。
前世の年齢と性別は何もかも違い、どう対応すれば分からなかったのに
ロキシーは俺の事を年の離れた妹のように扱ってくれた。
その分ロキシーが無防備になる事も多く、下着を見たり体を見たりも出来たりして、
とにかくいろんな意味でお世話になった彼女が、今目の前にいる。
「あ、あの、師匠。これは…」
「ごめんなさい、良くないとは思ったのですが
夜更かしをしていないかと思いつい覗いてしまいました。
何やらすごく楽しそうに書いていたので邪魔するのもよくないかと思ったので。」
ヤバい、これはヤバい。
今の所ロキシーは普通に対応してくれているが、
それは今俺が抱えている魔術書(仮)の内容が見えていないからだろう。
普段は誰かが入ってきてもすぐにごまかせるようにベッドの上で書いていたのに、
気が急いて机の上で書いてしまった自分をぶん殴ってやりたい気分だった。
「そ、それで師匠。ご用件は…」
「いえ、早めに寝た方がいいと言いに来ただけですよ。
ゼニスさんも言っていましたが、夜更かしするのは成長によくないですから。
特にルディは女の子ですし、今のうちに気を付けておかないと…」
よ、よし。自分が何か書いてる事はバレてしまっているが
やはり何を書いたかは把握していないようだ。
このまま会話をいい感じの所で打ち切って早めに魔術書を処分せねば…」
「………」
すると急にロキシーの動きが止まってしまった。
…なんだ?体が完全に固まってしまったかのように一点を見つめたまま
ロキシーが動かなくなってしまっていた。
「師匠、どうしたのです…か…」
思わずロキシーにどうしたのかと尋ねてしまうが、返事は返ってこない。
ロキシーが見ている方向には床しかないはずだ。
机の上の魔術書は全て自分が隠し持ったはず、何も問題はない――
「あ」
そんな事はなかった。
見事に魔術書の一部、それも1ページ目が床に不時着していた。
運よくロキシーの視力が低いことに期待して、ゆっくりと目を瞑るも…
「ルディ」
「はい」
「少し、お話を聞かせてもらえますか?」
はい、ダメでした。
すっかり顔を赤くしたロキシーを前にして、俺はお説教を受ける事となった――
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(後編へ続く)