「………はぁ。」
どうしてこうなった。最近よく俺が口にしてしまう言葉の一つである。
俺はついこの間、ある目標を達成した。
それは良い事と悪い事、二つを同時に引き起こしたのである。
まず良い事だったのは、自分の作った魔術…まだ名称は決めていないが、とにかく
魔術がうまく作れた事が試運転の際に判明したこと。そしてもう一つは…
「…この恰好にも、結構慣れてきたな…」
今の俺の恰好は白いワンピースに麦わら帽子。
パウロとゼニスがおしゃれでもしたらどうだと渡してくれたものだ。
最近何か大きな事をやったというのをロキシーから聞いたらしく、そのご褒美らしい。
すっごい恥ずかしい、穴があったら入りたい。なんで正直に報告してるんだロキシー…
正直、自分をかわいくする…というのも少しわかってきた気がする。
少しだけ、俺も自分の今の性別と向き合えるようになったのかもしれない。
そして、悪い事。それは…
「あら?ルディ、お休み中でしたか?」
「あ、いえ…師匠も、その…お休みですか?」
空を見上げて草原に寝転んでいると、
いつの間にいたのかロキシーがこちらを覗き込んでいた。
なんて答えたらいいか分からずに目を逸らすけど、
どうしても顔の一部分、唇に視線が吸い寄せられてしまい、思わず目を背けてしまった。
「あら、どうかしましたか?」
そしてそんな俺を見て微笑を浮かべる師匠、ロキシー。
今でこそこんな表情を浮かべているが、あの直後はそりゃもう色々すごかった。
ギリギリパウロやゼニスがいる所ではこらえていたが、俺と二人っきりの授業になった途端
ぷしゅーっと煙をあげるんじゃないかと思うほど顔を真っ赤にして停止してしまい、
何度か声をかけて揺すらないと正気に戻ってくれなかったのである。
「……いえ、師匠はいつもきれいだな、と…」
「へっ!?そ、そうですかありがとうございます。」
そして変化二つ目。あの試運転をした夜の翌日から、
俺が少し髪がきれいだ、師匠はかわいいと言っても
「ありがとうございます」と少し照れた様子で言ってから「でもルディもかわいいですよ」
と頭を撫でたり膝に乗せたりと明らかに気分を良くしていたのだが、
今褒めるとああして髪をくりくりと指に引っ掛けていじくりまわし、
顔を真っ赤にして目を背ける。正直めっちゃかわいいと思うが、
その様子を見る度にパウロやゼニスの前ではよく隠せてるなと思う。
そして、最も変わった部分といえば――
「…あの、ルディ?少しよろしいでしょうか…?」
「…はい、なんでしょうか?」
頬を赤くしたまま、片手を差し出してくるロキシー。
このポーズ、仕草…やはりあれだ。
「あの魔術書の詠唱部分を少し変えたら、
もう少し魔力を回す効率を上げられるかもしれません。ですので…
また、もう一度…試運転を、しませんか?」
帽子を目深に被って、どんどん声を小さくしながら、
ロキシーはそれでも最後までしっかり言い切る。
あれ以来、何かと理由をつけてはロキシーは俺の作った魔術の「試運転」
を手伝ってくれている――というか積極的に二人になれる場所でやろうとしている。
「前にも言いましたが、魔術は本来危険な物が多いので
魔術の練習を行う際は周りに人がいないような所でやるべきなんです。」
本人はそう言っていたが、果たして真相はどうなのか。
(ああ、自分は師匠をとんでもない道に引きずり込んでしまったのかもしれない…)
顔を真っ赤にしながら片手を差し出し、ぷるぷると震えるロキシーを見ながら俺は思う。
でも今更、この人を突き放す事は出来ない。
あの時の温かさ、ぬくもりと―――を知ってしまったから。
だから今日も俺はこの人の手を取って、誰もいない秘密の場所へと向かう。
「…今日も、よろしくお願いしますね、ルディ。」
「ええ、いつもありがとうございます、師匠。それでは始めましょうか。」
時折草の擦れる音と、子供達や大人達の喧騒に紛れながら。
二人の魔術訓練は、日が傾くまで続けられるのだった…