ルディ(♀)、体液魔法を開発する   作:範婆具

5 / 8
今までのお話の後のお話。
ロキシーが家庭教師を終えるまでのお話です。


ルディ(♀)とロキシー(♀)の家庭教師の終わりのお話

魔術に使う杖をもらった後に

明日が卒業試験だと、ロキシーにそう告げられたのは少し前の事だった。

それまでロキシーいろんなことを教えてくれて、何かとかわいがってくれた。

そんな師匠がいなくなる…俺の心の中にぽっかりと穴が開いた気分だった。

 

(でも、それでもやらなきゃいけない。ロキシーだっていつまでもここにいられる訳じゃないし、

俺自身も変わらなきゃいけない…やるしかない、か。)

 

自分の最近少しずつ伸び始めた髪を櫛で整えながら決意を固める。

前世とは違う性別の身体だけど、自分の髪を整えるという行為はそれ程嫌いではなくなった。

こうしていると、深く考え事が出来るような気がするのだ。

しかしそうしていると、考えるのが億劫なことまで浮かび上がってしまう事もあって…

 

(…ただ…どうしようかな、あの魔術の試運転…)

 

溜息をつきながら自分の部屋の隅…のさらに見つからないようにベッドの下。

その下にある箱に「絶対に触れないように」と書いて厳重に保管している物。

自分の書いた記念すべき、もしかしたらすごい事かもしれない魔術書の作成…

そして恥ずかしい記憶の詰まった魔術書をついついチラ見してしまった。

 

ロキシーに作成していた魔術…体液交換による魔力回復、身体強化を図る魔法――

俺は仮称として体液魔術と呼んでいるが、どうかこの魔術もこの呼び方も広まらない事を祈る。

この魔術書を完成させたはいいものの、ロキシーに見つかってしまい

あれよあれよという間に一度も使った事のない魔術の試運転を二人で行うことになった。

そして体液交換魔術の最も簡単な方法のキス(正確にはディープキスだが)

を試した所、思いっきり副作用が出てキスした時の感覚が…

その、ものすごい事になってしまった。

正直とんでもない事をやってしまったと思っているし、師匠にも申し訳が立たない。

師匠には最初にやらかしてしまった後に全力で謝罪を行ったのだが、

 

「そ、その…気にしないでください。私もその…快楽に身を委ねてしまった事は事実ですから。

まだあなたは子供なんですよ?

この年でこの程度の副作用しか出さない魔術を開発出来ているのはすごい事です。」

 

涙目で頭を下げていた俺の頭をよしよしと撫でてくれた。

なんだこの師匠…天使か?

 

「しかしこの魔術の恩恵自体はかなり大きい…無視できる物ではないでしょう。

副作用を無視する訳にもいきませんし、改良を加えて世に出すべきでしょう。」

 

そう言ってお許しどころか魔術の改良許可までいただいてしまった。

まぁ、許可は取れたものの俺の周辺でこの魔術を試せる人などいる訳もなく…

それから俺と師匠はこの体液交換魔術で行うキスに思いっきりドハマりしてしまい。

何かにつけて「試運転」を行う事になってしまった。

 

草むらで、どこか人のいない家屋の裏で。岩の影で。

人のいない所などいくらでもあり、その隙に唇を重ね合う。

いけないとは思いつつも、どうしても癖になってしまっていた俺達の衝動は止める事が出来ず、

結果として試運転しまくったおかげでロキシーが無詠唱魔術を使える謎のパワーアップを果たし、

さらにパウロとの稽古で身体強化の具合を確かめる事が出来たのはなんとも皮肉だ。

でも、そんな日々もおしまい、それならば…

 

「ちゃんと、師匠にお別れをしないとな…」

 

気恥ずかしさと高鳴る鼓動を抑え、ちょっとだけ潤む瞳を眠いからだと強がって。

卒業試験の時はちょっとだけ綺麗な恰好で師匠に会おうと思いながら、

俺は布団の中に身を投げた―――

 

 

 

それからロキシーが出ていくまでは、あっという間に過ぎていった。

卒業試験をするために家の外…村の中に行って、トラウマを何とか乗り越えたり。

怖がっていた俺を優しく抱き留めながらロキシーが馬に乗せてくれたり、

水聖級魔術を教わり、俺もロキシーが使った水聖級魔術を出したりして、

水聖級魔術師を名乗ってもいい、それをロキシーに言ってもらえた。

 

「それから…これから私はお世話になったこの村を出ていきます。

だからその前にもう少しだけ言いたい事を言っておきましょう。」

 

そう言うと、ロキシーはいつも通り俺と手を繋ぎながら誰もいない草原へと向かう。

俺はそれに一切抵抗せず、神妙な顔をしたロキシーの話を聞いていた。

 

「はい、何でしょうか師匠?」

 

「あの体液魔術の事です。

私との試運転中には出来ませんでしたが、

きっとあなたなら何度か改良を重ねていく内に無詠唱でも出来るようになるでしょう。

以前も言いましたが、あなたの作成した魔術の効果はどれも効果の高いものばかりです。

ですから、その扱いを間違えないようにしなさい。」

 

話した内容は俺が作成している――そして師匠も試運転に関わっている体液魔術の事。

成程、言う事は最もだ。強く意識しておこう。

 

「そして、決して無詠唱で出来るようになったからと言って、

無暗やたらに使ってはいけませんよ。

友達だからいいよねと言ってキスを何度もして完成させようとしたり、

そこら辺の知らない人にこの魔術を使っては絶対にいけません。」

 

…ん?なんだか話の流れが…?

 

「で、ですから…そういう事は、関係性を深めた人とするべきというか、

いえ、決してこの魔術の完成を遅くしろと催促しているわけではありませんよ?

ええ、ありませんとも。ですけど戦闘でもしこれを使う事になった場合、

無詠唱で体液魔術を発動できれば大きく戦況を変える事も出来るかも―――」

 

…片手を振りながらもじもじし始めたロキシー、かわいい。

うん、成程。そういう事か。

ロキシーは俺にきっと忘れてほしくないし、覚えていてほしいのだろう。

安心してほしい、少なくともこの魔術は慎重に開発するし、

何なら封印する気すらあるのだ。

このロキシーの仕草に俺の今の小さな胸が今の発言でドクドクと高鳴っているのが分かる。

だから、これからやらなくてはいけない行動は一つだ。

 

「師匠。」

 

「ひゃ、ひゃい!なんでしゅ――」

 

言い終わらない内に、頬にキスをする。

試運転中にも幾度かしたけど、やはりすごく柔らかい。

弾力があって、本当にこの世に存在するのかと疑ってしまいそうになる。

 

「なっ、あっ…!?」

 

「大丈夫ですよ、師匠。忘れたりなんてしませんし、

いつか、また会ってもきっと覚えていますから。

…師匠との試運転なんて、忘れられる訳ないじゃないですか―――」

 

動揺するロキシーに一気に思いを伝える。

気持ち悪いと思われていないだろうか少し心配だったが、

とにかく自分の気持ちを伝える事が大事だと思い一気に言い切った。

そうして伝えて、ちゃんと伝わっただろうかと考える暇もなく、

今度は師匠の顔が近づいてきて――

 

 

「…これは、試運転とは別のキス、ですか?」

 

「ええ、そうです。そんな風に言われたら…

したくなっちゃうじゃないですか。」

 

一度のキスで止まる事はなく、何度も、何度も。

この日俺たちは「試運転」ではないキスを交わした。

草木の鳴る音が普段より煩かったり、小さな子供の声が遠くから聞こえても関係なかった。

時折泣きそうになるけど、それでも笑って唇を重ねる。

柔らかい唇の感触を味わうように、忘れないように。

明日になって、両親の前でも感極まって泣いてしまわないようにと一生懸命キスをした。

目の前の顔を真っ赤にした少女も、きっとそう思ってくれるといいな。

そう思いながら、最後の口づけをして唇を離した。

嬉しそうに笑う師匠を見て、つい笑顔をこぼしながら泣いてしまったけれど、

きっと今のは水聖級魔術を使った時の雨だ。そう思いながら二人して笑った。

 

それから日が暮れて、一度就寝した後にロキシーは俺と両親に見送られながら村を出て行った。

ちょっと気合いを入れておしゃれした俺を嬉しそうに撫でると、

最後に俺にお守りを残して彼女は笑顔で村を出て行った。

 

「いつか綺麗なお姉さんになって、会えるといいですね。」

 

最後にそう言って、くれた事はずっと記憶に残っている。

俺はあの人に恥じないような弟子になれていただろうか、それは分からないけど…

 

(せめて、あの人に恥じない生き方をしよう)

 

俺は深く心の中に誓った。

あの魔術も…あまり外には出したくないが、完成させよう。

そう思いながらロキシーの姿が見えなくなるまでお礼を言った俺の頭の中には、

彼女と過ごした日々、そして彼女の笑顔。たくさんしたキス。

その事がずっと、頭の中に残り続けていた。

 

 

 

ドアを開ける。家の外に出ると、草木の擦れる音がする。

家の外に出ると、パウロとゼニスが仕事…いや、その最中にいちゃついてるのが見えた。

しかし見ているだけでは何も始まらない。スタートラインはここからだぞ、俺。

 

「あ、あの…」

 

少しだけまだ勇気の要る言葉を伝えようと二人に向かって口を開く。

 

「ん?どうしたルディ、手伝いなら今は特にないから本を読んでても…」

 

「い、いえ。ちょっと外に遊びに行きたいのですが、良いでしょうか?」

 

俺の言葉を聞くと、パウロのきょとんとした表情からにやりと変わったのが見て取れた。

 

「おう、いいぞ!ただあんまり遠くには遊びに行くなよー?

迷子になったら俺かゼニスの名前を出せば誰かしら助けてくれるだろうが、

変なガキがうろついてないとも限らないしな!その時は俺が〆てやる!」

 

「もう、あなたったら過保護なんだから…

いってらっしゃいルディ。日が暮れるまでに帰るのよ!」

 

「はい、分かりました母様、父様!」

 

ちょっとパウロの発言は気になったが、それはまぁ良しとしよう。

外出許可をもらえた事がちょっと嬉しくて、

思わずパウロとゼニスの所に駆け寄った俺は少しばかり両親との交流を深めた後、

まだまだ知らないこの家の外へと出かける事にした。

 

(師匠、俺…頑張りますね。)

 

心の中で師匠に挨拶をしながら、俺は家の敷地の外へと一歩踏み出した――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。