ルディ(♀)、体液魔法を開発する   作:範婆具

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また番外編です。
ロキシー(♀)とルディ(♀)の魔術の授業中にあった…かもしれないお話。


番外編:ロキシー(♀)とルディ(♀)、事故でうっかりキス

ロキシーが家庭教師になってからしばらく後、俺はロキシー師匠に魔術を習っていた。

 

「いいですかルディ。私は威力が高い魔術も教えますが、

決して村の中では威力の高い魔術を試そうとはせず、私の前で使用してくださいね。

魔術が制御出来ていないと暴発する危険性もありますから。」

 

「はい、師匠!」

 

俺がロキシーと魔術の勉強をする際には必ず一度は口を酸っぱくしてこう言われる。

一度魔術を試し撃ちした時の威力を聞いていたのだろうか、ロキシーは出来るだけ人がおらず

あまり周りに被害を出さないような場所で練習をさせる事に拘っていた。

だから安心して俺はロキシーから魔術のやり方を習い、練習を行っていた。

 

――それ故の油断もあったのだろう、俺は失敗をしてしまったのだ。

 

その事故が起きたのは雨が上がった直後、水溜まりがまだ残っている時に

魔術の練習をしていた時に起きた。

今でも明確な原因は分からない。

ただその日は水溜まりに向かってファイアボールの魔術を撃つ練習をしようとしていたのだが、

少し魔力を入れすぎた状態で魔術が成功してしまった。

 

「あわわわっ!?こ、これどうしたら…!?」

 

「落ち着いてくださいルディ!今私が消しますからあなたはこっちに――」

 

どんどん手元で膨らんでいく炎の玉。

自分の身体よりも大きくなるのではないかという程に膨れたそれを前にして、

俺はただ慌てふためくしかできなかった。

そんな状態の俺の傍にロキシーが慌てて駆け寄り、

魔術を使ってファイアボールを消そうとしたその瞬間…

 

一気に炎の玉が爆ぜ、そこからすぐに俺の視界は暗転した。

勢いよく吹き飛ばされたのだと俺が認識出来た時にはもう遅く、

俺の身体は俺の意思とは関係なく飛んで行き――

 

「ルディ、危な――」

 

魔術の発動も間に合わず、

何とか俺を受け止めようとしたロキシーの胸元に体は勝手に突っ込んでいき…

 

唇と唇が、触れ合った感触がした。

 

ちゅっ。

ぶつかった瞬間に音が発生していたなら、きっとこんな音がしていたのかもしれない。

そんな事を考えてしまう程、ロキシーとキスしてしまった事を俺ははっきりと認識していた。

唇が熱く、やわらかい感触がする。女性相手のキスとはこんな感触だったのか。

非常事態にパニックになったはずの俺のわずかな冷静な部分が

ロキシーとのキスを客観的に受け止めていた。

しかしまぁ、実際にこんな状況でキスしてしまったとして唇と唇が触れ合っている時間は

そう長くならない訳で―――

 

「きゃっ!?」「うぎゃあっ!?」

 

二人分の悲鳴が辺りに響く。女子力のない方の悲鳴は確実に俺の方だろう。

ファイアーボールを打ち消す時間はどうやらなかったようで

ロキシーは逃げるのが精いっぱいだった俺を受け止めると、

一緒になって地面を転がってしまった。

 

「ご、ごめんなさい師匠…威力の調節ができませんでした…」

「い、いえこちらこそすみません。対処が間に合いませんでした。」

幸いにも思いっきり体を地面にこすり付けた程度でケガはしなかったものの、

それはそれこれはこれ。

ロキシーに心の底からやってしまった後悔の気持ちを込めて謝罪すると、

ロキシーは俺を怒ったりせずにまだ体勢を崩したままの俺を抱き上げてくれた。天使かな?

 

そうか、俺はこの天使のような人の唇を奪ってしまった訳か…死にたい。いや死にたくはないが。

どうする?落ち着いてきたらキスした事を言うべきなのか分からなくなってきた…

いや待て俺、ここでキスをなかったことにしても、

後で罪悪感が残って元の関係で魔術を教えてもらう事が難しくなるかもしれない。

ここは一時の恥を忍んで、そしてロキシーには本当に申し訳ないがきっちりさっきの事を謝ろう。

 

「あ、あの…師匠…」

「ふぅ、かなり汚してしまいましたね…今日はここまでにしてお風呂に…

ルディ、どうかしましたか?」

「さ、さっき…キスしてしまってごめんなさい!」

 

キスの事を告げた所で、俺は素早く土下座した。

 

土下座すると自然と視界は狭まる。今は地面から元気に生い茂る雑草と土しか見えない。

必然的に相手の顔は見えなくなるので、否が応でも自分の中の緊張感が高まっていた。

 

(ロキシーはどう感じているんだろう、なにをしてるんだろう)

土下座しているのはまだ数秒のはずなのに、時間が何分、何時間も経ったように感じる。

俺が前世でやってしまった事は女性の身体になった事で相当許されない事だと思い始めていた。

しかし今回のもかなり有罪だ。事故とはいえ、

もしかしたら初めてだったかもしれないキスを奪ってしまったのだ。

しかもそれを被害者であるロキシーの前で謝っているから重圧感がすごい。

それでも土下座の体勢は解かない。

 

「…ルディ。」

 

(こわい、なきそう、どうしようどうしようどうしよう…)

 

ロキシーから話しかけられた。視界が滲む。それでも何とか顔を上げてロキシーの顔を見て――

 

「ルディ、大丈夫ですから、そんな恰好しなくても大丈夫ですよ。ほら、立って立って。

ほら、かわいい顔が台無しになっちゃいますよ?」

 

そこには、土に汚れても全く美しさを損なわない少女がほほ笑んでいた。

ロキシーは土下座の体勢を取っていた俺を立ち上がらせると、ごしごしと顔を拭いてくれた。

 

「あ、あの…師匠、怒ってませんか?」

 

「怒る訳ないじゃないですか。私は大人ですよ?キスの一つや二つ経験しています。

ルディとのキスなんて、なんてことありませんよ。」

 

そう語るロキシーは本当になんてことないように言ってくれて、俺の顔をハンカチで拭いてくれた。

…やっぱり、師匠はすごいなぁ。

 

「…それとも、私とのキスは嫌でしたか?やはり同じ女性ですし――」「い、嫌じゃなかったです!むしろ――」

 

改めて俺は師匠への尊敬を強く感じていた所で、

いきなり俺のハートを揺さぶるような問いかけが来てしまい反射的に答えてしまった。

いかん、本気だと思われないように急いで誤魔化さねば…!

 

「…むしろ?」「い、いえ!なんでもありません!ほら師匠、お風呂入りましょう!」

 

「分かりましたよー。もう、調子いいんですから。」

 

誤魔化そうと全力で走って、ロキシーと二人で家のお風呂に向かって走る。

自分の女の子としての部分が反応して、

きゅんきゅん来てるのを誤魔化すために早く走った、なんて事では…ない。

ちょっと頬も熱かったけど、

あんな事故みたいなキスでドキドキするのはなんかダメな気がしてしまう。

普段ならちょっと嬉しいロキシーとのお風呂も、

なんだか正面から見れなくて、そっぽを向いてしまった。

明日にはちゃんと魔術の訓練を受けられるように今日は早く寝よう。そうしよう、うん…

しかし早く寝るために部屋の中で布団にくるまって目を閉じると、

どうしてもあのキスを思い出してしまう。

 

ダン、ダンダンダンダン、ダンダンダンッ!

 

(ああ、もう。早く寝たいのに…さっきから部屋の隅からも音がするし、何なんだろう?)

 

結局その日、俺は中々寝付けずに短い時間しか寝る事が出来なかった。

しかも寝ている間に見ていたのは、

青い髪をした小柄な王冠を被った誰かが自分と同じ茶髪のお姫様を連れ出す夢で…

 

結局、翌日俺は寝不足で訓練する事になり、

夢の内容を忘れるために一心不乱で素振りをするのだった――

 

 

 

 

ルディが布団の中で寝付けずにいた一方で――

 

ダン、ダンダンダンダン、ダンダンダンッ!

 

「うああああああああああああああああああああっ……

わ、私のファーストキスがああああああ…!!!!

お、落ち着きなさい私!相手は小さな子供ですよ!?それも女の子なんですよ!?

むしろ男の人相手ではなかった訳ですし、予行演習のようだと思えば…」

 

(ルディの唇、ふにふにして……ちょっと甘くて…)

 

「ダメです私!思い出すな私!ちょっといいなとか思ってないんですからねぇぇ!?」

 

 

ロキシーは思いっきり布団の中で悶え、

布団をバシバシと叩きながらごろごろ転がって悶絶していたのだが、

ルディが気付くことはなかった――




テンパってる師匠はかわいい、
そういう気持ちで書きました。

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