――教室――
桜「給食の時間だー! ってー、今日もサツマイモ1個だけぇ?」
牡丹「食糧不足だしな。仕方ないだろ」
クレア「そうね、贅沢は敵だもの」
夏希「果たしてこの人に節約という観念があるんだろうか……」
クレア「はい花梨さん、私の芋を食べて」
花梨「えっ……そんな、できません! これはクレア先輩の給食です!」
クレア「気にしなくていいのよ。私はお腹空いてないから」
花梨「そんな…………駄目ですよ!」
桜「大丈夫だよ花梨ちゃん。クレアちゃんは家に帰ればいくらでも食べ物があるんだから」
牡丹「贅沢は敵だと言いつつ、一部の権力者は贅の限りを尽くしている。それが天皇制ファシズムの真実だッ!!」
夏希「言っちゃったー! もう完全に非国民だーッ!」
クレア「あらあら、皆さんだって、サツマイモが無ければビフテキを食べればいいじゃない?」
夏希「ナニー・アントワネットだよッ!」
桜・牡丹「…………………………」
ー ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ー
夏希「うわー……食糧難のせいで部室の雰囲気悪くなっちゃってる……さすがは戦時中……やな時代だ」
桜「ちょっと夏希ちゃん、私のイモより夏希ちゃんの方が大きくない?」
夏希「えぇーっ……そりゃ自家栽培のサツマイモですから個体差はありますよ。昨日は桜先輩の方が大きかったですし」
桜「部長命令です! 半分譲りなさい」
夏希「はぁ?! 嫌ですよそんなの! お断りします」
桜「夏希ちゃん、八紘一宇って知ってる⁉ 我が部では私が天皇陛下の代理人! 私の命令は陛下の命令なんだよ?」
夏希「知りませんよ。天皇だろうが大統領だろうが、そんな命令に従うつもりはありません」
桜「な……なんだと!? 確かに私はね、あなたの先輩に対する敬意が全くないところを、理想の後輩像だと思って尊敬していた。でもそれは平成デモクラシーあってのこと! 今は昭和なんだよ! オーソリタリアニズムがスタンダードな天皇制ファシズムでは、先輩に反抗する後輩は絶対に許されないんだよ!」
夏希「何ですか平成デモクラシーって意味不明だよッ! 普通、先輩だったら自分は我慢して後輩に譲ってくれるものじゃないですか! 飢えに苦しむ後輩から食料を巻き上げようだなんて……見損ないましたよ、道明寺桜っ!」
桜「なっ……夏希ちゃんのいけずー!! ケチんぼー!」
夏希「うっさい腹ペコツインテール!」
桜「なっ……人の身体的特徴を馬鹿にするだなんて……もう絶対許さない!」
クレア「今のって馬鹿にしてたのかしら……?」
牡丹「ツインテールはお前が好きでやってるんだろ。そもそも、夏希の☾を散々いじって来た桜が言える台詞か?」
桜「ギク……! う……うわぁああん! 夏希ちゃんのくせに生意気だぞぉおお! 食べたい腹空いたこのままじゃ飢え死にしちゃうぅうう!」
夏希「私だってこれ食べなきゃ餓死するかもしれないんです! 桜先輩は私を殺す気ですかッ!」
桜「夏希ちゃんは私より太ってるから大丈夫だよ!」
夏希「カッチーンッ! こっちこそ怒りましたよ桜先輩ッ!」
花梨「や、やめてください2人とも! 私のお芋を半分ずつあげますからっ!」
クレア「ダメよ花梨さん。あなたが餓死したら私も後を追って死ぬわ!」
花梨「えーっ! いやです! 死なないでくださいクレアせんぱぁーい!」
桜・夏希「「ぐぬぬぬぬぬ……!」」
牡丹「まずいぞ、桜と夏希が給食を巡って醜い争いを始めてしまった。こんな時あの男が居たなら、事態は穏便に解決できたろうに!」
花梨「牡丹先輩、あの男って誰ですか?」
牡丹「副生徒会長、飯塚公平。理想家《イデアリスト》と呼ばれた男だ」
クレア「でも副生徒会長はその能力を買われて、主計兵として学徒出陣させられちゃったのよね。食糧不足の南方戦線で大活躍しているらしいわ」
花梨「能力ぅ?」
牡丹「絶対平等《パーフェクト・イコール》、給食を平等に配膳する能力らしい」
花梨「わー能力者なんだー! それならなっちゃんと桜先輩も喧嘩せずに仲良くできますね!」
牡丹「しかし、奴は今頃太平洋のど真ん中……! 桜と夏希を止められる者はどこにもいない!」
クレア「ゴミクズ同然の能力だとは思ってたけど、肝心な時にも使えないなんて、ゴミクズ以下だわ。放射性廃棄物同然よ」
――
あざらし「直ちに健康に影響はないよー! "直ちに"はねー!」
――
?「さすがに辛辣すぎやしないかしら、九重のお嬢様」
クレア「誰っ?」
牡丹「あれはっ……"校則"の異名を持つ女生徒会長、高円レイナ! 大物が出て来たなっ!」
レイナ「ふふっ……二人とも、喧嘩をやめなさいッ!」
桜「いい加減にして夏希ちゃん!! お芋さんくれないと帰宅部から追放するよ!」
夏希「お好きにどうぞ! こんな意地汚い桜先輩と一緒に部活をするなんて、こっちからお断りします!」
レイナ「あら……?」
クレア「ど……どうして!? 生徒会長の能力が2人に通用していないわ!」
花梨「わわっ、いつの間にかクレア先輩がジャージ姿にー!?」
牡丹「生徒手錠《ハンドブック・バインド》が効かない……だと……! そ、そうか! 校則に喧嘩をしてはならないとは書かれていない! となると、『本校の生徒として、高校生らしい行いをする』を拡大解釈して適用するしかないが……」
クレア「今回の場合、餓死寸前という異常な状況下での食料をめぐる諍い……! 刑法典第37条第1項『緊急避難』に該当するわッ!」
花梨「えっ……えっー! どういうことですかーッ?」
牡丹「そう……言うなれば『生きるための努力』! すなわち、2人の喧嘩は、『高校生らしい行い』から逸脱しているとは言えないんだ!」
クレア「会長の能力では、桜さんと夏希さんは止められないのよっ!」
花梨「そ、そんなー!」
レイナ「ふっ……私の"今の能力"なら、そうみたいだね。いい機会だから、君達にも見せておこう。『二冊目』……黒い生徒手帳を!」
牡丹「な、なんだあれはッ! 花梨、クレア、彼女から離れろっ!」
花梨「ええーどうしたんですか牡丹先輩」
牡丹「分からない……だが奴の黒い生徒手帳《ブラック・ブック》からはとてつもなく嫌な予感がするっ!」
レイナ「生徒会長権限において、非常事態を宣言する!!」
クレア「むぐぐぐぐぐ!」
花梨「あっ……クレア先輩から貰ったサツマイモが、強制的に先輩の口の中に」
牡丹「給食を抜くことは校則違反……しかし花梨は安全距離に居たはず! まさか、生徒手錠《ハンドブック・バインド》の支配空間が広がったというのか!? 」
クレア「花梨さんが食べるはずだったお芋を……このままじゃ花梨さんがお腹を空いて辛い思いをしてしまうじゃないッ……!」
レイナ「あら、『欲しがりません、勝つまでは』よ。空腹くらい我慢しなさい」
ブチッ
クレア「タァァカァマァドォオオオ!! ちょっと屋上こぉぉぉぉいッ!」
牡丹「あーあー、クレアが切れちゃったよ。花梨のこととなるとありえないほど切れるからな」
花梨「クレア先輩、ダメぇー!」
レイナ「裏校則発動――! 九重のお嬢様、そこに気を付け!」
クレア「なっ……体が動かないわっ……!」
牡丹「い、一体何をしたッ!?」
花梨「わ、分かりません。会長の言葉通り、クレア先輩が直立不動で起立してますっ!」
レイナ「非常事態時、私の言葉がそのまま校則となり、あらゆる物理法則よりも優先されるッ! 校内の全ては絶対に破ることができない。これこそ生徒手錠《ハンドブック・バインド》の第二段階《アクト2》にして私が『校則』の異名を持つ真の理由ッ! 校則が、法則を、超越するッ! 私の第二能力、聖徒十戒《バイブル・バインド》ッ!」
牡丹・花梨・クレア「「聖徒十戒《バイブル・バインド》ぉーッ!」」
牡丹「はっ! そういうことか……ならばッ!」
花梨「ど、どこからか凄い殺気が……! あれは、牡丹先輩ッ!? いつもは優しい牡丹先輩から、身の毛もよだつ殺意の波動がっ!」
クレア「まあ花梨さん。あなたも牡丹さんの殺気を感じ取れるまで成長したのね」
牡丹「帰宅部の仲間がやられて、このままむざむざと帰すわけにはいかないな。かかって来い、"校則"」
レイナ「私の前に立ち塞がるつもりかしら。漆黒の処刑台《ミッドナイト・マーダー》、大萩牡丹さん!」
牡丹「ふっ……聖徒十戒《バイブル・バインド》も生徒手錠《ハンドブック・バインド》も、原理は同じ! つまりは『セカイの流れを限定的に制圧する』空間支配系能力! ならば、萩月流の段位を上げて空間支配を上書きしてしまえば、私の敵ではなくなるっ!」
レイナ「第二段階《アクト2》を見せてもまだ戦意を保つことができるとは……面白い! 本気でお相手してあげましょう」
牡丹「はぁぁぁぁああ……萩月流奥義ぃいいッ……!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
レイナ「漆黒の処刑台《ミッドナイト・マーダー》、眠れっ……!」
ドゴォオオー!
牡丹「なにっ! くそっ……強烈な眠気が……!」
花梨「だ、大丈夫ですか牡丹先輩っ!」
クレア「精神の力こそ萩月流の力の源。意識レベルを低下させられれば、その戦闘力は激減してしまうわッ! 高円レイナ……意外と戦闘慣れしているッ!」
牡丹「ち……力が抜けていく……! このままでは、萩月流の奥義が放てない……あぐぅ……ね、眠いッ……!」
花梨「しっかりしてください牡丹先輩! こんなところで寝ちゃダメですッ! 寝たら死にますよッ!」
レイナ「いやいや君、死にはしないよ……。しかし、未だ睡魔に耐えられるとは、大したものだね。さすがは萩月流と褒めてあげるべきかしら」
花梨「こ……この中で戦えるのは私しかいない……! クレア先輩、牡丹先輩! 帰宅部は私が守ります! えーい!」
レイナ「お座り」
花梨「にゃうッ!」
―――
あざらし「そげぶあざらし!」
―――
桜・夏希「「いいから早く止めろぉおおおおお!!」」
花梨「あ、なっちゃんと桜先輩が一緒につっこんだー!」
クレア「すっかり忘れてたわ」
夏希「大体、物理法則を無視できるほど便利な能力があるなら、その能力で食べ物を出してくださいよッ!」
桜「おお! 夏希ちゃんあったまいいー!」
牡丹「お前相変わらず適応速いな」
レイナ「……そ、その発想は無かったわ。いいでしょう。サツマイモよ、倍になれ!」
桜「おー、私のサツマイモが2つになったー! わーい!」
花梨「いいなー! 私はショートケーキが食べたいですー」
牡丹「わ、私はどら焼きを粒あんで!」
レイナ「いいわよ。出現せよ、ショートケーキとどら焼きッ!」
夏希「ついに無から有を生み出したー! もはや絶対能力《レベル6》を軽く超越しちゃってるよ! 神の力かよ!」
レイナ「安藤夏希さん、あなたにはあんドーナッツを差し上げましょう」
ドカーン!!
夏希「はぁ……ありがとうございます。でもまぁ、これでくだらない争いはせずに済みましたね」
桜「な、夏希ちゃん、ごめんね。さっきは私どうかしてたよ」
夏希「……いいですよ、気にしてません。全部この時代が悪いんです」
桜「時代か……生まれる時代は選べないもんね……」
夏希「おおッ!? 待てよ! そ、そうだ! 時代、時代ですよ、桜先輩!」
桜「へ? 時代がどうかしたの?」
夏希「はい! 時代こそがこの状況を打開する唯一の方法です! 高円会長!」
レイナ「何かしら?」
夏希「会長の能力を使って、平成までタイムトラベルしてくれませんか!?」
牡丹「じ、時間跳躍……だと!? 待て夏希。最強無敵の生徒手錠《ハンドブック・バインド》とはいえ、いくらなんでもそんな事できる訳がない!」
桜「そうだよ、夏希ちゃん! タイムトラベル理論は非現実的なものばかり! 唯一実証されてるウラシマ効果を利用するとしても、本当に光速で移動したら私達の肉体はバラバラになっちゃうよ!」
夏希「いいえ、出来るはずです。一切の物理法則を超越する聖徒十戒《バイブル・バインド》なら! そうですよね、高円会長!」
レイナ「ふっ……『レイナ』と名前で呼んでくれて構わないわよ☆」ホッペツンツン
夏希「れ、レイナ会長……(顔近いわッ!)」
レイナ「ええ、私の聖徒十戒《バイブル・バインド》に不可能はないよ」
花梨「じゃ、じゃあ私達、もう空襲のたびに防空壕に隠れる生活をしなくてよくなるの!? やったね、なっちゃん!」
クレア「あらあら、花梨さんがあんなに喜んでいるわ! 会長さん、不本意だけど一応感謝してくわ……!」
――
あざらし「ウーウーまた空襲だー」
――
牡丹「まずい、こんな時に空襲警報だ!」
夏希「大丈夫です牡丹先輩、防空壕に行く必要ありませんッ! タイムスリップをした先には、戦争のない平和な世界が待ってるんです!」
桜「戦争のない平和な世界……そんな時代は本当に存在するのだろうか? 平和と思いこんでるのは日本人だけで……」
夏希「桜先輩はちょっと黙っててください!」
桜「むぅ……分かりましたー。じゃあみんな、平成でまた会おうよッ!」
クレア「花梨さん、私にしっかり捕まってるのよ?」
花梨「はい! ぎゅーっとですね」
クレア「はわわわわわーッ!」
ゴゴゴゴゴゴゴーー
レイナ「裏校則発動――! 『学校よ、時の壁を破り、68年後の未来へ跳躍せ、』」
あざらし「ドカーン! 2000ポンド爆弾だー! 」
桜・夏希・牡丹・クレア・花梨・レイナ「「……あ」」
桜「うわぁー……直撃弾で学校が吹き飛んじゃったよー!」
夏希「何ちゅータイミングだよ! しかも焼夷弾じゃなくて爆弾かよ! 米軍空気読めよ!」
牡丹「まずいぞ、学校が無ければ、聖徒十戒《バイブル・バインド》は発動条件を満たさないッ……!」
クレア「み、みなさん! 早くシェルターへ!」
花梨「ふえー……タイムスリップしたかったー」
――次回予告――
牡丹「牡丹だ。緩歩動物はクリプトビオシスという休眠状態になると、どんな過酷な状況にも耐えられるらしい。なんと宇宙空間に放り出されても10日間生きられるそうだ。しかもこいつ……、別名が『クマムシ』だとっ! ク……クマ四天王を越える最強のクマかッ! 新たな戦いの予感だな! 次回は空襲の三『靖国で会おう!』だ」