いつも通りの夜、それぞれの生活音がこだまする。
「うん。新曲はこの調子でいけば予定通りに完成しそうだね」
「よかったー! 徹夜して修正した甲斐があったよー!」
「瑞希、最近ずっとナイトコードにいたよね。イラスト修正したらすぐ反応くれたし」
「絵名もありがとうね。すぐに修正してくれて~」
「別に、あれくらいならすぐできるから」
「……うーん」
「どうしたの? M」
「うーんとね。この感じにするなら、もっとミクちゃんの声を、さらさら~ふわふわ~ぱりーんっ! って感じにした方がいいかな~って……」
「え?」
「うーん……ごめんね、みんなっ! もうちょっとだけ時間もらってもいいかなー?」
「分かった。時間はあるから、ゆっくり進めてね」
「うんっ! ありがとうっ! Kちゃんっ!」
いつも通りの作業時間、それぞれがそれぞれの作品を作り、次第にそれを一つに重ねていく。
「じゃあ、私は先に落ちるから」
「あっ、私も―!」
「分かった。またね」
「ばいばいー!」
~宮益坂女子学園1年B組~
「よーし! お仕事おーわりっ!」
「えむちゃん早いねー」
「私なんて、まだこれだけだよ~」
(同じクラスの子に頼まれた書類整理も終わりそう)
(終わったら、どうしようかな)
(朝比奈先輩と、お昼食べたいな)
「ほんと、えむちゃんありがとね!」
「こんなの全然だいじょーぶっ! じゃ、またね!」
お弁当を持って、えむは廊下を走る。
階段を駆け上がって、向かうのは。
「朝比奈先輩―! こんにちわー!」
そんな勢いでえむがクラスに入るものだから、当然2年生は驚いてえむの方を見る。
「もう、鳳さん。そんな大声で呼ばなくても、聞こえてるよ」
「朝比奈さん。お昼は……」
「ごめんね。今日は、鳳さんと食べるから、また明日でもいい?」
「うんっ、全然大丈夫だよ」
「それじゃあ、鳳さん。行こうか」
「うんっ!」
~宮益坂女子学園中庭~
「それで、今日はどうしたの?」
「ほら、昨日の歌詞……朝比奈先輩はどう思うのかなーって」
「歌詞……?」
「私はねっ、朝比奈先輩の言葉をね。色々な人に一番届く形で、ミクちゃんに歌ってほしいのっ!」
「……」
「だから、私の勝手な感じ方で、朝比奈先輩の言葉を汚す様な事はしたくないって言うか……」
「……好きにすればいい」
「え?」
「いつもそうしてきたでしょ? 私にできる事はKの作った曲に、歌詞をつける事だけ。その歌詞に色をつけるのは、貴方でしょ?」
「うーんそうなんだけどぉ……」
「それに、前に言ってたよね。この声で、皆を笑顔にするって……私は、私の言葉で、皆を笑顔にできるなんて思わないけど……」
「そんな事ないよっ! 朝比奈先輩言葉は素敵だからっ! きっと、み~んな、笑顔になってくれるよっ!」
「よくわからない……けど、私の歌詞で皆を笑顔にしたいなら、勝手にすればいい」
「うーん……」
(色々な事が沢山あって、皆の事をいっぱい知れたのに……朝比奈先輩は、やっぱりよく分からない。最近は、沢山お話して、色々感想を言ってくれる様になったけど……)
「鳳さん。またね」
「うんっ! また、ナイトコードでねっ!」
(もっと、朝比奈な先輩の笑顔がみたいな……)
~放課後~
「またね、えむちゃん!」
「うんっ! またねー! みんなー!」
(今日はもう何もないし、フェニックスワンダーランドに行ってもいいけど……いつもより早く、みんなと曲を作るのもいいかな)
えむはそんな風に前向きに考えて、足を進めた。
けれど、その足は思った様に動いてくれない。
~鳳家リビング~
「ただいまっーーーーーー!!!」
大きな声でえむは言う。
「おかえり、えむ」
「お姉ちゃん! ただいま~」
「今日は部活ないんだっけ?」
「うんっ! でも、ちょっとする事があるから、少しだけ部屋にいるね」
「もしかして曲作り?」
「うんっ! ちょっとね、気になる事があって!」
~えむの部屋~
ナイトコードにはKだけがログインしていた。
だから、えむは。
「Kちゃんっ! ただいまぁ~!」
「あっ、おかえりM」
「今、何してたの~?」
「昨日Mが言ってた歌詞の部分。見直してたの」
「え? 曲はあれでいいと思うけど……?」
「ううん。Mが言ってた、あのイメージ、あれの通りに曲を作ればどうなるかなって」
「そっか! できたらまた聞かせてねっ!」
「うん」
時間が経てば人も増える。
「おっ、M-! 来てたんだ、おかえりー」
瑞希が来て、25時になれば。
「ふぁ……あっ、マイク……これ音入ってるよね……」
「入ってるよ~絵名の可愛いあくび,ばっちり聞こえてたよ~」
「もー! そういうのやめてよねっ!」
絵名が来て。
「皆、おまたせ」
「おっ、雪―! お疲れー」
「雪、お疲れ様」
「うん」
朝比奈先輩が来て。
楽しい時間が始まって。
「それじゃあ、今日も一日がんばろー!」
「おー!」
「ちょっと、瑞希、えむ。夜だから静かにしてよね」
(あぁ、ずっとここに居たいなぁ……)
~翌日~
~鳳家リビング~
(嫌だなぁ……この空気)
「あぁ、今あるステージを取り壊し、そこに設置する新しいアトラクションも決まった」
「これで、ちょっとはマシになるだろうな」
「そうか。では、フェニックスワンダーランドの件は全て任せたぞ」
(ごはん、いつもは美味しいのに)
「やっぱり、ステージも壊しちゃうんだよね……」
「前にも言っただろ? 今のままじゃ、集客できないんだ」
「うん……」
(出来る事は全部した。ステージでショーをやって、別の案を出して、キャストオーディションをして、けど、どうにもならなかった)
「今いるキャストさんはどうなるの?」
「別の遊園地のキャストオーディションを特別に受けさせてもらえる事になっている。勿論、新しくできるフェニックスワンダーランドのステージに立ちたいという者は歓迎している」
「そっか……」
フェニックスワンダーランドのあるステージは全て取り壊され、新しく一つステージを作る。
それが、今後のフェニックスワンダーランドにある唯一のショーステージになる。
(もぅ……ダメなのかな……)
「えむ?」
「ううんっ! なんでもない!」
「それより、お姉ちゃん。これ、すっごく美味しいよ? 食べてみて!」
「うん……」
あのステージで、みんなを笑顔にしたい.
そんな、願い事は叶わない。
その現実に、もうどうしようもなくなる。