リスタート!×On×ショータイム♪   作:誰かの趣味垢

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【大切で、守りたい場所】

~放課後~

~フェニックスワンダーランド~

 

(小さな子達、随分減っちゃったなぁ……その代わり、制服を着た人を良く見かける様になったけど……)

「あそこにも、ブルーシートがかかってる……そっか、もう壊しちゃうんだ」

 えむは一人で、園内を見ていた。

ショーステージのほとんどは、もう立ち入り禁止になっており、その内のいくつかは解体工事が始まっていた。

 (ジェットコースターが増えて、メリーゴーランドが減って、フェニー君をだんだん見なくなって)

「寂しいなぁ……こんなに空っぽなフェニックスワンダーランド、初めてみる……」

「……あら?」

 立ち入り禁止のテープが引かれ、外見がブルーシートなどで被われ何も分からなくなっていたある場所の前で立ち止まっていたえむの耳に、少し高い声が聞こえてきた。

「貴方……」

その声を、えむは知っている。

「あっ! 櫻子ちゃん!」

「ごきげんよう。鳳えむさん……あら、ちょっと……っ!」

「え?」

櫻子はえむが振り向くなり、ポケットからハンカチを取り出し、えむの方へ駆け寄る。

「あれ……なんでかな……ちょっと……寂しくなっちゃって……」

「……」

「私、苦手なんだ。夕暮れが……そんな時に、こんなに寂しいフェニックスワンダーランドを見たら……泣いても、仕方ないでしょ……?」

 しばらくの間、えむは櫻子の膝で泣いていた。

体に力は入らず、櫻子に縋って、涙を流していた。

「ここ……そう、もうお別れなのね……」

 しばらくして、えむが落ち着くと櫻子は近くにあった自動販売機でお水を買ってきて、それをえむに渡した。

「これでも飲んで、落ち着いてください」

「うん……ありがとう……」

えむはそのお水を、ゆっくりと飲む。

「ねぇ、櫻子ちゃんは何してたの? 衣装じゃない服でここにいるなんて、珍しいね」

櫻子はいつもの煌びやかな衣装とは違い、シンプルに制服を着ていた。

「その……少し言いにくいのですが……」

「あっ……」

『別の遊園地のキャストオーディションを特別に受けさせてもらえる事になっている。勿論、新しくできるフェニックスワンダーランドのステージに立ちたいという者は歓迎している』

「……もしかして、別の遊園地に行ってきたの?」

「……っ!」

「いや、いいの……」

今にもまた泣いてしまいそうなえむを前に、櫻子は言う。

「私はここに新しくできるステージのキャストの誘いをうけていましたの……けれど、私はそれを断りました」

「えっ……なんで?」

「……ここはもう、私が大好きだったあの頃のフェニックスワンダーランドでは、ありませんから……こんな事、言うべきじゃないのに……」

櫻子が見上げると、そこにあるのは、ブルーシートで被われ、立ち入り禁止のテープが貼られたフェニックスステージだった。

「ごめんなさい……こんな事が言いたくて、話しかけた訳じゃないのに」

そう言うと、櫻子は地面にぺたんと座るえむを抱きしめる。

「ごめんなさい……裏切る様な事をして……約束通り最後まではここにいます……けど……」

「ううん。いいの……それより、今日はそのオーディションだったの?」

「オーディションというよりは、その……」

「ん?」

「顔合わせをしてきましたの。新しい、ステージのキャストさん達と……」

「そう……なんだ……それで? どうだったのっ!」

「まぁ、変わった方が多い場所でしたわ」

「変わった人?」

「自分の事を天翔けるペガサスと、大声で言う人がいたり……ロボットを使った演出が得意な人がいたり……ほんと、賑やかな場所でしたわ……」

「へぇ~~!! なんだか、楽しそうな場所だねぇ~!」

「ええ、ステージも小さく、キャストも少人数ですけど。これだけいれば十分だと言われ、再来週には本番をすると言い始めてますわ」

「わぁ~! たのしそーー!! その、ショー私も見に行ってもいいかな!」

「ええ、ぜひ……」

(そんな楽しそうな人達が、ここにいれば……)

「あの、鳳さん? もしよろしければ貴方も……」

その言葉の続きがえむにはなんとなく分かって、その言葉を聞きたくないから、遮る様にえむは言う。

「私は大丈夫だよっ! 最後までここにいるっ! ほんとうにワンダーステージが壊されちゃうその日まで!」

「鳳さん……」

「櫻子ちゃんっ! お水ありがとうねっ! ステージ頑張って! それじゃあ、またね~!」

そう言いながら、えむはどこかに走り去ってしまう。

それを、櫻子は止める事ができなかった。

「鳳さん……私には、何もできないの……」

(大好きなフェニックスステージ、それが壊されてしまうのに、私は何もできず逃げて、きっと鳳さんは大切なワンダーステージが壊される事が決まって、苦しいはずなのに、頑張って、なんとかしようって……)

「ほんと、鳳さんはカッコいい人ですね……よし、私は家に帰って、今日貰った台本を読みましょう。あの、ずっとスタースターとうるさい方が考えた台本ですけど、大丈夫なんでしょうねぇ?」

 

~ワンダーステージ~

 

「はぁ……」

 客席にはブルーシートが掛けられ、簡易的に置かれていたベンチで出来た客席は片付けられ、もう誰もこのステージの事なんて気にしていない様だった。

「よーしっ! 今日もお掃除頑張ろぉー! おー!」

 毎日必ず。とはいかないけれど、えむはこのワンダーステージを掃除している。

もう誰も、このステージの事なんて見てくれないから、またいつでもショーができる様に、明日、明後日も、ずっと先の未来も、このステージでショーをしていたいから。

「次のショーどうしようかな……何を、どんなショーを……すればいいのかな……」

(どんなショーをすれば、みんなは笑顔になってくれるんだろう……どうしたら、壊されずに済むんだろう……もう、無理なのかな。もう、手遅れなのかな)

 (ここでショーをすれば、見に来てくれた人はみーんな笑顔になった)

(楽しかったって、また見たいって、言ってくれて、だからまた頑張ろうって思えた)

「あぁ……」

 ステージの上に立つと、広い世界が見える。

昔はもっと賑やかで、笑顔がいっぱいだったのに、今はもう何もない。

もっともっと、ここでショーをしていたかったと、えむはそんな思いを心に閉じ込める。

「まだ、諦めちゃダメダメっ! きっと、何か方法はあるはずだからっ!」

翌日、フェニックスステージの解体工事と、トランポリンドームの解体工事がはじまった。

 

~鳳家リビング~

 

「えむ。お前に話があるんだ」

「なぁに? お兄ちゃん」

「……明日から、ワンダーステージに行くのはやめろ」

その言葉は、凝り固まった食卓の空気にヒビを入れた。

「え? なんで?」

「なんでって、そりゃもう客がこねーからだろ」

「ああ、もうすぐあのステージも解体する。色々な機材や大道具などの廃棄を行いたいんだ。だから……」

「……ダメだよそんなのっ!」

行儀は悪く、えむは机を叩いて立ち上がり、強く主張する。

「あの機材も、大道具も、全部おじいちゃんが、ステージを見に来てくれた子達が笑顔になれる様にって、用意したものなんだよ? それを!」

「けど、どうせあのステージにはもう誰もこねーだろが」

「ああ、既に立ち入りを禁止するテープを張った。もう、誰も入れない」

「そんなの……」

「ステージなんていくらでもある。ショーがしたいなら、他の所でショーをすればいい」

「そうじゃないよ……そうじゃないのっ!」

「何が違うんだ、お前が好きなショーだろ?」

「違うの……同じじゃないの……」

「えむ……ねぇ、二人とも食事中はそういう話はやめよう……? ね」

「もういい……私、もういい……」

「えむ……」

食器を置いて、えむは一人部屋の方へと足を進めた。

 必死に涙を押さえ、必死に声を我慢する。

そして暗い部屋の、ベッドに寝転ぶ。

 開いたカーテンから、月明りが差し込み暗い部屋を照らす。

けれど、その月明りはえむには当たらない。

 枕の方に投げたスマートフォンを見る。

それを手に取り、画面を見るとそこには一つの音楽あった。

Untitled、それは朝比奈まふゆの世界のある場所。

けれど、そこは鳳えむのいる場所でもあった。

「もう、あのステージでショーができないなら……おじいちゃんのフェニックスワンダーランドを守れないなら、もう……」

 どうすればいいのか分からない、どうするのが正解だったのか分からない。

何も分からない。

 (沢山ショーをして、沢山お客さんを呼ぼうと頑張った。でも、一人で出来る事には限界があったから、オーディションをして、けど結局上手くいかなくて)

 (園内にいる子達に、フェニックスワンダーランドの好きな所を聞いて、それをまとめて、なくなっちゃうアトラクションにも好きな人がいるって事を、頑張って伝えた。けど、ダメだった)

 (結局何もできなくて、結局どうする事もできなくて、お兄ちゃん達も分かってくれない。

お父さんも、どうしておじいちゃんがあのフェニックスワンダーランドを作ったのか、忘れちゃったみたいで)

 暗い夜にえむは、沈みたくなる。もう何も考えたくないと、耳を塞いで目を瞑りたくなる。

「もう、消えちゃいたい……」

そんな願いが、えむの心に芽生えてしまう。

 

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