~スクランブル交差点~
「おーい! えむー!」
「あっ、瑞希ちゃん! 絵名ちゃん! わんだほーいっ!」
「えむちゃん、わんだほーいっ!」
「ちょっと、それ恥ずかしいんだけど……しかも、こんな街中で……」
「絵名ちゃんもわんだほーいっ!」
「絵名―? ほら、わんだほーいっ!」
「あーもう! はいはい、わんだほいわんだほい……ていうかそれ、えむがやると可愛いけど、瑞希がやるとなんか腹立つんだけど」
「えー! 絵名ひどーい」
~ショッピングモール~
「新しい絵の具?」
「ちょっと作るのが難しい色があってね。買った方がはやいと思って」
「絵名、最近ずっと言ってるよね~あの色がほしいとか、この色が足りないとか、デジタルならこうするのに~って」
「うるさいわね、仕方ないでしょ。色が足りないんだから」
「コンクールの絵って、デジタルじゃダメなの?」
「まぁ、デジタルで受け付けてる所もあるよ? でも、なんていうか、アナログの方が味があるって言うか」
「絵名ってば、そういう所気にするよね~いっそ、ニーゴのMVもアナログにする?」
「それ、どうやって作るのよ」
「絵名がキャンバスで絵を描いて、ボクがそれを手で回すとか?」
「いや、現実的じゃないでしょそれ、どう考えても無理でしょ」
「わ~! それ楽しそ~!」
「えっ、ちょっとえむ!?」
~センター街~
「うわぁ~! この服えむに似合いそう~! あっ、このアクセもっ!」
「ちょっと瑞希、えむに色々重ねて遊ばないの!」
「えへへ~瑞希ちゃん、私に似合う服沢山見つけてくれるから、すっごく嬉しい~!」
「個人的には、えむにはゴシック系の服を着てほしいんだよね~そういう服着てるとこ、見た事ないからさ!
「あっ確かに、絶対似合うと思う」
「だよねだよね! ていうか、絵名もえむにいろんな服着せたいんじゃん……」
「いいでしょ別に、瑞希みたいにあれやこれやじゃなくて、私はちゃんと似合いそうなの選んでるから」
「とか言って、ほんとは自撮りの時に着たらバズリそうな服探してるんじゃないの~?」
「あのね、私がいつもいつも、自撮りの事ばっかり考えてると思わないでくれる?」
「二人とも、仲良しだよね~」
「どこをどう見たら、仲良く見えるのよ」
「え~ボクと絵名、結構仲良しだと思ってたのに~残念」
「は?」
「私も、絵名ちゃんと瑞希ちゃんはすっごく仲良しだと思うのになぁ~残念」
「なにこの状況。私、肯定しかできない状況じゃん」
「でも、仲良しでしょ~? ボク達」
「はいはい、仲良し仲良し」
~カフェ~
「瑞希ちゃんっ! 絵名ちゃんっ! ありがとうね。おかげで、いつもは着れない様な服が買えたよっ!」
「そう。良かった」
「うんうん。えむが好きな服が見つかって良かった~!」
机の上に、注文したドリンクとサンドイッチが並んだ時、絵名は心を決める。
「ねぇ、えむ。何か悩んでるでしょ?」
「え? ちょっと、絵名っ!」
ストレートに、絵名は聞いた。
「え? 悩んでる?」
「あーえっと、ごめんね……その……」
瑞希は必死にカバーしようとする。
「私、こういうの嫌いなの。ぐちゃぐちゃ悩んで、分からなくなって、そういうの嫌なの」
けど、絵名はストレートに言い続ける。
「絵名ちゃん、急にどうしたの?」
「昨日まふゆが言ってたの『鳳さんが、笑ってないなって』だから」
けれど、それは絵名の本心だった。
「正直、そんな事考えもしなかった……でも、あいつがそこまで言うのが、気になって……あーもう! イライラするの! こういうの!」
「まぁまぁ、絵名。落ち着いて~」
「ぁ……うん……そうだね」
「えむ?」
「う~わんだほーいっ!」
「え?」
「大丈夫だよ。絵名ちゃん! 瑞希ちゃん!」
「「……」」
「ごめんね、心配かけて。本当に、大丈夫だから」
(こんな大きな事、言えない。それに言った所で、迷惑になるだけだから……)
「ねぇ、えむ……隠したい事があるんだよね、きっと……それもボク達に言うのが不安な事」
「瑞希?」
「だったら、ボクはそれを無理に聞こうなんてしない。それを言って、えむがここにいづらくなるなら、尚更」
「ちょっと、瑞希それじゃぁ……」
「……ありがとう。瑞希ちゃん」
「正直、えむが笑ってないのは、調子狂うけど。でも、誰にだって笑えない時くらいあるよ……そうでしょ? 絵名」
「うっ、うん……」
「……」
「でも、ボク達にも出来る事はあると思うの! だから、えむが困って、本当にどうしようもなくなったら、言ってよ! ボク達はボク達の出来る事を全力でするからさ!」
(瑞希……? そうだ、瑞希にも何かがあるんだ……あーもう! えむも瑞希も、みんな隠して、何も話してくれなくて! あーもう! イライラする!)
「それより、このサンドイッチ、美味しいよ! ほら、食べてみて」
「ん~! ほんとだ、美味しい~!」
「……私、パンケーキ注文しようかな」
「絵名~そんなに食べたら太るよ~?」
「今日はいいの、もう太ってもいいからいっぱい食べてやる!」
「まさか、あの絵名が太る事を気にしないなんて……」
「絵名ちゃんもしかして……もしかして、何か嫌な事が……!? ダメだよ~ストレス発散に暴飲暴食はダメダメ~!」
「あーもう! 2人ともパンケーキ一つくらいでうるさい!」
~スクランブル交差点~
「瑞希ちゃんも、絵名ちゃんも、今日はありがとうねっ! すっごく、すっごく楽しかったっ!」
「また遊ぼう、えむ」
「そうね。私も、美味しいパンケーキのお店を見つけられたし、えむの服のセンスも分かったし、すごく楽しかったよ」
「それじゃあまたね~!」
「ばいばい~!」
「またね」
えむはだんだんと、二人の方から離れて行き人混みの中へと消えていく。
瑞希と絵名だけが、スクランブル交差点に残る。
「それで、結局何も分からなかったんだけど?」
「あーごめんごめん。ボクが余計な事言ったからだよね……」
「いや、素直に謝られると……でも、瑞希のせいじゃない。無理に聞こうとした私も悪い……けど、イライラするのよ! ああいう隠し事されると!」
「もぉ、絵名ってば面倒見良いよね~」
「……」
「ねぇ、瑞希?」
「ん? 何?」
「いや、えっと……」
(今日は、やめとこう。今日聞いても、良い事にならない気がする)
「なんでもない……」
「ねぇ、絵名。この後どうするの?」
「今日は特にする事もないし……一緒にご飯でも食べに行く?」
「あっ、行く~! いつものファミレスでいい?」
「うん。いいよ」
~宮益坂~
「あら、鳳さん? こんな時間に珍しい」
「あっ! 櫻子ちゃん! 今お友達と遊んだ帰りなんだー! 櫻子ちゃんは?」
「私はその……練習の帰りですわ、結局初公演が今度の休みに決まって……そうだ、鳳さん。もし、鳳さんがよければ、ぜひその公演を見に来てください」
「櫻子ちゃんの初公演!? うんっ! 絶対に行くねっ!」
「これ、チケットなんですけど。ご友人にお配りする様にと渡されまして」
「そうなんだ~ありがとねっ!」
「なんだか、見た事ないような演出が沢山あって、きっと面白いのでぜひ来てください!」
「見た事のない様な演出……? わぁー! それって、すっごく、すっごく楽しそー!」
「ええ、とても楽しいですよ! ……では、私はこれで。鳳さんも、日が沈み始めましたから、気を付けてくださいね」
「うんっ! ありがとね、櫻子ちゃん!」
(これで、鳳さんが少しでも元気になってくれたら……鳳さんが、また私とステージに立ちたいと言ってくだされば、私がお願いさえすれば、きっとあの方々は歓迎してくれるはず……)
「よーし! 絶対ショーを成功させますわー!」
封筒に入ったチケット、それを持ってえむは立ち尽くす。
「新しい遊園地……ここからも遠くはないから、きっとフェニックスワンダーランドに来てくれた子達も、みんなそっちに行っちゃったんだろうなぁ……」
(なんだか寂しいなぁ、昔はフェニックスワンダーランドが、みんなの遊園地で、みんながあそこに集まって、みんなが笑顔になっていたのに)
「せっかく櫻子ちゃんが誘ってくれたんだし、それに……」
(最近ずっと、わくわくして、キラキラして、ドキドキして、笑顔になれる様なショーを見てない気がする……)
「よーし! わんだほーいっ! ぜーったい、櫻子ちゃんのショーを見に行くぞぉー!」
そう言って、えむも家の方へと足を向けて歩き出す。
まだいつも通りの笑顔にはなれないけれど、瑞希や絵名、そして櫻子のおかげで家族やニーゴのメンバー達の前では笑顔でいられそうだった。