~隣町の遊園地~
「うわぁ~! すご~い! きらきらしてる~!」
フェニックスワンダーランドよりも小さな遊園地、アトラクションもあまりない。
けれど、とても賑やかで、きらきらしていて、それに笑顔で溢れていた。
「ステージは……わっ、ここにあるんだねっ!」
遊園地の中央に大きなステージが一つ、そこがこの遊園地にある唯一のステージだった。
しかし、まだまだステージやアトラクションは増える様で、工事をしている場所などは沢山あった。
えむはそこへ向かう途中で見つけたポップコーンを一つ買う。
そのポップコーンの入ったケースは、この遊園地のマスコットを使った物だろうか。
「こういうの、今のフェニックスワンダーランドにはないなぁ……昔は、フェニーくんやポチ公くんのぬいぐるみがあったり、ジュースカップがあったりしたのになぁ……」
(……っ!)
「寂しくなっちゃダメダメ……今日はきらきらで笑顔い~っぱい! の、ステージを見るんだから!」
老若男女、それはもうほんとうに様々な人がこの場所にいて、笑顔になっていた。
(みんな笑ってる。みんな楽しそう……もう、フェニックスワンダーランドでこんな笑顔を見る事は、二度とないのかな)
「……」
(お兄ちゃん達のやり方は間違ってない。実際、高校生や大学生くらいの人は増えてきた……けど、その人達は写真を撮ったりするばかりで……ううん、それも間違ってない。笑顔の思い出を、写真に撮って残すのは良い事だけど……)
「キャラメル味のポップコーン……んっ~おいしいっ!」
回るメリーゴーランド、優しいジェットコースター、大きな観覧車、風船やぬいぐるみを持った子供達。
それと、絶叫系のアトラクションや、ホラー系、甘いスイーツ。あちこちに置かれたベンチ、遊園地を囲む緑。
色々な人達に好かれようと、ほんとうにそう考えて作っているのだろう。
(笑顔でいっぱいの場所……確かに、フェニックスワンダーランドは子供が少なくなった。けど、その代わりに高校生くらいの子が増えて……だから、お兄ちゃん達にとっては、なんの問題もなくて、むしろそれが良い事で……)
『……ここはもう、私が大好きだったあの頃のフェニックスワンダーランドでは、ありませんから……』
(櫻子ちゃんが言ってた事は間違ってない。離れていったのも、仕方がない……)
「……ほんとうに、変わっちゃったんだ……」
まだショーが始まるまで十分以上あると言うのに、客席の半分以上は埋まっていた。
なんとかえむは、最前列の中央にある席を確保し、座る事ができた。
最近できたばかりの遊園地、そして初めてのショー、という事もあり遊園地側は大々的に宣伝をしていた様だった。
その効果もあってか、次第に立ち見客も出てくる。
その野外ステージは、豪華なステージとはとても言えなかった。
けれど、広いステージで、色々な世界になれそうで、えむは自然とワンダーステージを思い出してしまう。
時間になると大きな音が一つ鳴り、プロローグが語られ始める。
「むかし、むかし、あるところに一人の王子がいました……」
そして、ショーが始まった。
そのショーは、えむが今まで見てきたショーとは少し違ったものだった。
櫻子の美しく、綺麗な歌声や凛々しい演技、ステージ上で輝く見た事のない様な数のロボットたち、見た事のない、とてもインパクトのある派手な演出、綺麗な歌を歌うロボットの女の子、自信に溢れた王子様
(……すごい……楽しそう……みんな、きらきらしてる……それに、客席にいるお客さん達、みんな笑顔になってる……!)
そのどれもが観客の目を引いた。
どれもが客を魅了し、どれもが客を笑顔にした。
(……こんなショーを……)
「このドラゴンめ! 中々手強いな……! 仕方ない、こうなったら、ネネーの歌で眠らせるしかないな!」
(私も……こんな……)
「なんですのその歌は……あら、だんだん体から力が抜けて……」
(こんな……ショーを……)
「ハーッハッハッハッハッハッ!!! よーし! 歌の力はやはり絶大だな!」
(ショーを……みんなが笑顔になれる様な……そんな……)
「うぅ……そんな、そんな……この私が、ロボットの歌に負けるなんて……」
(こんな、ショーを……)
「本日は、本当にありがとうございました……!」
(こんなショーを、一度でいいからしてみたかったな……)
「「「「ありがとうございました!」」」」
ショーが終わると、えむは自然と涙を流していた。
けれどそんな涙を観客の歓声でかき消して、そして観客の中で一番大きい拍手をする。
「すごいなぁ……みーんな笑顔のステージだ……」
ショーが終わり、ステージの上からキャストがいなくなると客席に居た人達は園内の何処かへ歩いて行く。
しかし、えむだけはまだ客席に座って、ついさっきまで、きらきらと輝いていた舞台を見る。
「鳳さん!!」
そんなえむの元へ、近づいてくる少女がいる。
「あっ! 櫻子ちゃん! お疲れ様~!」
青龍院櫻子だ。
「ほんとうに見に来てくれたんですね! それも、一番始めの舞台を」
「うんっ! 櫻子ちゃん、すっごくカッコよかったよ~! キラキラお姫様~! って感じだった!」
「お姫様だなんてそんな……」
「演出も凄かったね~! ロボットさんがお歌を歌うのもビックリしちゃった~」
「自称スターの座長が、全員集めてくれたんです……まぁ、見ての通りキャストは本当に少ないんですけどね」
「でも、凄かったっ! こんなショー見た事なかったもんっ!」
(良かった……鳳さんが笑ってくれてる……ワンダーステージの取り壊しが決まってから、あまり笑う事もなかったですし、なんだか空元気に見えていましたけど……)
「でも、楽しんでもらえたみたいで良かったです」
「うんっ! すっごく楽しかったよ、櫻子ちゃん!」
「あぁちょっと、こんなところで抱き着かないでもらえます?」
「えへへ~ありがとうの、ぎゅ~だよ~」
「ほんとうに、ありがとうございます……鳳さん」
櫻子はえむの頭を優しく撫でた。
櫻子の瞳には、えむの眩しいくらいの笑顔が映る。
櫻子に手を振って、えむは観覧車の方へと歩いてく。
櫻子もえむに手を振り返し、その姿が見えなくなるまで楽屋には戻らなかった。
~観覧車~
えむが向かった観覧車はステージのすぐ近くにあった。
ショーが終わった後の感傷に浸りながら、えむは最後に観覧車に乗る 。
そこから見えたのは、沢山の笑顔と、綺麗な景色と。
(……)
「私が見たかったのは、きっとこんな景色なのかな……」
観覧車の中からは、丁度あのステージが見えた。
ステージは緑に囲まれた場所にあって、既に次のステージを待つ観客達で客席が埋まっていた。
「どうして……こうならなかったのかな……」
守りたかった場所、守るべき場所、笑顔にしたかった場所、笑顔があってほしかった場所。
「もうダメなんだ……みんな、フェニックスワンダーランドじゃ笑顔になれない……もう、必要ないのかな……おじいちゃんの遊園地なんて、誰も……誰も見てないのかな……」
(沢山お願いしたけどどうにもならなかった。採算がとれるようにすればいいなら、いっぱいお客さんを呼ぶよって言って、沢山提案したけど。取り壊して新しい物を立てた方が、そこでちまちまショーをするよりも、採算がとれるって……)
「分かってるよ……ステージを大切にして、遊園地そのものがなくなったら意味がないって……分かってるよ……分かってるよ!」
また、えむは涙を流してしまう。
綺麗な景色とは裏腹に、現実は残酷だった。
~隣町の遊園地~
観覧車を降りると、次はジュースを買って園内を見て回る。
お化け屋敷、着ぐるみのショー、コーヒーカップがぐるぐる回って。
(……っ)
ずっとここにいる事はできないと、えむはすぐに思った。
みんなが笑顔で楽しいはずなのに、なんだか胸が苦しくて仕方がないから。
夕暮れ時、えむは風船を一つ持って、遊園地を出る。
(やっぱり、夕暮れは嫌いだなぁ……寂しくなっちゃう……)
えむの後ろにある遊園地からは、まだ楽しそうな声が聞こえる。
笑い声、笑顔が、目に浮かぶ。
(昔のフェニックスワンダーランドも、ずっとこんな感じだったのに……)
帰り道、えむの心に寂しさが積み重なった。
それはどうしようもない重りとなって、えむを苦しめる。
(大丈夫……まだできる事はまだあるはず……笑顔で、わんだほいっ! だよね……おじいちゃん……)
~鳳家リビング~
「……なぁ、えむ大事な話があるんだ」
それは夕食中の事だった。
「なに? お兄ちゃん」
「……ワンダーステージの解体日が決まった」
「え?」
「来週の日曜日から、工事がはじまる」
「……そっか」
「ほんとうにすまない……」
「え? あっ……うん……ごめんね……」
(なんでだろう、嫌なはずなのに、やめてって言いたいのに、もう……そんな事を言う気にもなれないや……)
「私、部屋に帰るね……」
「あっ、えむ……」
~えむの部屋~
~ナイトコード~
「……ねぇ、みんな。ちょっといい?」
「どうしたの? M」
「あの、来週の土曜日……みんなで遊園地に行きたいんだ。フェニックスワンダーランドに」
「ボクは全然いいけど……」
「私もいいよ……で、雪とKは?」
「私は、Kが行くなら行く。Kは?」
「私は……」
「あっ、その……みんなで、遊ぼうって訳じゃなくて、ショーを見てほしいんだ」
「ショー?」
「うんっ! ショーを……ダメかな」
「……分かった。私も行く、スクランブル交差点集合で良い?」
「うんっ! ありがとう」
「Kが行くなら、私も行く」
「じゃー久しぶりにみんなで遊べるね!」
「ちょっと、Amia。夜なんだから静かにして」
「やった~! みんなで遊園地だ~! わんだほーい!」
「ちょっと! Mも静かにして……って、言いたいけど。まぁ、この子はいつも通りか……」
「ちょっとえななん、ボクの時と反応違くない!?」
「私はいつもAmiaに対してこんな態度でしょ?」
「それはそれで、酷い様な……」
(もう、誰も私のショーを見てくれない。誰も、私のショーじゃ笑顔になれない……なら最後に、大切な人達だけは、私のショーで笑顔になってほしいな……)