~スクランブル交差点~
「みんな~こっち!」
「えむ~! わんだほーい!」
「わんだほーい! だよ、瑞希ちゃん!」
「だからそれ、恥ずかしいからやめて……」
「鳳さんは今日も元気だね」
「やっぱり、ナイトコードの時よりも元気だよね。鳳さん」
~フェニックスワンダーランド~
「やっぱりいつ来ても賑やかだねぇ、ここは」
「でも、ちょっといつもと違くない?」
「……ブルーシートが掛かってる物が多い」
「だね……なんだか、寂しい感じがする」
「ぁ……あのね、今フェニックスワンダーランドは、沢山改修をしててね……それで、沢山のアトラクションがなくなっちゃうんだ……」
(えむ?)
絵名だけは、感じとった。
えむの、作り笑いを。
「でもでも、その変わりに新しいものが沢山できるから、楽しみにしててねっ! みんなっ!」
~ワンダーステージ~
ジュースとポップコーンを購入し、四人はえむに案内されるままワンダーステージの方へと入っていく。
途中で見つけた立ち入り禁止テープなどの事は気になりつつも、誰もえむに聞く事はなかった。
たった一つだけのベンチが客席側の中央に置かれていた。
そこに、四人は座る。
「ここは、みんなが笑顔になれるワンダーステージ! そこに一人のお姫様がいました~」
四人が座って、瑞希と絵名がポップコーンの味について話を初めた頃、そんな声がスピーカーの方から聞こえる。
「素敵な国だなぁ……美味しいお菓子と笑顔がいーっぱい!」
ステージ中央に一人の少女が現れる。
鳳えむだ。
「そのお姫様はみんなから好かれる人気者だったので、嫌な風に思う人も出てきました」
そして、ショーが始まる。
鳳えむは一人でショーを始めた。
沢山の役を一人でこなし、あっちこっちへ舞台上で動く。
「お姫様は深く傷つき、悲しみました」
ちょっとしたお芝居。一人芝居。
「うーん。どうすればいいのか分からないよぉ~!」
派手な演出も、舞台装置もない、全てが鳳えむ一人の力で行われるステージ。
「大丈夫だよ、お姫様!」
(舞台からは、きらきらした景色が見えた。昔は、ずっとこんな夢を見ていた気がする)
「お姫様がなやんでいる原因は、この私が退治してあげましょう!」
(ショーの最中も、ずっときらきらした笑顔が見えて、終われば沢山の人が楽しかったって、言ってくれて)
「ぐぬぬぬぬぬぬ……こうなったら、私の歌の力でっ!」
(いつもより声が良く出る……でもなんでかな、ちょっと震えて、声は出るけど、音程が……)
「よーし! 弱っているうちに!」
(歌の練習も、ダンスの練習も、歌の練習も、演出も、衣装も、全部、全部、一人でやって、ずっとここを笑顔でいっぱいにするんだって……ここを守るんだって……ずっと!)
「こうして、お姫様を悩ませた悪い物を、王子様は退治したのでした~」
(そして、ショーが終われば……いつも……)
静かになったワンダーステージに拍手が響く。
「今日は、ありがとうございましたっ!」
(笑顔で、いっぱいになって……ここは、笑顔いっぱいのワンダーランド、笑顔いっぱいのワンダーステージ……)
「どうだった? どうだった!?」
そう言いながら、えむはステージを降りて観客席に座る四人の方へと走っていく。
(やっぱりえむ、何か隠してる……言えないのかな……私には、言ってくれないのかな……力になってあげたいのに……)
(そっか……何も言わないって、選択をしたんだね……人に話せない事、話したくない事は誰にでもあるし……これで、いいんじゃないかな……)
(えむ、少し泣いてる……? そっか私、ずっと気づかなくて……私はまた、救えなかったのかな……)
(……)
舞台を降り、一番初めにえむの所に来たのは瑞希だった。
「えむ! 凄く良かったよ!」
「ほんとー!? 笑顔になれたー!?」
「なれた、なれた。ほら、笑顔でしょ?」
「あーもう。瑞希、そんな風に絡んでいかないの……はい、えむ。お水……息上がってるよ? ちゃんと、飲んで」
「絵名ちゃん! ありがとぉ!」
「あっちょっと、急に抱き着かないでよね」
「……まふゆ?」
えむに走って向かいはしなかったものの、笑みを浮かべていた奏。
しかし奏は一つの、異変に気付く。
「まふゆ? どうかした?」
「……」
奏の隣に座っていたまふゆの元へ、えむが走ってくる。
「朝比奈先輩っ!」
元気よく、勢いよく。
「ねぇ、どうだった!? 笑顔になれた!?」
そう聞かれた時の、朝比奈まふゆの答えは一つだった。
「笑顔になんてなれなかった」
そう言って、空気を凍り付かせた。
「え?」
「……笑顔になんてなれる訳ない……だって」
「ちょっと、まふゆ!?」
絵名の必死の呼びかけにも答えず、まふゆは言う。
「だって、鳳さんが笑ってないから」
「……!」
えむは、まふゆの手を握ったまま固まってしまう。
「ちょっと、まふゆ……」
「鳳さんは、みんなを笑顔にしたいんだよね?」
「うん……」
「ふふ。そんなの無理だよ……だって、鳳さんが心の底から笑えていないから」
「朝比奈先輩……?」
「奏と同じものを感じた……だから、言う」
「私と同じ?」
「奏はみんなを救おうとしてる。えむはみんなを笑顔にしようとしてる……そこが似てる」
「あっ……」
「えむは、何かあるんでしょ? 今、笑顔になれない理由が」
(こんなに話をしてくれる朝比奈先輩、初めててだ……)
「うん……」
「言えないの?」
「ちょっとまふゆ! そんな高圧的に聞かなくてもいいでしょ!」
「うるさい……」
「え?」
「あっ、えっと言えない訳じゃないの……」
そう言うと、えむは沢山空気を吸って、心を落ち着かせ、涙をこらえる。
「……実はね、このステージ壊されちゃうんだ。私、頑張ったんだよ? 色々提案して、何とかしようって、ここを笑顔でいっぱいのワンダーステージにしようって……でも、ダメだった……だから、最後にショーがしたいなって……最後に、ニーゴのみんなに笑顔になってほしいなって……そう思って、ショーをしたの……」
(あれ、おかしいな。私、笑ってるはずなのに……)
「ごめんねみんな……どうしてかな……っ……ちょっと、苦しい……」
えむの目から涙が自然と溢れ出して止まらない。
体から力が抜け、崩れ落ち、床ぺたんと座り、抑えられなくなった涙を衣装の袖で拭いてしまう。
「鳳さん」
そんなえむにまふゆは自ら近づく。
「失ったものは戻ってこない……だから、諦めて。別のものを探さなきゃいけない……と思う」
「え?」
「ワンダーステージに思い入れがあるのかもしれない、けどそれはもう無くなってしまう……なら、別の場所で鳳さんは誰かを笑顔にすればいいと思う」
(どうしてだろう、自然と言葉が流れて、鳳さんの方へ向かっていく)
「ひどいです……朝比奈先輩はひどいです……」
えむは、ただ泣く事しかできなかった。
「大切なものがなくなって、泣いている子がいるのに……その子を笑顔にせずに、泣かせるなんて……」
「……? 私は、鳳さんには笑っていてほしいよ? 鳳さんが笑っていないと、少し調子が狂うから……だから、提案してるの。別の場所で笑顔にすればって、笑顔になればって」
「……別の場所じゃダメなのっ! ここじゃなきゃ……ここじゃなきゃ……」
「なら、またここを作ったら?」
「え?」
「それくらい、鳳さんにならできるでしょ?」
「それは……ここなの?」
「私には分からない……でも、同じものなんでいくらでもある。いくらでも作れる」
(自然に言葉が流れていく……まるで私の言葉じゃないみたい……)
「だから鳳さん。笑ってよ? 今だけは」
「もぉ……朝比奈先輩は自分勝手ですね……ここじゃなくてもいいとか、ここと同じステージをまた作ればいいとか……」
「……そうかな、でも今更どうしようもないでしょ?」
「……そうですね。なら、最後に……ほら、朝比奈先輩っ!」
えむは涙を拭き、一度その目で、その瞳で、目の前にいるまふゆを見る。
「……わんだほーい!」
「……?」
「ほらっ! 朝比奈先輩もわんだほーいっ!」
「わんだほーい……?」
(どうしようもない……もう、どうする事もできない……そんな事分かってる……朝比奈先輩の言う事は間違ってない事くらい分かってる……)
「朝比奈先輩、ありがとうございます……ちょっと、元気がでました」
「そう……っ……」
「まふゆ?」
「ごめん、ちょっと頭痛い……」
「いつも以上に感情的だったからね。まふゆ」
「そうだね~でも、まふゆがここまで言うなんて、ほんと珍しいよねぇ」
「私にもよくわからない……ただ自然と言葉がでてきて……うぅ、頭痛い……」
「えへへ……朝比奈先輩、ありがとうございますっ!」
「……ありがとう?」
「はいっ! ありがとうございます……ちょっとだけ、前を向けそうです!」
「……そう……頭痛い」
「あぁ、まふゆ。ちょっと座ってて、絵名お水買いに行こう」
「え? 私も……分かった……」
「じゃーまずは、またここで一緒にショーをしてくれる人を探さないと!」
「一緒にショーをしてくれる人?」
「もう、ここは私の居場所じゃないから……だから、友達がしてるショーに参加できる様にお願いしてみようかなっ!」
「そう」
「鳳さんが前向きに考えられるなら、良かった」
~誰もいないセカイ~
「まふゆの強い想いが強く伝わってくる……まふゆがこんなに感情的になるなんて……そっか、まふゆも大切に思っているんだね。みんなの事を……」