~隣町の遊園地~
「おや、青龍院くん? どうしたんだい?」
「……あぁ、神代さん……その、私のお友達の事が少し心配で」
「お友達が心配?」
「えぇ彼女、最近大切なステージが壊されてしまったみたいで、精神的に落ち込んでいるのにも関わらず、色々なショーのオーディションを受けているんですけど……それに、ここでもショーをしたいと、特別にオーディションをしてほしいと言われていて……でも、私やっぱり心配なんです。大切な物を失ったのに……それなのに、別の場所でショーをするのは、とても耐えられるものではないのではと、思いまして……」
「なるほどなるほど……」
(青龍院くんのご友人、それもショーに対して想いがある子……)
「なら、青龍院くん」
「……?」
「オーディショーをする。というのはどうかな?」
「オーディショー? なんですか? それ」
「ふふ、それは勿論。ショーだよ」
「ショー?」
「さて、後で司くんや寧々に相談をしよう」
「……? 全く、何を考えているのやら」
~隣町の遊園地~
~数日後~
「オーディション♪ オーディション♪ うきうきわくわく、わんだほーいっ!」
えむがオーディションを受ける為に、今日一日だけ特別にステージは貸し切り状態。
舞台袖、えむはパイプ椅子に座って名前が呼ばれるのを待つ。
「それじゃあ、鳳くん。来てくれるかな?」
「はーいっ!」
そして名前を呼ばれると、元気よくえむは舞台袖からステージ中央へと歩いてく。
ステージ中央から客席を見ると、客席の方に一人の女の子、二人の男の子、そして一人のロボットの女の子がいた。
「それじゃあ、自己紹介をしてもらおうか」
「はいっ!」
えむは元気よく返事をし、息を吸う。そして。
「……フェニックスの様に何度でも蘇り!」
「……?」
「そして、みーんなを笑顔する! それが、鳳えむです! さぁ、みんなも一緒にわんだほーいっ!」
「……?」
「どうか、みんなを笑顔にする鳳えむ、鳳えむをよろしくお願いしますっ!」
「なんか、選挙演説みたいなんだけど……」
「フェニックスの様に蘇る……だと!? それは、まさしくこのスターを……いや、フェニックスは、俺より目立つのでは……!?」
「ふふっ、面白そうな子だね……」
(ショーに対して、熱のある子の様だ……流石、青龍院くんのご友人という所かな)
(なんだか変わってる子……だけどまぁ、今更って感じもする)
(この、スターと共に舞台をするにふさわしい人材に思えるぞ、しかしフェニックスは俺より目立つのでは……? この、スターの俺よりも目立つのは……いやしかし……)
(鳳さん。この前顔を見た時よりも、元気そうで良かったです)
「……では、鳳くん。早速で悪いが、ショーをしようか」
「ショー?」
「ああ、それも今からだ」
「ちょっと、類。そんないきなり」
そんな寧々の言葉も虚しく、えむは元気よく言う。
「もちろんっ!」
「え?」
「もちろんできるよ! それで、どんなショーをするの~!」
(鳳さん、元気そうでよかった……それになんだか、楽しそう)
「そうだね。なら、ここは誰でも知っている様なショーを……」
「いや、ここは! この俺を主役にした、スターの俺にふさわしいショーをするぞ!」
「スター!? スターなの!?」
「あぁ、違う。こいつ、自称スターだから」
「自称ではない! せめて未来のスターと呼べ!」
「キラキラお星さまなんだねぇ~! すっごく楽しそう!」
「そうだろ、そうだろ! ショーはとても楽しいものだっ! そう、このスターを主役とするショーは例外なくなっ!」
~えむの部屋~
~ナイトコード~
「そっか……じゃあMはそこでショーをする事になったんだ」
「うんっ! これから、お客さんみんなを笑顔でいーっぱいにするんだっ!」
「そう、良かったね」
「ちょっと、あんたがきっかけを作ったのよ? もうちょっと喜んであげなさいよ」
「どうして?」
「どうしてって……あんたねぇ」
「まぁまぁ、えななん落ち着いて……でも、本当に良かった。Mがまたショーをする事になって」
「うんっ!」
「それで、その……あの、M」
「どうしたの? Kちゃん?」
「その、ニーゴを……辞めたりしたいよね?」
「……?」
「いや、その……もう、ここに来る時間はないんじゃないかなって……」
そんなKの不安を、えむはかき消したい。
「Kちゃん!」
「え?」
「それは心配しないでっ! 私はずっとここにいるからっ!」
「えっ……?」
「私! みーんなを笑顔にするんだ! ニーゴの歌で!」
「そう……ありがとう。M」
「よかった~Mがいないと、雪の歌詞の良さが、活ききらないからねぇ~」
「それに、私……雪ちゃんの笑顔をまだ見れてないから!」
「え? 私の……笑顔?」
「この前、少しだけ笑ってくれた気もするけど……でも、もっと雪ちゃんには笑ってほしいからっ!」
「……そう」
「ちょっと、あんたそれしか言えないの!? ここまで、後輩の子が思ってくれてるのよ?」
「……好きにすればいい……」
「あーもう! 素直にありがとうとか一緒に頑張ろうとか言えない訳っ!?」
「まぁまぁ、えななん落ち着いて……」
「……」
「あれ、雪?」
「……」
「雪、どうしたんだろう……急にミュートにして」
~まふゆの部屋~
(どうしてだろう……えむの笑顔が、まるでえむが目の前にいるみたいに浮かんでくる)
「まふゆ?」
まふゆが手元を見ると、スマーフォンが一瞬光り、そこに初音ミクの姿が映される。
「……なに?」
「その、まふゆが強く感じているみたいだから」
「強く感じてる……?」
「ねぇ、まふゆ……その想いは、大切にすればいいんじゃないかな」
「その……想い?」
「あの子の事を、大切に思っている。その想い」
「……よく分からない……でも、鳳さんがまた笑える様になって、良かったと思う……」
「そう」
そんな素っ気無い返事をミクはするけれど、その顔は一瞬笑顔に変わっていた。
「おーい、まふゆ?」
「ごめん。ミク、作業に戻るね」
「うん。またね……」
そう言うと、まふゆはミュートを解除する。
「鳳さん」
そして、突然言う。
「また、鳳さんが笑える様になって、良かった」
そんな言葉は、鳳えむの心に突き刺さる。
「いつか絶対に! 朝比奈先輩にも笑ってもらいますっ!」
~ワンダーステージ~
あれから数日経ち、もうここには何もない。
客席の一つ、小道具の一つさえない。
けれど、えむには新しい夢がある。
勿論、沢山の人に笑顔になってもらう事もそうだが、それともう一つ。
「いつか、ここにもう一度ワンダーステージを……みんなが笑顔になれるワンダーランドを作るんだっ!」
(おじいちゃんのワンダーステージはなくなっちゃったけど……でも、同じ物なら作れる。それでいいのかって言われたら、勿論違う。これじゃないって、絶対に言う……けど、私の力が足りなくて守れなかった事実は変わらない……でも、私はわがままを言って、もう一度ここにワンダーステージを作りたい……)
「写真はいっぱいあるから……これを見て再現するぞー! おー!」
(今度は一人じゃなくて、みんなでワンダーステージを、ワンダーランドを作りたいな……ニーゴのみんなと、新しいショーステージのみんなと……作りたいな)
ほんとうにここに作れるかも分からない、もしかしたら違う場所になってしまうかもしれない、それでも、もう一度作る。いつになるかも分からない、けど、どれだけ時間が掛かっても、もう一度ここにステージを、ワンダーステージを作ると、鳳えむは決めた。
「新しくワンダーステージを作ったら、名前はワンダーステージ二号ちゃんかな……ふふふ、なんだか楽しくなってきたなぁ~!」
(また、新しくワンダーステージができたら、もう一度奏ちゃんや絵名ちゃん、瑞希ちゃん、それに朝比奈先輩を呼んでショーをして、みんなに笑顔になってほしいな~)
「それから、それから……」
(今度は、櫻子ちゃんや司くんや類くん、それにネネロボちゃんとも一緒に、ここでショーをしたいなぁ~! 勿論、そのショーはニーゴのみんなにも見てもらうのっ!)
「あれ? 電話?」
そんな風に意気込んでいる時、えむの携帯が鳴る。
「もしもーし……って、朝比奈先輩? どうしました?」
「新曲の歌詞……鳳さんの意見もほしいから」
「え?」
「鳳さんの……鳳さんにしかない、特別な見方で私の歌詞をみてほしいの……納得いかなくて、これじゃ、奏にも違うって言われそうで……だから」
「分かりましたっ! 朝比奈さんっ! どこに行けばいいですか?」
「センター街の方に来て、適当なお店に入って話をしよう」
「分かりましたっ! すぐ向かいます!」
また、こうしてニーゴの皆と曲を作って、別の場所にはなっちゃったけど、そこでショーをして。
「あっ、そう言えば劇団名まだ決めてなかったなぁ……次の練習までに考えておこうっと!」
(ここからもう一度、笑顔でいーっぱいのステージをみんなで作るんだ!)