~誰もいないセカイ~
「うん……すごくいい……まふゆの歌詞がいつも以上に活きてる」
「ほんと、凄い……まふゆの感情が、いつも以上に伝わってくる……」
「ねぇ! これれ、ほんとうにえむが調整したんだよね!?」
「うんっ! でもねっ! いつもと違う事が一つあるんだ~なんだと思う?」
「えっと……」
「なんだろ。まふゆが歌った声を加工した……とか?」
「えむはそんな事できない」
「ちょっとあんた。そう言う事言わないの」
「ぶぶー正解はね~」
と言うと、えむはまふゆの方を一瞬見て。
「実はこれ、朝比奈先輩と一緒に作ったんだ!」
そしてまふゆの顔を見てえむは笑い、言った。
「まふゆと……一緒に?」
「そうだよ! 奏ちゃん! だから、凄く伝わってくるでしょ? まふゆの感情が!」
「うん凄い……すごいけど、所々にまふゆの歌詞らしくないのがある」
「確かに、いつもみたいにドロドロぐちゃぐちゃしてない」
「ほんとだ! いつものまふゆらしくない所がある!」
「ねぇ、まふゆ? ここの歌詞はどうしたの?」
えむ以外の全員が、一斉にまふゆの方を見る。
「……えむの感情を入れた……えむの気持ちを入れた……ただ、それだけ」
「えむの感情……?」
「そう。えむと話をして、この歌詞ではどんな事を感じたのかを聞いて、話し合って、使えそうな所は使った。それだけだよ」
「そうなの! まふゆちゃんの家にお泊りしたんだ~! お母さんも歓迎してくれたんだよ~」
「そうだね。私のお母さんも、フェニックスグループの鳳家の子だよって紹介したら、凄く喜んでた」
「ははは……まふゆのお母さんって、そういう人だよねぇ……」
「それでいいわけ……?」
五人はもう一度、えむが持ってきた曲を聞いた。
「やっぱり私、もう少し曲を手直ししたい」
「え?」
「私も……この曲にあうイラストをもう一度描き直したい」
「絵名ちゃんも?」
「私も、MV修正しようかな~絵名、今日って徹夜できる?」
「うん。できる、一緒にやろう」
~朝比奈家リビング~
「そういえば、この前遊びに来てくれた鳳さん。とてもいい子だったわねぇー」
「あぁ、そうだな」
「まふゆもいいお友達を作ったわね」
「ありがとう。お母さん」
「また、連れてくるのよ? あの子は家柄もいいし、成績もいいし、礼儀正しいし、まふゆのお友達にピッタリだわー」
「ふふ。そうだね」
~それぞれのナイトコード~
五人はそれぞれ作業をし、そしてまたナイトコードに集まる。
「えななん。ここ、動かすと変になるから、修正してもらってもいいかな?」
「あっごめん。すぐに、修正する」
それはえむも同じだった。
「みんなは良いって言ってくれたけど……でも、ここの歌詞、もうちょっとまふゆちゃんの感情を入れたいなぁ……」
考えて、悩んで、どうしようもなくなったら。
「まふゆちゃん! 今から世界に行ける?」
「……分かった。すぐ行く」
「それ、私も行っていいかな。曲の感じ、まだ掴めてなくて」
「良いよ! 一緒にがんばろーっ!」
そして、みんなで作品を作っていく。
この時間がえむにとってはとても楽しかった。
それと並行して、えむは遊園地のショーキャストとしてショーをする様になった。
目標は勿論。
「みーんなを笑顔にする事っ!」
(それと、ネネロボットちゃんを操作している人に会ってみる事)
(まだ、会えてないんだよねーいつか、会いたいなぁ)
~誰もいないセカイ~
「うーん……ねぇ、まふゆちゃん」
「なに?」
「ここ、もう少し盛り上がりが欲しいかな……って思って……」
「もう少し盛り上げるなら、私が音を入れようか?」
「それでもいいんだけど……それよりは……」
「ん?」
えむはもう一度歌詞を見直してから、この世界の静かな空気を吸って言う。
「まふゆちゃんの声……入れてみたいな……」
「……?」
「まふゆの……声?」
「うん……その方が、儚さ……みたいなのが、演出できるかなって……」
「私の声……それを入れてどうするの? その曲は、私の曲じゃない」
「でも、良いと思う」
「奏も、賛成なの?」
「私も、いつかニーゴのみんなで歌を歌いたいって思ってたから、良いと思う……」
「そう……奏がそうしたいって言うなら、やる」
「ありがとう……でも、どこで収録しようかな」
「あっ! それなら問題ないよっ! 私の家にある録音ブースを使えばいいから!」
「なら、その予定も決めないとね」
「……分かった」
もう一度歌詞を聞きなおし、奏が作ったデモ音源を聞いた結果、試しに少し歌ってみる事になった。
「♪~~~~♪ ♪―――――!」
「まふゆ。歌、こんなに上手なんだ……」
「わぁ~! 素敵だなぁ~!」
サビの辺りまで歌い終わると、まふゆは聞く。
「……どう?」
「すっっっっごく綺麗な歌声だったよっ! まふゆちゃん!」
「そう……? ありがとう」
「まふゆ、えむに抱き着かれも動じなくなったんだね」
「もう、慣れた……」
「慣れるものなんだ……」
「……うーん」
「どうしたの? えむ」
「まふゆちゃんの声だけだと、透明になりすぎるかな~って、もっと力強さも欲しいし、儚さも欲しいし、繊細さも欲しいし~」
「欲張りだね。えむは」
「それなら、私達の声も収録する?」
「え?」
「みんなで歌ってみたいなって、思ってたから」
~誰もいないセカイ~
~数日後~
「なにこれ、いい感じじゃん!」
「うん。前に歌聞いた時も凄いインパクトがあったけど、MVがついてさらに良くなったね……」
「……そう?」
「そうだね。まふゆの声と、ミクの声が上手くあってる」
「凄くいいものになってよかった~!」
「えむのおかげだよ……ミクの事も、私の事も、聞いてくれたから」
ニーゴの新しい可能性の歌。
それが、生まれた。
「これで完成じゃないんでしょ?」
「うん。これから、みんなで声を収録して、それを合わせてみる」
「みんな~! 今度の休みは私のお家に集合だよ~!」
~数日後~
~宮益坂女子学園1年B組~
「ねぇ、見てニーゴの新曲。ヤバくないっ!?」
「ほんとだ……でも、あれ? この声誰の?」
「ミクちゃんじゃない? 多分……」
(なんだか、ニーゴの事を色々な所で聞くようになったなぁ~嬉しい様な、恥ずかしい様な~うーん……)
「鳳さんは今日も二年生の先輩とお昼食べるの?」
「うんっ! ごめんね~今日はどうしても話したい事があってー!」
えむは廊下を走る。
勢いあまって二年生の教室を通り過ぎないか心配になるほどのスピードで走る。
「こら、鳳さん」
そんなえむが教室に入る前に、廊下で声をかけられる。
「あっ!」
その、少女は。
「朝比奈先輩っ! こんにちわー!」
「こら、廊下走った事ちゃんと反省してる?」
「えへへ、ごめんなさい……でも、朝比奈先輩と早くお弁当を食べたくてっ!」
~宮益坂女子学園中庭~
「見てください朝比奈先輩っ! もう、七十万回も再生されてます!」
「そう……良かったね」
「このコメント、朝比奈先輩の歌について書いてます……ほら、素敵だってっ!」
「そう」
「えへへー朝比奈先輩がいっぱい褒められてて嬉しいです!」
「……そう、鳳さんが笑ってくれて嬉しいな」
絵名の独特なイラスト、それを使って瑞希が作った可愛いMV。
そして奏は曲を作り、歌詞をまふゆが作り、それをえむが歌にする。
「みんなの声も沢山褒められてる~!」
「楽しそうだね」
「だってみんなで作った歌だから!」
「でも、その中には鳳さんの声もあるんだよね」
「もちろんっ!」
「なら、鳳さんの声が褒められるコメントもあるんじゃない? 探してみたら」
「私もいっぱい! いーっぱい! 歌の練習したから、褒められてると嬉しいなぁ~!」
(ニーゴの曲は今日も何処かで聞かれ、誰かの元へと届いていく)
(時々喧嘩しちゃったりもするけど、でも私達は、それでも曲を作り続ける)
(私は、みんなを笑顔にする為に……また、あの場所でショーをする為に曲を作り続ける)
「まふゆちゃん! 次の曲の歌詞、楽しみにしてるね!」
(もっと沢山の曲を作って、沢山の歌を歌いたいな!)