拓馬と『コンビニちゃん』   作:よくかんさん

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その2

『ぎにゃああああああ!!?』

 

 感覚の鋭い人間がやっと聞こえるような悲鳴が、騒音響く格納庫で確認作業をしていた水島の耳に入った。

「なんだぁ?!今のドラ猫が木の上から落ちたような悲鳴はよ!」

「……そんなの聞こえたか?」

「いや?水島、気が立ちすぎて過敏になってら」

 

 D2パイロット水島隊員は苛ついていた。

 敷島博士の愛が重すぎる思いつきの犠牲……いや白羽の矢が水島が乗るD2に当たり、不和的超電磁パルスに対抗したマルチファンクションビームコート剤の試験的運用とそのデメリットに対する多角的対抗策アプローチについて……ヤバいビームとか電波とかに対して色々とスゴいバリアになるコーティング剤を使ったらどのくらい無茶とか出来る?という実験に使われることになった。

 誰もが嫌がる敷島博士のドキワク胸キュンエクスペリメント。パイロットたちはこの無軌道的にまれによくやってくる素晴らしいくも愛らしいひらめき(敷島談)がこない事を日々祈っていた。

 それが今回、水島の所属する小チームの下にやってきたのだ。

「3日も使えないって、その間にアンドロメダ流国のインセクター共がやってきたらどうなるってんだ!!あのクソボケマインヘッドジジイ……オレのD2に変なことしやがったら絶対許さねえからなぁー!!」

「おいおい水島、気持ち分かるけど落ち着けって……」

 チームメイトが水島を落ち着かせようとあれやこれやとなだめるが、大火事に水をさしてもただただ勢い良く燃え上がるだけだった。

「くそっ!こうももたもたしてる間にあのルーキー様に何もかも先越されちまうってか!……ついこのあいだまで何も訓練なんかしてない一般人なんだぜ!?素質があろうが何だろうが、これだけ差が出るもんなのかよ!」

「おい水島!どうしたんだよ、らしくないぞ。拓馬のことなら一般人だったのは過去の話だろ?今はエースだよ、アイツは。俺らだってもうアイツの実力を信用している」

「チッ……うるせえよ!」

 水島のわだかまりは拓馬の活躍にも関係していた。

 復讐のためにやってきたボロ布をまとった青年が、あれよあれよという間にゲッターロボアークのパイロットとなり、あの気難しいカムイにも認められ、今や早乙女研究所所属パイロットのトップガンの一角になった『流拓馬』。

 拓馬はアークチームの要として信用され、一目置かれている。主要人物と言ったほうが正しい。

 成果を出せば自ずと信用されるもの。それを水島は羨んでいた。

 彼女の頭には『信用』される事への拘りが強く現れていた。

―じゃあオレは、大事な妹分に信用されてるか?D2パイロットだからそれ以上は望めない、目に見える功績がないから妹分にこれ以上の信用はされない。オレがゲッターロボアークに乗れたら、功績があれば……きっとアイツは手術費を受け取ったんだよ!

 水島には左目に持病を抱える親戚の妹分いる。その妹分の為に手術費を密かに貯め、最近やっと耳を揃える事ができた。しかし、妹分は目の手術を拒否した。

「デカおねェちゃんに悪いからいいよ。あたしはもう独り立ちしたんだし、あとは私が何とかするわ」と、お金のことになると全く受け取ろうとしなかった。

 水島は妹分が手術費を受け取らないのは、自分に金の工面ができるだけの信用がないからだと気に病んでいた。

―今すぐ功績が欲しい。……アークに乗れる資格なんて無いのはわかってる。ならあのアーク乗りの三人より、何か大きなことを成し得なきゃダメだ。ただのD2乗りじゃ、アイツが素直に手術費を受け取るくらいの成果と功績が無きゃダメなんだ。

 気が急く水島の目線の先にはピットに入れられた愛機。メカニック達はまだ整備に取り掛かかったばかりだ。

 

 水島の苛つきはまだ解消されそうにない。 

 

*

 

 早乙女研究所から少し離れた大きな街。

 商店が立ち並び、バイタリティに溢れた活気のある人だかりがあった。街を復興させようとする活力がそこには満ち満ちている。

 厳つい多目的自動車が、落ち着いた雰囲気の店の前で停車した。

 車から降りた拓馬、獏、白いスカーフで顔の鱗を隠したカムイの三人はその店について三者三様の反応をする。

「よしよし、地図のとおりだ……ここだな!拓馬、カムイ、ついたぞ!」

「おい、ちょっとこの店気合入り過ぎじゃねえか……?」

「なんだ、アレだけ啖呵切ったのにもう怖気づいたのか」

「ンだとお!!……いいぜ、行ってやる。いざ服屋へ!」

「こう言うのはセレクトショップというんだ」

「え、ブティックじゃないのか!?」 

 三人のトリオ漫才より少し時間は遡る。

 

 

 自分らしくない悩み、ガキそのものな青い胸のつかえ。知らなかった異性への淡い好意の感情。その芽生えを二人にはっきりと見られてしまった。流石の拓馬もあれ程の情けないところを見られては取り繕うこともできず、観念するしかなかった。

「なあ、拓馬。お前にもやっと青春の芽生えが来たんだなあ」

「なんだよ……急にやってきたと思ったらジジィ臭いこと言いやがって」

 なんとも言えないきまりの悪さに拓馬はぶっきらぼうで投げやりな言葉を吐いた。

「拗ねるなよ。お前がさっきの事をちゃんと考えてくれたようで俺は安心したぜ。……コンビニちゃんに恋、したんだな?」

 軽口を返すタイミングなのに、こうもあけすけに言われてはどう返せばいいか分からず、拓馬は気をそらすため視線を移す。

 が、今度はカムイと視線がかち合い『早く言え』と催促の睨みを利かされる。なんでカムイもここにいるんだと思いはしたが、ここで無駄に口答えするの情けなさに輪をかけるだけだった。

 拓馬は短くため息を吐いて、正直な気持ちを吐露する。

「わかんねえ……この気持ちがそういう意味なのか。最初にあった時はキレイだなとかまだコンビニちゃんと話したいとも思ったんだよ。でもこれは恋なのか?あのとき以外はふつうに接してたんだぜ。今さっきまではとてもいい子くらいに思ってただけで……本当にわかんねえんだよ」

 まるで少年の純情を豪速球でぶん投げたような告白に、カムイは片手で顔を覆った。目の前にいる仲間のあまりにも重症な初心者っぷりに目眩がしそうだった。

「はぁ……この恋愛初心者をどうやって完全な自覚をさせるんだ。獏、案はあるのか?」

「ある!まあまずは、服を買いにいくか」

「服?拓馬にか?……ああもうそこまで行動に移すのか」

「女子とお出かけするには服くらい良いのは揃えないとな」

 二人が納得しても蚊帳の外な拓馬は承服しかねる。拓馬は一体何ごとだと獏に詰め寄った。

「獏、ちょっと待てよ。俺が服を買って。で、だれが女子とお出かけなんだよ」

「拓馬がコンビニちゃんとお出かけするんだ。ようは、デートだな!」

「で、でぇ……えっ?」

 拓馬自身の人生で全く関わりのなさそうな単語を理解するには、あと少し時間が必要だった。

 

 カムイが研究所の多目的自動車の貸出許可と外出許可を取る間、獏と拓馬は待機室で待っていた。

 獏はいつもより大人しい拓馬にまだ出会ったばかりの拓馬を見ていた。無力な自分を変えたいと願う我武者羅に走り続けた少年がそこにいた気がした。

「こう、ゆっくり話すのも久しぶりじゃないか?」

「ん……、そうだな」

 覇気のない受け答えに少々詰め込みすぎたと反省し、カムイが来るまでの間、獏は独り言のように拓馬に語りかけた。

「初めての感情って戸惑うよな。ずっと自分のすべてを一つの目標だけの為に注いできたのに知らない感情が現れたら混乱もする。まあ、拓馬のことだからもう少し時間があれば違うだろうけど、タイムリミットがあるからな。……俺達には時間がない」

 拓馬もそれは分かってはいる。地球はアンドロメダ流国により数カ月も経てば虚空へと消滅してしまう。こんな地球規模の問題があるのに自身の感情うんぬんで獏とカムイの二人を煩わせるワケにはいかない。

―もっと単純なはず、俺は迷うことなく好きも嫌いも正直だった。それなのに。

「今の俺は……」

「『らしくない』」

 獏にはもう拓馬の言葉や悩みが手に取るように分かっていた。だが、拓馬はこのやりとりに懐旧の情を感じ取り、嫌いではなかった。

 拓馬は昔の自分と獏の幼かった頃を思い出す。問題にぶつかって悄気げていたときに隣にいて諭してくれたガキの頃を。

「そうだな、『拓馬らしく』ないな。でもそのらしくないところもお前だ。価値観を壊されて、迷って、我武者羅になって…それで新しい自分を見つけるんだ。拓馬の感情が恋か友情か、その本質を識る為にコンビニちゃんと出かけて自分を試してこいよ」

「…おう」

 拓馬は戦う理由と地続きだったものは全て乗りこえ受け入れてきた。それは自分の本質が戦いにあり、母の復讐の為ならば何も迷いはしなかったからだ。しかし、いま自分を惑わせてるものはまったく自分はになかった想い。恋かもしれない淡い好意。

 戦いとは縁のなかったこの感情を、知らないことを自覚したのなら、この感情を理解したいと拓馬は強く思った。コンビニちゃんへ恋をしているのか、友人として見ているのか。

 ふと、獏の言っていた「我武者羅」という言葉に、今までの自分のことと重なり合う。

―そうだ、行動に起こさなきゃ何もわからねえ。どういう感情であれ悪感情はなかったならデートでもなんでもいい。自分からモヤモヤした感情にケリをつけてもいいんだ。

 拓馬の振れていた芯がカチリと固まった。

 

「許可は取ってきた。今すぐ行ける」

 カムイが待機室に来るころには拓馬は少し男の顔つきに戻っていた。カムイは「杞憂だったみたいだな」と、拓馬の『コンビニの店員』への感情が着実に形に成っていく有り様を見た。

 拓馬の胸中にはまだ青くモヤモヤとした感情はある。けれども、それから逃げることはもうないだろう。 

「カムイ、許可申請全部任せてすまないな」

「俺はお前たちより権限が与えられている。下手に動かれるよりはこちらで処理したほうが早い、気にするな」

「そう言ってもらえると助かる。よし、じゃあ行くか」

 獏が車に向かい拓馬も同時に行こうとすると、カムイに呼び止められる。そして拓馬は質の良い紙切れを渡された。

「拓馬、お前は俺達にあの情けない姿を晒してもそのコンビニの子にはまだなんだろう?」

 それは小切手だった。あまりの気前の良さに目を丸くし閉口する拓馬だが、カムイは平然と「一生のお願いを獏にされたからな」と言い言葉を続ける。

「それが今必要なのは俺じゃない、遠慮はするな。……その子に恥を晒して砕けてこい」

 カムイの口の端がほんの少し上がっていた。

 これは拓馬への挑発であり激励だった。

「……へっ、分かってるって。っおっしゃああ!ちゃちゃっと服買ってビシッと決めるか!」

 

 

 店の外から見えるディスプレイには素人でもわかるくらい高そうで高級そうな服が飾られている。さっきはビシッと決めると言ったものの、思った以上の店構えを見て、拓馬は少しばかり怯んでしまった。

―思ってたのとちげえなあ…。正直、作業着でくるのは場違いな雰囲気だぜ。ちょっとばかしグレードの高い服屋に行くものだと思ってたのに、ゼロがメチャクチャたくさんついてる服ばっかりじゃねえか。

 店内はさらに様々なメンズブランドが揃い踏みしていた。ファッションに拘りがないと言っても、こうも高いものだらけな服を見れば気が引ける……いや引き締まる。

 獏とカムイからダメ出しというアドバイスを受けながら拓馬は自分になんとなく合いそうな服を探し、いくつかをチョイスしてカゴに入れていく。

 

1着目

「赤のレザージャケットに黒のレザージーンズは無いだろう」

「なんか格ゲーにいそうだな!しかも女子のこと苦手になりそう」

2着目

「グレーシャツに青ストライプネクタイ、ネイビーパンツ…堅すぎる」

「普通なら医者みたいな頭が良さそうな風に見えるはずだけど、焼け石に水というか。拓馬には真面目すぎてデートには向かないだろうなあ」

3着目

「Vネックシャツにシアンブルージャケット、スラックス…いやこれは拓馬じゃなくてユウ」

「やめやめ!女子に王道から外れたプラモすすめそうな感じビンビンするぞ?!」

 

 あれはどうだこれはなんだ、拓馬が服を揃えれば獏とカムイのファッションチェックとかいうガヤがうるさい。それにわざわざ一着づつきせかえ人形を散々させられては、頑丈で体力のある拓馬も気が疲れてしまった。

「だぁったらなにが良いってんだよっ!これ以上なんやかんや言うならこの作業着のままで行くからな!」

 とうとうキレた拓馬に遊びがすぎたと真面目に探し出す二人。怒れる拓馬を納得させる何かイイ感じな服はないかと見渡すと、獏はちょうどマネキン前でディスプレイの調整をしていた販売スタッフと目があった。

 自分たちで探すより餅は餅屋、馴れないものはすべてプロにおまかせである。

 

 落ち着いた色のテイラードジャケットにリブニット、ジャケットの色に合わせたチノパン。やや大人めの印象にみえるが、着こなせばこの一着で雑に着回ししても上手く合わせられるようなセット、らしい。

「はあ、最初から服屋の店員に頼めばよかったぜ…」

 販売スタッフの「お似合いでしたよ」の決まり文句に「ありがとよー……」と、疲れ果てた顔を隠さず一式を持って拓馬はレジに向かう。カムイからもらった紙切れを出し、初めて使う小切手にどうやって支払いすればいいかと四苦八苦しながら会計を済ませた。

 それにしても……と拓馬は領収書をまじまじと見る。最初は小切手に書かれているゼロが多すぎると思ってたのに、お出しされる領収書もゼロが多かった。

―すげえ金額。これっておにぎりとコーラとお菓子、どれくらい買えんだろうな。ゲットマシンくらいの量買えっかも?

 

 高い買い物をしても、拓馬のお金の基準は何処までもコンビニの商品だった。

 

*

 

 朝日が出て間もない時刻。

 暇を見つけては来ていたコンビニがあまりに遠く、そして一瞬で着いたと感じた矛盾に拓馬は苦笑いをする。

 一張羅を購入したあと獏の指揮の下、拓馬がスムーズかつスマートにコンビニちゃんをデートに誘うにはどうしたらいいか、どういうデートにしていくかというミーティングが行われた。少々獏の熱が上がりすぎる事もあったが、カムイの冷静且つ適当なアシストもあり無事仮スケジュールが組まれた。

 後は、拓馬の根性だけ。なのだが、どうやら思っていた以上にデートに誘うという行為に緊張しているらしい。

 拓馬は『いつも通り』に店内に向かうイメージを思い浮かべ、努めて明るく挨拶をしようとした。

「ぃようコンビニちゃん!……って、いないのか?」

 客人が少ない早朝を選んできたのはいいものの、本人もいないとは予想外だった。

 拓馬も研究所に待機しなければならない時間帯がある。とりあえず、時間の許す限り待つことにした。

 

「ご、ごめんなさい!その、バックヤードから離れられなくて……」

 慌ただしく店の奥から現れた彼女は、離れられなかったというより観念して出てきた風のオドオドした様子で現れた。

 拓馬は彼女が何故直ぐに姿を現さなかったのかその原因を察した。

「お、おい。どうしたんだその左目。眼帯なんかして何かあったのか?」

 いつもならトレードマークの笑顔で『いらっしゃいませ!』と元気な声で迎える彼女はそこにはいない。暗く、振り絞るような笑顔には苦い色があった。

「ちょっと、持病悪化しちゃってね…」

 彼女が言うには幼少の頃からの持病という話だった。必死に走っていた時に転んで目に異物が入ってからおかしくなったという。

「無理すんなよ、何かあったら遅いんだぜ。兄貴だって探さなきゃなんねえなら無理を押すのは今じゃないだろ」

「うん、そうね……。急だけど臨時で2日くらい休もうかな」

「いや休むだけじゃなくて病院行けって。自分で悪化してるって言ったじゃんか」

 弱りきった彼女の思考は、まるで自分をコントロールできてない内罰的な方へと落ちていた。拓馬の気遣った言葉もまるで耳に入らない。

「昔言われたの、治る見込みはほぼ無いだろうって。それに一回の手術で莫大なお金かかるのよ、そう簡単にはできないわ。それにこれくらい我慢できる、」

「だからいいの」と事態を完結しようとした彼女の両肩を拓馬は強く掴み、正面へ向き合わせた。彼女は目を合わせようとしない、明らかに拓馬に壁を作っていた。

 それでも拓馬はそんな心の壁など構わない。

「あのな!自分が我慢すれば万事収まるとか思ってんならおこがましいってやつだ!コンビニちゃんを心配してるやつ、助けてくれるやつが近くにいるだろ。なのに我慢すればいいだとか言っちゃあよ、人の親切を考えねえで裏切ってるようなもんだ!それに治るかわかんねえってのは昔だろ?今見てもらったら良くなる方法があるかも知れねえ」

「……でも親切に甘えちゃ、ダメじゃない」

 伏せ目がちになる彼女の視線に自分にもう一度向き直させるよう拓馬は顔を近づけた。彼女は悪化した目を隠したいという気持ちの他に、意気地のない自分自身を拓馬に見られたくなかった。

 しかし、拓馬は彼女のきもちを知ってか知らずか、右目の視線が逃げることを許さない。今彼女が自分と向き合わなければ、何も変わらない。一歩間違えたら、彼女の笑顔は戻らない。そういう予感がした。

「コンビニちゃんらしくねえな、そんなうじうじした考え方。他人に甘えてなかったら『甘えてない』つもりか?自分にダダ甘じゃねえか」

「なっ…あたし、自分なんかに甘えてないわ!」

 彼女が一番言われたくなかった『甘え』という言葉、しかもそれが『自分で自分を甘えさせている』などと、彼女は認めたくなかった。

「いいや状況に甘えてるな、根っこが変わるのを恐がっている。それじゃあ何も変わらねえよ」

 本音を晒した言い争い。それはもう客と店員との立場ではなく、知人以上の間柄だからこそ起きた事だった。

 拓馬は直情型でありならが物事を捉える力があった。なんとなく、彼女の『変わることへの恐怖』が、その根っこの先に『行方不明の兄は死んでいるかもしれない』という恐れと、今までの生きてきた意味と希望を失くしてしまうという恐怖とが繋がっていると直感した。

 弱っているからこそ心が悲観的に錯覚している。

 拓馬は強く掴んでいた肩をゆっくりと離し、少しバツが悪そうに頭を掻きながら頑なになる彼女へ柔らかく向き合う。

「つったってよ、俺もコンビニちゃんと何も変わんない事やってたけどな」

「……拓馬くんが?」

「獏とカムイにバッチリ情けないところ見られちまってさ。うだうだうじうじ、そりゃあもう全然カッコつかなかったぜ……。俺らしくないだろ?」

 何が理由てそうなったかは隠しながら、拓馬は自分がやってきた無自覚ゆえの焦りや戸惑いを彼女に打ち明けた。

 変わることは辛いかもしれない、怖いこともある。でも変化を受容できれば強くなれるし立ち向かえる、俺がそうだったと。

 拓馬は彼女に少しでも立ち直るきっかけを自分の失敗談とともに伝えたかった。恐怖に勝ってほしかった。

 彼女は彼女で普段通りそうなのに1日前は朝から晩まで自分らしくなかったという拓馬の話が意外で、そんな『拓馬らしく』ない話を自身の様に聞き入っていた。

 

 ひとしきり拓馬の話を聞いていた彼女の顔からは暗い焦りが薄れ、いつもの笑顔が戻っていた。

「……拓馬くん。あたし、手術受けてみる。話を聞いてたら、あたしも随分から回っていたかなって思って。実はね、いとこが手術費用意してくれていたんだ。もしかしたら良くなるかもしれないからって。でもずっと突っぱねてて…遠慮じゃないわね、いつか返すってやり方もあったのに」

「おう、その笑顔のほうが『らしい』ぜ。あ…わりぃな。こんなこと言いに来たワケじゃねえのに」

 丸く収まったからいいものの、こんな口喧嘩をしたあとだ。あまりにもデートに誘うという行為は図々しい。ここは何も言わずに、獏とカムイへの謝罪を込めたお菓子でも買って帰ろうと拓馬は考えてた。

「拓馬くんに言われて目が覚めたわ、だから謝らないで。……でももし、まだ悪いって思うなら」

 本来のお転婆で茶目っ気のある笑顔で彼女は拓馬を見る。彼女は早速寄っかかるだけの甘えじゃなく、人に頼る甘えを覚えたようだ。

「明日の病院の帰りに…デート、してくれない?」

 

*

 

―チビ子か。急になんだ?……お、おう!なんだよそんな謝るなよ!そうか、手術費受け取ってくれるのか!でもどうしたんだよ、目の手術に前向きになるきっかけとかあったのか?

―ほ〜ん、とうとうお前にも男ができたか!そりゃそうだチビ子は美人だしなぁ。ん?友達ぃ?……へえ、気持ちを変えてくれたお礼……まあいいさ。……早乙女研究所の?おいおい誰だよー、オレもそいつにお礼言わなくちゃな!

―え?………いや。暗くなってねえよ?手術になったら呼んでくれよな、ドーンと札束積み上げてやるからさ!

 

 妹分から電話が来た。嬉しいことにあいつはやっと目の手術を受けると言ってくれた。

 それは本当に嬉しいことだ。けれど、妹分の背を押したのはあの拓馬だった。

 いつ仲良くなったのかは知らないが……オレは妹分を変えてくれた恩人とも言える奴に、敵意じみた感情を持っていたのか?

 ……どうするんだ。謝るか?いや、直接何もやってないのに謝るだなんてあいつも困惑するだろうし。でも、この行き場のない罪悪感はどうしたらいい?

 

 今のオレには、その答えが見つからない。

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