カルデア――それは人理を守るため、数多の英雄たちが集う場所である。
基本的にはカルデアに集う英雄――サーヴァント達はあまり表立って揉め事は……起こさないとも言い切れない。
現に私の目の前では醜い争いが繰り広げられている。
「貴方ッ……!私のおはぎを食べましたね……ッ!!」
「いいじゃないですかぁ……?おはぎ如きで喚くなど子供ですよ?」
食堂のほぼ真ん中で二人の元ビースト、殺生院キアラとカーマは不毛な争いを繰り広げていた。
「ふんッ!大体、貴方こそ子供じゃないですか?人の物を勝手に取って食べるなんて、同じビーストだったと思えない程に幼稚ですよ……?ふふ……」
先程まで狼狽していたキアラもすぐに冷静さを取り戻しカーマを嘲るように見る。
カーマが若干表情をイラつかせるとキアラは更に煽り始める。
「まったく……人の物を勝手に盗って食べているくせに”愛の女神”なんて名乗るなんてお笑い草にも程がありますよ?」
「まぁ、仕方ないでしょうか……自称”愛の女神”様は品性が無いようなので……ふふふ……」
「このッ!言わせておけば――ッ!!」
「ふふ……そういうところがレベルが低いと言っているのですよ?”愛の女神”さん?」
お互いにドス黒いオーラを出しながら、じりじりと詰め寄っていく。
キアラはあまり戦うつもりがないようだが、カーマは今にもキアラに襲いかかりそうな程に殺意が滲み出ていた。
食堂内のサーヴァント達は止めようにも止めに行ったら殺されるんじゃないかという雰囲気で沈黙せざる得なかった。
「(まずい、このままだと食堂が破壊されちゃう……!)」
キアラ達とは少し離れていた所で座っていたマスターである私は咄嗟に令呪を発動しようと思い手の甲を出すと……残り令呪が――無かった。
「(しまったぁぁあああ――ッ!私そういえば宝具を使わせるために令呪三回使ってたじゃんッ!)」
過去の自分に百回ぐらいビンタしてやりたいと心で叫ぶが、そんなことをしている間にも二人は徐々に臨戦態勢を整えていく。
「本当にここで殺し合うつもりですか?私、無意味な殺生は嫌いなので……」
「なら、無抵抗でいてください……その方が始末するのが楽ですから」
「それは嫌です、貴方如きに消滅させられるなど恥以外の何者でもありませんから……」
あ――これは終わったな、と確信を覚える程に二人の目は殺意に満ち溢れている。
むしろ今までよくカルデアで殺し合いをしなかったのか聞きたくなるぐらいだ。
「(もうどうにでもなれぇぇ……!)」
完全に思考を放棄しようとしたその時――
「貴様ら――ッ!食堂で何をやっている!」
怒声と共に高速で食堂の厨房奥から何かが飛んでくる。
突然の事で回避行動をとれるはずもなく――
「な――痛っ……!」
「え――がっ……ッ!」
飛んできた投擲物、干将・莫耶の柄の部分がキアラとカーマ両名の後頭部を打つと、二人はその場で気絶した。
そして干将・莫耶はそのまま厨房から出てきたエミヤの手元へと綺麗に収まる。
「全く……この神聖な場所で喧嘩を起こすとは……本当に救えん奴らだ……」
ため息をつきながら二人の元へ向かいながら文句を垂れる。
誰も手が出せなかった二人に容赦なく刀剣を投擲するエミヤに誰もが畏敬の念を感じていた。
「少々……やり過ぎたか?」
少し身体を揺さぶりキアラとカーマを起こそうとするが中々目を覚まさない。
面倒なことになった……と頭を押さえつつ、より深いため息をつく。
「マスター!この愚か者達を運ぶ、手を貸してくれ……」
「わ、分かった!」
突然の事で固まっていたが、すぐにエミヤの元へ駆けつける。
「マスターは殺生院キアラの肩を持ってくれ、俺はカーマを持つ」
「分かった……!」
指示通りキアラの肩を支えつつ、その身体を引きずるようにして歩く。
エミヤはお姫様抱っこでカーマを持ち上げて歩く。
「すまないな……マスター、君も女性だろうにこんな事を頼んでしまって……」
「いや、いいよ気にしないで……これもマスターとしての務めだから」
同情するようなエミヤの目はまるで自分も体験したかのような眼差しだった。
「はぁ……どうしてカルデアには問題児が多いのだろうな?」
「本当にね……なんでだろ……?」
「「はぁ……」」
苦労を重ねる同志として言葉を交わしながら、二人を部屋まで運んでやるのであった。
――――
キアラとカーマの揉め事から数時間が経った。
流石にあの程度の事で異常が起きないと思うが、念の為に部屋を訪ねて見ることにした。
気絶させた本人であるエミヤも私の意見に賛成し、カーマの様子を見に行ってくれている。
「私は……キアラさんか……」
私がいざ扉の前に立つと妙に緊張してくる。
正直キアラは元ビーストということもあり、全面的な信頼を置いていない。
だが、それでも私のために戦ってくれているところを見ると、憎めないのも事実だ。
「おーい!キアラさん!あの後大丈夫だった?」
扉越しに声を掛けてみるが、返事は返ってこない。
寝てるのかな?と思いノックを数回交えて呼び掛けることにした。
「おーい!大丈夫ー?」
多少声を張り上げて見るが、やはり返事は無い。
「(キアラさん……おはぎ食べられた事、まだ引きずってるのかな?)」
キアラとそこまで親密な関係ではないため、彼女の好きな物を聞いたことが無かったが、まさかおはぎが好きとは驚いた。
それに、普段余裕のある表情で人と接する彼女があそこまで血相を変えているところは、中々に物珍しかった。
「(まぁ、今はそっとしておいてあげよう……)」
もしかしたら部屋には居るけど話したくない状態なのかもしれないな、と結論付け部屋を後にしようとすると――
ガタンッ!とキアラの部屋から物音がした。
「ッ……!?」
予め貰っておいたマスターキーを使って部屋に急いで入る。
「ぅ……あ……」
「キアラさん――ッ!?」
キアラはベットから転がり落ちた状態で床に倒れていた。
傍に駆け寄り慌てて顔色を見ると、どうやら深刻なものでは無いことは分かったが、普段と比べてどこか雰囲気が違うような気がする。
尼僧服から長い髪がはみ出している姿だけで、どこかに色気を感じてしまう。
「(キアラさん……よく見ると綺麗……髪もサラサラだし私もサラサラがいいな……って!そんなこと考えてる場合じゃなかった!)」
自分で突っ込みを入れている間にも、キアラは間もなくして目を開け始めた。
「ぅ……ん……ここは……?」
「キアラさん――ッ!起きてくれて良かった!」
とりあえず消滅などという事にならないだけでも良かったとキアラの手を握って喜ぶ。
少し大げさかもしれないが、それほどまでに私にとってサーヴァント達は大切な存在だ。
「あの……どうして私はここに居るのですか?」
「え?覚えてないの……?キアラさんがカーマにおはぎ盗られたことで喧嘩しそうになった時に、エミヤの双剣の柄に当たって気絶し――」
「すいません……カーマとエミヤというのは誰でしょうか?」
「えっ……?」
言葉を遮るキアラの困惑した声と表情に思わず黙り込んでしまう。
からかっているのかと一瞬思ったが、表情からして本気のようだ。
「(私はあまり信じたくないけど、これって……まさか……?)」
キアラの表情は勘違いではないと確信できるほどに別人の者へと変わっているということが分かる。
いつものキアラからは考えつかない程に自信が喪失してしまっている顔に変貌しており、顔から憑き物が取れたかのように純粋な目になっていた。
聞きたくないことだが聞かざる得ないと判断し、何とか言葉を編み出す。
「あの……言いづらいんだけどさ……もしかしてキアラって、記憶が無くなってたりする?」
「はい……自分の名前と貴方がマスターであるということは覚えているのですが、それ以外はどうも思い出せなくて……」
キアラの話によると、自分がどのような性格だったのか、どのように喋っていたのかすら喪失してしまっているらしい。
おまけにカルデアに来てからの記憶、自身のしでかした事も忘れているという始末だ。
「とりあえず、ダヴィンチちゃんに見てもらおう!ダヴィンチちゃんなら何とかできるかも……!」
正直言って解せない部分もあるが、ひとまずキアラの状態を何とかしなければいけない。
「本当ですか……!?ありがとうございます……!マスター!」
先程までの不安な表情から一転し、キアラは顔をパッと明るくすると、これでもかというぐらい手を握りしめて喜びを表現する。
「今の私は記憶が曖昧ですが、ぼんやりですが本来の自分がやったことは覚えているのです……マスターの反応を見るからに私は貴方と一度戦っているのでしょう……?」
「ぅ……!そ、そうだけど……で、でもそれは過去の話だからね……!気にすることないよ!」
「いえ……だとしても、マスターに刃を向けたというのは事実です……そんな私にここまで良くしていただくのは……とても、嬉しいのです……」
言葉を紡ぐキアラの姿はどこか淑女の雰囲気を感じさせ、普段とのギャップから、どうにも背中がむず痒い気持ちになる。
「キアラさん……?涙が……」
「え?あ……本当ですね……!ふふ……私ったら、涙脆くて……」
キアラは慌てて涙を拭い笑って見せる、こんなことですら涙を流して喜ぶ姿に感動する反面、元のキアラの人格とは全く正反対の姿に眩暈がしてきそうだった。
キアラが落ち着くまで待とうと思った矢先、エミヤから通信が入った。
『こちらエミヤ、マスター……殺生院キアラはどうなっていた?』
「いや、それが記憶が無くなっちゃってるみたいで……今からダヴィンチちゃんの所まで連れて行こうとしてたところ……カーマはどうだった?」
何気なく返答を求めると、エミヤはため息をつき無線に応答する。
『言いにくいのだが……その……カーマも、どうやら記憶が飛んでいるらしい……』
「カーマも!?」
素っ頓狂な叫びを上げると、エミヤは部屋に入った時の出来事を鮮明に話し始めた。
話されたことを簡単にまとめると、先程私が体験した出来事と同じことが起きたらしい。
エミヤは急いで駆け付けたが、キアラと同じで自分がサーヴァントであるということと、マスターの存在だけは忘れていないような状態であったため、私と違いカーマに抵抗され、取り押さえるのに苦労したとエミヤは無線越しに疲労が伝わる声で呟いた。
「ご苦労だったね……ところで、カーマは今どうしてるの?」
『ああ……先程まではロープで縛りつけていたのだが、何回か説得したら素直に分かってくれたようで、今は大人しくしている』
「よし、それじゃ……とりあえず、ダヴィンチちゃんの所までカーマを連れてきて、私もキアラさんを連れて行くから」
『了解だ』
無線が切れると、早速行動を開始することにした。
「キアラさん……それじゃ、行こうか?」
「はい、マスターの仰せのままに……」
キアラは私の言葉に頷くと、雛鳥のように後ろに付いてくる。
キアラと仲良く接することができるのは嬉しいが、今後の事を考えてみると嫌な予感しかしない。
「(はぁ……キアラさん記憶が戻ったら、こんな和やかな時もなくなるのか……)」
キアラの普段の顔を思い浮かべつつ、今の純粋無垢な顔を見比べてみると、そんなことを思わざるを得なかったのであった。
――――――
「え!?原因が分からない――ッ!?」
「うん……ごめんね、私も出来る限り調べてみたんだけど……」
ダヴィンチの部屋に私の驚きの声が響く。
私の様子に苦笑いすると、目の前の少女……レオナルド・ダヴィンチは頬を掻きながら、目の前のモニター画面を見続ける。
「いや、私も最初はホームズに聞けば何とかなるかなって思ってたんだけど……いざ殺生院キアラとカーマの霊基の異常を確認すると、異常無しって結果が出ちゃってね……」
ダヴィンチがモニタの図を指すと、そこにはキアラとカーマの詳細なデータが掲載されていた。
今回の検査結果は……ダヴィンチが言った通り、魔力供給に問題はなく、身体にもダメージなどは確認されていない。
「すまない……私も出来る限り力になりたいが、原因が分からないじゃどうしようもない……」
「こちらこそ、急に押し掛けてごめんね……」
軽くダヴィンチに頭を下げると、そのままダヴィンチの部屋を後にした。
部屋を出ると、扉の脇にエミヤが腕を組んで待機していた。
「結果はどうだったかね……と聞く方が野暮か……」
少し気を落とした様子の私を見てすぐに察しが付いたようで、エミヤはため息をつきながら上を見上げる。
「まぁ……マスター、気を落とすな……これは元々私が負うべき責任だったのだ、君がそこまで肩を落とす必要性は無い」
「うん……」
エミヤから励ましを受けても、やはり微妙な表情しかできない。
エミヤもそんな私の様子に憂いを感じているようで、彼にしては珍しく思い詰めた顔をしていた。
どうしたものか……と私も考え込んでいると、こちらに向かって手を振りながら笑顔でカーマとキアラが近づいてくる。
「「マスター!結果はどうでしたか――!?」」
「あ……うん、それが……」
いつもの様子とはまるで別人かのように明るい性格に変わっている二人に、思わず言葉を濁してしまう。
キアラはある程度慣れることができたが、カーマは慣れるまで時間が掛かりそうだ。
「申し訳ないんだけど、二人がこのまま治るかどうかも分からない状態でさ……ダヴィンチちゃんも手は尽くしてくれたんだけどね……」
目を伏せて、キアラ達に淡々とダヴィンチから伝えられた事を話していく。
話すにつれて、やはりキアラ達の顔には動揺した表情が浮き出てきた。
「ごめんね……キアラさん、カーマ……」
罪悪感から軽く頭を下げるが、そんな姿にキアラはすぐさま平静を取り戻し、私に穏やかな笑顔で声を掛ける。
「いいんです……マスター、元は私達に原因があるというのは他の英霊方に聞いて分かっていますので……それより、おはぎ食べません?」
「え?」
突然のキアラの言葉に思わず、顔を上げてしまう。
「私も、食べたいです!甘い物には目がありませんから!」
キアラの提案に対して、大人の姿でありながらカーマも子供のようにはしゃぐ。
「エミヤさん……?もしよければ、おはぎ……作っては下さらないでしょうか?」
「あ、ああ……了解した、まだ材料の余剰はあるはずだからな……」
エミヤは少したじろぐが、すぐさまキアラの依頼を承諾した。
相変わらず尼僧服で髪を隠さず、垂らしている彼女の様子を見ると、どこか聖女のような雰囲気を出しているように感じ取れた。
エミヤも普段のキアラを化物を見る目で見ているが、今のキアラだけにはどこか見惚れているような目に変わっていた。
「そういうわけなので……気持ちを切り替えましょう、マスター?悪いことばかり考えると、本当に悪いことばかり起きちゃいますよ?」
口元に手を当て、微笑む彼女の姿はどこか元のキアラを彷彿とさせるものだったが、今のキアラは童女しか出せない、独特の魅力を放っている。
そんなキアラに私は、一言も発することができず、ただ見惚れることしかできなかった。
―――――
「はい、マスター……口を開けて下さいねー?」
「はーい、んっ……!っ……!?美味しいッ!」
カルデアの食堂に戻ってきた私達は、角のテーブルに腰掛け、エミヤの作ったおはぎを堪能していた。
長椅子にキアラ、私、カーマという順番で座り、エミヤは対面の席に座っている。
私はおはぎが、それほど好きではないのだが、キアラに小さく切って食べさせてもらうと、不思議と一段美味しく感じるのだ。
「ふにゃ……キアラさん……」
「ふふ……マスター、可愛い……」
私は、キアラにそっともたれかかり、キアラの柔らかさを十二分に体験する。
抱き枕のような柔らかさに、ついつい気を遠ざけてしまいそうだ。
「マスター!私にも食べさせてくださいー!」
カーマは私の腕に抱き付くと、その豊満な胸を押し付けて、駄々をこね出す。
以前は全くもって、私に甘えるということが無かったカーマだが、記憶を失っている今は以前と比べ物にならない程、私に甘えるのだ。
そんなカーマの姿に愛らしさを感じながら、おはぎを菓子楊枝で切り分けて口に運んでやる。
「分かった、分かった……はい、あー……」
「ん!」
餌を与えれた雛鳥のように、カーマはおはぎを幸せな表情で頬張る。
「ん……まひゅたー!これ、おいひいです……!」
「はいはい……飲み込んでから喋ろうね……?」
「ふぁーい!」
カーマは私の言葉に首を縦に振ると、素直に咀嚼し始めた。
「(ほんと、本来のカーマとは違って素直だなぁ……もしかして依り代の人の人格が出てたりとかするのかな?)」
カーマは疑似サーヴァントというのは聞いたことがあるが、元の依り代の人物がどんな人物というのは聞いたことが無かった。
少しだけ依り代の人物に興味が出てくるが、このカルデアにいる人物の中で少女の内面や性格を事細かく知る人物など居ないだろうと、自分の中で決着を着ける。
だが、そんな様子に、テーブルの対面に座って、肩を震わせている青年――エミヤはこめかみをピクピクとさせながら私達の様子を観察していた。
「君達……っ……!仲が良いのは勝手なのだが……ッ!、私の前でやるのだけは勘弁してくれないかね……ッ?」
エミヤにしては珍しく、苛立った様子で少し殺気立っているように見えた。
「まぁまぁ……喧嘩してるよりはマシでしょ?」
「そうではない!記憶を失っているとはいえ、元ビーストである殺生院キアラとカーマに隙を見せているから、腹立たしいのだ……ッ!」
エミヤはそう言ってキアラとカーマを睨みつける。
睨みつけらたカーマとキアラは、いきなりの事に身をすくませる。
「ごめんなさい……エミヤさん、私はマスターに危害を加えるつもりは無いですが、普段の私の行動を見れば警戒するのは当然でしょう……」
「私も、普段は悪い子だから……こんな風にマスターに近づいたら、警戒するのは当然ですよね……」
キアラもカーマも泣きそうな顔になりながら、エミヤに言葉を返す。
あくまで事情を知らない二人に話している事を失念していたエミヤは、汗をダラダラと流し、焦燥に駆られた顔つきに変わっていく。
「あ、いや……そのだな……ッ!今のは普段の君達を警戒しているだけであってだな……今の君達のことを言っていたんじゃないんだ……ッ……!」
エミヤは慌てて弁解を始めるが、キアラとカーマの表情は悲しみに満ちた表情のままで顔を上げない。
何か、気を引けるものが無いかとテーブルの上を探すと、身近な場所にとっておきの物があることに気づいた。
それは、まだ手を付けていなかった自分のおはぎだった。
「キアラ、カーマ……先程は悪かった……恥ずかしいが、このおはぎで何とか収めて貰えないだろうか?」
皿に載せられたおはぎを、俯く二人に差し出し、表情を伺うが……顔を俯かせたまま二人は動かない。
「エミヤ……やっぱり、さっきの言葉は、おはぎだけじゃ済ませられないよ……」
「では、どうしたら機嫌を取り戻してもらえるだろうか……?」
「それはね……」
珍しく焦った表情のエミヤに助け船を出すことにした。
エミヤの耳にコソコソっと耳打ちをし、私が思いついたアイデアを話す。
まぁ、助け船と言っても彼にとっては泥船に近いかもしれないが……
「はぁ……ッ!?正気か……君はッ!そんなことを私にさせるなどと……ッ!」
「でも、このまま嫌われるよりは、よっぽどいい案だと思うけど?」
「くっ……ッ!だが……!」
私が立案した作戦を聞き、エミヤは少々顔を赤くしながら、自分との葛藤に悶えていた。
「本当にやるのか……マスター?」
「考えるより、行動した方が早い、早い!さぁ……!」
「分かった……」
エミヤも遂にどうにでもなれと吹っ切れ、マスターから言われた作戦を実行してみることにし、意を決してカーマとキアラに向かって口を開く。
「君達、再度きくが……私のおはぎ食べないか?」
…………
……
二人はやはりというべきか、俯いたまま何も答えようとしない。
エミヤは、一瞬言うか迷ったが、マスターに教えられたアイデアを口に出す。
「じゃあ、私が君達の口におはぎを直接運ぶというのはどうだろうか……?」
エミヤが言葉を投げかけると、二人は俯いた顔を徐々に上げる。
「本当に、いいんですか……?」
「ああ……君達には少々私も言い過ぎたからな……これぐらいの事はしてやるとも」
キアラの怯えた声に答えてやると、途端に顔を明るくさせ、口を大きく開ける。
「私も、私も!」
キアラ同様に顔を明るくさせたカーマは、キアラ同様に口を開け、おはぎが口に入るのを心待ちにしている。
普段二人が見せないような無防備な姿に、警戒心しか持っていなかったエミヤも思わず、その姿に苦笑してしまう。
おはぎを素早く菓子楊枝で二つに切り分けると、まずはキアラに食べさせてやることにした。
「キアラ、口に入れるぞ?」
「はい、お願いします……あー……ん……!」
キアラはおはぎを頬張ると、しばらく咀嚼に努めようとしていた……が、急に顔を綻ばせて、口元を押さえる。
「やっぱり、エミヤさんの作る物は美味しいですね……!私、教えて貰っちゃおうかな?」
「ま、まぁ……私は悪い気はせんがな……」
キアラの感想に嬉しかったのか、顔を綻ばせている。
「さて、次はカーマだ……おい、口に入れるぞ?」
「はい、お願いします……あー……んっ!」
待ち遠しかったのか、カーマは前のめりになる形でおはぎを頬張った。
キアラ同様に、数秒間は咀嚼に徹するが、すぐに顔を綻ばせる。
「えみやひゃん!これ、やっぱひ……これ、おいひいです!」
「こら、お前はさっきもマスター言われていただろう?しっかり噛むか、口元を押さえて喋れ……」
「ふぁーい!」
先程は腹立たしく見ていた、マスターとカーマの戯れだが、こうして自分が実際やってみると、カーマがとても愛らしく思えてくる。
やはり普段とのギャップが、この気持ちを生んでいるのだろうが、その一言だけでは片づけられない気持ちがどこかにある気がした。
「んっ、ごくん……!ふぅ……私、最初エミヤさんの事怖いと思っていたけど、さっきの優しい笑顔を見て、実は心優しい人なんだって分かったので、ホッとしました!」
笑顔で堂々と自分の事を褒められ、思わず照れ臭くなってしまう。
それでも、何とか涼しい顔で誤魔化そうとする。
「あ、ああ……私も君達がとりあえずは危険でない事を確認できたのは収穫だったよ……っ!」
「ふふ……そういうところ、エミヤさん好きですよ……」
突然の言葉に思わず、顔を硬直させる。
「す、好き……だと……?」
「ええ……その様子だと、いつもマスターの心配ばかりしているというのは分かりますから……だから、マスターが少し羨ましいです……」
カーマはそう言ってエミヤに微笑みかけ、私の方へ再び向き合う。
「マスター……これからご迷惑をお掛けすると思いますけど、記憶が戻るまでは、よろしくお願いします……」
「このキアラの事も、よろしくお願いします……」
二人は合わせるような形で一礼した。
その様子だけを見ていると、何とかなりそうという気はするが、カルデアのサーヴァント達には問題児も一定数は居る。
普段、カーマやキアラの態度に腹を立てている者が、もしかしたら事情を知り、危害を及ばせる可能性も無きにしも非ずという状況だ。
「(でも、この人が居るから大丈夫か……)」
隣で時が止まったように固まっているエミヤを見つめる。
エミヤであれば、サーヴァントのいざこざもある程度は収めてくれそうだ。
それに万が一サーヴァントに絡まれても、「飯抜きにするぞ」とでも言えば、大抵のサーヴァントは引き下がるだろう。
エミヤに関して気になる事は、カーマに対する反応だ。
普段の彼なら、涼しい顔で流してみせるのだろうが、カーマに「好き」と言われてから様子がおかしくなった気がする。
「(もしかして、依り代の人とそういう関係だったのかな……?)」
先程決着を付けた答えを掘り起こし、そんな邪推をしつつ、今後の事を引き続き頭で考えるのであった。