FGO+スクライド Fate Grateful Olderman −ある偉大な兄貴の物語− 作:なんJお嬢様部
「はぁっ!」
「らあっ!」
裂帛の気合とともに交錯したクーガーとセイバー。彼らはまるで喧嘩独楽がぶつかりあったときのように、魔力の火花を散らしながら弾き合って、仕切り直すかのように先程までの位置へと戻る。
ただし、先程と違うのは、クーガーの脚を包む薄紫の脚甲。
彼の武器であるそれは、セイバーのエクスカリバーを受けた右脚の甲の部分が大きく抉れ、削れ飛んでいた。
「ちっ、この俺が押し負けてるってのか!」
クーガーが舌打ちをすると、再び彼の周りに転がる瓦礫が虹の煌めきとなり、破損した右脚の脚甲を包む。光が消えた頃には、再び無傷の脚甲がその姿を現していた。
破損から修復、一連の流れを見たセイバーが、その整った眉を顰める。
「ほう、復元能力か。実体のある武具の宝具、というわけではないのだな、その
《宝具》は、その英霊の逸話が武器になったようなもので、当然英霊にとっての切り札に等しい。
逸話なのでヘラクレスの《十二の試練》のように形を持たぬ宝具もあれば、アーサー王の《エクスカリバー》のように、逸話を残した実体のある武具の宝具も存在する。
しかし、この宝具というものは一度破壊されてしまえば、その現界の間は再び使用することは適わない。このような武具は誰か他のものに与えられたものであったり、長年の準備の末に造られたものであるため、大概の英霊が自力で直せるものではないからだ。
その宝具を破損前提で《
クーガーはそんな容易に修復ならざるはずの宝具を容易く直してみせた。故にセイバーは、彼の脚甲を実体のないものだと看破したのだ。
それに対して、クーガーは隠すことでもないという風に、力強く頷いてみせる。
「ああ、こいつは自前さ。俺の生き様そのものみたいなもんだ。容易く抜けると思うなよ」
クーガーにとって《ラディカル・グッドスピード》は、彼の求めた
セイバーは、クーガーの覚悟を前に、己の
それは、泥にまみれても決して失われることのなかった彼女の
「ならば、脚ごとへし折れるまで何度でも斬りつけてやろう」
「それよりも、自分の剣の方を心配してな!」
セイバーの挑発に応えるクーガーの咆哮じみた叫びとともに、二人の英霊は再び白と黒の旋風となり、冬木の街に吹き荒れた。
身を屈めなければ舞い上がってしまいそうな突風と、ともすれば、体をかするだけでもその身が消し飛びそうな魔力の奔流が宙を走る。その度に、立香は自分の魔力が恐るべき速さで吸い上げられていくのを感じていた。
これが、英霊同士の戦い……!
立香は、目の前で繰り広げられる光景を見て、今まで自分は本当の意味での英霊同士の戦いを経験していなかったことを思い知らされていた。
もちろん、先程までの戦いが危険でなかった訳ではない。アサシンとランサー、2騎の影法師との戦いでは、ランサーの振るう凶刃が、後一歩踏み込めば立香の首を刎ねるというところまで、死神の吐息が間近に迫ったこともあった。
だが、今の状況はそれすらも生温く感じてしまう。
立香のすぐ脇を駆け抜ける魔力の奔流が、瓦礫を巻き上げ吹き抜ける疾風が、その全てが彼にとっては致命の一撃だ。目の前に立ち、その細い体と大きな盾で自分を庇ってくれているマシュがいなければ、自分はもう既に数十回は死んでいるだろう。そう、立香は確信していた。
それでも、退くことはできない……!
最早、自分ではどうすることもできない状況の中、魔力が喪われることによって飛びそうになる意識を、立香は歯を食いしばって耐える。
だって、自分は皆と約束したんだから!
歯を食いしばり過ぎたことによる出血を、口の端に滲ませる立香の脳裏に浮かんだのは、先程までの仲間たちとのやり取りだった。
ーーーーー
「つまり、貴方は戦力を分散させることを提案するわけね?」
「その通りだ」
今から遡ること十数分前。
ビルの会議室で、互いが手持ちの情報を出し切ったうえで、アーチャーから提案された作戦についてオルガマリーが再確認をとっていた。
アーチャーからの提案は、「こちらの戦力を3つに分けて行動する」というものだった。
オルガマリーとしては、せっかく集結させた戦力を再び分散させるのは無意味なのではないかという意図からの再確認だったが、アーチャーは首を縦に振って自身の提案を肯定した。
「むしろ、今の戦力を一つにしても、無尽蔵の魔力を確保したセイバーを正攻法で抜くのは困難を極める。加えて、取り巻きのバーサーカーを排除しなければ、まともに戦いの土俵に立てるかも怪しい」
「確かにな。セイバーの話を聞くに、今の
アーチャーの見立てにクー・フーリンも同意する。
本来のランサーで現界したときの彼の戦闘スタイルは、どちらかといえば今の反転したセイバーに近しい合理的なものだ。まずは自身の生存を第一に考え、勝つべきところは外さない。
だからこそ、「今のセイバーならこうするであろう」という行動予測が、彼には容易にできる。そして、その予測の結果は、アーチャーのそれと合致していた。
「
「なるほどね。そうなると、その役目には貴方達サーヴァントを一騎ずつ割り当てる必要があるわね」
オルガマリーとしてもアーチャーの考えには賛同できるようで、顎に手を添えて軽く頷く。
「その通りだ、ms.オルガマリー。そして、その内訳も既に考えてある」
「聞かせてもらえるかしら」
「ああ、まずバーサーカーだが、あれは私が受け持とう。あれを引き連れて時間稼ぎをするのには付かず離れずの機動力が必要になる。そう考えると、クーガーは速すぎるし、クー・フーリンでは遅すぎる」
「妥当な意見ですな、俺は問題無いと思いますよ」
「こっちも異論はねぇな。ランサーだったら俺が受け持ってもよかったんだが、今の俺では無理筋だ」
クーガーが人差し指でサングラスを押し上げてニヤリと笑い、クー・フーリンは肩をすくめて、それぞれ賛同の意を示す。
「賛同してくれて何よりだ。そして、セイバーと正面からぶつかるのはクーガー、君の役目だ。その速さは、間違いなくセイバーの喉笛に突き刺さる」
「上等! いい目を出してみせましょう!」
クーガーが掌に拳を打ち付けて気合を入れる。彼は相手がどんな大物であっても、自分の速さへの絶対的自信は揺るがない。
「ありがとう、クーガー。そして、搦め手の方はキャスター、クー・フーリンに任せたい。ルーンの多様性が、臨機応変な不意打ちには何より向いているはずだ」
「ま、そうなるわな。精々、こっちもイケるってところを見せてやるかな」
クー・フーリンは肩にかけていた杖を軽く振るってニヤリと笑う。
「ひとまず、英霊はこの役割分担で動く。それから、各英霊に同行するマスターたちの人選なのだが、これも私から提案させてもらっても構わないかな?」
「ええ、英霊が貴方が提案した分担でいくならそれに付随するマスターの人選も貴方がやるのが合理的ね」
「自分も、エミヤさんの提案を聞きたいです」
オルガマリーに加え、立香もアーチャーの意見を促す。
「ありがとう。まず、私だが、私は単独行動を取らせてもらおうと思う。本丸のセイバーになるべく多くの戦力を注ぎたいし、バーサーカーを連れての時間稼ぎには人の身ではついてこられないだろうからね」
「こればかりはしょうがないですね……」
「ああ、そこでマスターである立香君、君にお願いがあるんだ」
「……お願い? ……はい、なんでしょうか?」
まさか、自分が英霊から頼み事をされるとは思っていなかった立香は、きょとんとした表情でアーチャーを見る。
「君の手に宿る令呪、その一画分の魔力を私に貰い受けたい」
「令呪を……」
言われて立香は自分の左手の甲に視線を落とす。
令呪というのは、マスターの証であるとともに、それ自体が膨大な魔力のリソースとなる。これを用いれば反抗しそうなサーヴァントを、強制的に従えることすらも可能となる。
ただし、そのような使い方は下の下であり、本来は宝具の真名開放のような戦闘時のパワーアップに充てることが有効的な活用法方である。令呪の後押しを受けたサーヴァントは、遥か格上のサーヴァントにすら匹敵する力を発揮することもあり得るからだ。
令呪というのは一画の規模に差はあれど、三画という画数に例外はない。立香の手の甲には今、三画揃った令呪が刻まれている。
「流石に、大英雄ヘラクレス相手では万が一、ということもある。確実に役目を果たすためにも魔力を十分に確保しておきたいのだが……どうだろうか?」
「自分としては構わないんですけど、所長はどうです?」
「私としても異論はないわね。もしこれが虎の子の残り一画とかなら少しは考えもしたでしょうけど、まだ三画全てが健在な今は、出し惜しみすることもないわ。アーチャーには確実にバーサーカーを引き付けてもらいましょう」
「わかりました。それでは、エミヤさん、令呪一画を貴方に託します」
そう言って、立香が右手をアーチャーにかざすと、彼の手から令呪が一画、紅い光を放って消える。それと引き換えに、膨大な魔力がアーチャーの内で膨れ上がるのが傍目にもわかった。
「ありがとう、立香君、ms.オルガマリー。皆の期待には確実に応えてみせよう」
「お願いするわ、アーチャー」
「頼みます、エミヤさん」
「ああ。さて、次にセイバーと正面で戦うサポートだが、これはもうマシュと立香君で決まりだろう。
そこまで言うと、アーチャーは少し言葉を区切り、マシュと立香を力強く見つめる。
「……これは正直、かなり危険な役回りだ。本当なら、君たちのような人間に任せていい性質のものではないことは十分に理解している。でも、これは君にしかできないことなんだ。頼めるね、マシュ、立香君」
アーチャーの瞳には、このような命のやり取りの中に身を置く役回りを、年頃の少年や少女に押し付けてしまうことへの
「はいっ! マシュ・キリエライト、必ずや先輩をお守りいたします」
「自分にできることならやってみせます!」
そのアーチャーの気持ちを汲み取ったのか、立香とマシュは元気よく返事をしてみせる。
「二人とも……ありがとう……」
真っ直ぐな、あまりにも真っ直ぐな二人の気持ちを受けてアーチャーは思わず言葉を詰まらせた。
それは、自分が信じて守りたかったものの精髄を目の当たりにした、彼の歓喜の大きさを示していた。
「……クーガー、かなり酷なことを頼むが、彼らを護ってやってくれ」
「そんなこと、言われる前から織り込み済みさ」
「ふっ、流石に世界を縮める男は覚悟の早さも違うらしいな」
セイバーを相手取りながらマスターたち二人を護る。
そのあまりにも困難な
……ああ、私はこういう者たちと肩を並べて戦いたかったのかもしれない。
ーー
ただ、ただ真っ直ぐに正義を追い求めていた。
そんな、生前のアーチャーの生き様は、誰にも理解されることはなく、たった一人で彼は死んだ。
それも仕方のないことだと最期の瞬間まで心のどこかで割り切っていた。それほどまでに彼の生き様は常人の精神性から乖離していた。
だが、このクーガーという英霊は違う。
もちろん、クーガーには彼の掲げる正義があり、それが自分のそれとは違うことをアーチャーは理解している。それでも、互いに違う正義を掲げながら、全力で相手の正義を肯定してくれるような、そんな懐の深さをアーチャーはクーガーに感じ取っていた。
器用に生きているように見えて、本質的には不器用にしか生きられない男。
アーチャーとクーガーは、その根源が同じ人種なのだ。そして、互いに自分たちが同じ人種であることを、先程までのやり取りの中で、二人は完全に理解っていた。
「では、最後にセイバーへの奇襲だが、これはクー・フーリンとms.オルガマリーに頼む。クー・フーリンのルーン魔術による手数の多さ、ms.オルガマリーの魔術師としての器量を鑑みるに、この二人に魔術的な手段でセイバーの不意をついてもらうのが最善であると判断した」
「戦闘は得意ではないのだけれど、わかったわ。私も《カルデア》のトップとして、できる限りのことをやりましょう」
オルガマリーが、覚悟を決めた表情でそう宣言すると、その背中をクー・フーリンがバシッと叩く。思わぬ衝撃に「ひゃん!?」と変な声をあげるオルガマリーを見て、クーガーが「ああー!?」と叫び声をあげて席から立ち上がる。
「安心しな、お嬢ちゃん。俺が本気を出せば、お前さんに傷一つつけさせねぇよ」
「た、頼りにしてるわ、キャスター。でも、背中を叩く前に予告はしてほしかったわね……」
「その通り! ボディタッチはいくらなんでも見過ごせませんなぁ、大将! レディに対して失礼ではありませんか。ねぇ、オリガさん!」
席を立ったクーガーが、その人差し指をビシッとクー・フーリンに突き付けて抗議するも、オルガマリーはやれやれという様子で首を振った。
「確かにそうだけど、名前を間違えられるよりはまだましね」
「Oh……こいつは手厳しい……」
「はっはっは! この程度スキンシップの範疇だろ、大目に見てくれよ、クーガー!」
「か〜っ! これが人生経験の差ってやつなのかぁ〜!?」
意気揚々と助けに向かったはずのオルガマリーに梯子を外されて、ガックリと項垂れるクーガーの背中をクー・フーリンが高笑いしながらバシバシと叩く。
そんなやり取りを横目で見ながら、アーチャーが再び口を開く。
「ありがとう、ms.オルガマリー。君も、中々に苦しい立場だと思うが、よろしく頼む」
「お気遣いありがとうアーチャー。ええ、なんとかやってみせるわ」
軽く頭を下げるアーチャーに向けて、オルガマリーは力強く頷く。
「では、これでそれぞれの役割は理解してもらえたと思う。何か質問がなければ、すぐにでも動こうと思うがどうだろうか?」
そう言ってアーチャーが全員を見回すと、「はいっ」という威勢のいい声とともに、おずおずとマシュが右手を挙げる。
「おや、マシュ、何か疑問な点があるかな?」
「疑問というよりは確認なのですが……」
そこまで言うと、マシュは少しアーチャーから視線を逸らし、その顔に躊躇いを浮かべる。しかし、すぐに意を決した表情で再び口を開いた。
「……エミヤさんは、セイバー、アーサー王と戦わなくてよろしいのですか? どうやら、因縁浅からぬ間柄のようですが……」
マシュが口に出したのは、セイバーとアーチャーの関係についてだ。アーチャーがセイバーと縁のある英霊であることは、情報共有の段階で皆が知るところだった。
英霊の縁というものは
だからこそ、マシュは「直接会ってケリをつけなくていいのか」と、アーチャーに確認したのだ。
マシュの気遣いに対してアーチャーは「ふむ」と呟いて、軽く首を左右に振った。
「気遣いありがとう、マシュ。だが、大丈夫だ。人理の危機というこの状況、私情を挟むわけにもいくまいよ」
「ですが……」
それでも喰い下がろうとするマシュに、アーチャーは微笑んで再び首を振った。
「いいんだ。それぞれが正しく役目を果たして、世界が護られれば、それでいい。それにーー」
そこまで言うと、アーチャーは言葉を切って不敵な笑みを浮かべる。
「ーーあのバーサーカー、アレは別に倒してしまっても構わないんだろう? その後でゆっくりと合流させてもらうとするさ」
「へっ、咆えるじゃねえか!」
「俺もそういうのは嫌いじゃないぜ、エミヤの旦那!」
アーチャーの口から吐かれた存外に強い言葉に、クー・フーリンとクーガーが色めき立つ。
この三人、なんだかんだで意地を張るのが好きな男ばかりだ。アーチャーの見せた特上の意地は、二人の男の血潮を沸き立たせるのには十分すぎるほどだった。
「わかりました、私も精一杯努力します!」
「自分も、エミヤさんが間に合うように頑張ります!」
「それは……私も負けてはいられないな。……まったく、私はよいマスターと戦友に巡り会えたようだ」
アーチャーの決意に応えるように、精一杯の気炎をあげる二人。こんな場所にいることすら恐ろしいだろうに、それを微塵も見せず英霊である自分への気遣いすらしてみせる二人に、アーチャーは畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
そんな感動に震える彼の肩に、椅子から立ち上がったクーガーがポンと手をのせる。
「じゃ、行くとしましょうかエミヤの旦那。あんまり手こずるようだと、世界を縮めるこの俺が最速で勝ってしまうかもしれませんよ」
「こればかりは早いもん勝ちだ。獲物がなくなることを心配してな」
クーガーと、それに釣られるように立ち上がったクー・フーリン。それに負けじとアーチャーも力強くその腰を上げる。
「ふっ、それは困ったな。では、作戦を開始しよう。ms.オルガマリー、《カルデア》の代表として、作戦開始の音頭をとってくれるかな」
アーチャーの言葉を受けて、オルガマリーが力強く椅子から立ち上がり右手を前に掲げる。
「わかりました。……これより、この《特異点F》攻略に向けて、決戦となる作戦を開始します。目標は敵性サーヴァントセイバー、キングアーサーの撃破。総員が最善を尽くすことを期待します。行くわよ!」
「応!」
オルガマリーの言葉に全員の想いが一つとなり、そうして《カルデア》は、ついに決戦の地へと向かったのだ。
ーーーー
エミヤさんや、他のみんなは自分を信頼してここを任せてくれたんだ。それを裏切るわけにはいかない!
あの会議室で交わした想いが、強い決意が、震える立香の両の脚を地面へと確かに縫い付けていた。
人の想いとは、ときに恐るべき爆発力を生む。
立香の前に立つ反転した騎士王は、泥に溶けゆく胸の内でそのことをまだ憶えているのだろうか?
それぞれの思惑を乗せて、《特異点F》の決戦は、さらにその勢いを増してゆく。
次回は、戦闘パート+オルガマリー&クー・フーリン視点のパートになりそうですわ!
邪竜百年戦争オルレアン以降の特異点に、本来のストーリーで登場するサーヴァント以外がいてもいいか?
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どんとこい、超常現象。(いてもいいよ!)
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ヴェルターズオリジナル派(原作重視!)