FGO+スクライド Fate Grateful Olderman −ある偉大な兄貴の物語− 作:なんJお嬢様部
ついにオルガマリーアンケートの結果がでましたわ!
なんと、6倍近い大差で生存ルートになりましたわ〜! 出番が増えるよ! やったねオルガちゃん!
現在スペランカー状態のオルガマリーを、どのように助けるのかは後編で明らかになるのでお楽しみに!
【お礼】
日間ランキング総合10位ありがとうございますわ~!
今まで、日間総合ではバンドリの2次創作で17位を取ったのが最高でしたので、初めてのトップテンですわ〜!
なんかもう、UAとお気に入りが見たことないスピードで増えて、震えてますわ(西野カナ)。
わたくし、あまり今風の文体では書けませんし、投稿もクーガーの兄貴には遠く及ばない速さですけれど、それでも、多くの方の力添えで、更に多くの方々に作品を見ていただけて嬉しいですわ〜!
そして何より、『スクライド』と『FGO』、素晴らしい2つの原作に無上の感謝を!
「まさか、この街の地下にこんな空間があるなんて……」
冬木の街の地下、高さ十メートルはあろうかという回廊を歩きながら立香が呟き、オルガマリーもその言葉に首肯する。
「ええ、《時計塔》から離れた、こんな極東の辺鄙な土地でここまでの魔術工作をするなんて……ここの管理者は誰だったかしら?」
「えーと、確か冬木の街は御三家と言われる魔術師達が管理していて……あった、手元のデータによると真桐、遠坂、そしてアインツベルンの一門がその御三家みたいだ」
オルガマリーの問いかけに、端末からデータを呼び出したDr.ロマンが答えると、彼女は右手の親指の爪をギリッと噛んだ。
「なるほどね、真桐は《時計塔》から離れて久しいし、遠坂は先代が不動産のコンサルティングに成功してからは付かず離れずの関係だったわね。アインツベルンはそもそも《時計塔》からは距離を置いた一門だから、そんな魔術師たちに手を組まれると《時計塔》が気付かないのも無理のない話ね……。まったく、今回の件が片付いたら、すぐに監査官を送り込んでやるんだから!」
「うわぁ、マリーの送り込む監査官なんて絶対にねちっこいぞぉ……彼らも可哀想に……」
通信回線越しに、肩を抱いて半ば本気で震えるDr.ロマン。その声を耳聡く拾ったオルガマリーが、その目にじとりとした眼光を浮かべる。
「何かいったかしら?」
「気のせいでーす、僕は何も言ってませーん」
Dr.ロマンの言に違わず、粘着質な声で釘を刺しにいくオルガマリーに対して、Dr.ロマンはすっとぼけた調子で何とかその場を切り抜けようとする。
「……《カルデア》に戻ったら、管制室の音声データのログを漁るから」
「マリー、僕が悪かった! 謝るから、勘弁して!」
しかし、海千山千の強者達を相手に立ち回ってきた彼女を相手取るには、彼には些か経験値が足りなかった。合掌。
「まったく、私が《カルデア》に帰ったら覚えてなさーーキャッ!?」
そんな愉快なやり取りを繰り広げるうちに、足下が疎かになっていたのか、オルガマリーが地面の段差に足を取られ前のめりに転びそうになる。
「おっと、あぶねぇ」
その体が地面に着く前に咄嗟に抱え込んだのはクー・フーリンだ。彼は素早くオルガマリーを抱きとめると、その体をゆっくりと支えて、彼女を立ち上がらせた。
「あ、ありがとう、クー・フーリン。助かるわ」
「大丈夫か? かなり苦しい局面を切り抜けてきたんだ、脚に来てても不思議じゃねぇ」
「大丈夫、ただ躓いただけよ」
「ならいいんだ」
そんな、二人のやり取りを見てクーガーがあんぐりと口を開ける。その口を閉じないまま、彼は立香の肩をトントンと人差し指で叩く。
「なぁ、ハジマル。なーんかあの二人、さっきまでと距離感変わってないか?」
「藤丸です。でも、確かにさっきよりも何というか、親密な感じですよね。他人行儀じゃないというか」
「や、やっぱりそう思うよな!? 一体、何があったんですかオリガさーん!」
クーガーが半ば叫ぶような声で問いかけると、途端にオルガマリーは頬を赤く染めて首を左右に振る。
「な、な、な、なにも、なかったわよ!?」
「嬢ちゃん、それは流石にあからさま過ぎんだろ」
あまりにも分かりやすいオルガマリーの反応に、流石のクー・フーリンも呆れた様子でお手上げのポーズを取る。それを見たクーガーは、思わず両手で頭を抱えて悶絶した。
「くっはぁー!? やっぱり、二人きりのときに何かあったのかぁ!? この俺がスロウリィ!? そんなことありえーん!」
「あーもう、うるさいわよクーガー! 駄弁ってないでさっさと先に行くわよ! こんなところ早くおさらばしてやるんだから!」
クーガーの反応にますます頬を赤く染めたオルガマリーは、気恥ずかしさを紛らわすためかドスドスと大股で通路を先行しようとする。しかし、彼女がマシュの横を通り越そうとしたとき、マシュが手で彼女の動きを制した。
「所長、あまり性急に歩みを進めるのは危険です。どうやらこの先、大聖杯から溢れ出した魔力が澱みとなって足下が更に視認し難くなっているようです」
「んっ、そうなの? 少し確認させてもらえるかしら」
「はい、どうぞ」
ようやく、赤面から立ち直ったオルガマリーがマシュの盾越しに奥を覗くと、確かにマシュが報告するように、立香達の眼前に伸びる通路は、ここから一段と地下深くへと落ち込み、そこにはガスのように濃密な魔力が吹き溜まっていた。
「確かに、迂闊に前進するのは危険ね。クー・フーリン、ルーンで明かりを灯せないかしら」
オルガマリーが通路の様子を確かめながらクー・フーリンに声をかける。彼のよく使う
そして、彼女の言葉に応えるように通路の中に光が満ちていく。
「ありがとう、クー・フーリン。これで明るくなったわ」
「いや、俺はまだ何もーー」
「ーークー・フーリンさん、体が!」
オルガマリーからの礼に戸惑うクー・フーリンを見て、マシュが思わず叫びを上げる。
光を放っていたのは他ならぬ彼の体だ。その光は、つい先程セイバーが《英霊の座》へと送還されるときのそれと同じものだ。
この《特異点》の主は、先程座へと戻ったアーサー王だった。彼女の退去により、彼女へのカウンターとしての役割を与えられてここに留まっていたクー・フーリンにもいよいよ退去のときがきたのだ。
「おや、どうやら今回の現界はここまでみたいだな」
「そんな!? 駄目よクー・フーリン! この先には、まだこれから黒幕がいるんでしょう? 貴方の力が必要なのよ!」
あっけらかんとした態度のクー・フーリンに対して、オルガマリーは悲痛な叫びをあげる。今や彼女にとって、クー・フーリンという英霊の退去はパーティの戦力が下がる以上の意味を持っていた。
狼狽えるオルガマリーを安心させるように、アイルランドの光の御子は、その異名の通りの輝くような笑顔を彼女へと向ける。
「そんなに心配するこたぁねぇよ、嬢ちゃん。アンタには俺だけじゃなくて、他にもいい仲間がいるじゃねぇか」
そう言って、クー・フーリンが杖を掲げる。その先には立香たち《カルデア》のメンバーがいる。
「そうですよ、所長!」
「私もお力添えします!」
「オリガさんのためなら、この俺が一肌でも二肌でも脱ぎましょう!」
「あ、あなた達……」
泣きそうな表情で顔を歪めるオルガマリー。その顔の直ぐ側にクー・フーリンが顔を寄せて囁くように告げる。
「嬢ちゃんは、上司と部下みたいに関係を割り切っちまうよりも、もっとあいつらに背中を預けるといい。案外、あっさりと受け入れてくれるだろうぜ。俺からの最後のアドバイスだ」
言い終えると、クー・フーリンはローブを翻して彼女から距離を取る。
「それじゃ、気張れよ《カルデア》の! 今回の現界は悪くなかったぜ! クーガー、しっかり嬢ちゃんを護ってやれよ!」
「言われなくても分かってますよ、大将!」
男同士は視線を交わし合うと、どちらともなくニヤリと笑った。
「ならいい! じゃあ、縁があればまた会おうぜ。おっと、その時はランサーで喚んでくれよ。本気の俺を見せてやるからな!」
「ありがとうございました、クー・フーリンさん!」
「また、どこかでお会いしましょうね!」
「私たちが喚んだらちゃんと応えてよね!」
「また会うときを楽しみにしてるぜ、大将!」
立香達が大きく手をふると、クー・フーリンは満足そうな表情で頷いて、軽く手を上げて応えると座へと還っていったのだった。
ーーーーー
「ここが冬木の大聖杯……まさか、こんなものが辺鄙な極東の土地に眠っていたなんて!」
クー・フーリンが退去してしばらく。立香たちはついに、冬木の地下大空洞の最深部、大聖杯の座す空間に足を踏み入れていた。
「自分でも分かるくらいの凄まじい魔力……!」
「先輩、私の後ろに! 何がきっかけであれがこちらに来るかわかりませんから」
膨大な、あまりにも膨大な魔力を垂れ流す大聖杯。その有様をみて、思わず立香たちは身構えてしまう。
万能の願望機とまで呼ばれるその力は、決して伊達ではない。かつて数多の魔術師達の妄執・怨嗟・憎悪によって満たされた毒酒の盃は、最早個の人間が制御できる範疇を超えてしまっていた。
「オリガさんもマシェリの盾の後ろに。この空間に満ちてる魔力ってやつのせいで、敵の気配が読みにくい。ここは、不意打ちされるという前提で動いたほうがいい」
「私は、オルガだけど分かったわクーガー」
「私もマシュですが、わかりましたクーガーさん! 所長、私の後ろにどうぞ」
「ええ、私は背後を警戒するわ。前は任せたわよ、マシュ・キリエライト」
「……はい!」
クー・フーリンの教えの通り、同じ苦難に挑む仲間として、オルガマリーはマシュにその背中を預ける。マシュも、彼女の心境の変化を悟って、快く彼女の
そして、立香たちはクーガーを先頭に、マシュ、立香、殿で後方警戒をオルガマリーが担当する形で大聖杯へと近付いてゆく。黒幕からの攻撃はまだこない。
「……ストップだ」
襲撃のないまま、大聖杯との距離を半分ほどまで詰めたところで、クーガーが待ったをかける。
「どうかしましたか、クーガーさん?」
「この先、一段と魔力が濃くなってやがるぜ。しかも、溝の底みたいなドロッとしたやつだ。俺やマシェリなら大丈夫だが、ハジマルとオリガさんにはきつそうだ」
「……っ、名前はともかくとして、確かにこの魔力、生身の人間の方にはあまりよくありません。先輩、所長、ここで止まりましょう」
「わかった、でも大聖杯はどうしようか、このまま放置するわけにはいかないよね?」
立香は顎に手を添えて考え込むような格好をする。
大聖杯は立香たちの目の前で相変わらず、淀んだ魔力を垂れ流している。今はマシュの護りがあるから何とかなっているとはいえ、このままでは早晩、立香達の立つ場所も魔力で汚染され退避を余儀なくされるだろう。時間が経つにつれて、ますます対応が困難になることは明白だった。
「ええ、流石にこんな代物をそのままにするわけにはいかないわ。それに、恐らくこの大聖杯こそが、この特異点が未だ消滅していない元凶だもの」
「特異点の核、というわけですね」
特異点の主が退去しても世界が閉じないのは、他に世界を維持する核があることに他ならない。そして、世界を維持できるだけの力を持つものは限られる。オルガマリーが大聖杯がその元凶であると考えることは当然の帰結であった。
「では、俺だけが接近して調べてきましょう。恐らく、それ以外に方法はないでしょう」
「クーガーさん、いけますか?」
「もちろん! 俺の脚の速さは知ってるだろう、ハジマル。何かあったとしても、そこから一瞬で離脱して仕切り直せるのは俺しかいない」
「わかりました。後、藤丸です、クーガーさん」
「それと、虎の子の令呪、いつでも切れるようにしておいてくれ」
「はい」
クーガーの言葉に頷いて藤丸が手の甲に視線を落とす。そこには最後の一画となった令呪が刻まれていた。《カルデア》に戻れない以上、これがここで使える最後の令呪となる。
「気をつけなさいよ、クーガー。貴方に何かあったら私たちはほとんど詰みなんだから」
オルガマリーが少し頬を染めながらクーガーのことを気遣う。するとクーガーは、ブルッと身体を震わせると、右手の人差し指と中指を揃えて、気障な仕草でそれに応える。
「お気遣いありがとうございます、オリガさーん! 俄然やる気が湧いてきました! 即時・即決・即断、この俺が、一瞬で片付けてやりますよ!」
「慎重に行けって言ってるのよ、私は!」
「なははは! そうでした、そうでした! それでは、ストレイト・クーガー、慎重に行ってまいりま〜す!」
いつもの漫才地味たやり取りを交わして、クーガーがいよいよ大聖杯へと足を進めたその時。
「いや、その必要はないよ」
「……っ! 誰だ!」
突然、大空洞に声が響くと、クーガーの声に応えるように、大聖杯を支える台座の影から、一つの人影が現れる。それは、英国紳士風の濃緑色のスーツを身にまとう、赤茶色のくせ毛を長く伸ばした髪型の男だった。
その姿を見た瞬間、クーガーとマシュ、そしてオルガマリーの目が見開かれる。
おいおいおい、なんだこのドス黒いヘドロを固めたような
レフ教授!? 生きていらっしゃったのですか……いや、違う! レフ教授なら、あんなに大聖杯の側にいて汚染された高濃度の魔力を浴びて平気でいられるはずがない! それにこの悍ましい気配……人のそれではありません!
クーガーとマシュ、二人は目の前に立つ存在の異質さを感じ取っての瞠目であったが、残る一人、オルガマリーだけは違う意味を持っていた。
「ああ、レフ! 貴方もこちらに飛ばされて来ていたのね! 無事でよかったわ!」
彼女はレフに向かって呼びかけながら、マシュの脇を抜けてレフに向かって駆け寄っていく。この土壇場においてあまりにも、あまりにも軽率な行為。
しかし、彼女のことを誰が責められようか。
周りはほとんど敵ばかり、そんな中で日々《時計塔》のロードとしての重責に喘いでいたオルガマリー。そんな彼女の唯一の理解者が、あそこに立つレフ教授その人だったのだ。しかも、彼女は先程この特異点での理解者であるクー・フーリンを退去で喪ったばかりなのだ。目の前に垂らされた救いの糸に縋り付くのは無理からぬ話なのだ。
レフの立つ場所は高濃度の汚染された魔力が充満した空間のはずだ。しかし、彼女は何故かそれを物ともせずにレフの元へと向かって行く。
「いけません、所長!」
「オリガさん、ダメだ!」
明らかな異状にオルガマリーを引き止める二人の叫びも虚しく、彼女は遂に無事にレフの元まで辿り着いてしまった。
「やぁ、オルガマリー。君がここにいるなんて驚いたよ」
「ああ、レフ! あなたこそ無事で良かったわ! この《特異点》も、後はこの大聖杯の処理をするだけよ。さぁ、早く終わらせて帰りましょう!」
レフに縋り付いて、捲し立てるように話すオルガマリー。彼女はまだ、レフの目に浮かぶ剣呑な光に気付いていなかった。
それを見たクーガーは、内心で激しく舌打ちをしていた。
くそっ、俺としたことが出遅れるとは! これじゃあ、文化的二枚目半だ! あの野郎は間違いなくヤバい。さっさとオリガさんを引き剥がしたいところだが、距離が近すぎる。何とかヤツとオリガさんが離れるタイミングを見計らって掻っ攫うしかない!
そこまで考えて、クーガーはちらりと立香を見る。
視線に気付いた立香は、クーガーに向けて令呪の宿る手を見せて、軽く頷いた。
ハジマルも、俺の意図を理解してくれている。いいマスターだ。頼りがいがある。後は、タイミングだ。絶対にはずせないぜ、ここはなぁ!
立香との意思疎通を確認し、仕掛けるタイミングがくるときに備えるクーガー。その視線とレフの視線が刹那交わる。その瞬間、レフの目には明らかな侮蔑の色が宿った。
「いやぁ、それにしても本当に想定外のことばかりだ。イレギュラーなハイ・サーヴァントに、役立たずのはずの48人目のマスター。なぜこうも、揃いも揃って、人は運命に抗いたがるのかね」
「……? レフ、貴方何を言って……」
ここにきて、オルガマリーもようやく目の前のレフという男の違和感に気付く。これは自分がよく知るレフ・ライノールではないと。
そんな彼女に向けて、レフの皮を被った何かは無慈悲な宣告を突き付けた。
「君もだよ、オルガマリー。《カルデア》では、君の足下に爆弾を仕掛けたのに、まさか、精神体だけが特異点に飛ばされるとはね!」
ーーーーー
「レフ……あなた、一体何を言ってるの? 私が精神体……? いや、そもそも、爆弾って……」
脚から力が失われて、私は思わずよろめいた。
いや、脚だけではない。私の全身から急に力が抜けて、レフの声がどんどん遠くなっていく。彼は私のすぐ目の前に立っているはずなのに。
「《カルデア》で起きた爆発事件の、黒幕は貴方だったのですかレフ教授!?」
それは本来なら私が言うべき言葉。《カルデア》の所長として、私の組織に牙を向いた者に突きつけなければならない刃。でも、それは私の口からではなく、マシュの口から零れた。
考えがまとまらない。何かを口に出そうとしても、あまりにも多い情報が、私の理解を拒み、それを言葉として出力させてくれない。
いや、違う。
情報が私を拒んでいるんじゃなくて、私が情報を拒んでいるんだ。
だって、レフの言葉はありえないことだらけだ。
レフは実は敵のスパイで。
《カルデア》の爆発事件の爆弾を仕掛けたのはレフで。
その爆発のせいで私の身体はもうなくて。
今の私は亡霊とさして変わらない状態で特異点を彷徨っていて。
嘘だ、うそだ、ウソだ……そんなこと全部悪い夢だ。だって、私はちゃんとここに生きて立ってる。自分の意思で考えることもできる。私は死んでなんかいない。絶対に死んでなんかいないんだから。
そんな私の思いを嘲笑うかのように、レフの形をした何かが、彼なら絶対にしないような醜悪な笑みを私に向ける。
「おかしいと思わなかったのかい? レイシフト適性が皆無の君が特異点にやってこれたことが。君がここに立っているのは、レイシフトに向いていない君の肉体が消し飛んだからさ。精神体になったことで肉体の枷がなくなり、君は初めて念願のレイシフト適性を手に入れたのだよ!」
「ち、違う……そんなの全部嘘よ……」
その言葉を否定しようとしても、私の言葉は弱々しい呟きとなって消えていく。彼の言うことは、残酷な程に今の状況に合致しすぎていた。
「おい、毛虫野郎。さっきから聞いてれば好き勝手言ってんじゃねぇ! 幽霊なら手を取ったり触れたりなんてできないはずだ!」
「そうだ! 所長が死んでいるなんて、ありえない! だって、さっき自分は所長と一緒にジュースを飲んだんだ!」
まともに喋れない私に代わって、クーガーと藤丸がレフに反論している。けれど、レフの方はやれやれといった調子で首を左右に振るばかりだ。
私のよく知る彼なら絶対に浮かべないような嘲笑を、その顔に貼り付けて。
「まったく、これだから理解力に乏しい人間は困りものだ。君たちにも分かるように言ってあげよう。今の彼女はね、英霊と同じ様な存在なのだよ。英霊が霊基を登録された座から現世に喚ばれるように、彼女も《カルデア》という座からこの特異点に喚ばれたんだ。だから、食事もできるし、体にも触れられる」
レフの口からは滔々と耳を背けたくなる言葉が紡がれる。耳を塞ぎたい、何も知りたくない。そんな思いとは裏腹に、力の抜けた私の手は動いてくれない。
ただ、残るすべての力で立ち尽くすしかできない私の耳に、レフの言葉はどんどん突き刺さっていく。
「英霊は役目を終えれば座の中に戻るべき場所がある。でも、悲しいかな、彼女の精神には戻るべき場所である肉体がない。つまり、彼女はここから去れば消えるしかないということなのだよ」
「そ、んな……」
今まで身体を何とか支えていた脚から最後の力が抜けて、私はその場にへたり込んでしまう。
この特異点は、正しい人類史にできた染みだ。私たちは、その染みを除去するためにここに来ているのだ。
でも、肉体のない私はこの特異点でしか存在できない。つまり、特異点を修正して、正しい歴史を取り戻すということは、その時点で私の命が終わることに他ならない。
私の未来には、どうあがいても絶望しかなかった。
「まったく、最期まで手間のかかる娘だったよ君は。だから、最期に君にはもっと絶望してもらおう。見給え、あのお方から預かりし聖杯の力を使えばこのようなこともできるのだよ」
へたり込む私を見下すレフが、宙に手をかざすと、手の先にある空間が揺らめいて、その揺らめきの先に私のよく知るものが現れた。
「これは……《カルデアス》? でも……これって……」
私達の目の前に現れたもの。それは、人類史の未来を観測する、《カルデア》の象徴とも言える観測装置《カルデアス》だった。隅から隅まで知らぬことはない私の《カルデアス》、でもそれはある一点だけ私の知るそれとは違っていた。
「そんな!? 《カルデアス》が、全部赤く染まっています!」
《カルデアス》の意味を知るマシュの口から、悲鳴にも似た声が漏れる。
人類の営みが正しく行われていれば、青く染まるはずの《カルデアス》。しかし、今《カルデアス》は、その全てが真紅に染め上げられていた。それが意味するところは1つしかない。
「そうだ! お前たちがこの特異点を修復したお陰で、人類の未来は焼却された! 2017年以降、この地球上に人類が存在できる場所など、もうどこにもないのだよ!」
「そんな……そんなことって……」
レフの言葉を聞いても、もう私には何がなんだか分からなかった。
自分はこの特異点に精神体で放り込まれて、特異点が解決したら、《カルデア》に帰る器のない私は消滅する。しかも、特異点を私たちが修正したせいで、逆に人類史の消滅が確定してしまった。
分からない。分かりたくもない。どうしてそんなことになるのか。だって私は正しいことをしているはずなのに。
でも、唯一分かってしまったことはーー
「ーー結局のところ、
「あ……あ、ああ、あああああ!」
それだけは、それだけは絶対に認めたく無かった。だって、私は今までずっと頑張ってきたもの。陰口を叩かれようとも、後ろ指を指されようとも、誰にも認められることがなかろうとも。人類の未来を保障する、それこそが私の生きがいだと信じて、ずっと頑張ってきたんだから。それなのに、私のやったことは全部過ちだったなんて、そんなのーー
「ーーそんなの、あんまりよぉ……」
ようやく動いた私の手は、耳ではなく目を覆うことを選んだ。
これ以上、辛い現実を見ないために。
これ以上、涙を見せないために。
「ああ、可哀想なオルガマリー。そんな状態で生きているのも辛いだろう。だから、最期は大好きな《カルデアス》に、私が君を送り込んであげよう」
「えっ……?」
レフの口から出た信じられない言葉に、私は耳を疑った。
《カルデアス》は、人類史の未来と過去を観測する超高密度の情報体だ。物理的な質量こそ有さないものの、コフィンシステムで精神を過去へとレイシフトできることからも分かるように、精神に対しては惑星規模の質量を持つのだ。
つまり、今の精神体しかない私は、人が地球の重力に引かれるように、《カルデアス》に向かって墜ちていってしまう。あの、赤く焼け爛れた《カルデアス》に。
「いや、いやよ、そんなの! こんなの、絶対に間違ってる!」
「残念だが、これが現実さオルガマリー。さあ、君の大好きな《カルデアス》と運命を共にするといい! ははは!」
「やだっ! 体が……引っ張られる!? 誰か、誰か助けて!」
レフの哄笑と共に、私の体は宙に浮かぶ。いや、正確には《カルデアス》に向かって墜ちているのだ。
ひどい……ひどいわ……。こんなの、あんまりじゃない……。
私だって、自分が清廉潔白な人間だなんて思っていない。父の、マリスビリー・アニムスフィアが《カルデア》で行ってきた所業を、《カルデア》ごと引き継いだそのときから、父の業を背負って生きてきた。父の事業でモルモットのように扱われたマシュには、いつか殺されてしまうかもしれない。そんなことだって覚悟していた。それでも、誰にも認められなくても、誰にも褒められなくても、誰にも愛されなくても、私は私のやれることを精一杯やってきた。
でも、
彼は居なくなったけど、まだ藤丸やクーガーは、私のことを信頼してくれている。それに、マシュとだって少し心の距離が近づいた。それが私には分かるの。
だって、今までこんな気持ちになったことなんて、私、一度もなかったから。誰かに信頼されるって、認めてもらえるって、こんなに心が温かくなるんだって。それが、ようやくわかり始めたところだったのに。今までのどん底の私から、ようやく這い上がれると思ったのに。なのにーー
「ーー嫌、嫌よ! 私、まだ全然みんなに褒められてない! 認められてない! ようやく、これからだと思ったのに……!」
《カルデアス》が、私に迫ってくる。私の背中は既に、《カルデアス》から放たれる焼け付くような熱さを感じている。
もう、だめだ。
そう感じた瞬間、私の体から全ての力が抜けて、先程までとは比較にならない速さで、私の体は《カルデアス》に堕ち始める。
今際の際、私はぼんやりと自分の本当の願いを思い出していた。
そうよ。本当は私、「人類の未来を護る」なんて、大それた願いなんか持っていなかったの。
私の本当の願い。
それは、「私の隣に立つ誰か」。
もちろん、絶世の美男子や王子様なんて贅沢は言わない。たとえ、それがどんな平凡な人だっていいの。
いつも隣に居てくれて、私が頑張ったときには、たった一言「よく頑張ったね」って微笑みながら声をかけてくれる。
そんな人に、私は隣に立っていてほしかったのよ。
邪竜百年戦争オルレアン以降の特異点に、本来のストーリーで登場するサーヴァント以外がいてもいいか?
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どんとこい、超常現象。(いてもいいよ!)
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ヴェルターズオリジナル派(原作重視!)