自身の頬を強く叩く。
いや、うん、そうだな。痛い。
記憶のことは、仕方がない。
欠けてしまったウマ娘としての闘争心も、仕方がない。
全てにおいて、ここで考えても仕方がないことだと割り切らねば。
一津井さんの尻を蹴り飛ばしておいて、
自分だけジメジメしているのは恥ずかしいことだ。
今重要なのは、失ったことではなく、
今からどう補うか、手に入れるかということである。
そのようなことを一津井さんに言えば、
待ってましたとばかりパソコンを立ち上げだした。
「さっきも言ったように、今から半年は休養とリハビリだ。ホワイトにまだ走りたいという気持ちがあるのなら、俺はどこまでも導いてみせる。」
「.....ごめんなさい。まだ、わからないです。でも、この写真の私は、とても幸せそうだ。この景色は壊したくない。」
皆が笑う、尊き理想図の縁を撫でる。
なんて弱い想いだろうか。真っ白な私には、ここが限界である。
それでも、自分に言い聞かせるように、刻み付けるように、
言葉を紡ぐ。
「.....中途半端だと思う。不誠実だとも思う。それでも、今、この真っ白な心に刺さったものが、この景色にはある。この私でも、どうか、と。」
楽観的とも言える。まるで幼子が本の中の英雄に憧れるように。
切り散られた結果だけに心を焦がされ、過程を知らずに求めている。
その資格があるかすら、知らないくせに。
「本当に、君はホワイトキャンバスだ。君の本質はやっぱり変わってないな。」
「え?」
「君は幾度となく心を折った。挫けた。足を止めてきた。」
優しい顔で、遥か遠くを見つめる目で、彼は言う。
「君は優しかった。他人にも、自分にすらも。だからこそ、何度も二人で逃げ出したものさ。」
__________ごめんなさい。私は中途半端なウマ娘だ。
「それが君の口癖だった。君は良く郊外の高台で、星を眺めていたものだ。」
最初に探しだすまで、大変だったんだぞと、彼は笑う。
何度も、か。
「ああ、そうだ。その写真の君は、立ち直る強さを人一倍持っていた。また走り出す、そんな勇気をありったけ持っていた。何度も、何度も諦めては、倒れ、立ち上がる。僕はその勇気に、際限なき反骨に、心を焼かれたんだ。」
なんとも、この写真の私は泥臭い少女だったようだ。
なるほど、
なるほど、だから、
「私は君を助けることができたんだね。」
駆け抜ける風。吹き荒れる陽炎。
俄然に広がる、あの白き夢。
あわやトラックに轢かれる君を、
私は自慢の踏み切りによる突進力で吹き飛ばす、あの刹那の情景。
間に合うはずのない、絶対に間に合わないはずのあの運命を。
私はあろうことか、両足で踏み砕いた。
ふむ、ふむふむ、そうだろう。
今もこの脳裏に記録された、またとないあの迫真の顔。
それはそうだろう。
かけがえのない、たった一人の専属トレーナーを守るために、
私は
「.......!、ホワイト、お前、『心象領域』を、レース中でも無いのに。」
『
謂わば、ウマソウルの記録と少女の想いの集大成。
科学的には、
ウマ娘における、究極の到達点。神秘的な頂。
それが、今、一津井にも
「ああ、うん、ごめん
その時、確かに彼女の空気が変わったのを一津井トレーナーは感じた。
ゴクリと、知らずとも喉がなる。
「私は、私が踏み砕いたあの結果を無駄になんかしたくない。」
「私は、私が憧れるあの光景を、
「私は_____________
私らしく在るためのそれを、君に魅せたかったんだ。」
知らないことだ。何せ覚えていないのだから。
それでも、トレーナーは私は私らしいと言う。
ならば、今、
私の本当。変わらない、私の本質。
どうだろうか、写真の私よ。
背後の私は、あの顔のまま何も言わない。
時は止まったまま、私の世界は薄れてゆく。
「ああ、ああ...!
俺はその想いを応援するさ。何せ、君の専属トレーナーだからっ。」
なんとも、照れ臭い言葉である。人のことを言えないが。
大事なのは、
混ぜていくための原初の色。これからを進むための、成長の色。
うん、まあ、これで良いのではないだろうか、私よ。
少しは素敵な色に、染まってくれただろうか?
「ところで、トレーナー。」
「うん。」
「さっき言ってた『心象領域』って何? あの白い夢とも関係あるの?」
あの告白のような現場の後。
彼らは真っ赤な顔で仕切り直していた。
トレーナーはパソコンを開き、何やら資料を纏めている。
ホワイトキャンバスは、今までのようにベットで基礎トレーニング本を読んでいた。
「あーー、うん、それね。俺からだと説明が難しいから、専門家を呼んだ。まあ、普通なら覚醒の兆候が出た時点で、彼女に説明と助言を貰うのが噂になってたんだけど。」
「ん、噂? そして専門家?」
「そう簡単に『心象領域』を作り出せるほどの名バは生まれないし、育たないということなんだろうね。だからこそ彼女らは『黄金の世代』とまで言われているのだし。」
「つまり、写真の友達たちも。」
「うん、君と同じ、その夢?ってやつの所持者だよ。
そして、専門家って言うのは、シンボリルドルフ会長のことだね。」
「久し振りだね。目を覚ましたという報せは届いていたが、一目見て安心したよ、ホワイトキャンバス。そして一津井トレーナー、電話ありがとう。」
「えーと、一応、はじめまして。」
「少々、いやかなり寂しい反応だが......受け入れよう。はじめまして、ホワイトキャンバス。記憶喪失ということを、私は強く実感したよ。」
「呼んだ俺が言うのはなんだが、色々忙しいと聞いていた、大丈夫なのか?」
「問題はない。スケジュールには余裕があるし、『心象領域』についてとなれば、置いとける要件ではない。残念ながらタキオンは海外だからな、大変悔しがっていたが。」
「タキオンは変わらないな。あちらのトレーナーの苦労が想像できるよ。
.....ホワイトのことを、よろしく頼む。」
「任しておいてくれ。よし、早速だがホワイトキャンバス。私は先ほどトレーナーくんから、君は走っていなくても『心象領域』を展開できると聞いたんだが、それは本当かい?」
「あの白い夢のことですか? よく....わかりません。『心象領域』ってのもちんぷんかんぷんですし、さっきのは感情の昂りによるちょっとした幻覚だと思っていたのですけど。」
「なるほど、では『心象領域』というものを簡単に説明しよう。まあ、専門的な部分はタキオンの受け売りなのだが....それを省き、結論を言おう。『心象領域』とはつまり、"ウマ娘の根幹たる情景の発露と、それに伴う超常的現象の発生"だ。まあ、科学的解明には至っていない、スピリチュアルな説明になるのだが。」
"ウマ娘の根幹たる情景の発露".....どうなのだろうか、
あの交差点が、私の根幹の情景?
確かに、私が保有する記憶は、
「超常的現象の発生とは?」
「一概には言えないが、身体能力の一時的向上、周囲への精神負荷の上昇、肉体の限界を越える酷使の実現。等が私の目で確認されている。」
身体能力の上昇。限界を越える肉体酷使。
確かに、あの刹那の情景には当てはまっている。
しかし、なぜだろう。何かが引っ掛かる。
「どうだろうか、何か当てはまるものはあるかい?」
「あ、はい。幾つか当てはまるものがあります。」
「なら良かった。それならば、大にしろ小にしろそれは『心象領域』だ。事故前から君は覚醒の兆候がみられたウマ娘だったんだ。あまり喜ぶべき事ではないとわかってはいるが、多分トリガーは..。」
「あの居眠り運転による交通事故。」
「例を見ない覚醒手段だ。もうそんなケースなど知りたくもないが。
レースにおける極限的な"勝ちたい"という感情と同等、またはそれ以上の強さの感情。あの時の君が何を思ったのかはわからないが、それが呼び水となったことが間違いない。しかし........それは、大きな問題になるかもしれないな。」
あかん温度差でグッピーが死ぬぅ!
こういう青春色好きよ。なお恋愛は書けない。
昨日に続き貫徹で仕上げました。(AM5時)
ナイトフィーバーテンションアゲアゲで書いたので多分寝て起きたら後悔するんだろうな。知らんけど。
流石に誤字脱字が酷すぎた。修正者ありがとう。
シンボリルドルフの口調や性格わからん。
おかしかったら優しく指摘して、可能な限り直す。
固有スキル関係は安定の独自解釈。流石におかしすぎると思ったら指摘よろしこ。