超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回のあらすじ・・・謎のスパイ現る


12話 モルモットとメイクデビュー【前編】

 そして迎えたメイクデビュー当日。

 私は人混みに埋もれていた。

 

「上半期の締めとも言えるグランプリレース【宝塚記念】が行われる今日、ここ阪神レース場には多くのファンが詰め掛けております。この時期にしては珍しい雲1つない快晴となり、バ場状態は芝、ダート共に良バ場との発表となりました」

 

 そう。

 メイクデビューの事で頭がいっぱいになり、今日のメインレースの事をすっかり忘れていたのだ。

 それはもう見渡す限り人、人、ウマ娘と言った感じである。

 駐車場から控室までは関係者以外立ち入れない為、何の問題もなかったのだが。

 控室からパドックへ移動するのも一苦労である。

 

「URAの発表によりますと、本日の観客動員数は収容人数の5倍近い、37万人に上るようです。入場制限が敷かれ、入場できなかった観客の為に急遽巨大モニターが設置されています」

「菅原さん。今日のメインレース、ずばり注目しているウマ娘はどの子ですか?」

「そうですね。ここはやはりテイエムオペラオーとグラスワンダーでしょう。全勝宣言のテイエムオペラオーか、グランプリ3連覇中のグラスワンダーか、目が放せません」

 

 そりゃ5倍の人数が詰め掛けてたら身動きも取れなくなるわな。

 完全にこの国のウマ娘人気を見誤っていた。

 ……しかしどちらもリギル所属なんだよな。

 改めて焔はとんでもない人を師匠に持っているのだと驚かされる。

 と、人混みに呑まれていると。

 

「おーい!お姉ーちゃーん!こっちこっちー!!」

 

 少し離れた……、パドックの方向から聞き慣れた声が聞こえた。

 そして何故か人の海が割れる。

 モーセかな?

 いや、周りから「姉居たんだ」とか「この人が」とか聞こえるから……。

 焔もウマ娘界では結構な有名人みたいだし、皆そのお姉ちゃんがどんな人なのか気になるのかも知れない。

 残念ながらこれといった特徴もない普通の人なのだが。

 まぁありがたいので素直に通らせてもらおう。

 

「焔。来てたんだ」

「うん。だってお姉ちゃんにとって初めてのレースだし。応援に来ないわけにはいかないでしょ」

「なかなか嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「それに……、アグネスタキオンはうちのカフェにとって一番の壁になるだろうし、ね」

「プレッシャー凄いし、いろいろ台無しだよ」

 

 いつのまにかトレーナーモードに入っていた焔は、パドックに目を向けた。

 釣られて見たそこでは。

 

「1番、アグネスタキオン。二番人気です」

「一番人気こそ譲りましたが、その実力は引けを取りません。先日ダービーを制した姉に続けるかどうか。また、彼女のトレーナーにとってもこれが初のレースとなります」

 

 ちょうどタキオンが出てくるところだった。

 

「おぉー。中々良い仕上がりだねぇー」

「先輩にそう言われて安心したよ」

 

 うん、やる気も十分だったし良く集中してるみたい。

 もっとも、集中しているのはレース展開を考えていると言うよりも、他のウマ娘の観察に集中しているようだが。

 ……まぁレースがどう展開するかはいざ始まってみないと分からないか。

 私も素直に他のウマ娘の評価と展開予想に移る。

 

「2番、ハイブーストロマン。四番人気です」

「少し落ち着かないように見えますね。出走までに落ち着きを取り戻せると良いのですが……。練習では見事な末脚を見せていましたから、実力さえ発揮出来れば良い勝負が出来そうです」

 

 確かに辺りを見回している。

 と言うか誰かを探しているような……。

 あ、自分のトレーナーを探してたのか。

 手と尻尾をブンブン振ってる。

 かわいい……。

 その後もパドックでの紹介が進む。

 

「3番、ライジングクイーン。六番人気です」

「良い仕上がりですよ。彼女も後ろからのレースを得意としているウマ娘です。落ち着いているようですし、好走が期待できます」

 

 スカウトして断られた芦毛のウマ娘に声をかけられたり。

 

「4番、ゴーストハント。八番人気です」

「やや……、いえ、かなり小柄な彼女ですが、選抜レースでは前目につける先行策で見事な勝利を掴み取っていました。この阪神レース場には向いていると思いますよ」

 

 かと思えばタキオンをガン見しているウマ娘がいたり。

 

「5番、ボウソウサミット。九番人気です」

「その名前からか人気薄となっていますが、以前学園で見かけた時は併走相手のウマ娘を大外から差し切っていましたからね。その末脚に注目です」

 

 選抜レースでは名前通りの暴走とも言えるような大逃げで沈んでいた白毛の子が差しウマ娘になっていたり。

 その時はてっきり芦毛だとばかり思っていたのだが、今日のレースで当たる上で調べたら白毛だったらしい。

 

「6番、ノルンジェネシス。七番人気です」

「彼女は地方から受験組です。オグリキャップの大ファンで、いつか一緒に走るべく中央を受験したそうですよ。倍率の非常に高い編入試験を突破した実力は本物です。夢への第一歩を踏み出せるかどうか」

 

 タキオンと同じように周りのウマ娘を見ているウマ娘がいたりした。

 そして、タキオンと私が2人揃って要警戒と判断したのが。

 

「7番、フルミネルージュ。堂々の一番人気です」

「今乗りに乗っているチームスピカからの参戦です。元々どんな走りも出来た彼女が、それぞれの走りのスペシャリストを擁するスピカで鍛えられてどう化けているのか、非常に楽しみです」

 

 スピカ所属のフルミネルージュである。

 まさかぶつけるためにテイオーを使って聞いてきたのだろうか……?

 まぁそれは置いといて。

 このウマ娘、元々選抜レースで毎度良い走りを見せていたのだが……。

 レース毎に走る位置を変えていたのだ。

 あまり長い距離を走ることは出来ないらしい為、てっきりマイル辺りに出てくるものと思っていたが、まさか中距離に出てくるとは。

 まぁ身体付きはどちらかと言えば長い距離に向いた身体だし、2000mが走れても不思議ではないか。

 特にスピカはテイオーも春天に出してるぐらいだし。

 トップクラスのウマ娘がトップクラスのチームで鍛えられているのだ。

 警戒しない理由が無かった。

 初のレースで入れ込んでたりしないかというのはいささか甘い考えだったらしいし、なかなか厳しいレースになりそうだ。

 

「8番、レキ。五番人気です」

「非常に落ち着いていますね。彼女のトレーナーも今年トレーナーになったばかりの新人ですが、昨日出走したローゼンリバイバルは見事な逃げ切り勝ちを納めました。このレースは手強いライバルが多いですが、どうでしょうか」

 

 少し探してみると、パドックの反対側から同期のトレーナーが手を振ってきた。

 中々珍しいウマ娘トレーナーである。

 

「9番、リボンタクト。三番人気です」

「今年もリボン家のウマ娘がやってきました。リボン家はG1の勝ちこそありませんが、非常に多くのウマ娘をG1の舞台に送り出しています。彼女こそがリボン家の悲願を達成する者となるのでしょうか」

 

 多くのと言うか……。

 最近見たG1レースの8割くらいでリボン家のウマ娘を見かけた気がする。

 この子は若干気負い過ぎな気もするが、警戒するに越したことはないだろう。

 

 

 

 

 

 ……うん。

 ウマ娘のレースに目を向けてから大して時間の経っていない私に、見ただけで細かい事まで分かる筈もなかった。

 それはコースへ移動してのウォーミングアップを見ても変わらなかったため、素直に隣の先輩に訊ねる事にした。

 

「焔はどう読む?」

「いやぁー、皆良い脚してるねぇー」

 

 同レベルだった。

 

「まぁ冗談はこれぐらいにして。私の育てた子が出ると考えた時に怖いのは……、タキオンちゃんとルージュちゃん。それからノルンちゃんの3人かな」

「何か意外な所が来たね。タキオンとルージュちゃんが強いのは分かるけど、何でノルンジェネシス?特に上位人気って訳でもないけど……」

 

 パドック後に若干変動があったものの、彼女の七番人気は変わらなかった。

 何故だろうか。

「あぁ、それは」

「あいつ良く周り見てっからなぁ。レースは1人で走るわけじゃ無いって事だ」

 

 その答えは焔からではなく、突如割り込んできた声によって得られた。

 

「あ、スピカの」

「よう」

 

 話しかけてきたのはチームスピカのトレーナーだった。

 周りからは沖野トレーナーと呼ばれている。

 ……が、それが本名かどうかは定かではなかったり、またやたら頑丈であったりと、何かと謎の多い人だ。

 

 だがトレーナーとしての腕は超一流。

 

 少し離れた所から様子を伺っている担当ウマ娘達は全員が複数回G1を勝っている程である。

 

「ま、俺も焔トレーナーと同意見だ。……最終的に勝つのはルージュだけどな」

 

 最後の一言はともかく、それほどのトレーナーが言うなら間違いないのだろう。

 だが、その顔にはいつもの自信たっぷりな笑みは浮かんでいなかった。

 

「何か気になることが?」

「……そんなに分かりやすいか?」

「はい。結構顔に出てますよ?」

 

 むしろ分かりやすい方だと思うのだが。

 

「……正直言うと俺はこのレースにあいつを出す気は無かった。絶対勝てるって自信をもって言える程の力はついてないからな」

「では、何故?」

「ルージュがメイクデビューでタキオンと戦いたいんだとさ。将来的に路線が被らないからって。全然聞く耳持たないから登録してやったんだが……。上手くいって勝率は半々、展開次第じゃ勝ち目は殆ど無いだろうな」

 

 そう沖野先輩が弱音を吐いた途端。

 

「トレーナーがそんなんで、ど う す ん だ ッ!!」

「うおッ!?」

 

 先ほどスピカメンバーがいた方向から芦毛のウマ娘のドロップキックが跳んできた。

 

「レースに絶対はねーんだから走り出したらあとは信じるのがトレーナーの仕事だろ!?」

 

 ゴルシちゃんの直撃を食らった先輩は見事に吹き飛び……。

 

「だから展開次第だって言っただろうが!!」

 

 すぐさま叫び返していた。

 ウマ娘のドロップキック(助走付き)を食らってもう立ってるし、本当に頑丈だなこの人……。

ウマ娘未登場馬の名前ってどうしたらいい?

  • まぁ、私はそのままで良いと思うけどねぇ…
  • たわけ。名前くらい自分で考えたらどうだ
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