超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回・・・パドック

なお、それっぽく書いてはいますが「そうはならんやろ」だらけです。


13話 モルモットとメイクデビュー【後編】

 ファンファーレが鳴り、枠入りが進む。

 

「ジュニア級メイクデビュー、芝の2000メートルで争われます。今日のメインレースは宝塚記念という事もあり、多くの観客に見守られてのレースとなります。この中から未来のグランプリウマ娘は出てくるのか」

「注目はチームスピカのフルミネルージュ、そしてアグネスタキオンの2人ですかね。特にアグネスタキオンは姉のアグネスフライトいわく『私以上の素質がある』との事なので要注目ですよ」

 

 何言ってくれちゃってんのフライトちゃん。

 最近どんどんプレッシャーが大きくなっている気がする。

 

「ですが事前の人気投票ではフルミネルージュの二番人気に甘んじていますね?」

「えぇ。彼女のトレーナーは今年トレーナーになったばかりですから、それが響いているのかもしれませんね」

 

 まぁ当然の評価だろう。

 新人と沖野先輩を比べたら、誰もが沖野先輩の方が勝つと判断するだろう。

 だが、タキオンの素質は本物だ。

 果たしてそれをどこまで引き出せただろうか。

 2分後には答えが分かる。

 

「各ウマ娘ゲートに収まり、係員がコースから離れます。……スタートしました」

「っよし」

 

 それを見た私は思わずガッツポーズをしていた。

 1秒で20メートル近い距離を進むウマ娘のレースにおいて、スタートが占める比重は非常に重い。

 実力のあるウマ娘だとしても、大きな出遅れをしてしまえば1着はおろか、掲示板に乗ることすら難しくなる。

 逆にスタートが上手くいけばそれだけ勝利を手繰り寄せる事になるのだ。

 

「ちょっとバラついたスタートとなりました。9番のリボンタクトはダッシュがつきません。対して好スタートを切ったのは1番アグネスタキオン。ですがすっと下げます」

 

 選択肢は広がるし、今タキオンがやったように、息を入れつつ自分の走りやすい場所を取る事も出来る。

 今回タキオンは最高とも言えるスタートを決めていた。

 

「良いスタートだな」

「そちらのルージュさんも凄まじい加速ですね……、って加速しすぎじゃありません?」

 

 まるで終盤のようなスピードまで加速している。

 

「良いんだよ、あれで」

「その調子よ、ルーちゃん」

「あ、なるほど」

 

 芦毛のゴルシちゃんの印象が強すぎてすっかり忘れていた。

 異次元の逃亡者と呼ばれた逃げウマ娘を。

 そしてその所属チームを。

 

「代わって加速していくのは7番フルミネルージュ。ハナを奪い逃げの体勢に……、いや、まだ加速しているぞ!これは大逃げだ!7番のフルミネルージュは大逃げを選択しました!」

「長らく大逃げは勝ちの定石ではないとされてきましたが、先日ドリームトロフィーリーグに移ったサイレンススズカはそれを覆しつづけましたからね。飛ばしながらも冷静さは保っているようですし、期待が持てますよ。坂をものともしないその脚も見事です」

 

 そう。

 そのサイレンススズカは今、ここにいる。

 一流のウマ娘から叩き込まれたスタートダッシュは、他の追随を許さなかった。

 

「先頭から大きく離れて5番ボウソウサミット、その外8番レキ、そして4番ゴーストハントが先行します。

 少し離れて3番ライジングクイーン、その内に1番アグネスタキオン、その後ろにノルンジェネシス。最後方は2バ身ほど離れて2番ハイブーストロマンと、外に並ぶのは9番リボンタクトです。先頭から殿まではおよそ17バ身。縦長の展開となりました」

 

 ボウソウサミットは随分前に……、っていうか結局逃げのペースで走るのね……。

 そしてそれとは別に異変を捉える。

 

「ん……?タキオンが上がり始めた……?」

 

 まだ1200メートルもの距離を残しながら、タキオンが前との差を詰めていく。

 タキオンが焦り、掛かっているようにも見えるが──

 

「あちゃー、やっぱ気付かれたか……」

 

 となりの沖野先輩が悔しそうにしている以上、別の理由があるのだろう。

 その原因を探るべく、コースへと意識を戻す。

 

「先頭は7番フルミネルージュ、大きなリードを取って向こう正面を駆けていきます。それに続くように進出していくのは1番アグネスタキオン。前にいた3人を抜き去り、じわり、じわりと先頭との差を詰めていきます」

「ノルンジェネシスがそのすぐ後に付けましたね。他の子に動きはありません」

 

 いや、これは……。

 危うく騙される所だった。

 いやまぁ走っている最中に指示とか出せる訳じゃないし、私が騙されても問題ないのだが。

 

 フルミネルージュが選択したのは、他バからの干渉を嫌っての大逃げではなく──

 

 他バに実力を発揮させない為の幻惑逃げだった。

 

「1000メートルは62秒8……、62秒8!?」

「最初こそ飛ばしていましたが、坂で差を拡げたあと、コーナーに入った辺りからは徐々にペースを下げていましたからね。実況をも騙す見事な走りですよ」

 

 これほどまでの見事な駆け引き、重賞レースでもそうそう見られないだろう。

 まぁ走っている中ではタキオンとノルンジェネシスが。

 それから解説者もちゃんと気付いていたみたいだけど。

 まぁ今日の解説者はその重賞を制したウマ娘だし、外から見ていれば気付いても不思議じゃないか。

 

「……第3コーナー差し掛かり、残り800メートルの標識を通過。下り坂に入り、そろそろ動き出す頃でしょうか。ペースが上がってきています。ここで真っ先に仕掛けたのはボウソウサミット。他のウマ娘達も一斉に加速しています。早めにスパートをかけましたが、先頭を捉えるウマ娘は出てくるのか」

 

 レースが残り800メートルを切り、レースは一気に動き出す。

 一向に脚の鈍る様子を見せないフルミネルージュを見て、ここで仕掛けないと間に合わないと判断したのだろうか。

 けど……、少しばかり気付くのが遅かったかな。

 タキオン以外の2人もまだ脚を残してるだろうし。

 その証拠に。

 

「ここでフルミネルージュがスパート!逃げていたとは思えない、凄まじい速さだフルミネルージュ!」

 

 フルミネルージュが加速し始めた。

 全く……、恐ろしい人達だこと。

 さっき聞いた話だと「確実に勝てるとは言えない」らしいが、とんでもない。

 ラストスパートをかけても逃げウマ娘との差が縮まないというのは、追っているウマ娘達にとって悪夢以外の何物でもないだろう。

 ()()()()()()()()()()タキオンでも届くかは怪しかっただろう。

 

「だがそれに待ったをかけるのはアグネスタキオン!5バ身ほどあった差をぐんぐん詰めていく!ノルンジェネシス少し遅れ始めた!リボンタクトが迫る!」

 

 4コーナーを抜け、直線に入ろうという所でタキオンがフルミネルージュに並ぶ。

 

「先頭は直線に入り、凄まじい競り合いを見せています!アグネスタキオンが前に出たかと思えばフルミネルージュが差し返す!!壮絶なデッドヒートだ!!」

 

 だがフルミネルージュも並ばれた途端更に加速。

 完全に横並びの状態で最終直線を駆けて来る。

 ……なんならタキオンも普段より速いし。

 レースの極限状態でいつも以上の力が出せているのかもしれない。

 レース後の検査とストレッチは入念にやらせないと。

 

 それはともかく。

 いつも以上の走りをしていると言うのに。

 それでなお……、差し切れない。

 

「レースは残り200メートル!競り合いは未だ終わらず!譲らない譲らない!2人とも先頭を譲らない!!」

「間もなく最後の坂ですが、天秤はどちらに傾くでしょうね?」

 

 解説者が言った通り、2人の競り合いに差が出るとしたら直線の最後にある坂だろう。

 阪神レース場には、ゴール直前に坂がある。

 高低差こそ他のレース場ほどでは無いものの、勾配はなかなかキツい阪神の坂は、ウマ娘達の脚を容赦なく奪う。

 タキオンはプールである程度のパワーを身に付けた反面、坂路でのトレーニングはほとんど積めていない。

 欲を言えばもう少し坂路でトレーニングをしたかったのだが、空いていなかったものは仕方がない。

 坂への強さには走り方も関わってくるため少し不安だが……、どうなるか。

 2人が坂に差し掛かり──

 

「っと坂でフルミネルージュが失速!アグネスタキオンが前に出る!!」

 

 逃げ続けていたフルミネルージュの足が僅かに鈍った。

 本当に僅かな遅れ。

 しかし……、激しい競り合いを演じている中でのその遅れは大きかった。

 タキオンが一気に前に出る。

 そして。

 

「アグネスタキオンだ!!アグネスタキオン今1着でゴールイン!!激しい競り合いを制したのは1番アグネスタキオン!2着はクビ差でフルミネルージュ!3着争いは接戦、6番ノルンジェネシスか、9番リボンタクトか」

 

 勢いをそのままにゴール板を駆け抜けた。

 

「ふぅ……、何とか勝ぐえっ」

「やったよおねーちゃん!タキオンちゃん勝った!!」

「分かってるから急に突っ込んで来ないで……。鳩尾入った……」

 

 それにすぐそこにはスピカの面々が……、あれ?

 

「先輩」

「ん?どうした」

「何か皆さん凄く走りたそうにしてません?」

「……あー、まぁあんなレース見せられちゃな。ほらお前ら落ち着け!来週から思いっきり走れっから!!」

 

 ……何はともあれ。

 こうしてタキオンは初勝利を挙げたのだった。




この世界の沖野トレーナーはメイクデビューでも必要とあらば作戦を立てて挑みます。
まぁ駄々捏ねなければ必要なかったんですが。

ウマ娘未登場馬の名前ってどうしたらいい?

  • まぁ、私はそのままで良いと思うけどねぇ…
  • たわけ。名前くらい自分で考えたらどうだ
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