超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
なお、それっぽく書いてはいますが「そうはならんやろ」だらけです。
ファンファーレが鳴り、枠入りが進む。
「ジュニア級メイクデビュー、芝の2000メートルで争われます。今日のメインレースは宝塚記念という事もあり、多くの観客に見守られてのレースとなります。この中から未来のグランプリウマ娘は出てくるのか」
「注目はチームスピカのフルミネルージュ、そしてアグネスタキオンの2人ですかね。特にアグネスタキオンは姉のアグネスフライトいわく『私以上の素質がある』との事なので要注目ですよ」
何言ってくれちゃってんのフライトちゃん。
最近どんどんプレッシャーが大きくなっている気がする。
「ですが事前の人気投票ではフルミネルージュの二番人気に甘んじていますね?」
「えぇ。彼女のトレーナーは今年トレーナーになったばかりですから、それが響いているのかもしれませんね」
まぁ当然の評価だろう。
新人と沖野先輩を比べたら、誰もが沖野先輩の方が勝つと判断するだろう。
だが、タキオンの素質は本物だ。
果たしてそれをどこまで引き出せただろうか。
2分後には答えが分かる。
「各ウマ娘ゲートに収まり、係員がコースから離れます。……スタートしました」
「っよし」
それを見た私は思わずガッツポーズをしていた。
1秒で20メートル近い距離を進むウマ娘のレースにおいて、スタートが占める比重は非常に重い。
実力のあるウマ娘だとしても、大きな出遅れをしてしまえば1着はおろか、掲示板に乗ることすら難しくなる。
逆にスタートが上手くいけばそれだけ勝利を手繰り寄せる事になるのだ。
「ちょっとバラついたスタートとなりました。9番のリボンタクトはダッシュがつきません。対して好スタートを切ったのは1番アグネスタキオン。ですがすっと下げます」
選択肢は広がるし、今タキオンがやったように、息を入れつつ自分の走りやすい場所を取る事も出来る。
今回タキオンは最高とも言えるスタートを決めていた。
「良いスタートだな」
「そちらのルージュさんも凄まじい加速ですね……、って加速しすぎじゃありません?」
まるで終盤のようなスピードまで加速している。
「良いんだよ、あれで」
「その調子よ、ルーちゃん」
「あ、なるほど」
芦毛のゴルシちゃんの印象が強すぎてすっかり忘れていた。
異次元の逃亡者と呼ばれた逃げウマ娘を。
そしてその所属チームを。
「代わって加速していくのは7番フルミネルージュ。ハナを奪い逃げの体勢に……、いや、まだ加速しているぞ!これは大逃げだ!7番のフルミネルージュは大逃げを選択しました!」
「長らく大逃げは勝ちの定石ではないとされてきましたが、先日ドリームトロフィーリーグに移ったサイレンススズカはそれを覆しつづけましたからね。飛ばしながらも冷静さは保っているようですし、期待が持てますよ。坂をものともしないその脚も見事です」
そう。
そのサイレンススズカは今、ここにいる。
一流のウマ娘から叩き込まれたスタートダッシュは、他の追随を許さなかった。
「先頭から大きく離れて5番ボウソウサミット、その外8番レキ、そして4番ゴーストハントが先行します。
少し離れて3番ライジングクイーン、その内に1番アグネスタキオン、その後ろにノルンジェネシス。最後方は2バ身ほど離れて2番ハイブーストロマンと、外に並ぶのは9番リボンタクトです。先頭から殿まではおよそ17バ身。縦長の展開となりました」
ボウソウサミットは随分前に……、っていうか結局逃げのペースで走るのね……。
そしてそれとは別に異変を捉える。
「ん……?タキオンが上がり始めた……?」
まだ1200メートルもの距離を残しながら、タキオンが前との差を詰めていく。
タキオンが焦り、掛かっているようにも見えるが──
「あちゃー、やっぱ気付かれたか……」
となりの沖野先輩が悔しそうにしている以上、別の理由があるのだろう。
その原因を探るべく、コースへと意識を戻す。
「先頭は7番フルミネルージュ、大きなリードを取って向こう正面を駆けていきます。それに続くように進出していくのは1番アグネスタキオン。前にいた3人を抜き去り、じわり、じわりと先頭との差を詰めていきます」
「ノルンジェネシスがそのすぐ後に付けましたね。他の子に動きはありません」
いや、これは……。
危うく騙される所だった。
いやまぁ走っている最中に指示とか出せる訳じゃないし、私が騙されても問題ないのだが。
フルミネルージュが選択したのは、他バからの干渉を嫌っての大逃げではなく──
他バに実力を発揮させない為の幻惑逃げだった。
「1000メートルは62秒8……、62秒8!?」
「最初こそ飛ばしていましたが、坂で差を拡げたあと、コーナーに入った辺りからは徐々にペースを下げていましたからね。実況をも騙す見事な走りですよ」
これほどまでの見事な駆け引き、重賞レースでもそうそう見られないだろう。
まぁ走っている中ではタキオンとノルンジェネシスが。
それから解説者もちゃんと気付いていたみたいだけど。
まぁ今日の解説者はその重賞を制したウマ娘だし、外から見ていれば気付いても不思議じゃないか。
「……第3コーナー差し掛かり、残り800メートルの標識を通過。下り坂に入り、そろそろ動き出す頃でしょうか。ペースが上がってきています。ここで真っ先に仕掛けたのはボウソウサミット。他のウマ娘達も一斉に加速しています。早めにスパートをかけましたが、先頭を捉えるウマ娘は出てくるのか」
レースが残り800メートルを切り、レースは一気に動き出す。
一向に脚の鈍る様子を見せないフルミネルージュを見て、ここで仕掛けないと間に合わないと判断したのだろうか。
けど……、少しばかり気付くのが遅かったかな。
タキオン以外の2人もまだ脚を残してるだろうし。
その証拠に。
「ここでフルミネルージュがスパート!逃げていたとは思えない、凄まじい速さだフルミネルージュ!」
フルミネルージュが加速し始めた。
全く……、恐ろしい人達だこと。
さっき聞いた話だと「確実に勝てるとは言えない」らしいが、とんでもない。
ラストスパートをかけても逃げウマ娘との差が縮まないというのは、追っているウマ娘達にとって悪夢以外の何物でもないだろう。
「だがそれに待ったをかけるのはアグネスタキオン!5バ身ほどあった差をぐんぐん詰めていく!ノルンジェネシス少し遅れ始めた!リボンタクトが迫る!」
4コーナーを抜け、直線に入ろうという所でタキオンがフルミネルージュに並ぶ。
「先頭は直線に入り、凄まじい競り合いを見せています!アグネスタキオンが前に出たかと思えばフルミネルージュが差し返す!!壮絶なデッドヒートだ!!」
だがフルミネルージュも並ばれた途端更に加速。
完全に横並びの状態で最終直線を駆けて来る。
……なんならタキオンも普段より速いし。
レースの極限状態でいつも以上の力が出せているのかもしれない。
レース後の検査とストレッチは入念にやらせないと。
それはともかく。
いつも以上の走りをしていると言うのに。
それでなお……、差し切れない。
「レースは残り200メートル!競り合いは未だ終わらず!譲らない譲らない!2人とも先頭を譲らない!!」
「間もなく最後の坂ですが、天秤はどちらに傾くでしょうね?」
解説者が言った通り、2人の競り合いに差が出るとしたら直線の最後にある坂だろう。
阪神レース場には、ゴール直前に坂がある。
高低差こそ他のレース場ほどでは無いものの、勾配はなかなかキツい阪神の坂は、ウマ娘達の脚を容赦なく奪う。
タキオンはプールである程度のパワーを身に付けた反面、坂路でのトレーニングはほとんど積めていない。
欲を言えばもう少し坂路でトレーニングをしたかったのだが、空いていなかったものは仕方がない。
坂への強さには走り方も関わってくるため少し不安だが……、どうなるか。
2人が坂に差し掛かり──
「っと坂でフルミネルージュが失速!アグネスタキオンが前に出る!!」
逃げ続けていたフルミネルージュの足が僅かに鈍った。
本当に僅かな遅れ。
しかし……、激しい競り合いを演じている中でのその遅れは大きかった。
タキオンが一気に前に出る。
そして。
「アグネスタキオンだ!!アグネスタキオン今1着でゴールイン!!激しい競り合いを制したのは1番アグネスタキオン!2着はクビ差でフルミネルージュ!3着争いは接戦、6番ノルンジェネシスか、9番リボンタクトか」
勢いをそのままにゴール板を駆け抜けた。
「ふぅ……、何とか勝ぐえっ」
「やったよおねーちゃん!タキオンちゃん勝った!!」
「分かってるから急に突っ込んで来ないで……。鳩尾入った……」
それにすぐそこにはスピカの面々が……、あれ?
「先輩」
「ん?どうした」
「何か皆さん凄く走りたそうにしてません?」
「……あー、まぁあんなレース見せられちゃな。ほらお前ら落ち着け!来週から思いっきり走れっから!!」
……何はともあれ。
こうしてタキオンは初勝利を挙げたのだった。
この世界の沖野トレーナーはメイクデビューでも必要とあらば作戦を立てて挑みます。
まぁ駄々捏ねなければ必要なかったんですが。
ウマ娘未登場馬の名前ってどうしたらいい?
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まぁ、私はそのままで良いと思うけどねぇ…
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たわけ。名前くらい自分で考えたらどうだ