超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回・・・たづなさんは怒らせてはならない


15話 モルモットと夏合宿

 1学期の終業式が終わり、トレセン学園はいよいよ夏休みに突入した。

 授業が休みになる事で出勤を遅らせる同期が多い中、私は夏休み初日だと言うのにいつもより早起きしていた。

 そう。

 今日からアルタイルと合同の夏合宿なのだ。

 チームアルタイルは夏休み初日から最終日まで、ぶっ通しで行うらしい。

 てっきり1週間とかそれぐらいかと思っていた私は、期間を聞いて驚愕したのだった。

 2ヶ月も家を空けるのならば、色々準備が必要になる。

 正直1週間前には言って欲しかった……。

 帰宅後の僅かな時間で全部終わらせるのは大変だったが、手を抜くと冗談抜きに家が燃えるので手は抜けない。

 

「これでよし、っと」

 

 ついでに行方不明の母に帰ったら連絡するようメモを残して準備完了だ。

 アメリカの実家に帰宅した際に携帯を忘れて行ってから一年。

 この間国際郵便で

『折角アメリカまで来たからレース見てから帰るわね!ちょっと帰るの遅くなるかも!』

 という短い手紙と共に大量の写真が届いたのだが……。

 

 うち3枚は後ろの文字がフランス語だった。

 

 ……とりあえず放っておこう。

 いつもの事だし。

 

 

 

 

 

 いつもよりかなり早い時間帯だが早起きは苦ではないし、むしろ道が空いていて快適だった。

 夏休み明けも早く行きたい衝動に駆られるが、あまり早く行くとたづなさんに怒られそうである。

 いつもの駐輪場にバイクを置き、集合場所である駐車場へと向かう。

 そこに居たのは──

 

「あれ?トレーナーさんかと思ったらお姉さんの方でしたかー」

 

 芦毛のウマ娘1人だけだった。

 

「よろしくね、セイウンスカイさん」

 

 彼女はセイウンスカイ。

 かの黄金世代で、皐月賞と菊花賞のクラシック二冠を制したウマ娘だ。

 今年彼女のトレーナーが定年を迎えたため、人数が足りず、かつステイヤーの多いアルタイルに移籍したらしい。

 

「よろしくー。あ、私の事は好きなように呼んでくださいな」

「わかった。ところで他のメンツは?」

「んー、そろそろ来ると思いますけど……。お、来た来た」

 

 釣られてそちらを見ると、ちょうど数人のウマ娘が歩いて来るところだった。

 

「おはようタキオン。クリークさん、カフェさんも。……ところで、そちらの方々は?」

「おはようございます、怜トレーナー。それぞれナイトジャー、ドライデッカー、そして堀川サブトレーナーです」

 

 そういえばアルタイルのメンバーってクリークさんとカフェさん以外会った事無かったな。

 セイウンスカイさんの事は知っていたけど、会ったのは今日が初めてだし。

 結構小さい黒鹿毛の子がナイトジャーさんで、綺麗な尾花栗毛の子がドライデッカーさんらしい。

 それぞれダートの短距離~マイルと、芝のマイル~中距離が得意で、秋のG1で初戴冠を目指しているそうな。

 それにサブトレーナーが居る事も知らなかった。

 腰辺りまで伸ばした黒髪も印象的だが、それ以上に凄く背が高い。

 私が少し見上げるぐらいだから……。

 175センチぐらいだろうか。

 それにどことは言わないが凄く大きい。

 美人でスタイル良いとか全く羨ましい限りである。

 

 

 

 

 

 さて、タキオンとアルタイルのメンバーも揃い、あとは焔を待つのみである。

 そのタイミングで駐車場に入ってくる車があった。

 方舟伝説の人の名前が付けられたワンボックスカーである。

 それは私達の傍で停車、運転席の窓を開け。

 

「ゴメンお待たせー!ガソリン入れてたら遅くなっちゃった!」

 

 焔が顔を覗かせた。

 ……あれ?

 

「ねぇ焔。まさかこれで合宿行くの?」

「うん。学園から借りてきた」

「じゃあ聞くけど今年の合宿参加人数は?」

「え?アルタイルの7人にお姉ちゃんとタキオンちゃんで……、あ」

「良かったわね。私がバイクで来てて」

 

 

 

 

 

 SAでスピカの面々に遭遇したり、赤いカウンタックにぶち抜かれたりはしたものの。

 それらを除けば特に何事もなく、無事合宿場所に到着した。

 今回私達が宿泊するのは高級ホテル──

 

 の隣の小さな旅館である。

 

 いや凄いな。

 よくこの立地で経営していけるわ……。

 

「荷物を部屋に運んだら正午まで自由時間。集合場所は隣のホテルのエントランスね。それじゃ解散!」

 

 今が10時だから2時間弱か。

 何してようかな。

 ……いや、悩む必要は無かった。

 

「モル……、トレ……、いや、モルモットくん。実験の時間だよ」

 

 案の定タキオンがやって来た。

 

「呼び方悩んだ挙げ句モルモットに落ち着くんじゃないのよ。それで……、何するの?」

「トレーナーくんには少しばかり海を泳いでもらおうかと思ってね。なに、1日中ぶっ通しで泳げと言っているんじゃない。ほんの30分程度全力で泳いでもらうだけの事だ」

「え?水着持ってきて無いんだけど」

「え」

 

 あ、固まった。

 タキオンと初めて会った時も固まってたっけ。

 

「えぇー!?君はいったい何をしにここまで来たんだい!?」

「いや、合宿に──」

 

「君は!すぐそこに!普段とは違う条件が存在しているというのに!!それを無視するつもりだったのかい!?」

 

「叫ばないで……。耳痛い……」

「……まぁ良い。私の予備を貸すからそれを──」

「ちょっと待った!明日までに用意しとくから今日は別の実験でお願いします」

 

 この年でスク水はちょっと……、いや、かなり恥ずかしい。

 誰も見ていないならまだしも学園のプライベートビーチではないし、そうだとしても学園の面々には見られるし。

 こればかりは断固拒否である。

 合わない水着で30分なんて泳げる自信ないし。

 

「ん?……まぁ君がそこまで言うなら構わないが。そうだねぇ……。スイカ割りなどはどうだろう?」

「いや何故にスイカ割り」

「回転数と三半規管の働きにはどのような関係があるのかが気になってね。ほら早く行くぞモルモットくん」

 

 わざわざ理由付けなくても、自由時間なんだし危険な事じゃ無ければ付き合うのに……。

 

 

 

 

 

 こうして波乱に満ちた夏合宿の幕が上がったのだった。

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