超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回・・・行列のできる執事喫茶


22話 モルモットと学園祭【後編】

 席に案内され、待つ事およそ1分。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様…、って怜トレーナー?どうしたんですかこんな所で」

 

 メニューを渡してくれた執事さんは、アルタイルの堀川サブトレーナーだった。

 何でリギルの執事喫茶で執事になっているんだろうか…?

 

「私は今日一日フリーだから遊びに来たんだけど…、堀川さんこそどうしたの?助っ人?」

「…あぁ、そういえば言っていませんでしたね。私、現役時代の最初の頃はリギルに所属していたんですよ」

「え、そうなの?」

 

 初耳なのだが。

 焔が初めて担当したウマ娘と聞いていたから、てっきりうちみたいな個人契約だったのかと。

 

「はい。そこで当時リギルのサブトレーナーだったほむちゃ…、焔トレーナーの独立試験という事で焔トレーナーに指導されたんです」

「ほむちゃ…?あ『ほむちゃん』か」

「それは忘れてください。その後菊花賞を勝った事で焔トレーナーが独立しまして、それに私もついて行ったという訳です。今回アルタイルの人手は足りていますし、反対にリギルは毎年猫の手も借りたい状態なのでリギルの方に参加しているんです」

「なるほど」

 

 まぁこの状態ではそうなるか。

 この短時間で行列が2割ほど伸びていた。

 早いところ注文して、次のお客さんに交代した方が良いだろう。

 

「…それじゃ『エルのブラバパエリア』を『エアグルーヴのフレーバーティー』をお願いします」

 

 そして美味しそうだった2つを選んで注文した途端、店内の動きが止まった。

 …何事?

 

「畏まりました、お嬢様」

 

 私がその理由を知るのは、注文したパエリアを一口食べた後だった。

 

 

 

 

 

「うぅ…、まだ口がヒリヒリする…」

 

 どうにか完食したものの、凄かった。

 

「何でパエリアがあんなに辛いのよ…」

 

 フレーバーティーが先に出てきた理由が良く分かった。

 今はパエリアのオマケでついてきたニンジンアイスを手に移動中なのだが、ニンジンの風味が良く分からなくなってしまっている。

 もしパエリアの後だったら風味も何もあったものではなかっただろう。

 途中の出店で幾つか食べ物を追加しつつ、次の目的地へ向かう。

 

「よし、なんとか最前列確保っと」

 

 足を止めた私の前には、今日限定でレース場から移設されたライブ用ステージ…、の客席へと続く門があった。

 そう、次はトウカイテイオーのスペシャルライブを堪能する時間である。

 …と言っても、まだ4時間ほど先なのだが。

 常日頃からお世話になっているテイオーに『一番前で見ててよ?絶対だからね!?』なんて言われたらこの時間に来る他あるまい。

 リギルの執事喫茶はいつも2時には受付終了してしまうらしいので先に行って来たのだが、何とか間に合って良かった。

 よく見ると周囲にちらほらと見知った顔が居る。

 日本ダービーやタキオンのデビュー戦…、と言うか宝塚記念で見かけた二人組だったり、テイオーの同期のウマ娘達だったり──

 

 この学園の生徒会長だったり。

 

 生徒会長が居るのはひとまず置いておくとして、それぞれ真剣な表情でストレッチをしていた。

 …うん。

 これは何が起きるのか察したかもしれない。

 

 

 

 

 

「やぁ、怜トレーナー。貴女もテイオーのライブを見に来たのかい?」

 

 開場時間が迫り、一気に人が増えたタイミングで、その生徒会長ことシンボリルドルフが声をかけてきた。

 

「もちろん」

「そうか…。それなら覚悟しておいた方が良いだろう」

 

 時間を迎え、門が開き──

 案の定皆一斉に走り出した。

 

「毎年ライブの席は争奪戦なんだよ」

「だと思った」

 

 ストレッチをする理由などそれ以外思い浮かばない。

 だがそんな状況でも全力疾走はしない辺り、良く鍛えられた観客たちだった。

 

 

 

 

 

 調子に乗って買いすぎた食べ物を横にいたシンボリルドルフとナイスネイチャの助けを得て食べ切り、スペシャルライブを堪能する。

 タキオンにダンスを教えてもらう際に全体を流す事はあったが、実際にライブをしているのを見るのは初めてである。

 

 初めて見たテイオーのライブは素晴らしい物だった。

 ダンスは勿論完璧。

 歌も同じく。

 歌い終わった直後のトークも息ひとつ切らさずにこなす。

 ライブのお手本とも言える完璧なライブがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 もっとも、そのトークからの流れで舞台上に引き上げられそうになるとは思わなかったが。

 

「ほら早くー!」

 

 もう3ヶ月も前の事なのに、うやむやにして踊らなかった事を覚えていたらしい。

 だが、ここに来ているお客さん達は、テイオーのライブを見に来ているのである。

 トレーナーが出て行っても微妙な雰囲気になるだけだろう。

 

 という訳で。

 

「ルドルフさん、ネイチャさん。代わりにお願いして良い?あとテイオーに『それは次のレッスンで』って伝えてくれると助かるんだけれども」

「委細承知した。…出来ればテイオーには最初から私を招致して欲しかったのだが。フフッ」

 

 シンボリルドルフは二つ返事でOKしてくれたのだが…。

 

「っく…、ふ…。あー、アタシで平気ですかね?確かに3着の振り付けには自信ありますけど、他2人が凄く豪華なんですが…」

 

 ナイスネイチャには渋られてしまった。

 それどころかこちらに背を向けて体を震わせている。

 …もしかして怒らせた?

 そんな考えが思い浮かぶが──

 

「何を言っているんだ、ナイスネイチャ。君がセンターに決まっているだろう?」

 

「!??!!?」

 

 何かおかしな助け舟が出された。

 

「君がGⅠのライブ楽曲でセンターを飾る姿を見たいというファンも大勢いるだろうからね。せっかくの感謝祭なのだし。なに、ちょっとWDTのライブを先取りするだけだ」

 

「さらっと凄いプレッシャーかけられた!?」

 

 なるほど、普段見られない一面を見せるのも感謝祭の目的の一つという訳だ。

 

「もっとも、優勝の座はそう簡単に譲る気は無いがね。ほら、観客達も待っている。早く行こうじゃないか」

「え、ちょ、まだ心の準備がですね…、あーもう分かりましたよ!踊りますとも!だからそんなしょんぼりした顔しないでください!!」

 

 ナイスネイチャ、トウカイテイオー、シンボリルドルフの3人によるNEXT FRONTIERは凄まじい盛り上がりを見せたのだった。

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