超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回・・・2戦目


25話 モルモットと、まだ普通な変人記者と、年末のG1と

 結果を見届けた後、ライブ参加者の控え室に向かう。

 レースを走り終えたウマ娘達はここでライブの準備を整え、次のレースが終わった後にウイニングライブを披露するのだが、時間が経って忘れる前に新鮮な感想を聞いておこうという訳だ。

 

 控え室で待つ事数分。

 タキオンが戻ってきた。

 2000Mを全力で走った直後にも関わらず、もう既に息が整っている。

 これも合宿の成果だろうか。

 

「お疲れ様。皐月賞と同じコースを走ってみた訳だけど、どうだった?」

 

 時間も無いのでストレートに訊ねる。

 

「コースの感じは掴めたと思うけどねぇ……。レース感覚としては正直微妙な所だよ」

「それはまぁ……、仕方ないか」

 

 今回は結構特殊な展開だったし、皐月賞もこの展開になるとは思えない。

 ただコースの感じは掴めたと言っているし、最低限の目標はクリアできたといった感じだろうか。

 

「とは言え成果はあったさ」

「あぁ、道理で嬉しそうだと思った」

 

 具体的には尻尾が凄い事になっていた。

 

「それで成果って?」

「スローペースになりそうだったから、模擬レースでの会長の走りを参考にして少しせっついてみたんだが、中々上手くいったんだよ」

「お手本が豪華だこと」

 

 どうやらレイスイーターが逃げたのはタキオンのせいで、予定通りの行動ではなかったらしい。

 それでも2着に入っていたし、もし冷静に走られていたら危なかったかも。

 夏合宿での模擬レースがこんな形で役に立つとは……。

 実戦に勝る練習無しとは言うが、確かにその通りらしい。

 合宿に合流した甲斐があるというものだ。

 

「どうする?弥生賞前にもう一回ここ走っとく?」

「となるとホープフルステークスか……。まぁトレーナー君が出ろと言うなら出るが……」

「りょーかい」

 

 つまり走る理由が無い、と。

 乗り気じゃないなら見送りで良いか。

 とりあえずすぐに聞かなくてはならない事は聞き終えたので、ライブ会場へ移動しよう。

 

 

 

 

 

 どうにか観客席に移動し、観客席からタキオンのライブを鑑賞する。

 タキオンは2度目のウイニングライブを完璧にこなしていた。

 ……まぁ前回は3回しか練習出来なかったし、緊張する事もあると知って驚いたものだが。

 今回は途中で噛む事も、一瞬遅れる事も無かった。

 定期的にテイオーを借りていた成果だろう。

 まぁ食費は嵩んだが。

 

 

 

 

 

 そしてライブ終了後、ある記者から声をかけられた。

 

「月刊トゥインクルの乙名史です!取材よろしいですか!?」

 

 メイクデビューの後、私がトレーナーとして初めて取材を受けた記者である。

 

「乙名史さん。メイクデビューの時以来ですね」

「覚えていて下さったんですね!!」

 

 覚えているも何も、こんなクセのある人を忘れる方が難しいと思うのだが……。

 それはともかく。

 

「どうしたんですか?今日って確か札幌で……」

「あ、札幌ジュニアステークスの取材には私の代わりに先輩が行ってくれていますので大丈夫です。無理を言って変わって貰いました!!」

 

 ……それは大丈夫なのだろうか。

 重賞の記事を譲ってしまって。

 自分の事など全く考えていなさそうである。

 

「それに今のうちからお二人を取材しておくべきだと私の直感が告げていますので!」

「そ、そうですか……」

 

 期待が重い……。

 

「そうです!!……っと。取材よろしいですか?」

 

 あ、冷静になった。

 

「はい。……そろそろタキオンも戻ってくると思いますけど、どうします?」

「あ、それでしたら是非タキオンさんも取材させてください!それでは今回のレースの事は後で聞くとして……。よろしければ今後の出走予定などを──」

 

 

 

 

 

 そして週が明けた月曜日の昼休み。

 私は約半年ぶりに理事長に呼び出されていた。

 

「……あの、何かやらかしましたかね?」

「あ、いえいえ。怜トレーナーが問題を起こした訳ではなくてですね……」

 

 私じゃない?

 となると──

 

「タキオンですか?最近はだいぶ大人しかったのですが……」

「否定ッ!」

 

 どうやら違ったらしい。

 

「まずはこれを読んで欲しい!月刊トゥインクルの編集部から送られてきたものだ!!」

 

 理事長はそう言うと、数枚の紙を渡してきた。

 そこには一昨日行われた札幌ジュニアステークスの結果とインタビュー。

 そして端に私とタキオンのインタビューが載っていた。

 

「月刊トゥインクル等、レース場や学園での取材が許されているメディアはこうして確認してくれるんですが……、この記事を見たURAから問い合わせがありまして」

「問い合わせ?」

「はい。『アグネスタキオンは百日草特別の後、休養を挟んでクラシック路線へ進む予定だとあるが、年末のG1には出ないのか』と」

「まだ2勝ですよ?気が早いような……」

「無敗ですし、ここまでのレース内容が評価されているんですよ。それに姉がダービーウマ娘ですからね」

「あぁ、なるほど……。まぁタキオンが出たいと言わない限りは様子見ですね。今の所出るつもりは無いみたいですし、無理強いは出来ませんから」

 

 

 

 

 

 私は研究室で一昨日の芙蓉ステークスの分析をしていた。

 いつもならトレーナー室に突撃している時間だが、今日はトレーナーが呼び出されているため突撃しても意味が無い。

 それに、予め弁当を渡されていた事だし。

 

 ……ん、もうこんな時間か。

 流石にそろそろ食べ始めないと午後に響くか。

 

 電子レンジで温めたそれを口に運んでゆく。

 

「……」

 

 いつもと変わらない筈が、何か物足りなさを感じ、何が足りないのか考……、たいのは山々だが今は時間がない。

 後でモルモットを問い詰めるとしよう。

 

 

 

 

 

 研究室の扉がノックされたのは、弁当を食べ終え、トレーナーくんが別容器に用意してくれたデザートを冷蔵庫から出したタイミングだった。

 

「鍵は開いている。好きに入りたまえ」

「あぁ、そうさせてもらう」

「……おやおや。これは随分と珍しい来客じゃないか」

 

 入ってきたのは一人の鹿毛のウマ娘。

 一昨日行われた札幌ジュニアステークスを勝利した、今注目のウマ娘だ。

 

「今日はいったいどうしたんだい?ポケットくん。わざわざこんな所に来るなんて」

「こんな所って自分で言うか……?いや、そんな事よりこの記事だ。お前、年末のG1には出ないつもりなのか?」

 

 ……まさかこのウマ娘はこんな事を聞きにわざわざ旧校舎まで来たのか?

 走っても10分はかかるのだが。

 

「あぁ。今のところ出るつもりは無いよ?」

「何故だ?お前の戦績なら出られるだろう?」

「いや、特に出る理由も無いしねぇ……?」

 

 ん?何故そんなショックを受けたような顔をする?

 

「そうか……。お前が出てくるなら最高のレースになると期待していたんだがな」

「それは光栄だね。G2ウマ娘にそう言って貰えるとは」

「レースレコードを叩き出しておいて良く言う」

「だがねぇ……。生憎と私はマイルは苦手なんだ。ポケットくんが出るのは朝日杯だろう?」

 

 私が出るとしたら中距離のホープフルステークスだろうが、彼女の制したレースはいずれもマイルレースだ。

 選ぶのは恐らく阪神JFか朝日杯FSかと言った所だろう──

 

「いや、ホープフルステークスに出るつもりだが」

「なに?」

「それはそうだろう。俺の目標はクラシック制覇だからな」

「初耳なのだが?」

「そりゃ言ってないしな」

 

 何という事だ。

 まさかホープフルステークスの方に出てくるとは。

 そしてもし()()がトレーナーくんの言う通り勝ち上がって来たなら。

 

「……前言撤回だ」

 

 非常に面白い物が見られるのでは無かろうか?

 

「私もホープフルステークスに出るとしようじゃないか」

「……ッ!それでこそだ」

「本当に考えが顔に出るな、君は……。そんな訳で少しここを任せても良いかい?トレーナーくんに話してくる」

「ん?あぁ、別に構わないが」

「何も触るなよ?君が勝手に発光したとしても怒られるのは私なんだ」

 

 さて、トレーナーくんはまだ理事長室だろうか?




推しがダービー馬になるとは思わなんだ。
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