超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回・・・研究室への訪問者

いろいろあって久しぶりの投稿です。
所属チームが当初の予定とは逆になったため齟齬が出てくるかもわからん。


26話 モルモットと京都レース場

 タキオンが理事長室に突撃して来てから1ヶ月ほど経ったある日。

 私は京都レース場へ向かっていた。

 

 今日の目的はクラシック最終戦の菊花賞、……ではない。

 菊花賞は先週行われ、エアシャカールが見事に二冠目を戴冠している。

 しかし東山先輩はまだ賞金も入っていないのに豪勢な祝勝会を開いていたが、大丈夫だったのだろうか。

 

 それはともかく、今週の目玉は明日東京レース場で行われる秋の天皇賞である。

 当然そちらも見に行く予定であり……、今日は日帰りである。

 ではそんな強行軍を組んでまで何をしに来たのかと言うと。

 今日の目的はジュニア級未勝利戦のである。

 その未勝利戦に出走しているウマ娘の中に1人、タキオンに匹敵する素質を持った子が居るのだ。

 

 夏合宿でスピカの練習をこっそり覗いた感じだと、かなりの高確率で勝ち上がって来るものと思われる。

 早ければホープフルで激突する事になるだろうが、そこで問題が発生する。

 

 この間計測したタキオンのタイムと、東条先輩から貰ったファイルに書かれていた予測タイム。

 

 この2つのタイムがほとんど変わらないのである。

 

 もっとも、流石に私の腕では()()()()()()()()()()()()()に及ぶ筈もなく、少し遅れてしまったが。

 とにかく、東条先輩レベルのトレーナーであれば、成長の予測はかなりの精度で可能という事だろう。

 

 そしてそれは恐らく沖野先輩に関しても同様であると思われる。

 

 さらに言えばメイクデビューでスピカのフルミネルージュと当たっており、そこにテイオーからの情報も加わっている分、その予測精度は上がる筈。

 タキオンの実力は既に把握されていると考えるべきだろう。

 

 それに対し、此方は彼女の情報を殆ど持っていない。

 非常にマズい事態である。

 

 なので少しでも情報を集めるべく直接偵察に来たのだが。

 

 その前に1つ。

 

「とーうちゃーく。……いや腰死ぬわこれ」

 

 どんなに交通費が浮こうと、バイクで来るのだけはやめようと決意するのだった。

 

 

 

 

 

 生八つ橋を買って食べたり、抹茶ラテを買って飲んだりしているうちに、早くも目的の未勝利戦の時間となった。

 パドックでは若干不安げな様子が見られたのだが……。

 

「4コーナーを回り、先頭を行くのはアイゼンテンツァー!だがやや苦しいか!?」

 

 本バ場に入ると雰囲気が一変。

 他の子達はその空気に呑まれてしまっていた。

 

「ここで外からクロフネが交わし先頭に躍り出る!後ろからはカイゼルパレスも迫っている!4番手以降は大きく離れたぞ!!」

 

 何か特別な事をしているわけではない。

 だが、気付いた時には。

 レースはいつの間にかたった1人の為の舞台となっていた。

 

「クロフネ、今1着でゴールイン!2着は2バ身差でカイゼルパレス!3着はやや離れたが、スウィートパルフェが優勢か!?」

 

 夏合宿時点でも調子は良さそうだったし、勝ち上がるとは思っていたが……、まさかこれ程とは。

 中盤までは好位で脚を溜め、自分のタイミングで一気に仕掛ける。

 スタートからゴールまで一貫して基本に忠実に、それをミスなくこなす。

 

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 他の子達には悪いが、現時点では1人だけモノが違うと言わざるを得ないだろう。

 なんならこのまま重賞に出ても良い勝負になりそうである。

 

「上がり3Fは35秒弱って感じかな?ストップウォッチ持ってくれば良かった……」

「俺の手持ちで34.8ってところだな」

 

 ……本当にこの先輩は気付いたら横に居るんだよな。

 

「……毎度毎度驚かさないでくださいよ、沖野先輩」

「いや、驚かすつもりは無いんだけどな」

「いや、驚きますよ。今回もあんな位置から上がり最速ですし。あと未勝利戦で逃げて上がり最速を叩き出したウマ娘がいるらしいですけど知ってます?確か所属チームはスピカだったと思うのですが」

 

 メイクデビューでタキオンと当たったフルミネルージュも、3週間前の未勝利戦で無事勝利を納めていた。

 今回は後続を僅かに離した逃げから、スパートで一気に引き剥がして5バ身差の勝利だとか。

 本当になんなんだろうなこの人のチームは。

 いくらなんでも強すぎでしょ。

 

「ありゃ後ろから進める子が多くて前残りになっただけだ。タイム的にはかなり遅いタイムだし、メンツ次第では後ろからでも届くだろうしな」

「スローになるように仕向けたのは先輩でしょうに」

「今回は『好きに走れ』としか言ってないぞ」

「……一度託されただけの作戦をもう自分の物にしている、と?」

 

 それが本当なら何が出てくるか分からないビックリ箱みたいなウマ娘になるのではなかろうか。

 かの有名なマヤノトップガンのように。

 

「なんかアイツ、走力はともかくレース慣れしてるというか……。ジュニア級って事忘れそうになるんだよな」

「それほどですか」

 

 ……インタビューではティアラ路線に進むと言っていたが、シニア混合のレースが始まれば当たる事になるかもしれない。

 と言うかこのままだと間違いなく当たる。

 それまでに何か対策を整えておかなければ。

 

「しかしクロフネは何と言いますか……、本当に未勝利だったのかと言いたくなるようなレース運びでしたね」

「あぁ、この調子ならホープフルには十分間に合うだろ。にしてもアグネスタキオンにジャングルポケットか。なかなかキツいレースになりそうだなぁ」

「いや、スピカとリギルの2人に挟まれるこっちの身にもなってくださいよ。プレッシャー凄いんですが」

 

 来るとしたらクロフネぐらいかと思っていたのに、ジャングルポケットまでホープフルに出てくるとは。

 そしてタキオンが反応するとは……。

 タキオンならいい勝負にはなると思うが、正直胃が痛い。

 

「今年の新人はもはや新人じゃないだろ。桐生院の秘蔵っ子と言いお前さんと良い、もう何勝目だよ?」

「タキオンが2勝、ハッピーミークも同じ……、いや、ちょうど3勝目を挙げたみたいですね」

「無敗3連勝かよ……。普通1年目に出せる戦績じゃねぇっての……」

 

 その台詞は復帰して早々にダービーを取っていった人に投げられるべき台詞だと思うのだが。




「よく考えたら栗東寮長との関係的にリギルの方が良いよな」って思いまして。

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