超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~   作:Valid Bear

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前回・・・勝負服のお話


28話 モルモットとジュニア級G1の開幕

「あとはこれにハンコを押して……、これでよし」

 

 ホープフルステークスまで残り2週間を切ったある日の事。

 

「お待たせしました」

「すみません、こんな忙しいタイミングに……」

「いや、全然忙しくは無いから平気よ」

 

 トレーナー室でレース関連の書類を書いていたところ、突然桐生院トレーナーが部屋を訪ねて来た。

 何故か大量のノートを抱えて。

 

 

 

 

 

「それで……、何かあったの?」

「ミークの事でどうしたら良いか分からない事がありまして……」

「分からない事?」

 

 桐生院家はトレーナーの名門であり、その桐生院トレーナーが分からないとなれば相当である。

 役に立てれば良いが……。

 

「ミークをどの路線に進ませるか、です!」

 

「……」

 

 何で私に聞きに来るのよ。

 絶対桐生院さんの方が詳しいでしょうに。

 

「私に聞かれてもなぁ……。ミークちゃんの適性とか分からないし……」

「全部です」

「……今、なんと?」

「全部なんですよ。短距離から長距離まで、芝ダート全部行けるんです」

 

 そら悩むわ。

 選択肢が多すぎる。

 

「この間うちの洋芝コースも走ってもらったんですけど、そこも問題なく走ってました」

 

 洋芝もか。

 

「そこで、怜トレーナーの警戒しているウマ娘を教えていただけたらな、と……。非常識なお願いだとは理解しているのですが……」

 

 ……なるほど。

 全部走れるなら勝てるところに出してあげたいという事だろう。

 その気持ちは分からないでもない。

 そもそも今年のジュニア級には逸材が多すぎるのだ。

 朝日杯はかなりの激戦だったし、阪神JFも3人が半バ身以内に……、あれ?

 

「ミークちゃん阪神出てたけど、ティアラ路線って決めてた訳じゃ無かったんだ」

 

 その3着がハッピーミークであった。

 私達の同期が担当するウマ娘がG1で掲示板に乗ったのは初であり、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

「それで、警戒してるウマ娘だったよね」

「……はいっ!」

「ちょっと待ってて。一旦軽くまとめちゃうから」

 

 あまりに多すぎて誰を言ったか分からなくなりそうだったので、一度紙にまとめる事にした。

 それに先ほど桐生院さんは非常識なお願いと言っていたが、少なくとも私の周りではトレーナー間での情報共有は盛んである。

 東条先輩に到ってはファイルごとくれたし、沖野先輩もちょくちょくテイオー経由でアドバイスをしてくれる。

 私だけ情報を出さないという訳にも行くまい。

 

 

 

 

 

「まぁ……、私の警戒対象となるとこんなもんかな?」

「結構多いんですね」

「これでもタキオンと芝の中~長距離で当たって怖い子だけだからね。マイル、スプリント、ダート、障害まで入れたら裏まで行くよ」

「ひぇ……」

 

 今のところタキオンを芝の中~長距離以外に出すつもりはない。

 出たところでぼろ負け……、案外地力の差で良い勝負になるかもしれないが、それではトレーナー失格だろう。

 

「そうね……、今いちばん警戒してるのはこの子かな。ジャングルポケット」

「今年の札幌ジュニアステークスの子ですね」

 

 あのチームリギルのメンバーであり、今年の札幌ジュニアステークスの勝ちウマ娘だ。

 彼女の走ったレースはいずれもマイル区分のレースであったが、どことなく余力を残しているように見えたのだ。

 体格的に見ても、もっと長い距離を走れると考えるのが自然だろう。

 そもそもこの間クラシック三冠に挑むって宣言してたらしいし。

 

 しばらくレースには出ていなかったが、東条先輩がただ遊ばせておくとは考えにくい。

 その分成長して来ていると考えるべきだろう。

 

 タキオンがその走りに反応する数少ないウマ娘の一人である。

 

「次がクロフネ。メイクデビューでは負けちゃったけど、2戦目3戦目と連勝してホープフルステークスに出てきたね。レコードのおまけ付きで」

 

 クロフネは京都まで見に行った未勝利戦の後、先週末のエリカ賞でも勝利を納めていた。

 スピード良し、スタミナ良し、パワー良しと、流石はスピカと言った感じに強くなって来ている。

 本当に底が知れない子だ。

 

「あと今回は出てきてないけど、この辺のメンツが頭1つ抜けてるかな。ダンツフレーム、テイエムオーシャン、マンハッタンカフェ、ハッピーミーク、ボーンキング、フルミネ--」

「ちょ、ちょっと待ってください。そんなに一気に言われても追い付かないです……」

「あ、ごめん」

 

 

 

 

 

「すみませーん。怜トレーナーはいらっしゃいますかー?」

 

 桐生院トレーナーの警戒しているウマ娘を聞き出していると、扉の外からノックと共にたづなさんの声が聞こえた。

 こんな時間に珍しいな……。

 特に何もやらかしてはいない筈なのだが。

 

「あ、今開けますね。……たづなさん、どうかしましたか?」

「怜トレーナーにお届けものです。早く届けるべきかと思いまして。こちらをどうぞ」

 

 ……これは。

 もう完成したのか。

 仕事が早すぎやしませんか?

 まだ頼んでから1週間しか経っていないのだが……。

 

「その箱はもしかしてタキオンさんの……?」

「ですよね?たづなさん」

「はい!」

 

 それにしても本当に軽いんだな……。

 その分結構良いお値段もしたが--

 

「費用の申請は早めにお願いしますね?毎年1人は申請を忘れてトレーナーの自腹になる方がいらっしゃるので」

「分かりました」

 

 --申告さえ忘れなければそれも問題ない。

 なんだったらたとえ自腹だったとしても、それだけの価値はあるだろう。

 実際にやったら生活苦は必至だろうが。

 

「あとはタキオンが気に入ってくれると良いんですけどね」




競馬ではポイントフラッグ号(黄金船の母)もこの世代だったり。

ちなみにテイエムオーシャンはティアラ後はマイルを、オリウマ娘はダートを主戦場と定め。

ミークは
・この世代では比較的層が薄いと踏んでNHKマイルに挑み。
・高松宮記念の覇者が太め残りで、これなら行けるとスプリンターズステークスに挑み。
・クラシック最終戦は魔境だからと、競馬と異なり外国産馬の制限が無い秋天に挑み。
・芝は正に世紀末だからとジャパンカップダートに挑む事になります。

逃げ場なんて無かった。
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