超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
31話 モルモットと帰省
ホープフルステークスの翌日、東京大賞典も無事に終わり、トレセン学園はようやく短い冬休み突入である。
年明けのレースに出走する事もあるため、トレーナーの中には休むに休めないトレーナーも居る。
正月明けのトゥインクルシリーズはもちろん、WDTにいたっては元日の午後の出走である。
……チームから多数のウマ娘が出走するおハナさんや沖野先輩の休みはいったい何処に?
31話 モルモットと帰省
何はともあれ、私が担当しているのはタキオンのみであり、タキオンは弥生賞までお休みである。
もしタキオンが出たいと言っても弥生賞までの間は出すつもりは無い。
あんな向こう正面から仕掛けた挙げ句、4コーナーからかっ飛んで来て、脚へどれほどの負担がかかっている事やら。
検査結果は異常無かったが、念のためである。
まぁいずれにせよ1週間も開けずに連闘など脚の弱いウマ娘がやる事では無い。
と言う訳で年末年始は久し振りのお休みである。
いつもは研究の手伝いでほとんど休みが無い上に、その休みも家事で全て潰れていた。
……トレーナーとしての仕事で潰れる時間よりも、モルモットとしてのタキオンの手伝いで潰れる時間の方が遥かに長い今日この頃である。
現に今も。
「よし完成」
冬休みの間のタキオンのご飯を作り置きしている所だ。
基本的にトレセン学園の生徒は美浦寮・栗東寮のどちらかに入寮しているが、冬休みはほとんどの学生が帰省する。
だがどうやらタキオンは実家と上手く行っていないらしく、帰省しないらしい。
その割にカードを渡されていたり、色々な名義で同じ住所から定期的に差し入れがあったりと、溺愛されている気配があるのだが……、本人は気付いていないらしい。
それはさておき。
カフェテリアの利用者も激減するため、希望者は申請して用意してもらう事になるのだが……。
タキオンとカフェさん、そして偶然来ていたデジたんと相談したところ、満場一致で『申請するだけして行かなそう』という結論に達した。
タキオンもその結論に到っている辺り自己評価が正確でなによりだ。
分かっているなら改善して欲しいものだが。
その為、電子レンジで温めるだけで食べられるようにしておく事にしたのだ。
あとは冷ましてから冷蔵庫に入れておけば準備完了である。
……冷めるまで昨日の中継でも見てるかな。
中継のレースシーンを再生する事6周。
突然扉がノックされ、焔が顔を覗かせた。
「おねーちゃん帰ろー」
「え、なに?帰るってどこに」
「え?家だけど……、帰らないの?」
「一昨年まで全然帰って来なかったじゃん。去年は色々教えに来てくれたけど」
「だって……、私だけ逃げ出したみたいで……」
「逃げた?何から?」
「……だよね。お姉ちゃんならそう言うと思った」
何かはぐらかされたが、まぁ……、大した事では無いのだろう。
重要な事ならハッキリ言って来るし。
帰宅する前に、商店街で年末年始の分の買い出しを済ませる。
とは言え買う量は普段と大して変わらず、焔のおねだりでお菓子が幾つか追加された程度だ。
シートとリュックに無理矢理詰め込み、リュックの方はハナから後ろに乗って帰るつもりだったらしい焔に背負わせて帰宅する。
「大丈夫?」
「これぐらい平気だよ。うん、大丈夫……」
バイクでの移動は慣れていないと中々怖いらしく、帰る頃にはぐったりしていた。
これでも加減速は限界まで緩く、速度は煽られないギリギリまで抑えて来たのだが、それでもやはり怖かったらしい。
全力でしがみついていれば、それは当然疲れるだろう。
後ろに女の子を乗せてバイクを走らせるのは男子の夢らしいが、折られるんじゃないかというレベルでしがみつかれれば話は変わるだろう。
余計な力が入ったせいで身体中の関節が悲鳴を上げている。
軽く伸びをしただけでバキッという音が2桁は聞こえた。
「ただいまー!」
「ただいまって、誰も──」
「オカエリナサイ!私のエンジェルたち!!」
「居たぁ……」
そこにはここ1年半帰って来なかった母が居た。