超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
そして緩く巻いた暗い茶髪から生えるのは
帰宅して扉を開けた先に居たのはまさしく私達の母親だった。
32話 モルモットと帰宅、そして不穏な初詣
「母さん、帰ってたんだ」
アメリカの実家に帰省すると言ってから早1年半。
フランスに行ったりイギリスに行ったりドバイに行ったり、世界を一周していたのだが……、ようやく帰宅したようだ。
「エェ!あの後香港も見てきたワ!!有馬記念と……、もちろんホープフルステークスもネ!!」
「あ、見てたんだ。誰か気になる子はいた?」
見ていたのなら聞いてみようと思い立ち、訊ねてみる。
と言うか、薄々察してはいたが本当にぐるっと一周して来たのかこの人は……。
「ンー、やっぱりトップ3かしらネ?アグネスタキオン、ジャングルポケット、クロフネの3人はもしかしたら世界レベルかもしれないワ」
そしたら思った以上の答えが返ってきた。
確かに凄いレースだったが。
それこそ3人ともいずれGⅠ戦線で活躍するのは間違いないと確信できる程には。
とは言え世界レベルは予想外である。
「そんなに?」
「イエス。特にクロフネはスゴいワネ。自分の適性外であんな走りが出来るんだモノ」
「そうねぇー。確かにクロフネも強かった……ん?今なんて?」
なんかとんでもない台詞が聞こえた気がするのだが。
「エ?だってあの子、ダートの方が得意デショ?」
「そうなの?1レース見ただけで良く分かるね……」
「モチロン!ターフに向いてる子を見分けるのは得意だモノ!!ワタシもそうだったしネ!!」
なるほど。
それに当てはまらなかった、と言う訳だ。
しかし芝が適性外となると……、ジュニア級の時点であれだけの強さがあると言うのに。
「もしダートを走ったら……」
「あの子はもしかしたらMonster……、怪物かも知れないワ」
「うへぇ……、タキオンが芝専用機で良かったぁ……」
「嘘でしょ?ダートに来られたらうちの子直接ぶつかるんだけど!?」
あ。
そう言えばアルタイルにはダートを主戦場にしている子が……。
「……頑張れー」
「そんな他人事みたいに!?」
「だって他人事だしねぇ……?」
芝を走っている分にはタキオンなら太刀打ち出来るだろうし。
まぁダートが得意な子をスカウトしないとも限らないが、少なくとも今のところは他人事である。
「まぁダートに行くって決まった訳じゃないし。行くにしてもクラシック混合のダートGⅠは帝王賞からだし、それまでに対策考えておけば良いんじゃない?」
「勝つの中々大変そうなんだけど……」
「大変デモ勝てるって事カシラ?その意気ヨ、ホムラ!!」
「ふぇ!?」
家の大掃除も済ませ、大晦日。
リビングで毎年恒例の歌合戦を見ていると、2階から焔が降りてきた。
「ん?初詣にでも行くの?」
厚着をしてモッコモコになりながら。
「うん。お姉ちゃんは?」
「うーん、お酒飲んじゃったしなぁ……」
「車出すんだけど、乗ってく分には平気じゃない?」
「あ、それなら行こうかな」
聞けばトレーナーと初詣は切っても切り離せない関係らしい。
曰く、担当ウマ娘の雄飛を祈ればタイムが縮み、担当ウマ娘の健康を祈れば疲労が抜ける等々。
いやそうはならんやろとツッコミを入れたくなるが……、実際そうなっている以上、参拝しない訳にはいくまい。
1時間ほどかけて到着した神社には、かなりの人数が押し掛けていた。
その中には、学園で見かけたウマ娘やトレーナーの姿もあった。
綿菓子をパクパクしている名家のお嬢様が居たり、出店でお好み焼きを売っている黄金船が居たり、招き猫を背におみくじを引きまくるフクキタルが居たり。
と言うかマチカネフクキタル、引いたおみくじ全部結んでるんだけど。
まさか全部──
「うえぇええ!?ま、また凶ですかっ!?」
「嘘でしょ……」
運に見放されてる……。
いったい何回引くのかと眺めていると、ふと足元に違和感を覚えた。
……何故か私の影からウマ尻尾が生えている。
無論本当に尻尾が生えたわけではなく、誰かウマ娘が後ろに居るらしい。
振り返ると誰かが回り込む足音が聞こえた。
「……」
ぐるぐる回っていても危ないし、そもそも回るだけでウマ娘の姿を捉えられる訳がない。
だが……、壁があれば話は別である。
「明けましておめでとう、テイオー。で、何してるの?」
「ミ゙!?」
猫かこの子は。
「何で気付いちゃうのさー!見かけたから驚かせようとしたのにー!!」
「いやだって影見えてたし」
「へぇ、スピカもここの神社なんだ。……そう言えばゴルシちゃんとマックイーンちゃんがいた気がする」
「うん。毎年トレーナーが連れてきてくれるんだ。ここの神社は凄いぞーって」
沖野先輩のお墨付きか……。
あの人はムダな事はしないタイプだし、噂は本当なのかもしれない。
「来年はタキオンも連れてこようかな」
「あ、タキオンは来てないんだ。それじゃ会うのは初回の練習日……、って忘れてた!トレーナーから怜トレーナーに伝えとけって言われてたんだ!!」
「もう練習覗きに来るのは確定なのね……。それで?」
「ホープフルステークスの1週前追い切りの時にタキオンの走り見に行ったら、木陰に怪しい奴見かけたーって」
「テイオーだけじゃなくて先輩も来てたんかい」
観客席にはそこまで沢山居なかったし、居たら気付くと思うんだが……。
いつの間に来てたんだ……?
全然気付かなかったのだが。
それはさておき。
「怪しい奴、ねぇ。学園に入れてるって事は大丈夫だと思うけど、一応警戒するに越したことは無いか」
年始早々不穏な情報を手に入れたのだった。