超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
「ふぅ……」
(まさかトウカイテイオーの走りに加えてゴールドシップくんの走りも観察できるとはねぇ……)
突如トウカイテイオーの口から提案された模擬レース。
トレーナーは承諾こそしたが、タキオンはトレーナーから無茶厳禁と言い渡されてしまった。
せっかく名バと走れる機会だと言うのに、非常に残念である。
(まぁ仕方無いか。ホープフルステークスから10日も経っていない訳だし)
あのメンバー相手に2馬身差を付けているなら相当脚に負担がかかっていると考えるだろう。
……まぁ、ホープフルステークスでタキオンは ス パ ー ト ら し い ス パ ー ト を し な か っ た 為、実はタキオンの脚は万全な状態だったりするのだが。
(……ん?それはトレーナーくんにも伝えたはずだな。トレーナーくんは呆れていたが)
では無茶をするなというのはいったい……。
少し考え、負担がかかっていると考えるのは自分のトレーナーではないのだと気付いた。
(なるほどねぇ……。トレーナーくんも中々人が悪いじゃないか)
トレーナーの狙いを理解したタキオンは、その目的を果たすべく頭を巡らせはじめた。
35話 モルモットと模擬レース初め
時に。
ゴールドシップはスタートが苦手である。
いつもワンテンポ遅れてしまうし、どうも ゲ ー ト の 中 で 立 ち 上 が っ た 事 す ら あ っ た ら し い 。
当然このレースも最後方からのスタートだと思っていたのだが。
今回ばかりは違った。
前にいるのはクロフネを千切ったヤベーヤツと、まだ雛鳥なヤベーヤツの2人のみ。
一番ヤベーヤツが何故か真横にいた。
「お?テイオーがここまで出遅れるなんて珍しいな!」
「うーん、ちょっとタイミング合わなかったなぁ。もうちょっと前に行きたかったんだけどねー」
「またまたぁー。そんなんじゃゴルシちゃんは騙せないぜ?わざとだろ?」
「あ、バレた?だってスタート決めたら逃げる事になるし。ボク、ペース決めるの苦手だもん」
それだけ言うとテイオーは逃げからみて差しの位置、クリスの後ろに戻っていった。
今回のメンバー全員が逃げを不得手としている事を知っているゴールドシップは、誰か逃げれるウマ娘を引っ張ってくるべきだったかと後悔した。
スズカ……、は特殊すぎるから除くとして、マックイーンかスカーレット辺りを。
おかげでゴールドシップが参戦した目的であるタキオンが逃げる羽目になっている。
(テイオーのヤツ、全部使って勝ちに行ってやがる……。こりゃあタキオンの実力評価はムリっぽいぜ?トレーナー)
現にタキオンの逃げは、その実力を加味しても2400メートルを走るにはいささか速かった。
このままでは直線を駆け抜けるだけの末脚は残せないだろう。
(……いや待て。幻惑逃げに気付けるヤツがそんなヘマするか?後ろからプレッシャーを掛けられてるとかならまだしも……)
タキオンの他に走っているのは自分を含めて3人。
その中で最も前にいるクリスとタキオンとの差は依然開いたままである。
ほんの1週間前までジュニア級だったとは言え、タキオンはGⅠウマ娘だ。
そのタキオンが掛かるほどのプレッシャーを、デビュー前のウマ娘が放っていると思いたくはなかった。
(……まさか)
ならば、と自分のペースからタキオンのペースを逆算してみると、やはりと言うべきか。
(ハハッ、マジかよ……。世代最強は伊達じゃないってか)
そのペースはいつの間にか、トップクラスのウマ娘であれば辛うじて逃げられるかもしれないレベルに抑えられていた。
無論完璧ではない。
それでも気付くのが遅れる程度には出来ている。
現に自分以外の2人に気付いた様子は見られない。
(クリスも距離が近ければ気付いたかもしれないけどな。だがテイオー。おめーはアタシより先に気付かなきゃダメだろ!?)
そう言うゴールドシップも1000メートル走ってようやく気付いたのであるが。
残り1400……、いや、1200メートル。
レースの半分も残っていれば十分だ。
幸いここは最後方。
位置取りとしては真ん中より後ろという事になる。
準備は整った。
──さぁ、錨を揚げろ。