超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
「授賞式……、ですか?」
ある日。
例の如くタキオンの昼食を作っていると、たづなさんがトレーナールームにやって来た。
そしてたづなさんから渡されたのはURAから授賞式の日程が決まったとのお知らせである。
授賞式?
何の?
37話 モルモットと授賞式
「あの、心当たりが無いのですが……」
何か賞を受けるような事をした記憶は無かった。
ホープフルステークスの口取り式は当日中に終わったし。
「え?……少し待ってください」
そう言うとたづなさんは持っていた端末で何かを確認し……。
「あぁ、迷惑メールフォルダに振り分けられてしまっていますね。簡単に纏めますと、アグネスタキオンさんと怜トレーナーがそれぞれ最優秀ジュニア級ウマ娘と新人賞に選ばれたんです!」
「……はい?」
新人賞?
私が?
「てっきり新人賞は桐生院さんだとばかり」
「確かに桐生院トレーナーも4戦3勝でGⅡ1勝、GⅠでも3着に入るなど、例年であれば新人賞を取っていてもおかしくない成績です。……ですが、怜トレーナーは4戦4勝でGⅠを制していますからね。新人賞は基本的に勝数で選ばれますし、それ抜きにしても1年目からGⅠを勝つなんて沖野トレーナー以来の快挙ですから」
「そうなんですね」
正直私の腕云々ではなく、タキオンの才能が桁違いだっただけだと思うのだが……。
「確かにタキオンさんの才能には目を見張る物があります。ですが知っての通り、レースは才能だけで勝てるほど甘いものじゃないですから」
「それはまぁ確かに……、って今口に出てました?」
「表情を見れば分かりますよ」
流石は筆頭秘書である。
「えー、本日は皆さまご多忙の中お集まりいただき……」
……偉い人の挨拶が長いのはどこでも同じらしい。
いや、うちの学園の理事長は結構短いか。
出番までは長かったが、私の出番は賞状を貰って挨拶をするだけであっさり終わった。
インタビューの時間もあったのだが、まぁ新人トレーナーに大した質問があるはずも無く。
残りのトレーナー部門はおハナさん及びリギルが総なめにしており、主に質問はそちらに集中していた。
去年のシニア級中距離戦線はテイエムオペラオーの1強だったし、当然だろう。
そしてウマ娘部門。
最優秀ジュニア級ウマ娘にはタキオンが選ばれた。
中央にはジュニア級GⅠが3つあり、その中から選ばれたのは、どうやら無敗ということも評価されたらしい。
続いて最優秀クラシック級ウマ娘。
こちらは東山先輩の担当するエアシャカールが。
そして年度代表ウマ娘にはテイエムオペラオーが選ばれた。
エアシャカールは惜しくもダービーは逃したが、三冠まであと1歩まで迫り。
テイエムオペラオーは昨年無敗、うちGⅠ5勝、更に有馬記念では直線の途中までずっと囲まれた状態からの差し切り勝ちである。
この2人に関しては誰からも文句は出ないだろう。
最優秀ダートウマ娘や最優秀障害ウマ娘も発表された後、ウマ娘達へのインタビューの時間も用意された。
ウマ娘へのインタビューは基本的にトレーナーも一緒に受ける事になるのだが。
これが思いの外大変なのだ。
「アグネスタキオンさんと霧島トレーナーに質問です。昨年末のホープフルステークスの勝ちっぷりから早くも三冠の声が上がっていますが、意気込みのほどは?」
「意気込みと言われてもねぇ……。私は目標に辿り着くために必要なレースを走るだけだとも」
「目標……、ですか?」
「あぁ。ウマ娘の出せる限界速度はおよそ時速7モガ」
「そこから始めると長くなるからストップ」
タキオンは事あるごとに脱線するから止めなくてはならないし。
「霧島トレーナーとしてはどうお考えですか?」
「そうですね。今のところ菊花賞をどうするかは未定ですが、三冠を取れるだけの素質はあると思います」
ちょくちょく此方にも質問飛んでくるし。
「アグネスタキオンさんに質問です。新人のトレーナーと言う事で育成手腕に不安もあると思いますが、自身のトレーナーを決める際、霧島トレーナーを選んだ理由をお聞かせください」
……。
「あったと思う」じゃなくて「あると思う」かぁ……。
一応新人賞取ったんだけどなぁ……。
まぁ相手にはそんなつもりは無いんだろうけど。
「どうやら私は他のトレーナーには合わなかったようでねぇ。まぁ最終的にトレーナー君と出会った訳だが……。良いのかい?」
「良い、とは?」
「今のセリフは『トレーナーの腕がなってないのに担当ウマ娘の才能だけでレースを勝った』とも取れるわけだが。結構な人数を敵に回すと思うがね?」
……いや、なんでタキオンがキレてるのよ?
「タキオン。確かにそうとも取れるけど、意地の悪い返し方をするんじゃないの。そのつもりは無かったみたいだし」
「む……」
聞いた記者さん真っ青になっちゃってるし。
見かねたたづなさんが次の記者を指名する。
……良かった、乙名史さんだ。
変なスイッチが入らなければ理性的な女性だし、安心である。
「月刊トゥインクルの乙名史です。次走の予定など決まっていましたらお願いできますか?」
乙名史さんも空気を読んで普通の質問をしてくれた。
普段は優秀な記者なんだよな乙名史さんって。
「そうですね……。今のところは弥生賞を予定しています。皐月賞のトライアルですし、タキオンはあれぐらい距離があった方が良いですからね」
一ヶ月後。
『さぁ今年もこのレースがやって来ました!今週末は皐月賞トライアル、弥生賞!今年は例年よりも少ない8人が出走予定です!』
「……はい?」