超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
新年度が始まって1週間。
ヒシミラクルには1つ気になる事があった。
それは1人の友人の事だ。
彼女は入学前から有名だったのか、入学式直後から数多のトレーナーにスカウトされていた。
ヒシミラクルとしてはたまたま声を掛けた相手がそんな一流の相手だとは思わず、その時点で非常に驚いていたのだが、彼女はその全てを断っていたのだ。
最初にスカウトしてきたのが、断った直後から露骨に態度が悪くなるようなトレーナーだった為、それでかと思っていたが、アルタイルのトレーナーからのスカウトまで断るとは思わず、それはもう非常に驚いたのだ。
アルタイルのトレーナーと担当ウマ娘の仲の良さ(?)は有名だし、GⅠウマ娘を複数人育てている以上、育成の腕も間違いない。
もう断る理由は無いと思っていたのだ。
その調子が1週間続くに至り、ヒシミラクルは思い切って何故断り続けるのか訊ねてみた。
41話 漆黒の帝王
ヒシミラクルの担当トレーナーになって1週間。
ヒシミラクルの育成方針もある程度定まり、2人同時にトレーニングするのも軌道に乗り始めた矢先、ヒシミラクルが何やら思い詰めた表情をしていた。
……思ってたのと違うとか言われたらどうしよう。
「ミラクルちゃん。難しい顔してどうかした?」
「あの!トレーナーさん!お願いがあるんですが、よろしいでしょうか!?」
なるほど。
今までお願いされた事は無かったし、私と知り合って日も浅い。
どんな反応が返ってくるか分からない状態でお願いをするのは結構怖いものがあるのだろう。
「私に可能な事だったらね。言ってごらん」
「友達にトレーナーさんの事を話したら、私も担当してくれるよう口利きして欲しいって言われてしまったんですけど……、大丈夫ですか?」
「……はい?」
「そうですよねやっぱりダメですよね彼女にもそう伝えて──」
「いや待ってちょっと待って少し考えるから」
そのままトレーナー室から飛び出そうとするヒシミラクルを引き留めつつ考える。
担当が増えてどうなったかと言われれば、正直、当初の予想よりもかなり余裕があるというのが現状だ。
トレーニングを始めたばかりの頃のタキオンと比べて、ヒシミラクルはタキオンと同時に見ているというのに、かなりトレーニングしやすい。
タキオンのトレーニングで得た知識が活かせるのもあるが、おそらく精神的にも余裕が出来たのだろう。
「その子の適性ってわかる?」
「私と同じです!」
……芝の中距離に偏るのも考え物だが、まぁ芝の中距離はレースも多いし大丈夫だろうか?
どっちみち来年以降は増やさなければならないんだし、それが早いか遅いかの違いな気もする。
「……わかった。タキオンとミラクルちゃんに異存がなければ引き受けようかな」
「ありがとうございます!連れてきますね!!」
「え?いやもう時間無いから──って、行っちゃったかぁ……」
タキオンも居ないのに、連れてきてどうするのよ。
「連れてきました!」
しかもこの早さ。
もしかして外でずっと待たせてたんじゃ……ってあれ?
「クリスちゃん?てっきりリギルに入るものだとばかり……」
そこに居たのは年明けに少し見掛けたクリスちゃんこと、シンボリクリスエスだった。
「ずっとルドルフさんにおんぶにだっこという訳には行かないからな」
それはなんか違う気がする。
「それで、その……、出来る事なら私のトレーニングを引き受けて欲しいのだが……」
「あー、うん。私としては全然大歓迎なんだけど……、本当にうちで良いの?自分で言うのもなんだけど、先輩達ほどの腕は無いよ?」
「いや、とても旨かったぞ」
「怪我しないように見てただけなんだけど……」
あとは模擬レースのあとストレッチさせたぐらいか?
いずれにせよ、トレーナーの基本というレベルの指導しかしていない筈なのだが……。
「それに、最初に契約したウマ娘にGⅠを勝たせられるだけの育成手腕がある。それだけでも十分だ」
繰り返すほどの事かな。
「まぁ、クリスちゃんとタキオンの顔合わせは既に済んでるし、スマホで確認してみるよ」
……全然既読付かないな。
門限まで時間無いんだけど、まだ実験中なのだろうか。
門限10分前になっても反応無かったら突……、あ、付いた。
「返事来たよ。『彼女なら大歓迎だ。是非入ってもらいたまえ』だって」
「……よしっ」
「やったねクリスちゃん!!」
「ちょっと待っててね、書類用意しちゃうから。明日、……いや、明後日までに読み込んできて」
「了解した」
……タキオンからの返事にデータ云々書いてあったのは伝えなくても良いだろう。
タキオンも無理強いはしないだろうし。
日常回のネタが尽きた・・・。