超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
「それじゃこれとこれ、それからこれも確認してからサインしておいて」
契約する事が決まり、タキオンは書類にサインしていた。
その数は非常に多い。
「…結構書く物は多いんだねぇ」
「そりゃそうよ」
書く数こそ少ないが、契約するうえで読む書類が非常に多いのだ。
それこそ机の上が埋め尽くされるほどである。
それもそのはず。
「ウマ娘の命預かるようなものだからね」
ウマ娘達は成長途中の身体であれだけのスピードを出すのだ。
身体への負担は尋常ではない。
下手なトレーニングをしようものなら冗談抜きに命に関わるのである。
タキオン共々書類に目を通していると扉がノックされ、2人のウマ娘が入ってきた。
やや桃色がかったツーサイドアップと巨大なリボンが特徴的なウマ娘と、制服姿よりも男装の方が見てみたいような雰囲気のウマ娘。
後から入ってきた子には見覚えがあった。
と言うかチームリギルのフジキセキだった。
「今日は早いんですね。デジタルさんにフジキセキさん」
「あれ?お客さんですか?珍しいですね」
「見た感じ彼女がタキオンのトレーナーになるのかな?」
「はい…。今は書類の確認とサインをしているところです」
となるともう1人の子がデジタルさんなのだろう。
彼女、タキオンの姉らしいのだが…。
「タキオンちゃんがトレーナーを?…タキオンちゃん大丈夫!?熱出てないっ!?」
「邪魔だから少し離れたまえ。別に具合は悪くないし、書き間違えたら面倒くさい」
「はい。ごめんなさい」
…姉の威厳などどこにもなかった。
デジタルさんがタキオンにあしらわれているのを眺めていると、フジキセキが何かを言いたそうにしている事に気が付いた。
「どうかした?」
「いや…、そんなに担当を増やして大丈夫なのかい?今年アルタイルにはカフェが加盟して、セイウンスカイも引き継いだんじゃなかった?」
また間違えられた…。
「そんなに似てるかな?私と妹」
学園に来てからよく間違えられているのだが。
背の高さとか髪型とか…、良く着る服とか。
結構違うって言おうとしたんだけど、すぐ判る違いって意外と少ないな…。
何か特徴になるようなもの…。
カボチャ被ってる先輩もいるぐらいだし、何か考えたほうが良いかも知れない。
「えっと…、今年トレーナーになった霧島怜です。一応焔の姉です」
「それは失礼したね。初めまして!私はフジキセキ!そうだね…。何て呼べば良いかな?」
「うん、呼び易いように呼んで貰えれば」
「それじゃ怜トレーナーって呼ばせてもらおうかな。それで…、君は何でタキオンのトレーナーを引き受けようと思ったんだい?色々と心無い噂も流れているのに」
心無い噂?
…あぁ、ウマ娘に実験して遊んでるとかそう言う話のことか。
何でと言われても…。
「走りに関しての噂は結構耳にしたけど、その辺の噂は全然聞かなかったな。理事長から頼まれたときに聞いたけど」
「そうなのかい?」
「うん。理事長から頼まれて、担当する子も居なかったし、会ってみたら意外といい子だったからね。担当を引き受けることにした感じかな。…まぁそもそも担当が付かなくて噂に耳を傾ける余裕が無かったんだけど」
「へぇ…、タキオンは良いトレーナーさんを見付けたみたいだね──おっと?」
フジキセキと話していると、横からファイルに入れられた紙が差し出された。
タキオンはこのわずかな時間で全て書き終えたらしい。
「早いね。もう終わったんだ」
「読むのも書くのも慣れているからねぇ…。この程度なら3分もあれば十分だとも」
一応不備が無いか確認するが、一切問題は無かった。
「うん、完璧。それじゃ事務に出しに行って来るね」
事務に提出しに向かったところ
「これから理事長に上げに行くのですがご一緒しますか?」
とのことで。
本日二度目の理事長室である。
室内にいたのは駿川さんのみで理事長は不在だったのだが、駿川さんが連絡したところ、すぐ戻ると連絡が帰って来たらしい。
待つ事数分。
理事長が帰ってきたのだが。
髪は乱れ、足元は泥だらけ、そこら中に桜の花弁が付いていた。
…林の中をショートカットしてきたのだろうか?
「謝罪ッ!遅くなった!」
理事長は理事長室の中に突撃してくるとすぐに中を見渡し…。
事務員さんがいる事を確認するとすぐに息を吐いた。
私と事務員さんが揃っているという事から、何とかタキオンを説得できたのだと分かったのだろう。
まぁ直後表情が凍り付いたのだが。
その原因は駿川さんである。
理事長の姿を見た途端にいつもの笑顔が別種の笑顔に変化していた。
具体的には目が笑っていなかった。
理事長は引き出しから承認印を取り出すと、事務員さんから受け取った書類に判を押し──
すぐさま走り出した。
そしてすかさず後を追う駿川さん。
って二人とも速いな!?
思わず廊下を覗くが、既に二人の姿は見えなくなっていた。
「それでは我々も帰りましょうか」
「え?鍵はどうするんですか?」
「問題ありません」
そう言うと事務員さんは外へ出てくる。
「この扉は内側からであればそのまま開けられるのですが、外側からは鍵がないと開かないようになっているんです。理事長の強い希望でそうなったらしいですよ」
どうやらうちのトップはちょいちょい逃げ出しているようだった。
理事長室を後にし、タキオンの研究室へ戻る事にする。
決めなければならない事もあるし、そもそも荷物置いてきちゃったし。
「おねーさまー」
…何も聞こえなかった。
「怜おねーさまってばー」
焔には外でお姉さまって呼ぶなと言ってあるし呼ばれているのは違うレイさんなのだろう。
だが周囲に居るのは焔と共に歩いているウマ娘のみ。
…よし、逃げよう。
軽く流したにもかかわらず早々にダウンした焔を、隣にいたウマ娘と協力してタキオンのところに運ぶ。
まぁウマ娘の力があれば一人で十分な気もするが、そうなった原因が自分である以上、任せきりにする訳には行かなかった。
ようやく辿り着いた研究室内には──
手首を蛍光黄緑にして大爆笑しているデジタルさんと。
髪が真っ白になって仁王立ちでタキオンを見下ろしているカフェさんと。
目から懐中電灯のように光を発して正座しているタキオンがいた。
…。
光るって物理的に光ってたのね。
次回投稿は未定ですが、そこまで時間はかからないと思います。
(多分来週の金曜日だろうけども、間に合わなかった時の保険)
ウマ娘未登場馬の名前ってどうしたらいい?
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まぁ、私はそのままで良いと思うけどねぇ…
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たわけ。名前くらい自分で考えたらどうだ