超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
週明け。
土曜日は何故か私のデータ取りで一日潰れ、日曜日を挟んでようやく初トレーニングである。
…筈なのだが。
「タキオン、ちょっとそっちにある平皿取ってー」
「これかい?」
「いや、その隣の…、そうそれ。ありがと」
何故か私はタキオンの昼食を作っていた。
どうしてこうなった…。
事の発端は昨日に遡る。
昨日の午後、学園のすぐ近くの商店街を散策していた私は、タキオンの衝撃の食生活を知った。
当然見過ごせる筈もなく夕食用にお弁当を作ってあげた際、どうやら朝食も用意すると勘違いさせてしまったらしく。
今朝弁当箱を返しに来たタキオンに、昼食用のお弁当を持っていかれたのである。
昼は学園のカフェテリアも開いている事だし、自分は夜食用のカップ麺でも食べようと思ったのだが…。
「トレーナーくん!私に昼食を食べさせろ!」
「何でよ!?学食開いてるよね!?」
「教室からこっちに直接来た方が早いじゃないか。それにトレーナーくんの料理の方が好きな味なんだ。ずっと昔におばあ」
「それ以上言ったら怒るよ?」
最後に言いかけた台詞はともかく、好きな味とまで言われてはカップ麺を食べさせるわけにも行かず。
今に至るというわけだ。
とは言え、今作っているものに味付けも何もあったものではないのだが。
食パンの片面をオーブントースターで焼き、その裏にケチャップを塗り、軽く焼いたベーコンとピザ用チーズを乗せて再び焼いただけである。
私としては上にマヨネーズを細くかけてから焼きたかったのだが、マヨネーズの特売が今週末であるため、今週は無しだ。
1人1本限定とは言え税込16…、話が逸れた。
ただ乗せて焼いただけのこれを私が作った料理と認められるかは置いておくとして、トレーニングで消費するカロリーは補えるだろう。
まぁ走らずに毎日食べていたら大変な事になりかねないが。
「はい完成」
「これは…。中々な量だね…」
「本格的なトレーニング始めたらこれじゃ絶対足りないよ? ヒトの私でもこの倍は食べてたから」
「…正気かい?」
「ウマ娘の運動量ならこの6倍は行くんじゃない?」
別に私が走るわけではないし、ピザモドキトーストを盗られても支障はないのだがお腹が鳴っても恥ずかしいので、売店でサンドウィチを買って来た。
行儀は悪いが、またタキオンに盗られないように練習用トラックへ移動する間に平らげ、いざトレーニング開始である。
まぁ今回はトレーニングらしいトレーニングはしないのだが。
「はいこれ。今日のメニュー」
「…ふぅン。まずは私の走りを知るためのメニューと言った所かな?」
「ご明察。あ、全力じゃなくて良いからね? だいたい分かるから」
タキオンの走りについては、東条先輩の資料からトレーナー間の噂に至るまで、かなり多くの情報が入っている。
東条先輩の資料は非常に細かく書かれていたし、最初からトレーニングを組めるほどなのだが…。
東条先輩も間近で見たわけでは無いだろうし、やはり実際に見ないと分からない事は存在するだろうと考えたのだ。
タキオンが走るところは初めて見たのだが。
その走りは予想の範疇に納まっていなかった。
速い速いと聞いてはいたが、まさかこれほどとは。
そのスピードは現時点でクラシックの重賞ウマ娘と比べても遜色無いものだった。
スタミナもまた然り。
息が上がるまで走ってもらった所、優に3000mを駆け抜けて見せたのである。
タキオンの走りは──
それはもう酷いものだった。
スピードとスタミナは素晴らしいが、他の要素が酷い有様だった。
特に加速力は酷い。
本当に徐々にしか加速できずにいた。
あれでは最高速に至る前にレースが終わりかねない。
…まぁそれは流石に言い過ぎだろうが、それほどに加速力は酷かった。
そして疲れるとその酷い加速力すらも完全に無くなる。
十分な加速が出来るだけのパワーと、疲れても振り絞る精神力。
その二つが無いと厳しいだろう。
それらが加わればこのままでも強くなるとは思うが…。
この走りでは噂になるほどではないし、東条先輩もあそこまで高い評価は付けないだろう。
それに何というか、違和感を感じるのだ。
ウマ娘は基本的に本能で走っているらしい。
だが、タキオンは何かを意識的に変えて走っているような…。
その「何か」が何なのかは分からないのだが、タキオンが戻ってきたら聞いてみるとしよう。
ウマ娘未登場馬の名前ってどうしたらいい?
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まぁ、私はそのままで良いと思うけどねぇ…
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たわけ。名前くらい自分で考えたらどうだ