超光速の軌跡 ~タキオンとモルモットの3年間~ 作:Valid Bear
「お疲れ様ー」
メニューをこなしたタキオンが戻ってくる。
走りを把握するための最低限のメニューでもそれなりに時間はかかると思っていたのだが、タキオンが戻ってくるのは予想よりもかなり早かった。
距離が長いと疲れを見せていたものの、回復するのは早いようで、少し休憩しては次のメニューに取りかかっていたからだろう。
その点は世代トップクラスと言われるだけのことはあった。
色々と訊きたい事はあるが、とりあえず…。
「はいこれ。シリアルバーと身体には良いプロテイン」
「…身体には?」
「うん。とりあえず飲む前に…、あ」
タキオンは喉が渇いていたのか、水筒を受け取ると、私が警告する前に飲んでしまった。
「訊くだけ訊いてそのまま飲むのね…。飲んで察した通り、もの凄く不味い」
一口でも不味いと言うのに結構な量を流し込んだタキオンは顔を顰めていた。
まぁ身体に害はないし、むしろ一気に飲んだほうが早く口直し出来るとも言えるが…。
「飲む前に言って欲しかったんだがね…?」
「口直しは必要?」
「勿論だ。と言うか必要に決まっているだろう!?」
5分後。
「さて、そろそろ本題に入るけど平気?」
「…もう1粒貰っても良いかい?」
「これ以上食べると効かなくなっちゃうから普通の飴ね」
「効かなく…?」
タキオンの口直しが終わったところで、本題に入る。
現状タキオンの走りに足りず、最優先に補うべきもの。
それは加速力だろう。
このままでは最高のタイミングでスタートを切っても、加速する段階で遅れてしまい、取れる選択肢が少なくなってしまう。
基本的に加速力を向上させるには、時間をかけて出せるパワーを上げていくしかないのだが…。
タキオンの場合は、幾つかを諦める事でレースで勝てるレベルに引き上げる方法があった。
問題はどうタキオンを説得するかである。
「ねぇタキオン、しばらく速く走るの諦めてって言ったら怒る?」
「…どういう事だい?」
「かなり加速酷かったけど、今ってかなり広いストライドで走ってるよね?それをピッチ走法、或いはその中間ぐらいまで狭くしてもらおうかと思って」
一歩の歩幅を広く取るストライド走法は、使い手によってはピッチ走法よりもスピードが出るし、体力も長くもつ走り方だ。
だが、脚の回転が遅くなる分、一回の着地で使える力が弱いと加速が鈍くなってしまう。
タキオンにはまだそれを補えるほどの力は備わっていなかった。
「なかなかに難しい事を言ってくれるじゃないか。まぁトレーナーくんも生活が懸かっているわけだし、勝ちを目指すのも当然だろうが…」
「いや、正直勝ち負けはどうでもいいのよ。トレーナーであると同時に教員でもあるから賞金なくても給料出るし」
貯金もあるし。
「加速力の他にもう1つ理由があって、個人的にはそっちが全てかな」
「ふぅン?…故障の危険性、かな?」
「正解。ストライド走法って脚への負荷が大きいのよね。…まぁ時速60キロオーバーで走ってる時点で負荷はデカいんだけど」
タキオンはゴールドシップと同じか、それを超える程のストライドで走っていた。
だがゴールドシップのあれは、彼女の恵まれた体格と、その負荷に耐えられる頑丈な脚。
そして発達した筋肉あってこその物だ。
…それなのにレースに出た形跡が無いんだよな。
練習ではメジロマックイーンに絡みながら3200を走り切っていたりしていたのだが…。
それはともかく、まだ成長途中のタキオンには早く、成長しきったとしても広すぎた。
「限界速度の先の景色はおあずけになるけど…、平気?」
「平気だと思うかい?」
「そりゃそうよねぇ…」
まぁこの反応は予想通りである。
誰だって夢に手が届きにくくなる選択はしたがらないだろう。
それに脚への負荷が大きいという問題は、練習メニューの調整とマッサージ等を徹底すれば軽減出来る。
まぁあまり走れないのは痛いが、それでもかなりの域には到れるだろう。
だが。
「んー、それじゃ走る以外の練習をメインに…」
「誰も変えないとは言っていないだろう」
変えないというわけではなかったらしい。
「あ、そうなの?」
「無理をして走れなくなっては意味がないからねぇ?」
「それじゃまずはピッチ走法の練習かな。ウマ娘が走り方を変えるのは難しいって聞くけど、…どうかした?」
「いや…、見てもらった方が早いか。少し走っても構わないかい?」
「ストレッチちゃんとやるなら」
「故障の心配をされたばかりで無茶はしないから安心したまえ」
そう言うとタキオンは少し移動し、外ラチに沿っていくつか設置されているゲートのひとつに収まった。
このトラックのゲートは、ボタンを押してからランダムなタイミングで開かれるように改造されており、一人でも実戦さながらのスタートを練習することが出来るようになっている(移動出来ないため大外枠限定になるが)
タキオンはやはり完璧な反応を見せていた。
先程までの練習ではここから巡航速度まで上げるのに時間が掛かり、そのアドバンテージを生かせずにいたが…。
爆発的とまでは行かないにせよ、普通のウマ娘並の加速を見せる。
それと同時に、先程までの練習で感じていた違和感の正体が判明した。
自分の本来の走り方とは異なる走り方をしていればぎこちなくなって当然なのだが、問題は多くとも綺麗な走りではあったから気付けなかった。
「どうだった?トレーナーくん」
「見事なピッチ走法だね。…ウマ娘って走るフォーム変えるの難しいって聞いたんだけど」
「難しいと不可能は別だろう?海外には走りながらストライドを変えるウマ娘は山ほど居るし、国内でもかのスペシャルウィークがやってのけたのは有名な話だ」
タキオンは「まぁ私は走りながら変える事は出来ないんだがね」などと言っているが…。
それをやっているのは皆超一流のウマ娘ばかりである。
東条先輩と言いタキオンと言い、しれっとプレッシャーをかけないで欲しい。
「それじゃあとりあえず今日はこの辺にして、明日はピッチ走法での走りをじっくり見せてもらおうかな」
こうして私とタキオンの初トレーニングは無事幕を閉じたのだった。
今年初のG1覇者はカフェファラオさんでしたね(ソダシさん切ってたためギリ黒字止まり)
しかし骨折から戻ってもうG1獲る福永ジョッキーは流石ですわ。
ウマ娘未登場馬の名前ってどうしたらいい?
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まぁ、私はそのままで良いと思うけどねぇ…
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たわけ。名前くらい自分で考えたらどうだ