次話やらその後の数話書き溜めしながら今まで書いていたんですが…無限列車のエピローグが先に完成しちゃったんです。
ネタバレになる内容もあるんでどうしようかな悩んだのですが投稿してみました。
ネタバレいやだよと思う方はプラウザバックよろしくお願いしますね、
先駆けお試し先行版 無限列車編エピローグ 「明ける夜、続く意思、炎は朝焼けを歩む」
「母上、俺はちゃんとやれただろうか? やるべき事…果たすべき事を…全うできましたか?」
「立派に、できましたよ」
ああ…自分はちゃんとできたのか。母上に肯定されて…とても嬉しく満たされる…。残された時間はあと
「煉獄さんッ!煉獄さんッ!!煉獄さんッ!!!」
竈門少年の俺を呼ぶ声が聞こえるな。だがもうすぐそれも聞こえなくなるだろう。できれば継子として一緒に我が家に帰りヒノカミ神楽とやらを調べてやりたかったが…すまんな。だんだんと意識が薄れていく。もうそろそろ時間のようだ。母上…。
「杏寿郎…お疲れさま」
はい母上…。
「あ〜…なんと言うか親子水入らずのところ悪いしとても言いにくいんだが…親子のそれあと五十年くらい保留にしてもらってもいいか?」
自身に残された刻が終わるのを察し母上に労いの言葉を掛けていただいたところ何故かいきなり男の声がして保留を求められた。突然の他者の呼び掛けに驚き薄れゆく意識が少しだけ押し留められる。声の元を辿ると驚く事にいつの間にやら母上の隣に音柱である宇髄天元と並ぶ程に体格の良い男が立っているではないか。その容姿は黒髪黒目の背の高い少々目つきの鋭い偉丈夫で見た事の無い異国風の装いを纏い何故か腰にフサフサで毛並みの良い猿の尻尾のようにも見える帯と思しき物を垂れ下げており朝の風にでも翻弄されているのかゆらゆらと揺れていて西洋文化流入著しい日ノ本でもなかなか見ない異様な出立ちに歌舞いているのか?と一瞬目を見張ってしまう。
「貴方は…どなた様でしょう?」
誰だ?もう口に出して誰何する事も出来ず唇が声なき声を形作ろうとするが、そんな些細な動作さえもはや叶わぬ自分に代わり母上が問いただしてくれた。
「なに、ただの通りすがりのお節介焼きさ。身内があんまりにも泣くんで、やれやれ世話がやけると一時的に目覚めた、まだまだ惰眠を貪り中の…な?」
名は告げずただの通りすがりと嘯く男の答えになってない返答とその内容に困惑する俺と母上。
そんな俺たち親子を一顧だにせず男は続けて、
「まぁ取り敢えずこれでも食っとけ。問答してもいいがそしたらお前さんその間に死ぬだろ。一応これで身体は治る筈だ。疑問その他諸々の説明は…次に会う機会でもあればしてやるよ。ああ、それと今回の
と、一方的にそう言い放ちながら手にした緑の粒…豆?と思しきモノを親指と人差し指で挟み指弾の要領で自分に向け弾き飛ばしてきた。
何を言っているのだろうか。己の傷は致死の致命傷。たとえ今すぐ治療したとしても臓腑を貫かれた以上は延命も難しくそれ以前に血を失い過ぎたので失血死するのが目に見えている。つまりどうあっても死は免れない。それを治す?食えと言っているが豆?を食しただけで?それに迷惑料の前払いだと?あいつらをよろしくとはいったい誰の事を指すのだ?要領を得ないそれらの内容に対し疑問符を浮かべていると突如として喉に違和感を覚える。それは何か小さな軽い物が当たった感覚。状況的にたぶん今さっき男が指弾にて飛ばした豆?が薄く開いていた唇から口内に入って喉奥に着弾したのだろう。さほど距離がないとはいえ大した腕だ。すでに呑み下す力すら残っていなかったのだが不思議とそれはするっと喉を通りそのまま食道を通過し胃の腑に落ち到達するのを知覚する。
"ドクン!"
するとその瞬間なにか暖かくも熱い形容し難いものが全身を駆け巡り、そしてその感覚と共に弱々しく鼓動を続け今にも止まり掛け寸前だった筈の心臓が大きく脈動し鼓動を強くするのを自覚した。
「ガハッ!?」
"ビチャビチャ!"
曖昧だった意識が急速に明瞭になる。と、同時にか細く止まる寸前だった呼吸が一気に回復した。だが勢いを取り戻した反動により肺に溜まってしまっていた血が呼吸を妨げてしまう。そうすると身体が自然とそれを解消すべく喉奥から血塊として迫り上がってきて咽せてしまい、たまらず身体を九の字に曲げ両手を地面に突く事に。そして呼吸と共に吐き出した血が盛大に飛び散り眼前の地面を斑らに染めた。
「ゴホッ!ゴホゴホッ!」
「煉獄さんッ!?」
咳き込んで少し呼吸が乱れたが概ね血をほぼ吐き出せたようですぐ楽になる。
「ハァハァハァ…ふぅぅぅぅぅ」
かなり口の中が血の味で不快だが構わず息を整え徐々に呼吸が安定し十秒と経たず普段通りの状態にまで戻す事ができた。……普段通り?
「これは…」
事ここに至り緩慢になっていた煉獄の意識は完全に復調した。と、同時に自身の状態を理解し唖然とする。
「まさか自分は生きている…のか?」
「煉獄さんッ!生きて!生きていますよッ!煉獄さんッ!!」
奇跡としか言いようがない事態に思わず溢した独り言に対し目の前にて膝を付き此方を見上げる竈門少年が勢いよく肯定の声を上げる。
「傷が…全身に負った筈の傷がまったく無い。胴体を貫通して風穴が空いたのもそうだが潰された筈の左目も問題なく見える。竈門少年にはどう見える?」
「はい!ありません!傷なんて全然これっぽっちも見当たりませんッ!!」
第三者視点からどう見えるか気になり問うと即座に竈門少年は涙を零し笑いながら嬉しそうにそう報告してくる。
「そうか」
その真っ直ぐで率直な言葉にそうかと納得するしかない。よもやあの猗窩座という上弦の鬼の置き土産で鬼にされたのかと疑うもそんな情動や感覚はなく念の為に舌で口内の八重歯を探るが伸びたり鋭くなったなどの異常等はみられず視線を落とし頭部と風穴の空いた腹部以外に唯一露出した手を見ても肌や爪は人のもので顔や外観も変わらずそのままなのは竈門少年の様子から察せられたので心底安堵する。
と、そこで母上と謎の男の事を思い出す。急いで視線を竈門少年の背後に向けるもすでに母上の姿は影も形もなくその隣に居た男も同様に消えていた。
今際の際の幻だったのだろうか?とも思う。だが実際に身体は癒えている。なら…あの邂逅は夢や幻などではなく本当の本当に現実であったらしい。
ふと竈門少年の背後に湧き立つ湯気とも燃え盛る焔の様にも思える何かと共に人の陰影が見えた気がした。一瞬の事だったし日が昇り周囲を照らす陽光が見せた陽炎やもしれないが不思議と感謝の念が湧く。だからだろう彼の御仁が最後に言っていたあいつらと言うのが目の前に居る竈門少年達の事じゃないのかと思ったのは。
「なあ竈門少年」
「はい!」
「つかぬ事を聞くが君は男で黒目黒髪に背が高く偉丈夫な人物に心当たりはあるか?」
「はい?黒目黒髪に背が高くて偉丈夫な男の人ですか?」
「うむ、洋服なのか随分と変わった装いを着ていて…それと何故か腰に猿の尻尾の様な飾り物も付けていたな」
「変わった装いに猿の様な尻尾?…ああ!ならゴーマおじさんの事ですね!」
なんとなく駄目元で聞いてみたがあっさりと彼の御仁の名が知れた。やはり竈門少年の関係者だったらしい。
「ん?あれ?でもなんで煉獄さんがゴーマおじさんの事を知ってるんですか?」
「名前は知らないが会ってな」
「なるほど!だからですか!」
納得いったとばかりに頷く炭治郎。ゴーマおじさんが自分達と出合う前の事は何故か不思議と真実だと確信の持てる夢という形である程度知ったがそれは極一部でしかない。なので煉獄さんも過去に何処かで知り会ったんだろうな〜っとそう胸中で納得したためだ。そこになぜ今自分に聞いたのか?という理由には思い至らない炭治郎であった。
「ゴーマ殿…か。ちなみにその御仁が今何処に居るか知っているか?」
「はい!もちろん!ここに居ますっ!」
言葉と共に何故か自身の胸を右手の平でドン!と勢いよく叩く炭治郎。その顔は元気いっぱい自信まんまんである。まあ直後その衝撃が腹の刺し傷にまで響き痛みに呻く羽目になったが。
その一連の流れを見て一瞬唖然となるが先程の陽炎の様なものを竈門少年の背に見た気がした事を思い出す。それと身内の涙で一時的に目覚めたという会話内容も。ならあれは……。
「ふむ…なら俺は礼を言わねばならないな。ありがとう竈門少年ッ!」
「へ?」
「君のお陰で俺は死なずに済んだ!だからありがとうッ!」
「え?え??」
意図せず行なった自傷行為で痛みに少々苦しんでいた所いきなり掛けられた感謝の言葉に意味がわからず混乱する炭治郎。なぜ自分が御礼を言われているのかと顔に疑問符を浮かべている。だが次の瞬間ある可能性に思い至り煉獄へと問い掛けた。
「煉獄さん、もしかしてゴーマおじさんが煉獄さんの…その身体を?」
「ああ、癒してくれたようだ」
「やっぱり!じゃあ煉獄さんはゴーマおじさんに会ったんですか!?」
「うむ、つい今さっき会ったばかりだ」
「じゃ、じゃあ目を覚ましたんだ!何処に!何処に居るんですかッ!?」
ついさっき会ったという返答を聞いたとたん急に周りを見渡して視線を右往左往させる炭治郎。
いきなり騒ぎ始め彼の御仁の姿をしきりに探す炭治郎に呆気に取られる煉獄。だが即座に慌てふためく炭治郎を諌めるべく声をかけた。
「落ち着け竈門少年!」
声で注意を引き顔が向いた瞬間を見計らい額に人差し指を突き付け意識を強制的に己へと集中させる煉獄。先の止血を指南した時と同様の手法である。
「は、はい」
それが功を奏し炭治郎は落ち着きを取り戻した。
「彼の御仁は言っていた。一時的に目覚めそして惰眠を貪り中だと」
「あ、なら今も此処に…」
煉獄の言葉を聞き炭治郎は胸にそっと手を当て納得とばかりに頷く。
煉獄はその炭治郎の所作にある確信を持ち尋ねる。
「竈門少年。先程も言っていたが…かの御仁はもしや君の中に…居るのか?」
自分でも突拍子もない事を聞いているとは思う。人の中に人など…どう考えても居る筈はない。
「はい。ゴーマおじさんは自分の中に居ます。おじさん曰く無茶苦茶疲れたから当分寝ているそうなんです。詳しく話せば長くなるんですが三年前に出会ってからずっと寝ているんです」
…だが真実は現実よりも奇なりというものらしい。
それから語られた話の内容は普通なら到底信じられないものだった。鬼に殺された家族が生き返ったやら彼の御仁が幽霊の様な半ば神の如き存在だとか。幽霊神様云々は本人談だそうで確とした証拠は無いそうだが実際に実在し不可思議な血鬼術という超常の術を使う鬼を知る身としてはそんな存在も居るのかもしれないと思えてしまう。古から語られる神仏妖怪魑魅魍魎と存在も定かでないものは古今東西枚挙に
「なるほど!大変だったのだな!」
「あの…信じてくれるんですか?」
話し終えた竈門少年は聞き終えるなり肯定し頷いた自分に対し恐る恐る尋ねてくる。
「ああ、突拍子もない話とは思うが実際に自分も先ほど会って命を救ってもらった身だ。なら信じるしかあるまい。それに竈門少年が嘘をついている様にも思えんしな!」
「ありがとうございます!」
そう言葉を返すと安堵したのか竈門少年は感謝を口にし微笑む。
「ああ、そうか思い出した。どこか覚えのある気配だと思っていたのだが柱合会議の時の気配なのか。納得いった!」
「へ?」
会って間もないが、どことなく気配に既視感を感じていたのだ。最近どこかで?と。今の現実離れした話を聞いて腑に落ちた。
「俺はてっきり竈門少年が怒気のあまり発していたのだと思っていたんだが…かの御仁のものだったのなら納得だ!」
今から遡ること数ヶ月前。半年に一度開催される柱合会議のおり風柱である不死川の独断専行で議題の鬼である竈門少女を潜む箱ごと日輪刀で刺し貫いた直後それを見た竈門少年が絶叫と共に瞬間発した凄まじ圧を伴った気配と同一のものだったのだ。おかげであの場に居た自分を含む柱全員がその圧により一瞬息を呑み身体が勝手に臨戦体制になったのを今でもよく覚えている。ただの一般隊士が発したとは思えないその異様な気配と圧のお陰で警戒心を強く持った一部の柱がより強固に処罰を願い出る事になり会議は荒れに荒れたのだから。
最終的には元水柱である鱗滝左近次殿を筆頭とした水の呼吸一門の命掛けの嘆願と竈門少女の踏み絵にも等しい証明行為により場は納まったが先の気配の件で竈門少年の方も危険視する者が一定数おり万が一妹だけでなく兄まで鬼になったら厄介な事になるやもと危惧し妹鬼共々やはり処分するべきでは?と後に再三の意見もあったほど。まあそれは御館様により却下されたが。あの場に居た柱全員が尋常ではないと感じた気配と圧の根源があの御仁なら納得いくと直接相対した今では素直にそう思えた。
「え?そんな事があったんですか!?」
何の事か分からず訝しむ竈門少年に気配云々の理由を伝えると驚きに目を見開いている。
「うわぁ…そうだったんですか。今回も含め俺ぜんぜん気付きませんでした…」
「うむ!あの時はびっくりしたな!つい反射的に斬りつけようとしてしまい刀の柄に手を掛けてしまったぞ!」
「ええぇぇぇ!?」
刀を抜きそうになったと聞き更に驚く竈門少年。その当時の事を思い出しているのだろう小刻みに頰を引き攣らせている。さもあらん。状況が状況だったとは言え知らぬ合間にまったく別の要因で己が死に掛けたかもしれないと聞けばそうもなろうと言うものだ。
「ちなみに程度の差はあれ柱全員がそうだったぞ!皆思い止まってくれてよかったよかった!」
「………」
さらなる追い討ちの情報を聞きもはや絶句するしかない炭治郎であった。
まあそれが成されたとは今はもう思わないがな、と煉獄は内心思う。例えあの時に誰かが斬り掛かっていたとしても恐らくは止められていたであろうからだ。かの御仁…ゴーマ殿に。就寝中と聞いたが事あれば今回の様に干渉できるのだ。方法は預かり知らぬが気配ひとつで我等柱を怯ませ警戒を促せる事が出来る御仁ならばそれ相応に対処も可能であると想像するに難くない。
「…煉獄さん。本当に本当に大丈夫なんです…よね?」
「ああ、大丈夫だ」
「よかった。本当によかった」
不意に静かになった炭治郎は煉獄の安否を問いその返事を聞き心底安堵する。さっきまでは驚きの事実の連続で感覚が麻痺しており間を置いた瞬間ふと都合の良い夢を見ているんじゃないかと不安に思ってしまったのだ。
「煉獄さん…俺強くなります。今回俺は上弦を前に何も出来なかった。始終守られてばかりで…何も。それじゃ駄目だ。鬼舞辻無惨を倒すならその配下の上弦に手も足も出ないようじゃ話にもならない。だから俺もっともっと頑張って強くなりますッ!」
煉獄の死(寸前)を前に自身の不甲斐なさに涙した。戦いの場にさえ立てず力なく傍観するだけの自分。悔しくて情けなくて…だから強くなろうと誓う。命を賭して守り抜き自身と禰豆子を認め信じると言ってくれたこの人に。次こそ隣に立ち共に戦えるようにと。
「…そうだな。己の力の無さを悔やむなら答えは一つのみだ。強くなろう竈門少年。私とて今回の件で痛感した。柱として不甲斐ないが正直言って現状今の私では単独であの猗窩座という上弦の討伐は厳しいと言わざるを得ない。参であれならばその上の壱と弍はそれ以上なのだろうし下も相応とみるべきだ。私も今以上に鍛え強くなるつもりだが上弦は遭遇例も少なく能力も未知数の難敵。過去会敵した柱が幾人もいるそうだがここ百年は全員敗れ生き残った者は皆無と聞く。私見だが戦った感じ柱複数人ならばあの猗窩座という上弦に限り討伐は可能だとは思う。だが柱は基本各地に分散していて救援にはどうしても時間が掛かってしまうためこれは難しいだろう。ならばどうする? 決まっている。来援が間に合うまで柱に匹敵もしくはそれに限りなく近い者とで当たればいい。具体的には階級・甲の者だな。なのでまず位を上げ甲を目指そうか竈門少年!そして次に奴と会いまみえる時は完膚なきまでに勝とう!共になッ!」
「はいッ!」
「うむ!良い返事だ!という事で継子になるといい!!」
「はいッ!……はい?」
「快諾か!よし!そうと決まれば療養後に修行だ!鍛えるぞ竈門少年っ!」
「あ…えーと……はい!よろしくお願いしますッ!」
共に次は勝とう!そう言われ嬉しく「はい!」と勢い良く返事を返す炭治郎。なのでさらっと続けて言われた突然の提案に流れで「はい!」と反射的に返事をしてしまう。直後その内容の意味を理解し一瞬思考が停止しかけるが出会い当初に誘われた時と違い強さの指針を明確に知った今それは渡りに船な提案だと思い至り少し逡巡するも即座に了承の返事を返すのであった。
◇
「おい!そこの三太郎に化た奴!てめぇ誰だ!三太郎を何処へやった!?」
「へ?」
竈門少年との会話が一段落した所で何故か急に猪頭少年が声を荒らげ竈門少年を指差し詰問してきた。
「な、なに言ってるんだ伊之助!?化けてるってなんの事だ!?意味が分からないんだけど!?!」
いきなりの展開に竈門少年は混乱している。自分もだが。
「しらばっくれるんじゃねぇッ!その腰にある尻尾が何よりの証拠だろうがッ!!」
「え!?」
指摘され慌てて腰を捻り自らの臀部を見下ろし確認する炭治郎。するとそこには……。
ゆらゆらゆらゆら
まさかまさかの紛う事なき茶色の尻尾がゆらゆら波打っていたとさ♪
「へ?あ?へ?………え?えええぇぇぇぇーーーーーーッ!?!」
何度見返してもその存在を主張するが如くゆらゆらゆら揺れ動く尻尾。それを見た炭治郎は自分の腰の尾骶骨あたりから本当に尻尾がにょっきり生えているの見て混乱し驚愕の声を上げて絶叫する。側で同じくそれを見た煉獄も声は上げないが驚愕に目を見開き驚く。
「な、なんで尻尾が!?お、俺お猿さんになってるぅぅぅぅーーーっ?!?ってあれ?これなんか見覚えがあるぞ?色や毛並みが記憶にあるゴーマおじさんのとそっくり同じ……あ!まさか中に戻るさい尻尾だけ入り損ねたんじゃッ!?」
悲鳴から一転、困惑混じりの炭治郎の推察を聞き「なるほど!」と煉獄は同意し頷く。確かにその可能性は有りそうだなと。というか現状そうとしか考えられない。人に尻尾などいきなり生えたりなどしないのだから。
「認めたな!さあ吐け!三太郎を何処へやった!吐け!吐かなきゃたたっ斬るッ!」
そう言い放ち両手に握った刃毀れだらけの日輪刀を左右に構え切っ先を炭治郎に向け突き付ける伊之助。
「ちょっと待て!ち、違う!違うんだ伊之助ッ!」
問答無用で強行姿勢を取る伊之助に驚き慌てて両手の平を前に突き出し静止を呼び掛ける炭治郎。
「あ"!?何が違うんだてめぇっ!」
「そもそも化けてなんかいないんだ!俺が!炭治郎だよ!」
「ふざけんな!人間にゃ尻尾なんざ生えてねぇんだよッ!」
「いやそれはそうだけどそうじゃないと言うか…理由…そう!ちゃんとした理由があるんだっ!」
「理由だぁ?」
「機能回復訓練の合間に伊之助達に話したろ?俺達家族を救ってくれたゴーマおじさんの事」
「んあ? …ああ、なんかそんなのに昔助けられたって三太郎のやつ言ってやがったな」
ちょっと思案げに首を傾げ記憶を探り肯定の言葉を口にする伊之助。その仕草になんとか話は通じそうだと安堵しつつも炭治郎は釈明を続ける。
「そのゴーマおじさんが煉獄さんの傷を癒しに俺の身体から一時出たみたいなんだ。それで戻るさい尻尾だけ忘れたのか入り損ねたのか何なのかわからないけど出ずっぱりになってるみたいなんだよ」
「ハア?なんだそりゃ。お前身体の中にそんなもん飼ってんのか?」
「飼ってる訳じゃないよ。居ると言うか寝床…なのかな。例えるなら…家主と居候?」
「なるほど。ノミに集られてる獣みてぇなもんか」
「獣扱いに虫扱い!?酷いよ伊之助っ!」
言い得て妙と言うか、あんまりな
「うっせえ!」
だが、そんな炭治郎の抗議もなんのその一向に意に返さずうるさいの一言で切って捨てる伊之助。例えは悪いが実情は共生も同然なので微妙に間違いとは言い難かったりする。まあノミなどとは違い明確なメリットがあるので有益なのだが。実のところ炭治郎自身に自覚はないが体内にゴーマを宿す恩恵として身体能力に若干の補正が掛かっているのだ。ゴーマの存在自体が生命力の塊そのものであるためマスター枠である炭治郎は常時パスを通じ気が微量とはいえ流れ込んでしまっていて伊之助ばりに体力が有り異常に傷の治りが早いのもそのせいなのである。とは言え流石に人の範疇を越える事はないのだが。(ただしゴーマが意図的に譲渡した場合はその限りではない)
「はぁ…」
抗議は無駄と悟り溜息をつく炭治郎。とりあえず偽物ではないと認識はしてくれたようなのでもうそれでいいやと割り切る事にする。短い付き合いだがこういう時の伊之助に何を言っても無駄なのは出会った当初から文字通り骨身に染みているのだ。…嫌な慣れもあったもんである。
「これ…どうしよう。時間が経てばそのうち引っ込むのかな?」
そんな風に嫌な意味で達観しつつも目下の問題である尻尾が有る現状をどうしようかと思考を巡らす炭治郎。だが次の不用意な一言で自ら事態を悪化させてしまう事となる。
「あ、逆に引っ張ったらどうなるんだろう?驚いて引っ込むかな?」
「そりゃあ疑問だな?じゃあ俺様がそれ確かめてやるぜっ!」
「え!?あ!駄目だ伊之助!疲れて眠っている所を起きて煉獄さんを救ってくれたばかりなんだ!無理に叩き起こす様な真似は!」
自身の不用意な一言で起こる事態を察し即座に伊之助を止めるべく声を荒らげながら静止の言葉を言い放つ炭治郎。だがそんな静止など見た目に言動その全て猪突猛進を地で行く伊之助が聞くはずもない。
「三年も寝りゃ寝すぎだ!冬眠する熊でもそんなに寝ねぇぞ!少しは起きた方が健康にゃいいんだよッ!」
「それは…そうなのか?ってだから待てって伊之助ッ!」
一瞬それは確かにと納得させられそうになる炭治郎。刹那その隙を見逃す事なく肉薄しすかさず炭治郎の背後を取る伊之助。そして。
「ガハハハ!俺は川漁で熊に勝った男!手掴みは得意中の得意よ!どんなに暴れようがとっ捕まえてドドン!と一発引っこ抜いてやるぜっ!」
得意そうにそう言うや否や伊之助は両手で左右から尻尾を掴み取ろうとし……ようとして両手の平を打ち付け『パン!』と軽く乾いた音を鳴らすのであった。
「あん!?」
ある筈の手応えと違う結果に困惑の声を上げる伊之助。訝しむも目測を誤ったのかと思い尻尾を掴むべく再度手を伸ばす。
「パン!」
だが結果は変わらず乾いた音と手の平が合わさるだけに終わる。
「なんじゃこりゃ!?手がすり抜けやがる!全然掴めねぇぞッ!?」
一度ならず二度までも掴めなかった伊之助は続けて三度四度と試すも一向に掴めずパンパン音を鳴らすだけ。しまいにはがむしゃらに左右の手で掴もうと奮闘するがまったく持って全て徒労に終わる事となってしまうのだった。
「ど、どうなってやがんだこれッ!?」
「ギイィヤ"アアアアアアアアァァァァァァーーーッ!!!」
そんな混沌とした状況下で突如として響き渡る濁音混じりの汚い悲鳴。
「炭治郎だけど!炭治郎なんだけど!?音に若干変なの混じってる上になんか尻尾生えてるぅぅぅぅーーー!?!」
「善逸!?」
不意に現れ鶏を締め殺した様な金切り声を上げる主を見やり炭治郎はその名を呼ぶ。
「ヒィィィィィィッ!?」
しかし呼び掛けるその行為がトリガーになったのだろう情けない悲鳴を上げながら善逸は二歩三歩と後退った。
「善逸?!」
「!?ギィィィィィヤ"ァァァァァァーーーーーッ!!!」
そして再度呼び掛けるとまたまた濁音混じりの悲鳴を上げたかと思いきや一目散に炭治郎に背を向け走り出したのである。その背に脱線の衝撃により傷ついたのか扉の一部に
「あ!ま、待て!待つんだ善逸ッ!」
「イィィィィヤァァァァァァーーーーーーーッ!?!」
その亀裂に気付いた途端まずい!と思った炭治郎は急ぎ善逸に静止を呼び掛けながら追いかけるもそれが余計に善逸の恐慌ぶりに拍車を掛ける結果となってしまう。
「ヒィィィィィィ!?なんで追ってくるのオォォぉぉ!?来ないでぇぇぇぇーーーーッ!?!?」
「待て!待ってくれ!善逸ッ!扉に!扉に亀裂がッ!!」
「イぃぃヤアァァァァァーーーーーーーッ!!!!」
しかし炭治郎の度重なる静止は更なる恐慌を善逸に齎し脇目も振らずもはや遁走と言っていいほどに脱兎の如く離れていく。
「くっ!待てえぇぇぇぇッ!!」
逃げる善逸。追う炭治郎。そして更には。
「掴めねぇってんなら斬っちまえば!どうだァァァーーッ!!」
「なっ!?うわァァ!?伊之助!?何するんだ?!やめ!やめ危なっ!?」
触れない事に業を煮やしたのか両手に日輪刀を構え手段が引っこ抜くから斬り飛ばす事にシフトしたらしい伊之助までもが追いかけ始める始末。
三者三様の理由から辺りをぐるぐるとまるで
「は、ははは、ハハハハハっ!」
そんな見た目コントな現状を一人蚊帳の外に身を置き第三者として呆気に取られ見ていた煉獄はシリアス路線が一気にコメディータッチに切り替わったギャップに苦笑を禁じ得ず始め小さく次第に大きく朗らかに笑い声を上げるのであった。
かまぼこ隊の騒々しい追っかけっこが続く中ひとしきり笑っていたら朝日が土手の向こうから差し込んで頬を照らし暖かさとその眩しさに煉獄は目を細める。
「登る朝日…か」
生きてまた拝む事が出来るとは思わなかった。縁とは不思議なものだとつくづく思う。柱合会議で竈門兄妹が処されていれば…この任務に竈門少年達が派遣されていなければ…自分は癒される事なくここで確実に死んでいた。当初反対していた身としては複雑だが幸運だったと言えるだろう。むろん今はもう竈門兄妹を認めている。短い間だが間近で接したからわかる。たとえ己を刺した者ですらも助け許し罪を齎す鬼に怒り何処までも直向きな兄と鬼であっても理性を失わず人を助け続ける妹。その善性は本物であり共に
ふと胡蝶カナエの事を思い出した。現蟲柱・胡蝶しのぶの姉であり数年前に花柱として上弦と戦い戦死した彼女を。彼女は生前に鬼であろうと仲良くできる筈だと言っていた。当時の俺は賛同せず一笑に付した。無論のこと今も賛同は出来ない。鬼は人を喰らう捕食者。そうである以上そこに融和は存在しないからだ。だが自らの意志で人を喰わない禰豆子を見て今は思う所がある。帰還後に折を見て胡蝶と話してみよう。今はそう思うのであった。
ともあれ夜は明け日は完全に昇り辺り一面を満遍なく照らしている。色々と衝撃的な事は起こったが皆無事だ。脱線の影響で怪我人は多いが死者は一人もいない。責務を全う出来た。誇りに思う。
ふと母上が佇んでいたと思しき場所を見やる。だが無論の事そこには誰も居ない。
「母上…」
会えるとは思わなかった。刹那の邂逅だったが迎えに来てくれて褒めてくださった。かつて今際の病床のおり想いが溢れるもついぞ返す事の出来なかった「強く逞しい
「会えて嬉しかった。また、いつか…」
今でない、いつか訪れる時の約束をしよう。
_ ええ、杏寿郎。壮健で _
何処からかそんな返答の言葉が聞こえた様な…そんな気がした……。
「うむ!今日も天気だ!」
夜明け特有の少し冷えた清々しい風と朝日照るなか後から来る隠の者達が到着するまでやれる事をしようと鬼殺隊・炎柱・煉獄杏寿郎は脱線した列車に向かい歩を進めるのであった。その歩みは軽やかで…顔には晴れやかな微笑みを浮かべながら……。
_炎は朝焼けを歩む_
ちなみに不毛な追いかけっこを続けていた炭治郎達は最終的に疲労困憊から三者三様にへばり地に伏せていたりする。それは隠が到着しても変わらず脱線現場の端に放置…もとい安静にと配慮した結果である。まあぶっちゃけ怪我と疲労でろくに動けない以上は無理に手伝ってもらっても邪魔だから一時隔離したとも言えるが。まぁできても面子がら炭治郎しか役に立たない未来しかないので順当と言えよう。適材適所。須く世は事もなし。
次話はまだ九割の完成度でどうしてもしっくりこないのでできたら投稿します。
それ以降も完成した話や未完の話を筆が乗り次第で書いているので気長にお待ち頂けると幸いです。
ではまた次回で。メリークリスマス