世界を巡る異邦の救砕者   作:サウィンドゲッアウシー

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できた…です?
足りてるような足らん様な。
一応完成したと思うので投稿です。
ではどーぞー。


菜の拾壱「落涙」

 

 

「さて、じゃあ聞きたい事は幾つかあるが…まずこれからだな。キブツジムザン…は長いからムザンでいいか。そいつは今どこに居る?」

 

 本格的に対話が始まった。最初に聞くのはもちろんムザンとやらの行方だ。これを聞かなきゃ始まんないしな。

 

「無限城です」

 

「ムゲン…城?」

 

「はい」

 

 そして帰ってきた答えは…まさかまさかのお城です。無限?それとも夢幻?どちらにせよ鬼のくせに城持ちとかセレブかよ。生意気な。一応念のため間違いないか確認してみる。

 

「そいつは城か?建物的な?」

 

「住処という意味ではそうですね」

 

 マジに城ねぇ…。なんか珠世の言い方からしてただの住居って訳じゃなさそうだな。こりゃ一番悪い方の予想が当たってそうだ。

 

「ほうほう。なら何処にあるんだ?」

 

「わかりません」

 

 わからんときたかー。どっかの土地にあるなら地名を言うはず。それが分からんって事は…。

 

「ふむ、じゃあこう聞き直そうか。どうやったらそのムゲン城とやらに行き来(・・・)できる?」

 

「襖を通り抜けると出入り出来ます」

 

 はい確定。これ移動は空間接続方式ですわ。しかも気を感知できないって事はそのムゲン城とやらがあるのは通常空間ではなく異空間だろ。そらいきなり消えるし探知できん筈だわ。

 

「場所は不明。でも襖を通れば行けると。…どこでもドアかよ。青い狸でもいんのか?」

 

「青い狸ですか?それはいったい」

 

「ああ、気にしないでくれ。御伽話に登場する奴なだけだから。そいつ不可思議な道具を多数持っててな。その一つが移動出来るって襖と効果がそっくり同じなんでつい言葉に出ただけだ」

 

「はぁ…そうですか」

 

 なんか呆れられた。しょうがないじゃん。似てんだからさあ。ちょっとバツが悪くなっちまった。なので話題逸らしに何かないかと思案してみる。するとそういや珠世の名の漢字は聞いたがムザンのまでは聞いてないなと思い出す。やっぱ日本人(心)としては聞いておくべきだろう。記憶もしやすいし。

 

「なあ珠世。そういやキブツジムザンてどういう漢字なんだ?あ、感想とかじゃなく名前の文字って意味な」

 

 すると。珠世も空気を読んでくれたのだろう即座にに答えを返してくれた。

 

「苗字は字頭がそのまま鬼で神楽舞や舞踊の舞と十字路を意味する辻の三文字で鬼舞辻。名は戒律破りや残酷という意味合いの無惨という漢字ですね」

 

 それを聞いて俺はアホかと呆れる。こんな酷い意味合いの名を子供に付けるか普通?言霊ってもんを知らないのかよ、と。名は始まりの祝にして呪だぞ?俺だったら一生恨むわこんなの。名付けた奴ろくでもねぇな。自分で付けたのなら正気を疑うが…そうじゃないなら感性がぶっ壊れてるか毒親だろそいつ。事実ならこの一点だけ無惨って奴に同情するわ。酷いにも程がある。いやマジで。まあいい。本題に戻るか。

 

「そうか。ところで…その襖は無惨が出しているのか?」

 

 そこんところ気になるわ。そうなら少し厄介だ。自前で逃走手段を持つのと持たないのじゃ対処に掛かる手間がだいぶ変わるし。

 

「いえ、それは鳴女という女鬼の血鬼術です。より正確には無限城そのものが鳴女の血鬼術で出来ており襖を通じて内外へと出入りしておりました」

 

 問いに対し珠世から帰ってきた答えはこうだった。予想通り過ぎて笑える。

 

「なるほど…ね。やはりか。はぁ…面倒くせえ事になっちまったなぁ」

 

 予想していたとは言え知らされた内容に対し俺は溜め息が出るのを堪えきれない。まさに「なぁにぃ!?やっちまったなぁ!」ってな心境である。もちろん悪い意味で、だ。良い意味なんて元からないじゃんってのは聞こえませーん。

 

「そのように言われるという事は予想されていたのですね?」

 

 あたりきしゃりきのこんこんちきよ!と、内心思ったり。

 

「まあな。俺から隠れ果せるのは普通の方法じゃ無理だ。なにせ生きている限り何処に居ても存在を感じ取れるんだからな。唯一の例外は…」

 

「外界から隔離されたこの世の何処でもない場所…即ち無限城」

 

「そうだ。空間が物理的に断絶している以上はさすがの俺でも探知できねぇ。そっから一歩でも外に出て来れば探ってる間は直ぐさま判るんだけどよ」

 

「なら無理ですね。残念ながら当分あの男は引き篭もるでしょう。おそらく数十年…長ければ百年ほど。微かでも己の身が脅威に晒されると亀のように頭を引っ込め安全な場所でやり過ごす…そんな男ですので。ましてや今回あの男は死の一歩手前までいったのです。ほぼ確実かと」

 

「チッ、初手で仕留められなかったのが痛いな。甘く見積もった訳じゃねぇが…もっと範囲を広くしとくんだったぜ」

 

 まあそうすると珠世ごと消し去っていた公算が高いんだけどな。本人はそれで本望な気もするが…たらればか。失敗を嘆いた所で結果は変わらん。そんな事より今後の対策を考えるとしますか。その方が建設的だし。

 

 

「うた!?」

 

 己の目算の甘さを反省しつつ珠世と引き続き対話していると突如としてスカウターから切羽詰まった様な縁壱氏の声が聞こえてきた。おそらく声の質や状況などから緊急を要すると判断した縁壱氏のスカウターA Iが急遽接続したのだろう。瞬時にそう察した俺は即座に自分のスカウターのボタンに手をかけ縁壱氏に呼び掛ける。

 

「ん?どうした縁壱氏?うたさんがどうかしたのか?」

 

「うたがお腹を押さえて苦痛の声を!」

 

 すると案の定とびっきりの緊急事態が進行中であったとさ。…マジかッ!?

 

「おいおい!それってまさか陣痛か!?産婆は!?近くに産婆は居ないのかっ!?」

 

「連れてくる予定だった産婆が居る人里は二里ほど離れた場所に!だが連れて戻ってくるには四半刻ほどかかるッ!」

 

 二里って確かメートル換算で約8kmだろ?それの倍の16kmを行き帰りで僅か三十分!?えろう早えぇな!?しかも帰りだけとは言え人ひとり背負ってとか…やっぱ普通じゃねえや。だがそれでも。

 

「出産のイロハは知らんが持つのかそれで!?」

 

「わからない!」

 

「よ、縁壱…い、痛いよぅ」

 

「うた?!血が!?」

 

「おい!血ってまさか破水したのかよッ!?くそ!待ってろ今すぐそこに戻る!いやそれよりも医者もしくは産婆を俺が近くの人里に行って探し連れてくる方が先か!?…あッ!?」

 

 火急かつあまりの展開に気が動転し()いでしまうが目の前の珠世の顔が目に映りはたと思い出す。そういやコイツ元は医師だと言っていたよな…と。

 

「おい珠世!あんた元医師って言ってたよな!?産婆はできるか?!できるよな!?できると言えッ!!」

 

「は、はい」

 

 うし!言質は取れた!強引だが今は一刻を争う!すまんが是が非でも同行してもらうぞッ!

 

「よし!なら行くぞ!手を!」

 

 そう言うなり俺は左手で珠世の手を強引にひっ掴み右手の人差し指と中指の先の腹を自身の額に突き立てる。少々苦手な方法だが仕方ない。空を急いで飛ぶと珠世がどれ程まで耐えきれるか判らんし耐えられても碌に動けないってんなら意味がない以上この方法が適切で確実だ。使用した際の感覚の誤差が気持ち悪いなんて今は言ってられん。個人的に些細なリスクを許容する覚悟を俺は決めた。

 

「座標…よし!跳ぶッ!」

 

 只人ならぬ縁壱の気を感じ取り転移先がズレないよう細心の注意を払うゴーマ。確認し終えると同時に直さま跳ぶと宣言した瞬間その場から二人の姿は霞のようにフッと搔き消えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「うた!」

 

「ううぅぅ」

 

 着いた直後、案の定ちょっとクラっとくる独特な感覚の気持ち悪さに若干の体幹のブレを生じさせるが気合いでカバーし五感に入ってくる情報を精査し認識する。

 

 視界は良好。場所は問題なく予定通り縁壱夫妻の家屋内だ。床の間に響く声は布団に横たわり苦しそうに呻くうたさんの姿があり、そのうたさんからは濃厚な血の匂いが漂ってくる。その傍らにはオロオロしながらも励ます様に左手でうたさんの手を握り右手に持つ布で額から首筋にかけ大量に吹き出る汗を拭っている縁壱氏の姿があった。

 

「縁壱氏!鬼ではあるが信用できる医師を連れてきたぞ!産婆もできるそうだっ!」

 

「ゴーマ殿!?」

 

「珠世頼む!」

 

「………はい?」

 

 一瞬で知らない場所へと移動した事実に惚ける珠世。何がなんだか解らないという顔をしている。

 

 いやおまえさん異空間移動を知ってるし実際に何度も経験しとるんやないんかい。今さら瞬間移動くらい驚く程の事か?って思うが考えてみたら襖をワンクッション挟んでの移動とは違い心構えの暇もない一瞬な分びっくりもするかと思い直す。

 

「パン!」

 

 とはいえ早急に対処してもらわんといかんので一計を案じ柏手をひとつ打つ。するとビクッと肩を竦め珠世が俺を見た。

 

「驚くのは無理もない。が、今は目の前の妊婦に集中してくれ。処置を頼む」

 

「…ふぅ。はい、わかりました」

 

 俺の言葉に珠世は息を一つ吐き頷く。落ち着いてくれたようでなにより。

 

「よろしく。産湯などは俺が今すぐ用意するから心配いらん。あ、これらは適度に使ってくれ」

 

 俺はそう言うと腰裏のポーチに手を伸ばし柔らかマットレスにタオルや水の入ったペットボトルなどの消耗品の類いをポイポイと左右交互に珠世の眼前に放り出していく。

 

 大きさと数なにより小さなポーチ(実際は手元)から質量保存の法則を無視して出てくる物品の数々に珠世達は驚きに目を見開き固まる。だが「うぅぅ」と陣痛に呻くうたさんの声にハッ!と我に返った。不可思議ではあるが今やるべき優先事項は出産である。その事を思い出し各々が最善を尽くすべく動きだすのであった。

 

 

 実の所やろうと思えば全自動で出産可能な方法があったりする。さっきは慌てて忘れていたが俺は医療用サポートアンドロイドを含む総合医療ユニットを所持しているのだ。これはDB世界産…というかより正確にはカプセルコーポレーションのテクノロジーに加え故フリーザ軍の医療ポッドを入手し魔改造して完備した逸品で、はっきり言ってこれ一つあれば例えどんなに死に掛けだろうと助かる代物。外傷は元より内臓疾患や毒などの外因性物質が原因であろうともだ。さすがに登録されてない未知のウィルスや生れながらの先天性疾患は何とも言えないが少なくとも延命や再生治療はできるのでほぼ万能と言えるだろう。今すぐこれを使ってもいいんだが…辞めておく事にする。なにせ医者は既に居るし今後を考えれば普通に分娩出産するのが一番いいと思うからだ。もちろんやばい状況になるなら躊躇なく使用するつもりだがな。出血量や場合にもよるが逆子や帝王切開が必要なレベルだと母子共にやばいし。ま、保険と考えとけばいいだろう。

 

 それにしてもだ、今更ながら実感するが英霊化の恩恵って凄いよな。なにせ持ち物の大半が程度によるが宝具になったんだし。これには当初びっくりしたぜ。

 

 DB世界で天寿を全うし意識がプツリと消える瞬間「あぁ死んだんだなぁ…これが死か。最初のは即死で次の瞬間にはアタックボールの中だったし…新鮮だ」とか思ってたら急に意識が何処かに引っ張られる感覚がするや否や何故か薄暗い家屋の中に佇んでいたんだからな。

 

 は?ここ何処??閻魔様んとこに行く列に並んでる筈なのに俺死んだ…よな?肉体はDB世界基準の体で肌の張り具合から若返っているしまさか逆行?もしくは二回目?はたまた転移系?と疑問符を浮かべていたら唐突に聖杯から知識の流入があり俺ってサーヴァントなん?マジかーと認識し今いる世界が型月Fate時空と判明した訳。

 

 なら俺を呼び出した存在が近くに居る筈だからそいつに現状を聞こうと思い至り周囲を再度見渡し背後を振り向けば眼に映るは生前アニメで見たFateZeroの桜(幼女)とあの気色悪い蟲爺の姿。しかも蟲蔵に叩き込まれる寸前という尊厳が絶体絶命という場面だったんだぜ?それを認識した瞬間、俺は即座に桜の傍に駆け寄り保護すると同時に気功波を放って腐れ蟲爺を跡形もなく消滅させた。無論のこと本体らしき汚泥の様な気は蟲蔵の中なので死ぬ事は無く直ぐさま蟲が周囲のいたる所から這い出て寄り集まり再度人型を形成したんだがな。

 

 召喚された早々のファーストインプレッション。ここから後の顛末はちょっと長くなるので割愛するが結果的に間桐臓現こと理想どころか延命を望む理由すら忘れさった憐れな魔術師マキリ=ゾォルケンはその歪み淀みきった生を終わらせ死んだ。その後、破壊音や家屋が揺れる振動を感じおっかなびっくり様子を見に来た【まるで駄目な親もしくはまるで駄目な男】略してマダオこと鶴野となんやかんやあってひと段落つき「あ、そういえばステータスとかはどうなってんだ?」と疑問に思い自身の能力を把握しようとしたらDB前世の持ち物がまるっと宝具として有るなんて誰が想像するよ。ましてやホイポイカプセルそのものが宝具化なんて普通思わんべ。まさにアンビリーバボーな棚から牡丹餅。いやはや終活での身辺整理がこんな形で功をそうするとはねぇ。

 

 年老いて自身の死期を悟り寿命で完全に身体が動かなくなる前に床で最後を迎えるのは腐ってもサイヤ人の端くれとしてどうよ?と考え「じゃあ某世紀末覇王の最後ばりにド派手に天に召されてみようか!」なんて思い付きノリと勢いで実行したらこれだもんなぁ。その際、後世に残すとヤバイ代物(個人的に)や思い入れのあるやつも持って逝こうとホイポイカプセル化したのがきっかけなんだよ。そんで厳選しようと思ったけど途中から面倒になってもう適当でいいやと四階建てビルに匹敵する超大型倉庫タイプのホイポイカプセルに車やバイクやら雑貨その他諸々を片っ端から突っ込んでったのさ。生活に必要な備え付けの家電家具や写真立てトロフィーなどなど己以外の私物を残しだいぶスッキリした家の中を見て末期の見届け人として呼んだ息子(元孤児。裏社会の抗争に巻き込まれていた所を俺が拾って後に養子にし男手ひとつで育てた。あれ?奥さんは?結婚しなかったのかって?…付き合ったのは居たが敵対外来種=劇場版の糞共が定期的に沸くせいで踏ん切りがつかずグダグダのうちに破局。それを繰り返し結局は未婚だよクソったれ!)が「立つ鳥跡を濁さずって言っても限度がある。残さな過ぎだろ父さん…」って感じに言葉を零し愕然としてたのをつい昨日の事の様に思い出せるぜ。家をカプセル化し丸ごと収納しなかったのは遺産として土地ごと譲るからだな。まぁ育った実家が無くなるのは…あれだしさ。もう一人の勝気な娘(経緯は同上)は父さんらしいって爆笑してたけどな!その隣で佇む比較的一般ピーポーな旦那の頰がヒクヒク痙攣してたのが超笑えたっけ。

 

 え?処分するのに何でそこまで手間暇かけんの?だって?理由は簡単だ。死後に使えるかと思ったからさ。ほらDB世界の死後ってあれじゃん?功績ある武道家とか肉体与えられて過ごせるって話だろ?その理屈でいけば俺ってば陰ながら相当数の悪人や惑星規模レベルの極悪人とかから地球守った実績あるしそんぐらいの優遇してくれると思ったのよ。そんで服飾品とかもそんままならワンチャン持ってけるかと思ったんだよね。業突く張りと思うば笑え。可能性が少しでもあるならやるだけタダだ。それで出来れば儲けものってな。一応その際ダメ元でゴッド化してやったぞ。んで、その結果予想の斜め上どころか想像の埒外になるとは思わなかったが…。ま、結果的に想定より得したんだからいいよな。

 

 あ、ちなみに宝具化したのはカプセル化したモノだけなのでコンテナの中身は宝具じゃないぞ?他の物も基本そう。なもんでそこんとこはちょっと残念だったぜ。まあ消耗雑貨が宝具とかどうなん?って思うからいいけどさ。実現してたら唯のタオルが何らかの力か神秘を帯びてないと攻撃無効で無駄無駄無駄ァァ!とかシュールな光景が見れただろうな。そんでタオルヌンチャク振り回し敵対する相手に舐めプしてる自分が想像できるわ。アチョーって感じにさ。シュールだよねー。

 

 ちなみのちなみにコンテナ内の物品の出し入れはカプセルを元に戻さずともカプセル状態で実体化させ身に付けてさえいれば必要に応じて頭にリストが浮かび選ぶと任意の場所かデフォルトで手元にパッと現れ簡単に取り出せるし逆に入れたい物に触れれば自動収納仕分けしてくれる超親切仕様だぞ。まるで何処ぞのゲームのアイテム袋だよな。ご都合主義っぽいが、すこぶる便利で助かってるぜ。

 

 人生って摩訶不思議な事だらけよね〜なんて思考しながらFate世界で常備用として備蓄していた100ℓ飲料水タンクを取り出す。そして注ぎ口から20ℓ分ほど水をこれまた取り出し置いた(たらい)に注ぎ気で温め産湯を用意する傍ら過去エピを振り返り懐かしく思い出していたら陣痛の第一波を乗り越えたうたさんと寄り添う縁壱氏が夫婦愛劇場を開催してたで御座る。

 

 うーん、聞くに縁壱氏の出生から出奔までの(くだり)が時代背景からして下らないと感じてしまうなぁ。現代人の感覚では別に良いじゃんて思うけど眉唾な迷信やしきたりが本気で横行するこの時代の日本じゃ仕方ないんだろうと理解はできるんだが…なんだかねぇ。不幸自慢じゃないが俺なんて目覚めたら侵略宇宙人(アタックボー)の先鋒(ル・ナウ)だぞ?肉体的には憧れるが種族生業が血生臭いヤクザ商売って嫌にも程があるっつの。そこから先のエピソードはうたさんとの出会いとその後の共同生活を経て夫婦となった経緯話で聞いててホッコリする。今更ながらあの時あの鬼の襲撃からうたさんを助けられて本当に良かったと思うぜ。まあ、あのタイミングで飛ばされて来た以上は必然だったんだろうけどな。

 

 とまあ、そんな会話が途切れたタイミングで陣痛の第二波がうたさんに到来。珠世の指示に従いうたさんは教えられたラマーズ法に酷似した呼吸法で断続的な呼吸を繰り返す。

 

 それを見て最初少し驚いたがこの時代じゃ学ぶ環境がほぼ相伝に近く医師の系譜ごとに手法を模索して得た知見の賜物なのだろうと納得。もしくは珠世自身の経験から出産の最中に会得した方法なのかもしれない。嗚咽を零していた最中に子供と(おぼ)しき名も呟いていたしな…。

 

「ヒ、ヒ、フー、ヒ、ヒ、フー」

 

 苦しそうにしながらも必死にラマーズ法(仮称)の呼吸を繰り返し陣痛の軽減を行ううたさん。寄り添う縁壱氏も手を握りながら同調し同じくヒ、ヒ、フー、ってやってるぜ。夫婦か!夫婦だよ!定期っ!

 

 そしてそれから数十分後、ついに待望の瞬間が訪れた。

 

「オギャー!オギャー!オギャー!」

 

 ひとつの新たな命が生まれ落ち生存をこれでもかと主張し激しく産声を上げたのである。

 

「うた!」

 

「縁壱…赤ちゃんは?」

 

「元気だ!ついてる!男の子だっ!」

 

 産湯で全身を濡らす血を綺麗に洗い流し産着代わりのタオルに包まれた赤ちゃんを珠世から受け取りこれ以上ないと言うほど興奮気味(縁壱基準)に縁壱はうたにそう告げる。

 

 うたは夫である縁壱の今まで見た事のない興奮具合に目を丸くするも産着に包まれ眼前に差し出された赤子を受け取り顔を見るや破顔し歓喜に涙をこぼす。

 

「私の赤ちゃん…赤くてシワシワだ。ふふふっ」

 

 生まれた直後の我が子を見て率直な感想を呟くうたさん。その表情は愛情に満ち溢れ愛しいという気持ちで胸いっぱいというのが傍目からも如実にわかる。まぁ赤ちゃんて出産直後の肌は羊水でふやけてて乾けばシワシワなのが当たり前だし血中酸素濃度の兼ね合いと皮膚が薄く毛細血管が透けて見えてしまうので赤いのは当前の事なのだが。哺乳類(ホモサピエンス)として誰でも通る過程ではある。

 

 生誕を祝いその場に居る皆が歓声を上げる中とある人物はある事柄により一人困惑していた。

 

「これは?私…まさか泣いている?」

 

「ああ、泣いているな」

 

 それは滂沱と言える程に頬を涙で濡らす珠世。その様子に逸早く気付いたゴーマは肯定の言葉を紡ぐ。

 

「どうして…」

 

 瞳から溢れ頬を伝い流れ続けるものに対し手を添え濡れた指先を眺める珠世。それが己の流す涙だと確認し訳が分からないと訝しむ。なのでその意味を察した俺は答えを言ってやった。

 

「そりゃ嬉し涙だろ」

 

「嬉し涙…」

 

「人なら当然のもんさ」

 

 人なら当然。俺がそう言い放つと、

 

「…私は鬼です。人ではありません」

 

辛そうな表情を浮かべた珠世は即座に否定の言葉を返す。

 

「いんや。お前さんは人だ。鬼という種になってしまっただけの只の人さ」

 

「そんな事は」

 

「新たな命の誕生を嬉しいと思うその心が何よりの人の証だろうぜ」

 

「!?」

 

「どうしようもない欲求として人肉を食いたいという衝動はあるんだろうが、それはあくまで生態としてのもの。鬼という存在に肉体を変じさせられた事による後付け効果に過ぎない。だからこそ断言できる。お前さんは人だとな」

 

「私が人…」

 

 否定の態度を崩さず(かたく)なな珠世に俺は(さと)すようにそう語る。すると珠世は動揺し迷う素振りを垣間見せた。

 

「そもそも本当の意味での鬼は鬼舞辻無惨ただ一人だけなんだろうさ。血を与えられた肉体が変化し精神性が従来と異なり食性が変わるのも元を辿れば始まりの鬼である無惨の影響(せい)だし今のお前さんという事例を除き全ての鬼に干渉する事ができ呪いという枷が存在する事こそがその証左だろうよ。改めて思うが本当にろくな奴じゃねえよな。傍迷惑なこって」

 

「貴方は…私が本当に人だと思ってくれるのですか?」

 

 畳み掛ける様な俺の持論と考察理由を聞き思う所があったのか珠世は迷い躊躇(ためら)いながらもそう聞いてくる。

 

「おう。何度でも断言してやるよ。お前さんは紛れもなく人だとな」

 

「…ありがとう。ありがとうございま…す」

 

 再度の断言。それを耳にした珠世は今度は嬉しさと感謝という二重の意味で頬を涙で濡らし微笑む。鬼となって以来こんなに嬉しい言葉はない…と。

 

 

 そんな珠世の様子にゴーマは、こんな涙なら良いよな…と思い朗らかに笑うのであった。

 

 

 

 




前書きでも言いましたが皆さんから見てどうでしょうか?足らんでしょうか?意見ありましたら感想くれると助かります。どうなんでしょうねー。ではまたシーユー_(┐「ε:)_
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