例えるなら浜辺の波打ち際で仰向けに寝転がり全身丸ごと引き波にザァ〜と攫われていく感じに似た一種独特なこの感覚は何度経験しても慣れないな…そんな感想を思い浮かべながら俺は瞼をそっと開く。すると目の前には三ヶ月前のあの時と寸分変わらず囲炉裏の対面に座る竈門炭十郎氏とその妻である葵枝さんの姿があった。
「戻った…か」
「びっくりしましたゴーマ殿。消えるのも唐突なら現れるのも唐突ですね。ますます興味深い」
全自動制御不可な件のスキルが発動する前と変わらずテンション上げ上げな炭十郎氏の様子に俺は呆れ混じりに苦笑する。これがあの寡黙で表情筋が仕事放棄気味な縁壱氏の子孫だなんてちょっと信じられん。やはり生まれや環境の差か?単に生来の性分かもしれんが…などと感慨深く思いながら口を開く。
「興味深い…ね。その対象にされる身としては複雑な気分なんだがな」
「ああ、これは不躾な事を。申し訳ありません」
「いや、いい。こんな不思議現象に興味を持つなという方が無理だろう。ちょっと長くなるが詳細…語ろうか?」
「宜しいので!?ええ!それはもう是非!!」
自身の言動を省み申し訳なさそうだったのだが眼がわくわくが止まらないって感じに経緯を超聞きたそうだったので俺が詳細を教えようかと提案すると即座に是非にと返事が返ってきた。それはもう満面の笑み付きで。
特段隠す事でもないので…というか先祖の事だし
話が進むにつれ興味が先行していた炭十郎の顔は真剣味を帯びていき語り終える頃には思案顔となっていた。
「…なるほど。私達の祖先に、その様な過去が」
初めて知ったという炭十郎の反応に疑問を感じゴーマは問う。
「知らなかったのか?」
「ええ、耳飾りと口伝は生前の父より伝え聞いておりましたが由来などの詳細は…」
「伝わってないと」
「はい。私も詳細が気になり父に聞いたのですが父も…」
「その物言いだと知らなかったんだな?」
「ええ、なんでも祖父の代で口伝は伝えられるも由来の詳細を聞く前に曽祖父が
「結果それで口伝に関する詳細が
なるほど。それなら知らなかったのも無理はないとゴーマは納得した。
「そうです。いやはや失われた口伝の詳細がこの様なものだったとは。今日一日で一生分の驚きを経験した気分ですね」
大袈裟な…とは思わない。常識的に言って鬼などという荒唐無稽な存在が実在し己の祖先がそれに関わっていたなど普通思わないだろう。炭十郎氏にしても俺という埒外の存在が居なければ信じ切れたかどうか。異能と言っていい
…あれ?でも待てよ?それならアレはどうしたんだ?俺が譲渡したアレ。つまりスカウター。あれは物質的に存在する(ように見える)確たる証拠と言える代物だ。あれがあれば多少は信憑性が増したはず。なので気になり探ってみたのだが…無い。炭十郎氏は勿論のこと家族全員調べてみたのたが誰も持っていなかった。と、いうか持っていれば元々自身の宝具なので出会った当初に気付いていただろう。一定距離を離れれば持ち主の元に戻るから紛失等は有り得ないし。なので恐らく知らんだろうなとは薄々思いつつ一応念のため聞いてみる事に。
「炭十郎氏。つかぬ事を聞くがスカウターと言うモノを知っているか?」
「"すかうたー"ですか?いえ聞いた事はないですね。歌か何かですか?」
「いや、片眼鏡的な物の事なんだが」
「片眼鏡…もしかして失われた口伝の詳細に関わるのでしょうか?」
「ああ、それ繋がりの物品だな」
やはり知らんか。多分だが祖先の誰かが家族以外の者に譲渡したんだろうな。あれは自動的に血族継承され次代に引き継がれるか居なければ最も身近な人の身に宿る仕様にしたんだが当代の持ち主が望めば他者に譲渡も可能なんだよ。じゃないと嫁いで来た嫁さんとか適用外になっちまうしな。案外そこら辺の理由で無くなったのかもしれん。例えば譲渡した後に離縁したとか?もしくは子供が生まれる前に亡くなって嫁の血族に継承されたってパターンもあるな。そんな予想をしながらチャチャっとスカウターのありかを探ってみると
「なるほど…そうきたか」
「どうなされたのですかゴーマ殿?」
俺の呟きを耳にしたのだろう炭十郎氏が怪訝な顔をして尋ねてきた。
「いやなに足らんと思ってな。数的に」
「それは…先程言っていた"すかうたー"という物の数が足りないと言う事でしょうか?」
「ああ、そうだ。ちょっと参考に聞きたいんだが絶対に無くならない筈の物が無い時って…いったい何処にあると思う?一応探せる場所は探し尽くしたという前提で」
ゴーマのトンチめいた失せ物探し的な問いかけに対し炭十郎は少し悩む素振りを見せるも即座にこう答えた。
「それは絶対に無くならないのですよね?なら…探す上で除外した想定外の場所にあるのではないでしょうか」
うん、ど正論だな。つまり見つからないスカウターは…地球
まったく同じ結論に至った事実を確認するべく捜索範囲を宇宙にまで広げ探ってみると案の定ある場所からスカウターの存在を感知できた。…まぁそれと同時にその側に非常に身に覚えの有る存在の気も感知したのであるが…しかも複数。
「当たり…だな。見つけた」
「行くのですか?」
「ああ」
探った結果を口にすると次に俺が何をするのか悟ったのだろう炭十郎氏がそう尋ねてきたので返事を返す。何処に?と問わないのは分かり切っているからだろうな。もしくは
ともあれ善は急げだ。竈門夫妻にちょっと用事を済ませてくると一言告げると俺は戸を開け敷居を跨ぎ外へと出る。それを聞いた炭治郎達が「えぇ〜!?」と口を揃えて叫ぶが朝には戻ると言っておいたので問題はないだろう。…ないんだよ。お前ら尻尾ガン見しながら早く帰ってきてね!って思惑まる解りじゃねぇか。少しは隠せや。それだけ俺の尻尾が魅力的なんだろうけどちょっと複雑な気分になるぜ。ま、悪い気はしないんだがなー。
複数の行ってらっしゃ〜いと言う言葉を背に俺は戸を後ろ手で閉めると同時に舞空術で空へと舞い上がる。視線の先には綺麗な三日月が夜空に浮かび地平線の彼方まで大地を淡く照らしているのが見てとれた。高度を上げるにつれ粉雪混じりの夜風がひんやりと冷たく肌の表面を軽く撫でていくのを少々こそばゆく感じるが一定の高度を過ぎるとそれも無くなり静寂と数多の星々が瞬く漆黒の世界へと変わる。
人類が到達するにはあと半世紀以上の年月が要るであろう場所まで達すると、その虚空に唯一視認できる存在を確認。それは自身を此処に
「よう、久しぶりだな。約400年ぶりか?俺の感覚的には今さっきって感じなんだがよ」
近付くなり親しげに声を掛けると、かつて画面越しに嬉々として観ていた既知の姿をしたそいつは俺の言葉にコクリと頷く。声帯機能はあるはずなのに返事は首肯のみ。それを見てやはりかと確信する。
「おいおい意図して存在を隠していたと思ってたんだが…違うようだな。気付けなかった理由は単純にお前の内包する気が著しく減少しているせいか。それこそ軽く小突いただけでも即消滅しても不思議じゃねぇぞ。いったい何をどうしてそうなった?」
事情説明を求めるとそいつは右腕を揚げ手の平を横に差し出してきた。手を取れって事らしい。それだけで何をするのか意図の読めた俺は一切の躊躇なく即それに応じる。
「これは…」
握った瞬間まるで写真の様な映像が脳裏に浮かんではスライドショーみたいに次から次へと映し出されていく。笑い顔があった。泣き顔があった。歓喜に打ち震える姿があり悲しみに崩れ落ちる者がいた。そして最後にとある場面を映し映像は途切れ消える。
「そうか。お前…他人の為にその身を削ったのか。しかも恒常的に。お前は分身だが自律汎用性を高める為ある程度は自然の気も取り込める仕様にしていたから存在維持に支障はないはず。だが、それは維持できるだけで取り込む量より放出する量が上回れば上回るほど内在する気は増えるよりも減っていく。しかも宇宙空間じゃそれもできん。なるほど、それでそこまで消耗したんだな?無茶しやがって…。わかった。後は俺に任せろ。諸々全てきっちり終わらせとくから今はゆっくりと休んでてくれ」
俺が労いと共に後を請け負うと分身(推定400歳)は安堵した表情を浮かべると共に輪郭を崩し粒子となる。そして引き寄せられる様に俺の身体に纏わり付き肌に染み込むようにして消えた。 残るは俺の手の平の上に在る奴の本体である紅の核のみ。
「本当にお疲れさん…」
再度の労いの言葉を呟いたその直後、先程とは比べ物にならない莫大な記憶の羅列が脳内を閃光の如く駆け巡る。
それは後を託した分身の辿った軌跡。俺が消え去った後の縁壱達夫婦とのやり取りや珠世と共に日本各地を巡る旅路。その道中で出会った鬼殺隊の者達とそれを束ねる産屋敷一族との邂逅。そして知った鬼の成り立ちと鬼の祖の真実。400年に渡る分身の主観による記憶が引き継がれた。
記憶の整理のため目を瞑り眉間に皺を寄せながら意識を集中。虚空にて
「…ふう」
それから5分後。大まかにではあるが記憶をあらかた把握したので集中を解き俺は軽く息を一つ吐く。
さすがのサーヴァント擬きボディでも情報量の過多からか頭痛でジンジンする…ような気がするぞ。まあ存在自体が情報生命体?みたいなものなので実際に脳が痛いのではなく幻痛…イメージフィードバック的なもんなんだろうけど。
ともあれ自身に引き継がれた記憶から即対処しなければならない案件を知れた事は行幸だったと思う。それこそが分身が
そうした理由から迷いなく俺はとある方向に視線を向ける。その見つめる先は先程まで分身が居た真後ろの空間なのだが特に何もない…様に見える。だが
「ステルス解除」
視線をその場所へ向けたまま俺が一言そう告げると何も無かった筈のその空間に明らかに人工物と
「そうか…仕留めきれなくて最後のプランを使ったんだな珠世」
その内部から覚えのある二つの気配を感じ取った俺はそう独り言ちる。
気配の一つは珠世のもの。生前であれば人造人間特有の気の存在を感じ取れない仕様のせいで気付けなかっただろうがサーヴァントになった影響か少し違和感はあれど普通に気を判別可能な上に珠世に譲渡したスカウターが
姿形は分身から引き継いだ直近の記憶にあるので既に知ってはいる。顔と両手から見える肌は鬼特有の病的に青白く生える髪は黒く首元まで伸びており短髪。伊達男気取りなのか生意気にも左右の
傲岸不遜を体現するその在り様は記憶として見ても不愉快極まりなく珠世
曰く「己は災害に等しいのだから、それを憎む者は異常者」だぁ?何様のつもりだと言いたい。さらに腹立たしい物言いが「神や仏など見た事もなく何千何百と人を殺しても何の罰も下っていないのだから己の存在は許されている」だと?吐き気がする。馬鹿も休み休み言え。それは単にこの世界の神や仏が現世に干渉
この対話内容によって俺は確信した。400年前は直接相対せず人物像も珠世からの又聞きで実感を持てなかったのだが実物は想像を遥かに越えてクズ。まったく持って救いようがない。生きる為に人を喰らうのはまだ分かる。人も生きる為に牛や豚などを食うしな。だが己の望みの為に鬼を産み出したにも関わらず求めた結果が得られなければ碌に管理もせず放置。しかも犠牲を他者に強いておいて微塵も罪悪感を抱かない所か己は人が敵わぬ災害なのだから恨む方がおかしいと罵る始末。暴君どころの話ではない。そんな存在を許せるのか?その答えが鬼殺隊だ。つまり到底許せる訳がない。天罰が無いならくれてやる。自分で言ったんだ「
「さて、やる事は明確。現状も知ったが…とりあえず連絡だな」
俺はそう呟くと腰のポーチからスカウターを一つ取り出し左側頭部に近付けて耳に当てがい装着する。そして珠世を呼び出すべく通信機能のスイッチに指を当て押し込んだ。
『プ、プ、プ、プ、プ、トゥルルルルルル。トゥルルルルルル』
すると通信音の後に呼び出し音が鳴り響く。
元々のスカウターの通話呼び出し音はピッピッピッ…ピガ!って音がデフォルトなんだが味気ないので俺は生前日本にて慣れ親しんだものに設定している。この方がらしいしな。もろ電話してるって感じするし。
『トゥルルルルルル…トゥルルルルルル…トゥルルルルルル…ガチャ』
そんな事を思っていると通話が繋がる音が鳴り通信可能となったので俺はさっそくとばかり珠世に向け呼び掛ける。
「あ〜…しもしも?あたしゴーマ。貴女の後ろに居るの」
「………」
うーん、反応がない。留守かな?
「……居ませんが」
「久しぶりだな珠世。元気してたか?」
時を越えた邂逅はこうして始まった………てへ♪
次回に向けて頑張るぞい(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎
あ、それとお気に入りがいつの間にやら100名越えてました。少しでも楽しんでくれる人が増えて嬉しいです。ありがとうございます。